雅楽
雅楽について(前のページ)
曲の調子
雅楽のレパートリーで親しまれている調子とは別の調子に乗っ取って演奏する事も可能(「渡し物」と称する)。その場合は西洋音楽の移調とは異なり、その調子に含まれる音階に沿って演奏されるため、メロディラインが若干変化する。越天楽を平調と盤渉調で聴き比べてを例に挙げると、平調では「レーミミシシラシミミミレミ」となるが、これを西洋音楽の論理に乗っ取って完全5度下に移調すると「ソーララミミレミラララソラ」となる。それに対して盤渉調では「ソーララファ#ファ#ミファ#シシシラシ」となり、途中から完全4度下の移調になっている事が判る。これは、一つには現代使用されている楽器が平調のためのもので、特に、主旋律を奏する篳篥の音域が狭いため、他の調子を演奏するときに、部分的に変えて演奏せざるを得ないためである。
このような部分で龍笛が補足的に本来の音に近いメロディーを吹くことになり、その部分がヘテロフォニーと呼ばれるずれの現象を伴って演奏されることにより、独特の味わいがでることとなる。 実は、リズムも渡し物において変化することがある。管弦では只拍子で演奏される曲が舞楽になると夜多羅拍子となって変わってしまうものがいくつかある。一つの曲に使用される音列が変わったり、リズムが変わったりするところはインドの古典音楽のラーガマーリカ(ラーガを変えながら演奏)やターラマーリカ(リズムを変えながら演奏)等と共通するものがあり、特に雅楽で言う拍の概念はインドのターラの概念に近いものがあることは、故小泉文夫芸大教授の指摘するところである。

   平調(ひょうじょう)      壱越調(いちこつちょう)    双調(そうじょう)
   盤渉調(ばんしきちょう)    黄鐘調(おうしきちょう)    太食調(たいしきちょう)

 有名曲
  太平楽   越天楽   還城楽   五常楽   千秋楽   蘭陵王

 雅楽に使われる楽器
  篳篥、龍笛、笙、高麗笛、楽箏、楽琵琶、鞨鼓、鉦鼓、太鼓、大太鼓(だたいこ)、三ノ鼓、倭琴(和琴)、笏拍子 他

 三管の説明
  雅楽の合奏の中心となる楽器は、一般的に三管、三鼓の六種類といわれる。 三管については次のような説明がなされる。
   「天から差し込む光」を表す笙。
   「天と地の間を縦横無尽に駆け巡る龍」を表す龍笛。
   「地上にこだまする人々の声」を表す篳篥。
  この三つの管楽器をあわせて「三管」と呼ぶ。

 合奏時の主な役割は、主旋律を篳篥が担当。篳篥は音程が不安定な楽器で、同じ指のポジションで長2度くらいの差は唇の締め方で変わる。演奏者は、本来の音程より少し下から探るように演奏を始めるため、その独特な雰囲気が醸しだされる。また、その特徴を生かして、塩梅といわれるいわゆるこぶしのような装飾的な演奏法が行われる。龍笛は篳篥が出ない音をカバーしたりして、旋律をより豊かにする。笙は独特の神々しい音色で楽曲を引き締める役割もあるが、篳篥や龍笛の演奏者にとっては、息継ぎのタイミングを示したり、テンポを決めたりといった役割もある。笙は日本の音楽の中ではめずらしく和声(ハーモニー)を醸成する楽器である。基本的には6つの音(左手の親指、人差し指、中指、薬指と右手の親指と人差し指を使用)から構成され、4度と5度音程を組み合わせた20世紀以降の西欧音楽に使用されるような複雑なものであるが、調律法が平均率ではないので不協和音というより、むしろ澄んだ音色に聞こえる。クロード・ドビュッシーの和音は笙の影響がみられるという説もある。
 三鼓とは、鞨鼓、鉦鼓、太鼓であるが、鞨鼓の演奏者が洋楽の指揮者の役割を担い、全体のテンポを決めている。


 管弦に使われる楽器
  鞨鼓、太鼓、鉦鼓、笙、篳篥、龍笛、楽琵琶、楽箏

 舞楽に使われる楽器
  国風歌舞
  笏拍子、倭琴、神楽笛、篳篥、龍笛
  唐 楽(左方):鞨鼓または三ノ鼓、太鼓、鉦鼓、笙、篳篥、龍笛
  高麗楽(右方):三ノ鼓、太鼓、鉦鼓、篳篥、高麗笛
  伶楽 (一度廃絶し、近年復元された雅楽)
 現在、国立劇場の企画の一環として廃絶された楽器や楽曲を復元する試みが行われている。これを総称して伶楽(れいがく)と呼ぶ。

復元された楽器
箜篌、五弦琵琶、阮咸、排簫、尺八(近世邦楽の尺八と異なる)、、方響等

 明治時代にも正倉院にのこる残欠を参考に箜篌や五弦琵琶等を復元したことがあるが、江戸時代からとだえることなくつたわる漆工芸や螺鈿の技術等により工芸品としては高度なものであるが、弦の張力は演奏に耐えるものではなく、演奏のための楽器としての復元は昭和になってからである。
雅楽について(次のページ)