〜前回までの「病院だより」〜
(見たい題名をクリックするとジャンプします)
<題名>
・循環器シリーズ3 (2008.6.15 up)
・循環器シリーズ2 (2008.4.5 up)
・循環器シリーズ1 (2008.3.8 up)
・皮膚病シリーズ9 (2006.12.28 up)
・皮膚病シリーズ8 (200610.26 up)
・皮膚病シリーズ7 (2006.7.21 up)
・皮膚病シリーズ6 (2006.6.2 up)
・皮膚病シリーズ5 (2006.3)
・皮膚病シリーズ4 (2006.1.28)
・皮膚病シリーズ3 (2005.11.30)
・犬について(その1) (2005,11.4 up)
・皮膚病シリーズ2 (2005,9,25 up)
・皮膚病シリーズ1(2005.7.24 up)
・大きなダニ(2005.6.23 up)
・毛の抜け変わる季節となりました(2005.5.13 up)
・ハムスターって…(2005.4.14 up)
・ノミの予防について(2004.3.12 up)
・ウサギって・・・? その2(2004.1.7 up)
・ウサギって・・・? その1(2003.10.16 up)
・犬猫の避妊・去勢手術について(2003.9.11 up)
・意外と怖いノミ(2003.7.12 up)
・猫にもフィラリア?(2003.5.8 up)
・フィラリア(犬糸状虫症)について(2003.4.4 up)
・予防できる病気について(ワンちゃん編)(2003.3.10 up)
・くっくっ苦しい〜(2003.1.8 up)
・予期せぬ事故(2002.12.5 up)
・クリスマスシーズン到来!!(2002.12.5 up)
・犬の老齢疾患について(2002.11.1 up)
・交通事故に気を付けてください(2002.11.1 up)
・猫ちゃん、注意してね・・・(2002.10.11 up)
・年をとったワンちゃん、要注意です。(2002.10.11 up)
循環器シリーズ3<不整脈について> (2008.6.15 up)
みなさん、こんにちは。アップが遅れて申し訳ありません。前回の予告通り、今回は不整脈について触れたいと思います。
不整脈とは、「心臓インパルス(刺激)の形成、伝導、速度、規律性の異常」と定義されています。この言葉を聞くだけでムムムッ???って思う人もいるかもしれません。実は、私もそうですが、次へのステップのため書きたいと思います。用語や図は、前回の稿を参考にしてください。
不整脈を簡単に言うと、下記のような現象の事を言います。
@定期的に心臓の洞房結節から出される刺激やリズムが何らかの状況により乱れる事により起きる
A刺激の伝わり方の異常
B伝わるスピードの異常
C迂回路のようなものができることで起こる異常
不整脈が発生するメカニズムは多種多様で、前述の因子に何らかの異常をきたすことによりリズムの規律性が乱れます。そうなる事により、同じ間隔やスピードで刺激が送られなくなり、心臓の収縮に乱れが出てきます。
不整脈の種類はたくさんあります。その不整脈すべてを挙げていると、とてもではないですが、不整脈だけで何回もシリーズ化しないと終わりません。よって、一般的によくみられる不整脈や、命にかかわる不整脈などを記載していきたいと思います。
不整脈は大きく分けると、「心源性」と「心外性」とに分ける事ができます。「心源性」はご存じのように、心不全、心筋症、フィラリア感染症などにより起こる、心臓疾患に起因する病気です。「心外性」で代表的なものは胃脾捻転症候群があります。その他、心外性のものとして、子宮蓄膿症、交通事故、腎不全、腫瘍、中毒、代謝性疾患、術後などが起因して起こる不整脈もあります。
一般的に良く認められる不整脈には、洞性頻脈、洞性徐脈、洞性不整脈、心房細動、心室性期外収縮などが挙げられます。心房細動、心室性期外収縮、第2度房室ブロック(モビッツT型)の波形を載せます。
<心房細動>
<心室性期外収縮>
第2度房室ブロック(モビッツT型)
聴診などの一般身体検査だけで分かる不整脈もありますが、一般的には聴診や触診だけで不整脈を発見するのは困難です。危険な不整脈はいつも一緒にいる飼い主さんが注意深く臨床症状をチェックしていることにより発見できることもあります。一般的な臨床症状は、運動をしたがらない、運動に耐えられない、すぐに座り込む、倒れる、ふらつく事がある、脱力、失神です。これらの症状があるからと言って、必ずしも不整脈とは限りませんし、これらの症状が出たからと言って病院で心電図を測定しても、不整脈が臨床症状と一致するとは限りません。しかし、ホルター心電計をつけたり、病院で預かって落ち着いてから心電図をとったりすると、不整脈が現れたりすることもあります。
早急に治療が必要な不整脈と、治療を必要としない不整脈を下記に記したいと思います。
<治療を必要としない不整脈>
・洞性不整脈(呼吸性不整脈は正常です。吸気時に早くなり、呼気時に遅くなります)
・洞停止(停止時間が3秒以下の場合)
・洞性除脈・洞性頻脈(臨床症状がない場合)
・第T・U度房室ブロック(モビッツT型)
・単形性でまれな心室性および心房性期外収縮
・右脚ブロック
<即治療を必要とする不整脈>
・多形性期外収縮および心室性期外収縮
・発作性心室頻拍(特に多形性で持続型)
・失神を伴う洞性除脈および第V度房室ブロック
・頻脈性心房細動
・洞不全症候群
循環器シリーズ2<電気の流れ> (2008.4.5 up)
前回に引き続き、循環器シリーズの第2回、「電気の流れ」についてお話したいと思います。
心臓は自ら刺激を作り出し、定期的なリズムで信号を送り、心臓の筋肉を動かし続ける臓器になります。この刺激信号がなくなったり、激しく信号が乱れたりすると、心臓は止まってしまいます。また、刺激のリズムが崩れたり、途中で信号が止まったり、迂回路ができたりすることにより、不整脈というものが発生します。
今回は、その刺激の発生、流れを図で示しながらお話ししていきたいと思います。その前に心臓の筋肉の生理学的な特性についてお話ししておきます(ちょっとマニアックです)。
心臓の筋肉は、5つの生理学特性を持っています。
@ 自動性
洞(房)結節は、主要なペースメーカの役割を果たしています。しかし、伝導系の細胞のすべてが適切な状況下で独自のインパルスを作り出すことができます。
A 興奮性
電気刺激が静止電位※1を閾値※2以下に低下させると、心臓の筋肉は興奮します
細胞内の静止電位のレベルが細胞の興奮性を決定し、これは「全か無の法則※3」に従っています
※1 何の刺激も受けない、つまり情報の伝導が行われていない状態
※2 刺激を徐々に大きくしていくと、ある時点を持って活動電位※4が発生します。その電位が発生するレベルの事を「閾値」といいます。
※3 閾値より小さい刺激に対して活動電位は全く反応せず、閾値より大きな刺激に対してのみ活動電位が発生します。よって、刺激の大きさに比例して発生するのではなく、まったく発生しないか、あるいは発生するかのいずれかになります、その法則を「全か無の法則」といいます。
※4 細胞が興奮すると細胞の膜に変化が生じ、刺激が発生します。膜電位の変化を「活動電位」といいます。
B 不応期
心臓の筋肉は収縮期の間、外部の刺激には反応しません。一度活動電位が発生した神経や筋肉は、刺激を与えても、活動電位の発生が起こらない期間があります。
C 伝導性
各々の筋細胞の活性化が、近隣の筋細胞の活動を引き起こします。
伝導速度は特殊伝導系と筋線維の各部位で異なります
伝導速度はプルキンエ線維で最大で、房室結節の中央部で最低である
活性化する順序は、収縮により最大の機械的効率が得られるように決められている
D 収縮性
電流に反応して起こる
心電図は実際の収縮そのものではなく、収縮刺激を測定しているにすぎません。収縮性の評価には、心エコー検査で評価します。
次に刺激の流れについてです。
心臓の刺激は、右心房の洞(房)結節というところで自動的に刺激が作られます。その刺激が以下のように伝わります(図)。
洞(房)結節 → 結節間心房内伝導路 → 房室結節 → ヒス束 → 右脚および左脚 → プルキンエ線維系
刺激の伝導スピードは場所によって違います。参考までにスピードを記載しておきます。
・心房…0.1〜0.5m/秒
・房室結節…0.01〜0.1m/秒
・左脚…2.0〜4.0m/秒
・プルキンエ線維…2.0〜4.0m/秒
このような流れで、刺激は流れていきます。
これらいずれかの伝導路の障害や筋肉の伸展または肥大などの筋肉の変化によって不整脈がおきます。軽度な不整脈は症状には出ない事が多いですが、症状に出始める場合は、これらの障害や変化が進行して重篤な状態になっていることが多いです。定期健診が重要になってきます。
次回の第3回は、「不整脈」について載せたいと思います。今回は、なかなかマニアックになってしまい、申し訳ありません。ひょっとしたら獣医さんや動物看護師さんにもみていただいているかもしれませんので…。しかし、これを知っておくと、このあとがとてもわかりやすくなります。ちなみに第4回は「心臓を評価する検査」となっています。月1回程度の更新を目標に頑張っていきたいと思いますので、飽きずにみていただけたらと思います。
循環器シリーズ1<心臓って???> (2008.3.8 up)
みなさん、こんにちは。久しぶりの「病院だより」になります。前回の皮膚病シリーズに続き、今回からは心臓病についてシリーズで書かせていただきたいと思います。
今回は、循環器疾患をお話しするのに大切な基礎の部分をお話しさせていただきたいと思います。難しいイメージのある心臓ですが、病気を理解するのはそれほど難しくありません。解りやすく書くつもりでいますので、一度読んでみてください。
心臓は筋肉でできていて、全身に血液を循環させるポンプの役割をしています。新鮮な酸素を含んだ血液は、心臓から全身を回り、それぞれの臓器で酸素が消費されることにより血液中の酸素が減って、また心臓に返ってきます(大循環)。そして心臓に戻ってきた血液は肺へ運ばれ、新鮮な酸素を取り入れ、また心臓に戻ってきます(肺循環)。
大まかな血液の流れを図1に示しました。色分けは、赤が酸素の豊富な血流、青が酸素の少ない血流となっています(注;図には記されていませんが、肝臓にも動脈は走っています)。
一般に心臓から出る血液を「動脈」、心臓へ戻ってくる血液を「静脈」と言います。
心臓から全身へ…大動脈
心臓から肺へ…肺動脈
全身から心臓へ…大静脈
肺から心臓へ…肺静脈
(それぞれの血管にはさらに分岐があるのですが、ここでは簡単に書かせていただきました。ご了承ください)
〜心臓の構造〜
心臓は右側の部屋と左側の部屋に分けられ、それぞれ上の部屋、下の部屋と合計4つの部屋に分けられています(図2)。上の部屋を 「心房」、下の部屋を「心室」といい、それぞれ以下のように名前が付けられています(ここで述べられる右・左は、体の右側、体の左側という意味で使っています)。
左上の部屋…左心房
左下の部屋…左心室
右上の部屋…右心房
右下の部屋…右心室
上述のように4つの部屋に分かれていますが、左右の部屋を分ける柱にも名前が付いています。
左心房と右心房を分ける柱…心房中隔
左心室と右心室を分ける柱…心室中隔
また、それぞれに進んだ血液が逆流しないように弁も4つ作られていて、心房と心室、心室と動脈の間にそれぞれ弁があります。それぞれの名前は下記のとおりです。
左心房と左心室の間…僧帽弁
左心室と大動脈の間…大動脈弁
右心房と右心室の間…三尖弁
右心室と肺動脈の間…肺動脈弁
心臓の大きさは動物種によって違い、犬においては犬種によっても変わるんですよ。
〜血流、心拍数について〜
心拍数は犬で70〜160回/分で、小型犬は早く、大型犬は遅い傾向いあります。仔犬では220回/分になることもあります。また、猫では1分間に160〜240回/分程度あります。心臓は常に休むことなく動き続ける大事な臓器です。
血液は、下記のように流れています。(図3)
左心房 → 左心室 → 大動脈 → 全身の各臓器 → 大静脈 → 右心房 → 左心室 → 肺動脈 → 肺 → 肺静脈 → 左心房
(赤が酸素の豊富な血流、青が酸素の少ない血流)
今回は、ここまでのお話にしておきます。少しは心臓の構造や、血液の流れが理解できたでしょうか?分かりにくい場合、修正や改訂をしますので、メールにてご連絡いただければ幸いです。
次回は心臓の電気の流れについてお話したいと思います。
皮膚病シリーズ9<スキンケアをしましょう> (2006.12.28 up)
今までのこのシリーズでは、“皮膚病”として様々な病気について書いてきました。まだまだ書ききれていない病気もたくさんありますが。今回は、ガラッと変わって病気のお話しではなく、一般的なスキンケアについて書いてみたいと思います。
スキンケアと言うと、シャンプーすればいいのかと思われがちですか、ただ単にすれば良いというものでもありません。シャンプーひとつにしてもいろいろあるのです。シャンプーが原因で症状が悪化してしまうこともあります。
まず覚えておいていただきたいのが、ワンちゃんの皮膚は非常にデリケートだという事です。人間に比べると皮膚の厚さは1/5〜1/6しかありません。また、pHも7.5(弱アルカリ性)と人間の5.5(弱酸性)に比べると高くなっています。弱アルカリ性という環境は、弱酸性に比べて細菌が繁殖しやすい環境なのです。というわけで、シャンプーをする際は単に洗うだけでなく、いくつか注意すべき事がでてきます。
最初は、シャンプー剤選びから。たまにある多きな間違いが、人間用のシャンプー剤を利用しているということです。先程も書いたように人間とワンちゃんでは皮膚のpHが違いますから、いくら人間にはいいシャンプー剤を使っていてもワンちゃんの皮膚には合わないわけです。ではどんなシャンプー剤がいいかというと、ワンちゃんによっても異なってきます。乾燥タイプやべっとりタイプ、鱗屑(ふけ)がよく出るタイプ、特に問題がないワンちゃんなどなど・・・。その子その子によって皮膚の状態が違ってくるので、使うシャンプー剤も変わってきます。特に、皮膚に問題を抱えているワンちゃんは要注意です。その時の状態に合っていないシャンプーを使うと一気に症状が悪化していくことがあります。そうならないようにかかりつけの獣医さんで診察してもらって、どんなシャンプー剤を使うべきか相談される事をお勧めします。
さて、次によくある質問がシャンプーの間隔です。どれくらいのペースでする方がよいかということですが、これもその子その子によって変わってきます。基本的には、皮膚に問題を抱えている場合は頻回(時には毎日)、症状に合ったシャンプー剤を利用して洗います。大きな問題を抱えていない場合には、洗いすぎるのも良くないですし、洗わなさすぎるのも良くないです。例えば、脱脂作用の強いシャンプー剤で頻回に洗ったことで、逆に皮膚がかさついて痒みの原因になることがあります。逆に、シャンプーをしてないために鱗屑(フケ)がいっぱいでているワンちゃんもいます。シャンプーのタイミングとしては、鱗屑(フケ)が少し出てきたり、痒みが出てきたり、ちょっと臭いがしてきた時です。勿論シャンプーをした後に症状がひどくなってくる様であれば、シャンプー剤が合っていないのかもしれませんし、皮膚に病気をもっていることも考えられますので早めに獣医さんに診てもらいましょう。
シャンプーの仕方はどうでしょうか。まず、シャンプーをする前にブラッシングを十分にしましょう。余分な毛や汚れが浮いてくれます。その後、お湯で毛全体にしっかり水分を含ませます。この時使うお湯の温度は熱すぎてはいけません。大体25度くらいを目安に、人肌ではちょっとぬるめくらいがいい温度です。次にシャンプー剤を体表にまんべんなく塗布して、皮膚に浸透するように優しくマッサージします。特に動物病院で処方されているような薬用シャンプーの場合は、マッサージした後10〜15分なじませてください。泡立ちが悪い時は、二度洗いしましょう。泡立たないからといって、シャンプー剤を大量にかけてはいけません。基本的に薬用シャンプーになると泡立ちにくいものが多いです。洗い終わった後は、シャンプー剤をお湯でしっかりと洗い流してください。シャンプー剤が残ってしまっていると、それが基で皮膚が炎症を起こしてしまうこともあります。
シャンプーが終わったら、しっかり乾かしましょう。まずはタオルで余分な水分をふき取って下さい。その後はドライヤーを使ってしっかり乾かしていきましょう。その際にドライヤーを近づけすぎるのもあまりよくありません。少し遠めから、優しくが基本です。乾燥肌タイプのワンちゃんは、この後保湿剤を利用するのもいいでしょう。また、耳の中に水分が残ってしまっていると、外耳炎の原因にもなりかねません。コットンなどを利用してふき取っておきましょう。この時に綿棒を使いすぎてもあまりよくありません。最後にしっかりブラッシングをして終了です。
以上が基本的なシャンプーの方法です。シャンプーは皮膚病予防にも皮膚病の治療としても、とても有効な方法です。時間、体力的には大変ですが、効果は十分に得られるはずです。
皮膚病シリーズ8<よく発生する皮膚病;膿皮症> (2006.10.26 up)
いままで取り上げてきた皮膚病シリーズのなかにも何回か“膿皮症”と言ったフレーズが出てきたと思います。原発で起こったり、他の皮膚疾患に続発して起こったりするこの病気について、今回は取りあげてみます。
ワンちゃんの皮膚の病気でよく発生しているのが、“膿皮症”といわれる病気です。ネコちゃんでは、“膿皮症”の発症が外傷による膿瘍や自分で舐めることに関与している事が多く、発生はワンちゃんに比べると稀です。
まず、“膿皮症”とはどんな病気なのかお話しましょう。膿皮症とは、皮膚に細菌が感染した化膿性感染症です。膿皮症は、発生している皮膚の深さによって表在性、浅在性、深在性と分類されます。また、感染している細菌も様々です。一番多いのが、ブドウ球菌という細菌です。この菌には、多くの種類が存在し、その一部には皮膚に常在しているものもあります。何らかの基礎疾患で免疫力が低下したり、皮膚のバリアが崩壊したりした時にこれらの細菌が繁殖してしまうことで膿皮症が成立します。
では、原発としてではなく続発として起こってくる膿皮症の基となる病気にはどのようなものがあるのでしょうか。基本的には皮膚病の多くがそうです。アレルギー性皮膚炎、皮膚糸状菌症、毛包虫症など。皮膚病以外にも免疫力を低下させてしまうような病気、例えば内分泌性疾患(甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症など)や悪性腫瘍などが引き金となっている場合もあります。
症状としては、細菌感染が起こっている皮膚の深さによって異なってきます。表面だけの感染であれば、皮膚の発疹・発赤、鱗屑(ふけ)、痒みが主な症状です。症状が進んで、細菌が深いところに感染してくると、病変部に腫脹、膿瘍、発熱、痛みなどが出てくるようになります。また、痒みが強いので舐めたり引っかいたりしてしまうと脱毛が起こってきます。膿皮症では、特徴的な円形の、表皮小環と呼ばれる病変が見られることが多いです。表皮小環の中心部の古い病変は、色素沈着で黒くなることもあり、周囲の新しい病変は、赤く痂皮が付着しています。
診断してく過程で重要なことは、膿皮症が原発で起こっているのか、他の基礎疾患が基で起こっているのかを鑑別することです。基礎疾患が起こっている場合は、それに対しての治療も行っていかなければいけないからです。基礎疾患の鑑別を行っていくために、血液検査、皮膚の一部を掻き取ったり、真菌培養を行ったりといろいろ検査が必要になることがあります。病変部の痂皮や毛、滲出液などを染色して顕微鏡で見ると細菌と最近を食べる細胞が多く出ている時は、膿皮症が疑われます。また、治療への反応が悪い場合などは原因となっている細菌を培養・同定することもあります。その結果に基づいてどの抗生剤を使うか考えるのです。
しかし、膿皮症の場合は検査で確定をするよりも、問診・症状・治療に対する反応などで診断をしていきます。
治療方法についてです。細菌感染が原因で起こるのが膿皮症なので、抗生剤を使います。ここで注意しなくてはいけないことが一つあります。抗生剤に反応して皮膚が一見治っているように見えても途中で勝手に止めずに、主治医の先生から処方されている分はしっかりと飲ませきるということです。途中で止めてしまうと、再発の原因となります。その他に、シャンプー療法や局所療法などがあります。局所療法では、軟膏、クリーム、ローションなどを利用します。シャンプーに関しては、抗菌効果に優れていて毛包洗浄作用のあるようなものを利用します。基本的には、市販のシャンプーではなく、病院で処方するような薬用シャンプーをお勧めしています。膿皮症では、シャンプー療法が重要な役目を果たしています。以上のような方法が“膿皮症”に対しての治療方法ですが、基礎疾患として他の病気をもっている場合には、そちらの治療も行っていかなければいけません。
ごく稀に原因疾患が見つからず、抗生剤に反応はするもののお薬を止めると短期間のうちの再発する“特発性再発性膿皮症”と呼ばれる病気があります。この場合の治療としては、免疫賦活剤(免疫力を増強して抵抗力を強めるお薬)を利用したり抗生剤を長期投与したりします。
基本的には基礎疾患をもっていない場合、しっかりと治療を行えば治癒していく病気です。ただ、一度治ってもまた再発を繰り返してくる場合は、何かしら原因となっている基礎疾患が存在しているはずです。それを見つけてあげないといけません。
今回は、膿皮症について取り上げてみました。さて、徐々に涼しくなって皮膚病の多発シーズンは終わっていきますが、おうちのワンちゃん・ネコちゃん皮膚は大丈夫ですが?
皮膚病シリーズ7<外耳炎について> (2006年7月21日 up)
今回の皮膚病シリーズは、外耳に生じた皮膚炎ということで「外耳炎」を取り上げたいと思います。
“耳を掻く”“頭をよく振る”“耳が臭い”といった様な外耳炎の症状で病院を受診し「外耳炎」と診断されてことが一度はあるというワンちゃん・ネコちゃんは多いかもしれません。たかが外耳炎思って放置しておくと、中耳や内耳にまで炎症が波及してしまい、“首が傾く(斜頸)”“回転運動をする”“ふらつく”などといった神経症状を示す可能性もでてきます。そうなる前に少しでも知っていただこうと、今回は“外耳炎”をテーマにしてみました。
外耳炎を発症するには、様々な原因や要因が関与しています。まず、ワンちゃんやネコちゃんの外耳の構造が人間と違っていることが、大きなポイントとなっています。人間の外耳は横穴だけですが、ワンちゃんとネコちゃんの外耳には竪穴から折れ曲がって横穴へと続きます。このことが、ワンちゃん・ネコちゃんの外耳を乾きにくくしてしまい、炎症が起こり易くなる要因となっています。その他の要因としては、垂れ耳、耳道内の緻密な毛などの形態的要因や温度や湿度(夏季に多い)などの気候的要因などがあります。また、綿棒をしての過剰なお手入れや刺激性のある洗浄液の利用なども要因の一つになってしまっていることがあります。
病的な原因としては、次のようなことが考えられます。原発疾患としては、アトピーやアレルギー、耳ヒゼンダニ、疥癬、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、腫瘍、特発性脂漏症、自己免疫性疾患、異物などがあります。その後、二次的に細菌や真菌などが耳道内で増殖していきます。
症状としては、「耳を痒がる」「頭をよく振る」「耳垢、耳だれが多い」「耳が臭い」「耳が腫れている」「耳が赤い」などといった事が主です。原発疾患によっては、耳介部分に痂皮ができたり、脱毛したり発疹ができたりといった症状もでてきます。もちろん耳だけでなく、全身症状がでてくる事もあります。
さて、治療方法ですが原発性疾患を治療していきながら耳のケアを進めていきます。耳のケア=洗浄については、病院によって様々な方法で行われています。実際、現時点ではこれといった確定した洗浄方法はありませんが、耳道に溜まっている膿や耳垢を洗い流すことを目的として行います。洗浄の方法や頻度によっては逆に悪化させてしまうこともあるので、外耳炎の時のおうちでのお手入れは、主治医の先生と相談しながら行っていきましょう。
症状のレベルによっては、外耳洗浄や点耳薬だけで改善していきますが、重症の場合や慢性化してしまっている場合はなかなか洗浄だけでは改善していきません。原発疾患の治療を含めた全身治療(お薬の経口投与)が必要となります。例えば、アレルギー性の可能性がある場合には食事療法や環境の改善などといったことを行う必要もあります。
また、あまりにも重症であったり再発を繰り返したりする場合は、外科的な方法で治療することもあります。外側耳道切除術、垂直耳道切除術や全耳道切除術などといった方法があります。
一度外耳炎になったワンちゃんやネコちゃんは、再発する可能性があるので、症状が改善した後も定期的に洗浄されることをお勧めします。ただし、初めにも書いたように、綿棒を使ったり刺激のあるもの(例えば、アルコールなど)で洗浄しすぎたりすると逆に外耳炎を引き起こしてしまいます。おうちでのお手入れは、イヤークリーナーを使ったり、コットンでやさしく拭いたりといった方法がお勧めです。特に、シャンプー後や水に濡れた後なんかは、外耳炎を起こしやすいので要注意です。後は、主治医の先生に定期的に耳道のチェックをしてもらって、本格的に洗浄してもらうことで外耳炎の予防にもなります。
たかが耳の汚れですが、悪化したり慢性化したりすると中耳や内耳にまで影響を及ぼし神経症状を示しかねない“外耳炎”。今が時期的には多いシーズンです。たまにワンちゃんやネコちゃんの耳を覗いてあげてくださいね。
皮膚病シリーズ6<犬特異性・遺伝性の関与が疑われる脱毛症> (2006.6.2 up)
ワンちゃんの脱毛症には、いまだに原因が明確にされていない病気がいくつかあります。いずれの病気に関しても、犬種特異的であったり、遺伝的要因が関わっていることが疑われていたりします。また、はっきりとした治療方法も確立されていないことが多いです。つまり、今現在、いろいろと研究が進められて、少しずつ解明されつつある病気について今回は取り上げて見ます。
好発犬種や特徴的病変、治療法などについて簡単にまとめてみました。
Alopecia X(脱毛症X)
(原因)
ステロイドホルモンの代謝異常と考えられている。
(好発犬種)
サモエド,スピッツ,パピヨン,ポメラニアンなど北方犬種,プードルなど
(好発年齢・性差)
・明らかな性差はなく、好発年齢も様々だが、若年の未去勢の雄犬に多い。 (ポメラニアンでは若齢で多く、プードルでは高齢で多い傾向がある)
(発症部位)
頭部と四肢端以外の部分(特に大腿部の脱毛が特徴的)
(脱毛の特徴)
境界が不明瞭な両側性脱毛
(その他症状)
・軽度から重度の色素沈着
・残った被毛は乾燥し、光沢がなくなる。
・炎症を伴わず、痒みを伴わないことが多い。ただし、細菌感染などの二次
感染を起こしたり、慢性症例において乾性脂漏症が見られたりする場合
は、痒みがでてくる。
・皮膚症状以外は、問題なし。
(治療方法)
・未去勢雄では、去勢手術。
・メラトニン(国内未発売)やトリロスタンといった薬を使って治療する場合
もあるが、効果には個体差がある。
(予後)
未治療では改善は見込めない。
Seasonal Flank Alopecia(季節性側腹部脱毛症)
(原因)
不明。季節が関与している(春と秋に多い)。
(好発犬種)
ボクサー,スコティッシュ・テリア,ブルドッグ,プードル,ミニチュア・シュナウ
ザーなど
(好発年齢)
特になし
(性差)
避妊した雌に多い。雄でも見られる。
(発症部位)
左右の側腹部
(脱毛の特徴)
・境界明瞭な両側性脱毛。
・痒みは伴わない場合が多い。
(その他症状)
・強い色素沈着。
・皮膚症状以外は、問題なし。
(治療方法)
メラトニンを使用する場合もあるが、放置して季節が過ぎれば再び発毛す
る傾向にある。
Pattern Baldness(パターン脱毛症)
(原因)
不明
(好発犬種)ダックスフンド,チワワ,ミニチュア・ピンシャー,ボストンテリア,グ
レイトハウンドなど
(好発年齢)
若齢犬(6ヶ月〜9ヶ月齢)
(性差)
・ダックスフンドでは、雌に比べて雄で多い。
・その他の犬種では、主に雌。
(発症部位)
・ダックスフンド:耳介部
・その他:耳介後部、首から胸の腹側、体の腹側
(脱毛の特徴)
・非常にゆっくりと進行していく。
(ダックスフンドでは8〜9歳、その他の犬種では1歳まで)
・痒みは伴わない場合が多い。
(その他症状)
・色素沈着。
・皮膚症状以外は、問題なし。
(治療方法)
有効な治療方法は、確立されていない。
(メラトニンが効果を示した報告もある)
(予後)
発毛は期待できない。
Color Dilution Alopecia(色素淡色(希釈)性脱毛症)
(原因)
不明。毛色に関係した遺伝性の病気と考えられている。
(好発犬種)
淡色被毛(シルバー,ブルー,クリーム,オレンジなど)をもつ多くの犬種
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
ヨークシャ・テリア,ミニチュア・シュナウザー,プードル,ダックスフンド,ミニ
チュア・ピンシャーなど
(好発年齢)
4ヶ月齢〜3歳齢(特に2〜3歳齢)
(性差)
特になし
(好発部位)
全身のどの場所でも、淡色被毛部位に起こる。
(脱毛の特徴)
・淡色被毛部位に限局した非炎症性脱毛で、徐々に進行していくことが多
い。比較的境界明瞭。
・痒みは伴わない。
(その他症状)
・進行していくと、乾燥、鱗屑(フケ)、色素沈着、脂漏、細菌感染による膿皮
症を伴うことがある。
・他の毛色領域は正常。
・皮膚症状以外は、問題なし。
(治療方法)
有効な治療法は、確立されていない。
(予後)
・基本的には治らない。
・遺伝する可能性もあるので、繁殖させない方が良い。
Black hair follicular dysplasia(黒色毛性毛包形成不全)
(原因)
遺伝性の病気と考えられているが、不明
(好発犬種)
・白黒又は白黒を含む三色の被毛をもつワンちゃん
・発生が報告されている犬種には、ボーダー・コリー,チワワ,パピヨン,ジャ
ックラッセル・テリア,ビーグル,キャバリア,ミニチュア・ピンシャーなどがあ
る。
(好発年齢)
幼齢〜若齢(4歳以下)
(性差)
特になし
(好発部位)
・全身のどの部位でも、黒色被毛領域に起こる。
・脱毛の特徴;黒色被毛領域に限局した非炎症性脱毛。
・痒みは伴わない。
(その他症状)
皮膚症状以外は、問題なし。
(治療方法)
有効な治療方法は、確立されていない。
(メラトニンで効果を示した報告もある)
(予後)
被毛の再生は期待できない。
今回取り上げた5つの病期の他にも、毛色に関連しない毛包形成不全などもあります。いずれの病気にしても、バイオプシー検査により診断をつけます。勿論、真菌感染や外部寄生虫(毛包虫や疥癬)、膿皮症(細菌感染)、アレルギー、内分泌系疾患などの他の病気による脱毛を除外するために他の検査も必要にはなってきます。
以上、まだ原因や治療方法がはっきりと解明されていない脱毛症について取り上げてみました。
皮膚病シリーズ5 (2006年3月 up)
“内分泌疾患”とは、体の健康状態や働きを維持するために内分泌腺から放出されているホルモンの異常(不足や過剰)によって起こってくる病気のことです。
内分泌疾患に伴う皮膚疾患で問題となってくるのは、特に、甲状腺機能低下症と副腎皮質機能亢進症と言われる病気。ネコちゃんでは、いずれの病気もワンちゃんに比べると稀です。内分泌疾患は複雑な病気になるので、このシリーズでは、皮膚病変を中心に、特にこの二つの病気に関して簡単に説明してみます
まずは、甲状腺機能低下症について。この病気は、ワンちゃんやネコちゃんの喉に人間と同じ様に存在する甲状腺からの甲状腺ホルモンの産生・分泌の低下によって起こります。その原因としては、甲状腺の萎縮・破壊・腫瘍化などが挙げられます。甲状腺ホルモンは、炭水化物や脂肪の代謝、蛋白合成、エネルギーの産生、熱産生による体温上昇など生体が活発になるように働いています。つまり、甲状腺の機能が低下し甲状腺ホルモンの分泌量が減少すると、ワンちゃんやネコちゃんの活力が低下してしまうわけです。
全身症状としては、元気消失・精神的不活発・運動意欲の消失・運動不耐性・食欲増加を伴わない体重増加や肥満・寒冷不耐性・便秘・徐脈などです。重症になってくると、神経症状(運動失調や四肢の麻痺、旋回運動など)や筋障害(虚弱化)などが起こることもあります。
皮膚の異常は、この病気の約80%の症例で認められます。症状としては、脱毛・色素沈着・脂漏・皮膚の肥厚・発毛の遅延・乾燥した光沢のない被毛・再発性の皮膚感染症など。一番典型的な症状は、“脱毛”です。脱毛に関しては、痒みを伴わず、四肢・頭部を除いた部位に両側対称性に起こることが多いです。重症例になってくると、頭部から肩にかけての皮膚が厚く腫れ(粘液水腫)、“悲しげな表情”を呈します。また、尾の脱毛が起こり、“ラットテール”と言われる状態になります。
診断方法は、血中の甲状腺ホルモン値の測定、甲状腺刺激ホルモンを用いた特殊試験などがあります。
治療は、一般的には甲状腺ホルモン製剤の投薬によって行われます。多くの場合が投薬により症状の改善が認められます。投薬期間については、症状によって長期、もしくは生涯にわたる場合もあります。
次は、副腎皮質機能亢進症についてです。この病気は、名前の通り腎臓の近くにある副腎からの副腎皮質ホルモン(主にコルチゾール/糖質コルチコイド)の分泌が過剰になることで起こってきます。副腎皮質ホルモンの過剰によって起こってくる状態を、クッシング症候群(厳密に言うと少し異なりますが)と言われています。
副腎皮質ホルモンの働きは、一言で言うと「体の活性を抑制する」ことです。具体的に挙げていくと大変な上複雑になるので、今回は省略させてもらいます。この副腎皮質ホルモンの分泌が過剰になってくるのには、いくつかの原因があります。副腎皮質にホルモンを分泌する様に命令している脳の“下垂体”という部分があります。下垂体の腫瘍や過形成が起こると、どんどん命令が送られてきてしまい、副腎皮質が働きすぎてしまう場合、副腎皮質自身が腫瘍化する場合、そして医原性の場合などです。医原性の副腎皮質機能亢進症が起こってくるのは、長期のステロイド剤の投与に伴ってです。
一般症状としては、多飲多尿・多食・腹囲膨満・活動性の低下・筋肉の脆弱化・免疫力の低下などがあります。免疫力が低下するので、感染症にかかりやすくなってしまいます。その他には、発作などの神経症状を示すことがあったり、糖尿病を併発し易かったりします。
皮膚の異常は、脱毛・皮膚の菲薄化・色素沈着・再発性の皮膚感染症などです。脱毛は、頭部・四肢・尾以外のところで起きてきます。内分泌性疾患に典型的な両側対称性脱毛であることが多く、程度は軽度のものから重篤なものまで様々です。貧弱な被毛だけが脱毛することもあります。また、特徴的なこととしては、皮膚が“薄く”なり、しわになり易かったり、簡単に血管が透けて見えたりします。“色素沈着”としては、カルシウム沈着が起こることで白いブツブツが、ケラチンが沈着することで黒いブツブツ(面皰)ができたりします。
確定診断を行うためには、いくつかの特殊検査を行っていく必要があります。また、CTやMRIにより副腎や下垂体の大きさを調べる方法も最近では行われています。
治療方法は、どのタイプの副腎皮質機能亢進症かによって異なってきます。内科的な方法では、副腎皮質ホルモンを出す副腎の細胞を壊すお薬、副腎皮質ホルモンの合成を抑制するお薬や下垂体から副腎に対して命令を減らすお薬などがあります。外科的治療法としては、副腎腫瘍摘出を目的とした副腎摘出術、下垂体切除術などです。いずれの手術に関しても大きなリスクが伴う手術となります。また、下垂体腫瘍に対しては、放射線療法が適用されることもあります。もちろん、医原性の場合は、投与されていた副腎皮質ホルモン製剤が原因なので、使用を中止する必要があります。どの方法にしろ、この病気の治療は複雑な場合が多いです。
以上、大まかにですが、皮膚疾患を伴う内分泌性疾患のうち代表的な二つについてお話してみました。もちろんこの他にも、皮膚疾患に関わる内分泌疾患は様々存在します。次回は、ちょっと珍しい脱毛症について取り上げてみようかと考えています。
皮膚病シリーズ4 (2006.1.26 up)
真菌(カビ)による皮膚炎;皮膚糸状菌症
今回は、皮膚が真菌(カビ)の一種である皮膚糸状菌に感染することで起こる皮膚病である“皮膚糸状菌症”について取り上げてみます。
皮膚糸状菌は、現在では約40菌種が知られており、Microsporum(小胞糸菌)、Trichophyton(白癬菌)、Epidermophyton(表皮菌)という3属の真菌に分類されています。。その中でも、特にワンちゃんやネコちゃんに感染する菌種は、Microsporum
canis(犬小胞糸菌)、Microsporum gypseum(石膏状小胞糸菌)、Trichophyton metagrophytes(毛瘡白癬菌)の3種です。ワンちゃんの皮膚糸状菌症の原因菌は、約70%が犬小胞糸菌であり、約20%が石膏状小胞糸菌、約10%が毛瘡白癬菌です。一方、ネコちゃんでは、ほとんどの場合(約80〜90%)で、犬小胞糸菌が原因菌となります。
これらの皮膚糸状菌は、皮膚の角質層や被毛、爪などに寄生して病変を作ります。また、皮膚の損傷部分から侵入した菌は、やがて毛包(毛の付け根)に達して、増殖しながら侵襲していきます。
感染経路は、菌によって少し変わってきます。犬小胞糸菌や毛瘡白癬菌は、動物に感染することで生息している菌(動物寄生菌)なので、感染しているワンちゃんやネコちゃんと直接接触することで感染します。それだけではなく、感染しているワンちゃんやネコちゃんから落ちた鱗屑(フケ)や毛、使っていたブラシなどからも感染してしまいます。一方、石膏小胞糸菌は、土の中に生息している菌(土壌生息菌)なので、土を介して感染することが多いです。
診断方法は、いくつかあります。手っ取り早い方法は、病変の毛や鱗屑を採り、顕微鏡で直接見つける方法です。ただ見つからない場合もあるので、確定診断を行うためには培養検査が必要となってきます。病変の毛や鱗屑を培地にのせて培養します。培地の変色や真菌の増殖などにより判定を行います。判定が付くまでに、約1週間から2週間かかります。時間がかかる検査ですが、信頼度の高い方法です。
また、犬小胞糸菌が感染している被毛に、ウッド灯という機械を用いて特殊な紫外線を当てると、蛍光を発します。簡単な検査なうえ、すぐに結果が判るのですが、一方で、判断がつかないことがあったり、犬小胞糸菌以外の皮膚糸状菌が蛍光を発しなかったりという欠点もあります。
病変が出てくる場所としては、頭部、顔面や肢が多いです。その中でも特に、眼の周囲、鼻、口の周囲、耳そして四肢端によく発症します。抵抗力や免疫力が低下した時、若齢動物や老齢動物などが感染しやすく、より重篤な症状を示す傾向にあります。
症状として最も一般的なのは、円形の脱毛(“Ring worm”と呼ばれることもある)です。脱毛の中心部は鱗屑が出たり、黒く色素沈着したりしていることが多く、脱毛部位全体は赤く腫れます。感染の初期では、脱毛がまだ起こっておらず、円形の病変が隠されていることもあります。細菌などの二次感染を起こすと、炎症が強くなり、出血、痂皮(かさぶた)、び爛が起こり、膿瘍が形成されることもあります。
痒みは、皮膚糸状菌の単独感染では軽いことが多いようですが、二次感染を起こすと強くなります。
さて、治療方法なのですが、いくつかの選択肢があります。大きく分けると、真菌に効果のある内服薬での治療と外用薬での治療です。ワンちゃん、ネコちゃんの年齢、基礎疾患の有無、そして病変の範囲などによって決めていきます。また、可能であれば、抗菌作用のあるシャンプー(勿論、ワンちゃん・ネコちゃん用の)で洗ってもらうことも一つの治療方法となります。皮膚を清潔に保つことが可能になるからです。さらには、ワンちゃんやネコちゃんのいる環境(ケージや寝床など)を常に清潔にすることも、再感染を防止するという意味合いでは大切になってきます。
この皮膚糸状菌については、感染しているワンちゃん、ネコちゃんから人にもうつる人獣共通感染症です。人の症状としては、感染した場所が赤く円形に腫れてくることが多いようです。もし、症状が認められた場合には、ワンちゃんやネコちゃん同様、早く受診(人の皮膚科に)されることをお勧めします。また、ワンちゃん・ネコちゃんに皮膚症状がある場合は、そのことをお医者さんに伝えて下さい。お医者さんが診断される際の重要な手がかりとなります。
皮膚病シリーズ 3 (2005.11.30 up)
皮膚に棲みついている寄生虫 2
ワンちゃん・ネコちゃんの体表に寄生している外部寄生虫について取り上げている二回目です。前回は、疥癬<かいせん>についてお話しましたが、今回は毛包虫(ニキビダニ)について取り上げてみます。
毛包虫は、通称“アカラス”と呼ばれているニキビダニです。ダニの仲間で、毛包内(毛穴)や皮脂腺に棲みついていることから、“毛包虫”と呼ばれています。健康なワンちゃん、ネコちゃん、そして人にも存在しているのですが、異常に繁殖してしまった場合に症状を示す様になります。ワンちゃんにはワンちゃんの、ネコちゃんにはネコちゃんの、人には人の毛包虫が存在しています。基本的には、動物種を超えての感染はないとは言われています。
感染経路としては、生後間もない頃に母犬や母猫との接触によるものがほとんどですが、感染している個体との濃密な接触によっても感染することもあります。
発症要因としては、年齢、遺伝、ストレス、気温、環境の他に、免疫力の低下や基礎疾患の存在が考えられます。基礎疾患としては、様々なことが考えられますが、内分泌性皮膚炎(副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症など)やアレルギー性皮膚炎などの皮膚疾患を併発していることが多いです。また、発情や妊娠がきっかけとなって、発症することもあります。
診断は、疥癬と同様に皮膚の一部を掻き取り、顕微鏡を使って見つける方法が一般的です。疥癬と比べると、寄生している場所が毛穴の奥深くなので、皮膚を深く掻き取る必要があります。初期の場合は寄生数が少なかったり、皮膚の奥深くに潜んでいたりすることから、一回の検査では検出できないことがあます。そのため、疑わしい場合は、検査を何回か行っていきます。
症状を示して問題となってくるのは、多くがワンちゃんです。ネコちゃんも感染するのですが、発症するのはマレです。発症しても全身性にはなりません。一方、ワンちゃんでは限局性(顔・四肢端など)の場合と全身性の場合があります。全身性でも、症状は初め、顔(眼や口の周り)、四肢端に表れ、その後首や頭、肩や胴などに広がっていきます。毛包虫が多数寄生することで、皮脂腺や毛包が拡張、破壊され、脱毛していきます。また、不快感からワンちゃんが掻いたり、舐めたりすることで細菌の二次感染が起こってきます。二次感染を起こした皮膚は、赤黒く腫れ、化膿し
、痒みも強くなり、臭いの強い脂漏症を発します。
子犬や子猫では、免疫力が弱いことから発症することがよくあります。局所的な病変であり、症状も軽いことが多く、90%近くが自然治癒していく傾向にあります。そのため、子犬や子猫では積極的な治療(駆虫薬を使った治療など)は行わず、対症療法となっていくことがあります。
治療方法には、いくつか方法があります。駆虫薬(殺ダニ剤)の投与や薬用シャンプー、薬浴などです。ワンちゃん・ネコちゃんの年齢や発症部位(全身性or限局性)、症状、存在している基礎疾患、体質などを考慮して治療方法を決定していきます。例えば、コリー種(コリー、シェルティ、ボーダーコリーなど)は特殊な体質を持っているため、副作用が発生する危険性があるので、駆虫薬を投与することができません。もちろん細菌の二次感染により膿皮症を併発している場合は
、抗生剤の投与も必要となってきます。発情や妊娠のたびに再発を繰り返す場合は、避妊・去勢手術を行うのも一つの治療方法と言えるでしょう。もちろん、基礎疾患によっては、同時にそちらの治療も行っていかなくてはいけません。また、アレルギー性皮膚炎を併発している場合に、ステロイド剤が炎症や痒みを抑えるために処方される事がよくありますが、ステロイド剤は投与日数や投与量によっては免疫力を低下させてしまうことがあるため、毛包虫が増殖し、症状が悪化していくこともあります。
気をつけないといけないことは、治療を行って症状が改善されても再発する危険性があるということです。慢性化したり再発を繰り返したりする場合は、治療期間が長引くことがあります。いずれにしても、治療が困難な皮膚病の一つになります。
日頃から皮膚の状況をよくチェックして、早期発見、早期治療することが大切です。また、基礎疾患に関しても同じことが言えるでしょう。
今回二回に分けて取り上げてきた外部寄生虫による皮膚炎ですが、疥癬や毛包虫の他にもノミやシラミなどによる皮膚炎もあります。シラミが寄生しているワンちゃんやネコちゃんを見かけることは少なくなりましたが、ノミが寄生していることはよくあります。ノミは寄生して吸血することで痒みをもたらすだけではなく、ノミアレルギー性皮膚炎を起こしたり、条虫と呼ばれる消化管内寄生虫を媒介したりします。ノミに関しては、スポットオンタイプのお薬をつけるだけで、駆除・予防ができます。最近では、暖かい室内で、ノミは年中発生しています。この季節のノミ予防もお勧めします。
犬について(その1) (2005.11.4 up)
日々寒くなってきましたね。今回は犬について連載してみたいと思います。犬をもう少し知ることで、より楽しく過ごせたら…、と思います
まずはじめに、犬の祖先についてお話したいと思います。犬の祖先は、みなさんご存知のとおりオオカミです。しかし他の多くの肉食獣とも遠い血縁関係にあります。現在肉食獣は7種類(ネコ、アライグマ、イタチ、ハイエナ、シベットとマングース、クマ、イヌ)の祖先は同じでした。ここでそれより前の祖先をたどって見ましょう。
今日の哺乳類の祖先は、その時代の環境に適応して生き残るために進化してきました。
ミアキス;<およそ5000万年前に現在は絶滅しているミアキスと呼ばれる肉食哺乳類の一種が進化して、現在の歯形を持つ肉食獣が出現しました。
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ヘスパーオシオン
3800〜2600万年前に、イヌ科の直接的な祖先が高いと思われる動物に進化しています。解剖学的にイヌ科の特長である内耳を持っています。
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レプトシオン
2600〜700万年前には、現在、犬および全肉食動物の原種といわれるレプトシオンが出現しました。この時点で犬によく似たイヌ科の動物が42種類います。
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カニダー
200万年前〜更新世の始まりにかけて現在の肉食獣の基本的な種類に進化を遂げています。この時点でイヌ科の動物は大きく減少して10種類になっています。このうち一番大きいグループはイヌ属で、オオカミ、ジャッカル、コヨーテ、イヌはここに入っています。ちなみに二番目に大きいグループは12種類のキツネが入っているキツネ属です。
イヌ科の特徴としては、細長い頭蓋骨、瞬発力のあるがっしりした後ろ足、筋肉に支えられた柔軟に動く前足、保温性の高い被毛、コンパクトな足、獲物を捕らえ押さえ込み切り裂く巨大な歯、容積の大きい頭脳を持ち、さらには鋭い聴覚と嗅覚をを備えています。
<犬と遠い仲間>
犬はイヌ科イヌ属に入りますが、イヌ科は他に9種類(属)あります。他のイヌ属の動物は家犬の遠い仲間に当たりますが、現在も存在するのが21種類のキツネやリカオン、ドウル、タテガミオオカミ、ヤブイヌ、タヌキです。これらの動物たちは共通した進化をしているので、行動パターンもよく似ています。
<犬と近い仲間>
コヨーテ、ジャッカル、オオカミ(ホッキョクオオカミ・アカオオカミ・北アメリカオオカミ・メキシコオオカミ・ヨーロッパオオカミ・アジア/アラブオオカミ)が近い仲間として知られています。