クリスマスチルドレン

その4


「飛影くんは今日もお休み?」
とけいこ先生が言いました。飛影くんは幼稚園を飛び出して以来、一度も幼稚園に来ていないのです。
「あのやろ、いつまですねてるつもりだよ。オレだって幼稚園なんかほんとはさぼりたいってーのに」
「幽助!」
ぼたんちゃんが幽助くんの頭をすぱかんとたたきました。
「いってーなぼたん!!こんのアマっ!!」
「こら幽助くん!逆ギレしないのっ!!」
「ちっ」
幽助くんは頭を抑えてぼたんちゃんを睨みましたが、それを見てぼたんちゃんはあかんべをしました。
ケッ、と幽助くんは悪態をつきましたが、すると、突然幽助くんが少し笑い、
「あのさ、みんな。オレちょっと最近こない飛影のために、いいこと思いついたんだけどな…」
といいはじめました。


そして、幼稚園の終業式も終わってしまい、あっという間にクリスマスイヴがやって来ました。
日も沈んで、だんだん暗くなってきたころ、木の上で寝ていた飛影くんの前に、また光の渦が現れて、
約束通り、またサンタさんがやって来ました。
「おや、おねんねの最中だったかい」
すると、飛影くんはむくりと起きあがり、
「ん…。あ゛っっっっ!!!」
と顔が真っ赤になりました。
「じゃあ、これからサンタの仕事を手伝ってくれるかな。よし。じゃあまずこれを着て」
と、サンタさんが言うと、飛影くんは光の渦に巻き付かれ、そしてそれが消えたときには、あら不思議、飛影くんの服は、真っ赤なサンタクロースの服になっていたのです。
「なっ!なんなんだこれはっっ!!こんな服いやだっ!」
「それを着ると、おうちの壁をすり抜けることができるのじゃよ。それに子どもには姿が見えなくなる魔法の服なのじゃ!」
と、サンタさんはいばっていいましたが、飛影くんは、どうも慣れない服におどおどしています。
「君の幼稚園のお友達、全員の分のプレゼントがこの中に入っている。
この袋もまた魔法の袋での、子どもの前に行くと、その子が欲しいプレゼントが自動的に出てくるのじゃ。簡単じゃろう?」
飛影くんは、この中にそんなにたくさんのおもちゃがあるのかと、渡された袋をどきどきしながら眺めました。
「じゃあ、あとは頼んだよ。わしはわしの仕事をしなきゃならんからの。
終わったらまたここに戻っておいで。服と袋を返してもらわなきゃいけないからね」
そういうと、サンタさんはやはり、光の渦に包まれて、砂が飛び散るかのように消えていきました。

そうして、飛影くんはクリスマスの夜の町を、てくてくと歩き始めました。
時々飛影くんは大きな袋を眺めて、この中に入っているたくさんのおもちゃを、全部自分のものにしたくなってきました。
どうやらプレゼントは、その子どもの前に行かないと出てこないようなので、とりあえず飛影くんは、一番近くに住んでいる子どもの家に行ってみることにしました。
「フン、サンタクロースもバカな奴だ。幽遊幼稚園で一番悪い子どものオレに、幼稚園の子ども全員の分のプレゼントを託すとはな」
飛影くんはにやりと笑いました。そうしてついに、彼は一軒目の家にたどり着きました。
そこは、このあいだ飛影くんが泥をかちんこちんにしてしまったので、その日泥遊びができなくなって泣いてしまった女の子の家でした。
飛影くんが部屋に着くと、女の子はベッドの中でぐっすり眠っていて、枕元にはかわいらしいリボン突きの靴下が置かれていました。
「こいつが欲しいものは…」
と、飛影くんが袋の中に手を入れると、そこから出てきたのは泥遊びセットでした。
「………」
飛影くんはこのあいだ自分がやってしまったことを思い出しました。今にして思うと、結構彼は反省の思いに駆られました。
すると飛影くんは、フンとつぶやいてから、そっと枕元にそれを置いて、家を出ていきました。

次に向かったのは幽助くんの家でした。幽助くんは布団から手足を出して時々寝言をいいながら眠っていました。
「寝るときもバカなんだな」
といながら、飛影くんが袋の中に手を入れると、ピカピカのラジコンカーの箱が出てきました。
飛影くんは、これを幽助くんの枕元に置いて自分は去るというのは少しつらいような気がしてきました。
しかし、なんだかんだ言って、飛影くんはよく幽助くんの世話になっていました。
よく気をつかってくれるし、飛影くんが幼稚園を飛び出してしまったときも、幽助くんはちゃんと連れ戻しに来てくれました。
でも飛影くんは戻りませんでした。ひょっとしたら、けいこ先生に少し怒られたかも知れません。
飛影くんは眼をつぶり、そして幽助くんの枕元にその箱を置き、あとはもう何も見ないで出ていきました。
次は雪菜ちゃんの家でした。
可愛い寝顔をそこに浮かべて、夢を見ているのでしょうか、少しばかり微笑んで眠っていました。
少し布団がめくれていたので、飛影くんは布団をかけ直してあげ、そしてくまのぬいぐるみを置いて、静かに出ていきました。
桑原くんの部屋に行くと、彼はいびきをかいていて、両手両足を広げてぐーすか寝ていました。それなのに、彼が欲しいものは、大きな箱に入ったフィッシングセットだったので、飛影くんは置き場所に困りました。なんとかスペースを見つけてそれを置くと、桑原君の体を踏まないようにそろりそろりと部屋を出ていきました。


こうして、飛影くんはもう友達のプレゼントを奪うなんてことは忘れて、一生懸命サンタさんの仕事をやり遂げていきました。
こうなると、いつも自分のいたずらを、温かい心で受け止めてくれている友達に、感謝の気持ち、というほどのものでもありませんが、そんなものが飛影くんに芽生えてきていました。
しかし、最後の一軒に入ったとき、飛影くんは、プレゼントを置いていくかどうしようか迷ってしまいました。
その最後の子は、このあいだ飛影くんを悪い子呼ばわりして、飛影くんになぐられて泣いてしまったあのメガネの子どもでした。
飛影くんはその子の家の前で、しばらく立ち止まってしまいました。

つづく♪


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