第四夜
今日、興味があったので「バス」とやらに乗ってみた。
人間共は足が凄まじく遅いらしいので 距離がちょっとあるだけでそんな大層なものに乗って行き来するらしい。
中にはいると椅子が並んでいた。勿論、乗ってきたやつが座るためのものだということぐらいわかっていた。
だが椅子を見てみると、「体が不自由な方、お年寄りのための優先座席」とかいう文字が書いてあった。
なんだこれは?文の内容から察して、人間のそういうやつらが座る席のようだ。
そう思ったオレは、勿論そんな席には座らず(全くあてはまらん)、そのすぐ後ろの席に座った。同じような椅子ばかり並んでいて気が狂いそうになった。
すると、その後で、その席にいかにも頭の悪そうな男が座った。
「オイ、貴様は体のどこが不自由なんだ?」とでも言いたくなるような嫌そうな奴だった。(言いはしなかったが。くだらん。)
バスが発車し、いくつかのバス停を過ぎた。穏やかな午後の町中だった。
と、途中で、松葉杖をついた若い娘が乗ってきた。
そいつはちょうどさっきの男が座ってる席の前でつり革(とかいうものらしい)を掴んで立っていた。
顔はどこか幼い頃の雪菜に似ていた。
他人であると直ぐ分かったのが不思議に思えたくらいである。
それからバスは少し悪路に入っていった。
当然の如く、バスはグラグラ揺れた。
そして、娘の松葉杖や体も、これきしの揺れにあわないくらい大きく揺れていた。
とたんに、オレは急に前に座っている男に腹が立ってきた。
…オイ、貴様は文字が読めんのか!?人間はやはりバカな奴が多いのだなっ。
だがそいつは一向に動く気配がしない。のうのうと席に座っているだけだ。座り方もだらしない。寝ているのか、貴様。
そして娘は バスが揺れるたびに杖をグラグラさせている。
なぜかたまらなくなった。
「………かわってやろうか。」
不意にそんな言葉がオレの口から出た。オレじゃない誰かが、勝手にオレの口を使って喋ったかのようだった。
娘は驚いてオレの顔を見た。オレも驚いて下を向いた。
娘は礼を何度も言い、オレが立った後に素直に座った。こういう場合は素直に座って貰わんと困るのだろうな、と思った。
何故か、バスの中の空気が和らいだような気がした。そうして初めてここの空気が張りつめていたことに気が付いた。
(それでもあの男はなにも反応しやがらんかった。貴様は人形か)
バスはいつの間にか悪路を切り抜けていた。そしてまた町中に入った。
やがてオレが降りるバス停につき、バスが停まった。そしてオレが降りようとすると、
「お客さん、運賃は?」と運転手がふっと聞いてきた。
うんちん??なんだそれは? と思うと、向こうは何か嫌な顔をしてきた。
はぁ?オレが何をした!?と文句を言ってやろうかとまで思った。
と、そのとき「あ、私が払います」という声が後ろで聞こえた。
見るとさっきの娘だった。奴は杖をついて危なっかしそうに動き、変な箱に金を入れて
(この時初めて「うんちん」が金のことだとわかった。オレは「何かした」のではなく「しなかった」のか。というか、何となく悪いことをした)、
そしてそいつはオレを促し外に出た。
バスは去っていった。不愉快な空間だった。
「すまなかったな」
「いえ、こちらこそ。あなた…優先座席に座っていたわけでもないのに、優しいんですね。ありがとうございました」
娘はそういって微笑み ぺこりと頭を下げて走っていった。
「……………。」
オレは何故か、バスが去っても その場に1分くらい動かんとたたずんでいた。
なんとなく、こいつは生まれてから今までずっと松葉杖をついて生きてきたんじゃないだろうかと思った。
だからこんなに雪菜に似ていたのだろうと思った。
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