その7
【初期微動(5)】
彼らは、あちこちで煙が吹き出すそのガレキをひっくり返し始めていた。飛影だけはその場に突っ立つだけで、身動き一つせずその領域の端にたたずんでいた。
ガレキは大小いくらでもあったが、どのガレキをひっくり返しても、生き物がいるような気配は全くしなかった。えんえんと解体工事をしている幽助・桑原・蔵馬・月架は、無言のまま真剣に片っ端から生存者を捜していた。我隠だけは、彼らが乗ってきた乗り物にもたれて立って、何もせず残骸の山の端に立つ飛影を眺めていた。当の彼は何を見ていたのだろう。残骸の間を徘徊する4人か、立ち上る煙か、そこで行われた過去を見ていたのか、それは彼にしか分からない。いや、彼にもわかっていなかったのかもしれない。皆各々の、自分の世界に浸っていたのだ。
______生存者なんて、いないだろう。
そんなこと思いたくなかった。けれど、この様子では、そう思ってしまうのも無理はなかった。それにしてもここは奇妙である。生存者が残っていないけれど、それは”皆死んでしまった”というわけではないのだ。つまり、そこには誰もいないのだ。遺体もないし、肉片もない。誰かが居た痕跡もないのだ。それはおかしい。一体ここで、一体、何が起こったんだ?
「た……助けて……」
その刹那、皆一瞬にしてその声がした所へ集まった。飛影と我隠も驚いたが、動かないで遠くから目を見開いて見ているだけだった。
「ここか!」
と、幽助が倒れている壁の端をぐっと掴んだ。中でゴトゴトという音がする。月架は驚いて蔵馬と目を合わせた。桑原も蔵馬に目で合図すると、幽助と一緒にその板に手をかけ、一気にそれを持ち上げた。
「はあっ!はあっ、はあっ」
と、下から誰かが出てきた。幽助が引っ張り上げると、そこに埋もれていたのは、なんと、参殿だった。
「参殿さん!」
と月架が叫んだ。
「つっつつ月架さささささんんですかああああわわわわ私はああののああれれれれ……」
ただでさえどもりやすい参殿は、興奮していて、口もまともに聞けない様子だった。
「落ち着けよ参殿」
桑原がなんとかなだめるように言った。
飛影と我隠もそこに歩み寄り、震えている参殿を見下ろした。我隠以外は皆そこに座り込み、なんとか参殿をなだめようとした。だがこの様子では、しばらくはまともに話すことも出来ないだろうと思えた。
我隠が言った。
「一度また気絶させた方がいいかもな」
「ふざけるな」
飛影がそっちも見ないで言った。
「何があった」
飛影が、まだ足が埋もれている参殿を見下したまま聞いた。
「いいいいいいいやあああああのののそのおおですねねねはははいいいい」
参殿はやはり興奮していて、まともにはしゃべられそうになかった。皆は、こりゃダメだなというような顔をした。
「しっかりしろ!!生き残っているのは貴様しかおらんのだぞ!」
と、飛影がいきなり怒鳴った。参殿はおろか幽助や蔵馬までびくっとし、ちぢこまってしまった。参殿は、震えるのもがたがたしゃべるのも一瞬で止めてしまった。
「何でもいいから覚えていることを順序よく話せ。情報は貴様からしか聞けんのだ。さっさとしろ」
ある意味強引だな、と幽助達は少し思った。
「は、ははい。えええと、わわ私がどどどどれくらい眠っていたのかはし知りませんががぁ…」
「そのどもり口調もよせ」
飛影は妙に厳しくなっていた。参殿は泣きそうな表情をしていたが、素直に飛影に従った。
「わ、私がどれくらい気絶してしまっていたのかは知りませんが、あなた方が出発されてから6時間くらい後、急にですね、えと、辺りが、暗くなったんです」
「辺りって?」
「城のまわりが全部なんです。つつまり、空が、ですね、真っ黒になって、光がほとんど差し込んでいない状態にななったんです」
「この魔界の空が?」
「はい」
「あの…削剥の城に一回目行った時みたいに?」
月架が顔を出して言った。
「はい」
今の月架のセリフで、皆大体のことがわかってしまった。
「稲妻が……落ちたのか?」
「はい。そうです」
「どこに?」
「どこにって……。え、と、まずは城のてっぺんに。それから城の原型が一気に崩れて、壁全体をはうようにスパークが起きました。み皆さん混乱して、外へ飛び出したら、その瞬間に撃たれて、き消えてしまいました。わ、私は恐ろしくて、急いで躯様の部屋に行ったのですけど、もうそこに躯様はいなくて……。で、そしたら、躯様は窓の外にいらして、窓から私が顔を出して躯様を呼ぶと、あの、躯様が振り返った、しゅ、しゅしゅ瞬間に……むむむ躯様がががが………」
「消えたのか」
「う…」とたまりかねて、参殿はとうとう泣き出してしまった。大きな図体をしているのにみっともなく、おいおい泣いていた。そこにいた在る者は目を見開き、在る者は暗い表情をして下を向いたりしていたが、何をしていても、皆、横目で飛影の様子を見ていた。幽助達も、月架も、彼のことが気になっていた。だがいつの間にか、彼は自分の前髪を顔に垂らして、皆に自分の表情がわからないようにしていた。それを見ながら、月架も参殿をなだめはじめ、そしてしくしく泣き出していた。そのうち彼は皆から離れて、距離を置いたところで声をあげて泣きはじめた。
皆はもう、ガレキ起こしも、参殿から話の続きを聞く気にもなれなかった。ただ,どうしていいのかわからずその場に座っていた。どうしていいのかわからないというのは、今に限ったことではない。これからも、どうしたらいいのかわからないのだ。いきなり、城が破壊され、躯他多数の妖怪達が消されてしまった。だが、何故だかわからない。犯人がわからないのだ。蔵馬は、以前削剥の城で起こったことの説明を月架から聞いた時、”これは自然現象と言うより、人為的なものであると説明したほうが納得がいく”と思った。そして、今回もそうだと思った。だが、人為的なものであるとしたら、一体誰がこんなことを?一体誰が、一見こんな無意味そうなことを?
「…………飛影」
蔵馬がふいに、少し怖い口調で飛影を呼んだ。
「貴方、わかってたんでしょう、これから、躯の城が、焼かれてしまうってことを!」
幽助・桑原・参殿・月架は「えっ!」と言う表情で飛影に注目した。
飛影は反応しなかった。
「オレは、さっき削剥の城で、貴方が氷泪石を見ているのを見ていたんだ。よく見ると、そこにはこの城が映っていた。そしてその直後貴方は『今すぐここを出ろ』と言った。それで、帰ってきてみれば、この城はもうこの状態になっていた…」
幽助と桑原が、下を向いた飛影の顔を食い入るように見ていた。我隠はただ立って、座り込んでいる飛影を見下ろすだけだった。
「そりゃどーいうこった」
我隠が厳しめに言った。
「こいつはこの城が焼かれることを知っていて、そんで、今日に限って削剥の城に行って避難したのか?躯とかいうあの女を犠牲にして?」
「違う!!」
と、幽助・蔵馬・桑原は異口同音にそう言い我隠を睨んで見上げた。
「飛影が、この城がこうなってしまうことを知ったのは削剥の城に行ってからだ!知らなかったんだ!どうしようもなかったんだよ!」
飛影を弁護、というより我隠を敵視する三人は本気だった。それを見て我隠はわかってるわかってるという顔をした。
飛影はびくとも動かなかった。皆は、うつむいている飛影に注目していた。
うつむいて、彼は何をしているのだろう、何を考えているんだろうと皆は思ったが、その考えは、すぐに心に浮かんではすぐに消えていった。思ったところで聞くことなんかできないからだった。彼らはその場から、動くことが出来なかった。
月架もほとんど泣きやんでいるようで、城の遠くを眺めていた。そこから立ち上る煙が、だんだん細くなっていっていた……。
「あ、あの……。は話の腰を折るようで、わ、悪いんですけど、ひ、飛影さんと、月架さん……」
細い声で、参殿が二人を呼んだ。二人はあまり反応しなかった。
「む、躯様から、あの、こ、言霊…、預かってるんです」
飛影も月架も驚いて、参殿の方に振り返った。月架は走って駆け寄ってきた。周りの皆も、目を見開いて今度は参殿に注目した。
参殿は、ごそごそとボロい服の中から、光る二つの玉を取り出した。
「はぁ、よかった、割れてなかった」
飛影と月架は唾を飲んだ。
「む、躯様が、この城に、い、い稲妻が最初に落ちて城が壊れ始めた時、あ、預かった、方が、いて、躯様がその方に言霊を渡している時の会話をき聞いていて、そしたら、その方が、間もなく雷に打たれてしまわれて、それで私が地面に転がっていたこの玉を拾って、も、持っていたんです。こ、こちらが月架様、こちらが飛影様宛です」
言霊を受け取った飛影と月架は、数秒間その光る玉をじっと見つめていた。
皆は、注目するものを今度はこの二人に換えた。というより、二人が持つ言霊に目を向けていた。
皆の輪の中の中心で、飛影と月架は目を見合わせ、そして参殿を見て、そして各々が持つ、躯からの最後の言葉の固まりを見つめていた。彼らの目が、その言霊の光に照らされて、鈍く静かに輝いていた。
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