第4話
サンジは、毎日、毎食、ゾロに食事を作った。
食事をし、雑談を交わし、穏やかに眠る。
ただ、それだけの繰り返しで、瞬く間に5日が過ぎていた。
ようやく、体に纏った翳が消え去り、瞳にも生気が宿りつつあるのが、素直にサンジは嬉しかった。
ゾロはサンジの一挙手一投足、全てを視界に何時も捕らえているようだった。
「そんなに見んじゃねエよ。」
サンジが何度もそういっても、ゾロはサンジを見つめるのを止めなかった。
恐らく、姿を表した時と同様、判れも突然やってくる事をゾロは予想した。
その時が来ても、引き止めることなく見送ってやれるように、
このサンジに執着しない様に、指一本、髪一筋、触れようとはしなかった。
この間、ゾロが刀を抜く事はなかった。
今、ゾロには彼の強さに心酔し、勝手に弟子入りしてきた、男達数人が従っている。
と言っても、別に徒党を組んでいる訳ではなく、
彼らが勝手にゾロの側に纏わりついているだけだ。
この5日間、彼らがゾロに替わって、海賊退治の任にあたっていた。
その話をきいた時、長い間暴れていなかったサンジの体が疼いた。
「俺も連れていけ。」
どうやら、自称ロロノアの弟子達が 手に負えなくなったらしく、ゾロに海軍から内密に連絡は入った。
サンジはそれを聞いて即座にゾロにそう行った。
ゾロは苦笑いする。
「別に構わねえが・・・。お前の姿を見たら、海賊共、震えあがるぞ。」
「お前は、俺と一緒に随分海賊船を沈めたからな。チョットした、伝説になってるんだぜ.」
「赫足のサンジ」
海賊達の世界で、自分が伝説になっている、などと言われたら決して悪い気はしない.
自然、サンジの頬が弛んだ。
ゾロは続ける。
「お前が死んだって言う噂も、もう知れ渡ってる事だ。そんな状況で、海賊共の前に
出てみろよ。誰だって、驚くぜ.」
(こんな気持何時以来だろう?)
そういいながら、ゾロはサンジを伴っていく事に心が弾み出していた。
しかし、サンジはそんな事など、お構いなしだ。
「別にそんな事どうでもいい。とにかく、ここんとこ暴れてねえ。」
「俺にもちょっと運動させろよ。」
サンジはそう言って笑った。
どんよりと曇り、今にも泣き出しそうな空模様だったが、
二人はまるで 散歩に出るような気軽さで件の海賊と対峙する。
「思う存分暴れてこい。」
ゾロはサンジにそういった。
サンジはその言葉に薄く笑う。
「言われなくてもそうするさ。」
が、サンジの顔が引き締まった。
その顔にぶつけるような力をこめた視線をサンジはゾロに向けた。
「てめえこそ、しっかり見てろ。」
ゾロはその視線をしっかりと受け止める。
サンジの戦う姿は、ゾロの瞼に焼き付いている。
決して忘れる事などないだろうと思う。
だが、それは色褪せる事はなくても、徐々に臨場感が失せていく。
共に戦った、血が沸き立つような感覚が遠くなっていく。
(クソうぜえ)
倒した敵の前で、「サンジ」は煙草をくゆらせて、薄く笑う。
そんな光景がゾロの心に染み付いている。
だが、そこには
蹴り飛ばされた人間の呻き声。
飛び散る血飛沫。
風を切る音。
骨が砕ける音。・・・・・
それが既に 存在しない。
だが、今 目の前にサンジがいる。
二人の小船が件の海賊船に接艦する。
サンジは小船の床板を蹴り、海賊船に飛び乗った。
ゾロもそれに続く。
少数精鋭、20人ばかりの横も縦もサンジの倍はある屈強な男が周りを取り囲む。
「熊の集団だな。・・・」サンジは煽るように笑い、煙草にゆっくり火をつけた。
「舐めるんじゃねえぞ!!」
男がそう叫んだと同時にサンジが一陣の風と化したのは殆ど同時だった。
サンジの動きをゾロは目で追っていた。
地面に手をつき、旋回し、先ずは足場を崩す。
蹴り上げられた相手のわき腹に、腰に、即座に追い討ちをかける。
武器を振りかざし、切りかかってくる相手の喉元にサンジの踵が食い込む。
立ちあがろうとした相手をサンジのつま先が甲板に再び叩きつける。
その勢いを殺さず、サンジは人間離れした脚力をそのまま跳躍する力に変え、
落下するスピードを上乗せし、海賊達の体を甲板にめり込ませた。
何時の間にか、雨が降り出している。
蹴り飛ばされた人間の呻き声。
飛び散る血飛沫。
風を切る音。
骨が砕ける音。・・・・・
ゾロはもっと、長く見ていたかった。
が、ものの10分もかからず、船長以外の海賊は甲板に無残な姿で雨に打たれていた。
雨に打たれて、サンジの咥えた煙草の火が消えていた。
「クソうぜえ。」
やはり、サンジはそう言った。
その言葉を聞いて、ゾロはうすく笑った。
(サンジが目の前にいる。)ゾロは改めて強く実感した。
そして、ゾロは刀をようやく抜いた。
「・・船長を倒すのは、俺の仕事だ。」
海軍が手間取った、船長を倒すのにものの1分もかからなかった。
圧倒的な強さ。
サンジが知っているゾロの実力の数段上だと思った。
今だって、充分強いが
(・・・あいつはまだまだ強くなるんだな。)
サンジは船のへりに凭れて、ゾロを見ていた。
が、すぐに視線を海の方へ向けた。
(あいつの強さは、今の俺が知る必要のねえもんだ。)
そう思ったからだ。
仕事を片付けた二人はずぶぬれのまま、帰途に着いた。
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