飛十夜

第三夜


真っ暗だった。
オレの歩いている道は。
いや、道なんぞ見えん。
今歩いているところが、地面なのか空なのかさえオレには分からん。
足下を見る。オレの着ている服が元々黒いから、オレの体は完全に闇に溶けこんでしまっていた。
体なんて、持ち合わせていないのかも知れんが。意識だけで宙を漂うこともあるからな-------。
だが、オレは歩いていた。
どこに向かっているのか。
何のために歩いているのか。
自然とオレの体----意識がそちらの方へと進んでいく。確実な一歩一歩を、みっみっと踏んでいきながら。
かたいようなやわらかいような音がする。だがオレには、何を踏んでいるのかが全く分からん。ただ闇の中を、かき分けて歩いていっていることだけが判った。
オレが踏んでいるものも、ただの闇の賜(たまもの)ではないことも分かっていた。
暗い中にも明るい中にも同じ物は存在するのだから。
元々、照らすものがなければ全ては真っ暗である。
形も色も目には映らない。
存在全てが闇に見える。
光はそんなに沢山この宇宙に存在してはおらん。
いつだって、光が届かない場所には闇が訪れている。地球はぐるぐる回っているから、光が届くこともあれば届かないこともあるだろうが。
地球に居れば夜が来る。
夜は、魔物の時間帯。
人を不安にさせる。寂しくさせる。物思いにふけさせる。怖い気持ちにさせる。
オレのような魔界のものには、夜も昼も、「行動する」という概念においては人間ほど影響は受けん。
むしろ夜の方が動きやすいくらいだからな。
けど、これは夜ではなかった。夜ではなく、闇だった。
今オレが居る”じかん”は。
星も月も雲も稲妻も魂も見えん。
そんな夜も、たまには来るのかも知れないが。
………。
また、歩く。
闇に、かすかな不安を覚えさせられた。
何も照らすものがない闇。
何も照らされているものがない闇。
だが考えてみろ。
闇は、ただその「空間」とくっついているだけだ。そこに”一緒に”存在しているだけだ。
元々そこにあったものの存在は消えん。照らされる照らされないとかいう事情ごときで、そこにあった物たちを消されてたまるか。
ただ一緒にいるだけだ。
闇と。
だから何も消えない。
オレは不安を払いのけた。
一体何に不安を感じていたのだろう。
オレは歩き続けた。
そして。
進行方向やや上手に蛍光灯の光が目に入った。
ぽつぽつと。
ぽつぽつと。
闇といっしょに、闇のなかに、ちゃんと立っている街灯が長い間隔を空けつつジグザグに並んだ。
ものすごく安心した。
何故だかわからんが、ほっとした。
白熱灯の色や、やたらに黄色いランプの色をした門灯も両脇に並びだした。街灯に比べて高さが圧倒的に低い。伸ばせばすぐ手が届きそうだ。
オレはその間を静かに歩いていった。闇といっしょに。歩き続けた。目的地はもう分かっていた。
やがて、オレはアスファルトから、細かい石を敷いた段に上がる。
門灯を目の端に、門をキイと開け、温かい白熱灯の光が漏れている窓へと向かう。それに照らされた古そうな扉の前で、ようやくオレは立ち止まる。
そしてオレはドアを開くのだ。
そこが、オレの家だから。

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