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(49) 〇 山椒魚戦争 (カレル・チャペック:岩波文庫) 2020.12.27
   原作1936年、翻訳文庫本1978年   

チャペックはチェコの作家。本作品はSFに分類されている。

山椒魚とコミュニケーションが取れ、役に立つこと見出した船長が
資本家に大規模な展開を持ちかけ、その後、労働力としての山椒魚
活用が進められていく。
急速に知恵を付け、急速に数を増す山椒魚と人間との関係は
どうなっていくのか、というお話。

特定の人物が中心にいるわけではなく、途中から文献や新聞記事、
インタビューなどが頻繁に出てくるので読みやすくはない。
ただ、それらによって足場を固めているので、突拍子もない話には
感じられない。
過去の奴隷の扱い、大国のエゴ、今後の世界への警告などいろんな
読み方ができる。

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(48) □ 新自殺論 (大村英昭、阪本俊生 編者:青弓社) 2020.12.19
   2020年出版   

30年位前、奈良女子大学で土曜市民大学講座(?)があった。
6回3千円で参加者を募集しているのを新聞で知って申し込んだ。
参加してみると、出席者は高齢者がほとんどで、講義の内容も
一般的な話が多く、学術的な香りを期待していた僕には期待はずれの
ものが多かった。なので実際には6回中3回しか出席しなかったはずだ。

参加した3回のなかで、唯一面白かったのが、山崎正和の「柔らかい
個人主義の誕生」を扱った回だった。内容は完全に忘れてしまったが
デュルケームの「自殺論」の紹介があったことだけ覚えている。

講義の後で「自殺論」を読んだ。
個々の自殺を分析するのではなく、地域別、宗教別、月別とか、様々な
自殺率のデータから自殺の原因を探るという画期的な手法によるもの
だった。
僕の認識ではデュルケームは自殺を3つのタイプに分類した。
一つ目は自己本位的自殺。社会とのかかわりが薄いがために起こる
自殺。一人暮らし高齢者の自殺などが当てはまる。
二つ目は集団本位的自殺。社会とのつながりが強いがために起こる
自殺。出社拒否とか社会的責任を負っての自殺などがたぶんこれに
あたる。
ここまでの話を読んだときは別に何の感動も驚きもなかった。しかし
三つ目の自殺をデータから導いた時、見事だと感嘆した。
三つ目の自殺はアノミー的自殺だ。社会の自由度が増すと、欲求が
果てしなく増大するが、現実とのギャップは大きくなる。このことが
原因となる自殺だ。江戸時代なら農民の子は将来農民以外になる
ことを考えなかったはずだ。社会的な制限が無くなることで誰でも
大きな夢や期待を持つことができるようになった。けれど実現できる
人はわずかで、人の生き方は不安定になり命を失う人が出てくる。
アノミー的自殺を考えると、単に自殺率が低ければ幸せな社会なのか
というとそうではないことになる。
デュルケームが「自殺論」を書いてのは19世紀の終わり。明治の中盤すぎ
くらいの時期だ。すでに現代に当てはまりそうなことを分析できていた
わけだ。
こんなことを僕はやってみたかったと思った本はこの本だけかも
しれない。もし、「自殺論」を高校か大学の最初の頃に知っていたら、
僕の人生は違う方向に進んだのかもしれない。

僕はこの10年くらいの日本人の自殺率が低下している要因は、希望の
持てない社会によるのではないかと思っていた。「新自殺論」を
読もうと思った動機もそこにある。

さて、「新自殺論」はデュルケームの「自殺論」を踏まえたうえで、当時
とのデータの違いなども考慮して現在の自殺と社会との関連を探ろうと
するものだ。
ポイントを「フェイス」というキーワードにしている。「フェイス」とは体面とか
面子に該当する言葉だ。でも、全部の自殺をフェイスで説明しようとして
いるようで、せっかくデュルケームが3つに分類したものをあいまいに
しているように感じる。
また、データの読み取り方もやや疑問があり、思い込みで相関を見ている
ふしがある。このためフェイスの議論もデータに基づかずに進められて
いるように思う。。もっと多角的なデータを用意して議論してほしかった。

(メモ)
・自殺率の恒定性・・・自殺率の変動幅は各社会での一般的死亡率
              全体の変動率より小さい
・日本の男性自殺率は失業率との相関が強い。
 ドイツでは相関が見られない。

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(47) △ JR上野駅公園口 (柳美里:河出文庫) 2020.12.11
   単行本2014年 文庫本2017年   

全米図書賞受賞として話題になっているようなので面白いに
違いないと思ってかなり期待をして読み始めた。

ホームレス、天皇、東日本大震災、息子の死。。。
これらが交錯するように進んでいく。

残念ながら、僕にはあまり伝わってくるものがなかった。


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(46) 〇 白い病 (カレル・チャペック:岩波文庫) 2020.12.6
   原作1937年 翻訳文庫本2020年   

カレル・チャペックはチェコの生まれで、作品はチェコ語で
書いているらしい。
本作品は戯曲。

独裁者が戦争準備を進める国が舞台で、白い斑点ができて
死に至る伝染病が流行り始める。
治療方法が見つからない中、大学病院に一人の町医者が
やってくる。
治療法が見つかったので臨床実験をさせてほしいと。
実験の結果、治療効果が明確になった後、治療方法の開示を
求める大学側に町医者が一つの条件を付ける。
その条件は。そしてその後の展開は。

とても興味深い作品を描いている。他の作品もぜひ読んでみたい。

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(45) □ 極北 (マーセル・セロー:中公文庫) 2020.12.5
   原作2002年刊行 翻訳文庫本2012年(村上春樹訳)    

村上春樹の訳者あとがきに
「この小説くらい、一人でも多くの読者の感想を聞いてみたいと
 思ったものはない」
とある。

もし「面白いか、面白くないか」と二者選択だったら、「面白くない」と
答えるだろう。けれど「面白くない」から何も残らないかというと
何か心のどこかにひっかかりのようなものが残っているようにも
感じる。そんな小説です。

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(44) △ 民衆暴力 (藤野裕子:中公新書) 2020.12.4
   2020年刊行    

江戸時代の百姓一揆、明治初期の新政反対一揆、日露戦争後の
日比谷焼き打ち事件、関東大震災時の朝鮮人虐殺などを取り上げ
民衆が行ってきた暴力行為の動機や背景について説明している。

権力への暴力と部落への暴力が並存している様子に着目した点は
興味深い。憂さ晴らしなのか、権力への抵抗なのか、すっきりと割り
切ることはできない。それは人によっても違うし、同じ人でも両面を
もっているのかもしれない。


朝鮮人虐殺については、2012年に読んだ吉村昭の「関東大震災」
朝鮮人への罪の意識が大きな恐怖となって流言を信じることになった
ことが書かれている。本質をついていると今も思っている。この見方に対
する評価がなかったのは残念。
  「日本の為政者も軍部もそして一般庶民も、日韓議定書の締結
   以来その併合までの経過が朝鮮国民の意思を完全に無視した
   ものであることを十分に知っていた。
   また、統監府の過酷な経済政策によって生活の資を得られず
   日本内地へ流れ込んできている朝鮮人労働者が、平穏な表情
   を保ちながらもその内部に激しい憤りと憎しみを秘めていること
   にも気づいていた。
   そして、そのことに同情しながらも、それは被圧迫民族の宿命と
   して見過ごそうとする傾向があった。」
  「つまり、日本人の内部には朝鮮人に対して一種の罪の意識が
   ひそんでいたと言っていい。」

なお、日比谷焼き打ちについては、 「日露戦争 勝利のあとの誤算」
(黒岩比佐子)に詳しく載っている。

(メモ)
[江戸時代の百姓一揆]
・江戸時代の支配体制が固まってからの百姓一揆には一定の
 作法があり、竹槍などの武器を持ち出すことはほとんどなかった。
 領主に武力で対抗する意識はなく、
領主に「仁政」を求めるもの
 だった。領主も暴力的に鎮圧するのは仁君としてふさわしくないと
 いう意識が働いていた。
・幕藩体制が揺らいでからの百姓一揆は打ちこわしや放火が増え
 作法に揺らぎがみられる。

[新政反対一揆]
・廃藩置県、徴兵令、学制、賤民廃止令、地租改正などの明治
 新政府の政策に対して起きた一揆
 放火や殺害を含む激烈な暴力行為もあった。
暴力は支配者に向けてだけでなく、賤民廃止令に関係して
 被差別部落にも向けられた。

・自らの特権の剥奪を含む新しい世界の到来に対して、新しい権力や
 被差別部落に暴力が向けられた。

[秩父事件(明治17年)]
・西南戦争野の後のデフレ。自由民権運動の影響を受ける
 借金返済猶予、学校休校(労働力としての子ども)を求める
・仁政が行われないことへの怒り、自由党に幻想的な解放を求める
 民衆の願望、による暴力行為

[日比谷焼き打ち事件]
・日露戦争の頃、有権者は全人口の1〜2%。男性の多くは兵役・
 納税の義務を負うが選挙権はなかった。
・近世の百姓一揆や新政反対一揆、秩父事件では村単位で参加者が
 動員された。
 これに対し日比谷焼き打ち事件は、屋外での政治集会によって
 群衆状態がつくられたのを機に暴力行使が始まり、人員を替え
 ながら焼き打ちがリレーされていった。
・賠償金が取れず、領土割譲も樺太南半分にとどまったポーツマス
 条約への落胆が人々の間にあり、厭戦気分が広がった。
・きっかけとなった国民大会の論理は条約破棄と戦争継続。
 人々の厭戦気分とはかけ離れていた。
暴動参加者は、職人、工場労働者、日雇い雑業層(荷役人夫や
 車夫)が多かった。

 日露戦争から第1次世界大戦にかけての時期は、従来の徒弟制度を
 中心にした職人層が解体され、工場労働者へと移行する過渡期だった。
・東京は多くの若年男性を引きつけた。労働者の上京理由は賃労働に
 従事することではなく、さまざまな小営業を営むためだった
 (自分の店を構えて安定的な生活を送ること)
 しかし、実際には困難で、多くは工場労働者を続けることになった。
・工場労働者の社会的評価は低く、生活水準は日雇い雑業層と同じ。
 →荒っぽい振る舞い。「男らしさ」の価値体系が生まれる。
・男性労働者のエネルギーは雇い主、富裕層、警察権力に向けられた。
 →日比谷焼き打ち事件は男性労働者の日常的な生活文化と密接に
   つながっていた。
・1918年の米騒動まで大規模な暴動が頻発した。
・日比谷焼き打ちの後、軍隊。警察とは別に民間の中に自警組織を
 作る発想が生まれた。
 →官製の青年団、大量の帰還兵を組織化した在郷軍人団結成

[関東大震災時の朝鮮人虐殺]
・警察が誤情報を流す+政府が誤情報を流す
 9/2 東京市と周辺に戒厳令
 9/3、4 東京府全域・千葉県・埼玉県に拡大
・朝鮮における米の生産高は1920年から34年の間に1.4倍に増加したが
 増産分以上が日本に移出。産米増殖のための灌漑用水・貯水池の
 増設費用は農家持ちのため、大幅な収入源となった農民の中には
 土地を手放して小作人や日雇い労働者になったり、海外で仕事を
 見つける途を選んだりする人もいた。
・1919年の三一運動後の朝鮮総督府の政務総監が、戒厳令の
 決定を下した内務大臣。
 朝鮮人の反乱を強烈に意識した統治経験があった。
軍隊が直接に朝鮮人を虐殺したことを多くの住民が目撃。公権力の
 直接的な関与が多くの日本人に流言を真実だと信じさせる結果と
 なった。

・民衆が動き始めた9月4日ごろから、政府・軍隊は流言を打ち消して
 事態を収束させる方向に転換した。
・殺害数の代表的な調査は3つ。230人、2613人、6661人と大きく異なる

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(43) 〇 獄中記 (佐藤優:岩波書店) 2020.11.22
   2006年刊行 文庫本2009年    

外交官だった佐藤優は2002年逮捕され、512日という長期間
拘置所で拘留された。その間に獄中で書いたノートを5分の1に
圧縮・整理しなおしたものが本書である。
神学についての記述は僕にわからないことが多く、ヘーゲルなどの
思想についても理解できたとはいえない。けれど、断片的では
あっても刺激的な記述が多く、多面的である。また、読書案内と
しても読むことができる。

(メモ)
・現実に影響を与えず、いたずらに殉教を求めるような抵抗運動は
 無責任
・(ヘーゲル)「(知恵の象徴である)ミネルバのふくろうは夕暮れが
 近づいたときになってやっと飛び始める」
 一つの時代がどのような時代であったかが知的に認識できるのは
 その時代が終わるとき、という意味

・1997年7月 橋本総理経済同友会演説「東からのユーラシア外交」
 冷戦後NATOの旧東欧諸国への拡大により、ロシア封じ込めようと
 している。(西からのユーラシア外交)
 これに対し、日本はロシアをアジア。太平洋地域に誘う「東からの
 ユーラシア外交」を展開する。
 冷戦後、アジア太平洋地域の秩序は日本・米国・ロシア・中国により
 形成される。日露の関係を近づけることは日本・ロシア・アジア太平洋
 地域にとって有益。そのために北方領土問題を解決し平和条約を締結
 する、という考え
  1997年11月 クラスノヤルスク合意「2000年までに平和条約を締結
          すべく全力を尽くす」
  1998年4月 橋本首相・エリツィン大統領会談で日本からされた「川奈提案」
  2000年9月 プーチン拒否
・1998年の川奈会談で橋本総理が
 「私とボリスの関係は、「あれをすればこれをしてやる」「あれをしなければ
  これをしない」というような関係ではない。「私はこれをする。ボリスには
  これをしてほしい」と素直にいえるような関係だ」
 と言うと、エリツィンは身を乗り出して「その通りだ」と応え、両首脳は
 踏み込んで領土問題について協議した。
 ⇒ゴルバチョフが核削減に踏み込んだ際、最初に核実験を一方的に
  停止し、最初は懐疑的だったレーガンも徐々にゴルバチョフの言葉を
  信じていったように記憶している。このような手法が困難の打開には
  必要なのだろう。ロシア特有か万国共通か?

・北方領土問題の解決理念
 @四島一括返還
 A潜在主権方式(1972年までの沖縄。米国の施政権下にあるが潜在主権は日本)
 B賃貸方式(Aの逆)
 C「2+2方式」
  a:二島先行返還+国後島・択捉島の潜在主権確認
  b:二島先行返還+国後島・択捉島に関する継続協議
 D共同統治、共同管理方式

・先の大戦に至る極端な国家主義に対する反動で、外交官を含め日本人の
 ほとんどが「国のために」という価値を軽視するようになってしまった。
 そのような状況が続くと日本は弱体化し不幸になるという危惧がある。
 (ソ連の崩壊過程とその後のロシア・ユーラシア地域の混乱の体験から)
 ⇒「国のために」は「国だけのために」になりがち。僕はそれを危惧する。

・(2002年日朝首脳会談)金正日おわびしたと言っても、これが悪い意味で
 日本のナショナリズムに火をつけ案外深刻な状況が生じるかもしれない。
 ⇒確かにこの頃からナショナリズムが気になりだした。H

・日本では学者が行う自己検閲が深刻な問題。例えば、現下の情勢で
 北朝鮮の肯定的側面(どんな国家にも肯定的側面はある)について発言
 することや在日朝鮮人問題(第2次世界大戦中の強制連行や慰安婦問題)
 と今回の拉致問題を絡めた真面目な議論もできない。
 ⇒HPを始めたきっかけが「救う会」のアンケートだったことを思い出す。


・ヘーゲルの法哲学からすると、「犯罪者は法秩序に違反していない」と
 いう奇妙な結論になる。このロジックは市民が犯罪者として摘発され
 裁判にかけられ刑を受けることによって犯罪者と国家の間に和解がなされる
 わけであり、従って法秩序は維持される。
法秩序に対する違反は、
 犯罪者によってなされるのではなく、国家が本来犯罪として裁かなくては
 ならない人物を放置しておくことによって生じる。
 
⇒こういう見方をするためには、やはりヘーゲルが必要か。

・チェチェン人の男子は自己の男系先祖7代までの名前、出生地、死亡地、
 死亡の理由、墓の場所等を暗唱する。もし、先祖が誰かに殺されたなら
 犯人を特定し、仇の男系7代の子孫に対して復讐することが義務付けされる。
 1991年12月ソ連崩壊時におけるチェチェン本国のチェチェン人人口は70万人。
 1994年から現在まで続くチェチェン戦争で5万人が死亡。このような状況では
 チェチェン人の男性のほとんどが「血の掟」による報復の義務を負うことになっている。
・1996年にチェチェンがロシアに対して勝利した後、チェチェン内部で民族派と
 原理主義派の闘争が激化し、99年時点では国際テロ組織の支援を受ける
 原理主義派の方が優勢になり、イスラーム帝国を作ろうとする動きが現実化した。
 1999年秋、プーチン首相(当時)がチェチェン再進攻に踏み切ったのは
 原理主義者の影響力が拡大することにより、イスラーム帝国がコーカサス
 全域に創設されることを防ぐ目的だった。
 ⇒2007年にアムネスティ奈良グループ主催で「踊れ、グローズヌイ」の映画
  上映会を開催した。ロシアと戦闘状態にあるチェチェン共和国の首都グローズ
  ヌイを舞台にしたドキュメンタリーだった。この時はこんな見方は全く知らなかった。


・歴史上、クリスマスが12月25日であった可能性はほぼない。古代ローマの
 冬至祭がキリスト教導入とともに変形したもの。冬至のような自然現象と
 結びついているからこそ日本のような非キリスト教社会にもクリスマスが
 根付いた。

・一般社会による検察のコントロールなどというのは、メディア受けは良いが
 司法権力を大衆に委ねると、今の日本の場合、世論の動きにあわせて
 次々と事件が作られ、冤罪のオンパレードとなるだろう。

・秦の始皇帝死後、第2代皇帝胡亥の側近の趙高は、鹿に鞍をつけて皇帝に
 献上し、「この馬にお乗りください」と言う。皇帝は「これは馬ではない。鹿だ」と
 答えた。趙高は宮中の大臣に、鹿か馬のどちらであるかを尋ねてみてくださいと
 皇帝に言う。皇帝が質すと、全員が「馬」と答えた。趙高は「これで俺に逆らう
 者はいない」と考えるようになる。
 
「馬鹿」とは知性や能力の問題ではなく、誠意、良心の問題である。
 ⇒覚えておきたい。

・マルクス経済学によると、賃金の水準は労働力を再生産する消費財の価格に
 よって決められることになる。
 システムを維持するというメカニズムが資本主義には内在しているので
 労働者が飢え死にするような事態は生じないと考える。
 ⇒確かにそうだ。

・著作「ドイツ・イデオロギー」はエンゲルスが主導的役割を果たしたが、
 モーセス・ヘスの役割を無視できない。ヘスはその後、シオニズムの
 イデオローグとなった。
 1840年代半ばにドイツの狭いサークルで生まれた理念が、一つはマルクス
 主義となりソ連という理念先行国家を創り出し、もう一つは少し遅れて
 イスラエルという理念先行国家を創り出した。
・ルターには狂気に近いものがある。ヒトラーが最も尊敬した偉人はルターで
 ナチズムはルター派の伝統なくしては生まれてこなかった。
 ドイツ的なものの見方・考え方の中に、現代の病理現象が圧縮されている
 ように見える。
 ⇒ドイツ的なものの見方とは何なのか。まだきっかけすら掴めていない。

・シオニズムには政治的シオニズムと宗教的シオニズムがある。
 20世紀初めの政治的シオニスト(ほとんどが社会主義者)がパレスチナへの
 移住を具体化したのに対し、宗教的シオニストは人為的な帰還に反対し、
 シオンは宗教的、つまり、この世界が終わり、メシア(救世主)が到来する
 時に出現するので、それまでは今いる場所にとどまるべきと考えた。
 このような宗教的シオニストのほとんどが東欧(含むウクライナ・ベラルーシ)に
 住んでおり、その結果、ナチスによって全滅させられた。
 ⇒トム・セゲフ「七番目の百万人」という本をまだ読まずに持っている。
  これを読めばこのあたりの理解を深めることができそう。

・2003年小泉純一郎が自民党総裁に再選され、日本はあと3年間ハイエク型
 新自由主義モデルを追及することになる。ハイエク型新自由主義モデルで
 国民全体が裨益するには、持続的経済成長が大前提だが(経済成長が
 続けば初めはごく一部の金持ちしか享受しなかった財・サービスを国民の
 大部分が時間的に少し遅れて享受することが可能になる)、この前提が
 満たされなければ、今後3年で日本社会全体の貧富の差がかつてなく
 拡大する。
 ⇒これが現実になった

・ヘーゲル「歴史哲学講義」(岩波文庫 長谷川宏訳)を翻訳の点で評価
・フーコー「監獄の誕生」
・カレル・チャペック「山椒魚戦争」(岩波文庫)1935−36年
⇒どれも興味深い本だ。チャペックの本からスタート予定

・ひとたび有事になれば、在日朝鮮人、在日外国人、あるいは絶対的平和
 主義者に対して治安当局が「国民の不安を解消するために」大規模な弾圧を
 加える可能性は十分にある。
・ナショナリズムは対外的に自民族中心主義を推し進めるとともに、国内的に
 異分子の排除に向かう。始めは精神障害者、次に凶悪犯、そして政治的
 異分子の隔離に例外なく進んでいく。
 「本を焼く」政権は、必ず「人を焼き殺す」ようになるという法則が働く。
 ⇒出版された2006年より危険性は増している。

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(42) □ 村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝 (栗原康:岩波現代文庫) 2020.11.14
   単行本2016年刊行 文庫本2020年    

伊藤野枝も大杉栄も現在の価値観では図り切れない人物だった
ようだ。
教師だった辻潤と同棲して子ども2人を産み、「青鞜」で貞操論争、
堕胎論争、廃娼論争を繰り広げた。
大杉栄と同棲してからも子ども5人を産み、大杉と一緒に活動する。

社会主義の目標に向けて活動するというより、もっと自由を求めて
いたようだ。たぶん、社会主義者というより、アナーキストの方が
適切なのだろう。

(メモ)
・1895年 福岡県今宿で生まれる
・1909年(14歳) 高等小学校卒業。叔父の代準介に頼んで11月上京
・1910年(15歳) 上野高等女学校4年に編入・・・大逆事件の年
・1912年(17歳) 卒業。帰郷して末松家に嫁がされる。
           逃げ出して上京
           高等女学校の教師だった辻潤と同棲。
           辻は辞職(以後、無職)
・1913年(18歳) 長男一出産
・1915年(20歳) 「青鞜」(平塚らいてう中心)の編集・発行人
           次男流二出産
・1916年(21歳) 大杉栄と恋愛関係(堀保子、神近市子との四角関係)
           6月 次男流二を里子に出す
           9月 大杉栄と同棲
           11月 葉山日蔭茶屋事件(大杉栄が神近市子に刺される)
・1917年(22歳) 長女 魔子出産
・1918年(23歳) 内務大臣 後藤新平への抗議の手紙
・1919年(24歳) 12月 次女 エマ出産
・1921年(26歳) 3月 三女 エマ出産
・1922年(27歳) 6月 四女 ルイズ出産 12月大杉はフランスへ
・1923年(28歳) 7月大杉帰国。8月大杉との長男ネストル出産
           9月1日関東大震災
           9月16日虐殺


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(41) □ 日没 (桐野夏生:岩波書店) 2020.11.7
   2020年刊行    

調べてみると、桐野夏生の小説は2006年に2作品読んでいた。
評価は「△」と「×」。相性がかなり悪い。

話は「総務省文化局 文化文芸倫理向上委員会」からの召喚状から
始まる。
序盤、すんなりと入っていけないところがあった。
主人公(わたし)の感じ方と僕自身との間に大きな距離があるため
なのだろう。

読み進むと、まだ導入かと思っているうちにあっという間に後半、終盤へ。
登場人物と僕との距離は少し縮まった感じがする。
ラストは。。。
相性の悪さは少し緩和されたように感じる。

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(40) 〇 英国諜報員アシェンデン (サマセット・モーム:新潮文庫) 2020.11.3
   原作1928年発表。文庫本(金原瑞人訳)2017年   

モームは第一次世界大戦中、イギリスの諜報員として働いている。
本書の前書きにも
「1917年、わたしはロシアにいた。それはボルシェヴィキによる十月革命を
 阻止し、ロシアが戦争から手を引かないようにするためだった」
と書いてある。
本作品は小説だけど、自身の経験をもとに書いていることは間違いない。

読んでいて目が先へ先へと行きたがる時がある。本作品では英国大使が
話しているときがそうだった。英国大使の話がどんどん勢いを増し、畳みかけて
くる。モームがすごいのか、金原瑞人の訳が素晴らしいのか。

章ごとにいろんな人が出てくるが、一度にたくさんの人が出てくることはなく
途中で登場人物が誰だったかがわからなくなることはない。
そして、それぞれの人を愛着を持って丁寧に描いている。モームの作品の
優れた点だ。

・指示を与える大佐R
・英国の老婦人ミス・キング
・ヘアレス・メキシカン(無毛のメキシコ人)
・ドイツ諜報部とつながりを持つチャンドラ・ラルとフラメンコ踊り子ジュリア・ラツァーリ
・フラントリ・ケーパーと妻
・英国大使ハーバート卿
・ハーバータスとオーストリア軍事工場爆破計画
・アメリカ人民間人ハリントンとロシア革命

                   2020読書記録トップへ   内容一覧トップへ

(39) □ ブータン 「幸福の国」の不都合な真実 (根本かおる:河出書房新社) 2020.10.19
   2012年刊行   

ブータンを追われた難民を中心に置いて、歴史的背景、難民キャンプの
様子などを記した本。
11月にアムネスティ奈良グループ主催の講演会でブータン難民を扱うので
事前勉強用として読んだ。わかりやすく書かれていてとても参考になった。

なお、最近新聞で著者を見かけた。現在は国連広報センターの所長をされて
いるらしい。

(メモ)
・人口は75万人(外務省HP 2018年)
・ブータン難民はピーク時11万人。
・国境を接しているのは、
 インド(シッキム州、西ベンガル州、アッサム州、アルナーチャル・プラデーシュ州)
 中国(チベット自治区)


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(38) 〇 停電の夜に (ジュンパ・ヒラリ:新潮クレストブックス) 2020.10.17
   原作1999年 翻訳2000年   

著者はベンガル人。幼少時にアメリカに渡っている。
作中に出てくる人物はインド系の人物が多く、場所がアメリカでも
インド、東パキスタンが関係している。
読むときに背景を気にしすぎてしまう。意識しすぎると小説の良さが
消えてしまうように感じる。でも、それぞれの話を部分的に読み返すと
どれも訴えてくる力がある。

『停電の夜に』
 5日間毎日夜8時から1時間停電するとの通知が届く。テーブルに
 ろうそくを灯して語り合う30代の夫婦、ショーバとシュクマール
 5日間が終わって何が変わったか。

『ピルサダさんが食事に来たころ』
 1971年秋、ピルサダさんがボストンの家によくやってきた。東パキスタンの
 ダッカから来た人で、家族がダッカにいた。当時、東パキスタンは独立を
 求めて西と戦っていた。
 家の娘リリアの両親はインド出身。ピルサダさんはパキスタンの国費で
 アメリカに来た調査員。住居には炊事設備もTVもないので夕食と夜の
 TVニュースのためにリリアの家に来ていた。
 「ふだんから服装を崩さないのはたとえ急な葬式にでも飛んでいけると
  いうような、どんな悲報にも泰然と処する覚悟からなのだろうか」

『病気の通訳』
 外国人向けの通訳のできるツアーガイド カパーシー。場所はインド
 客は、アメリカ生まれの夫婦と子供3人。カパーシーが抱く夫人への妄想

『本物の門番』
 郵便受けの下を与えてもらって寝泊まりする階段掃除のブーリー・マー。
 アパートの管理人ダラル氏がなぜか流しを2つ買ってきて、余分の1つを
 階段の上り口に据えたことから住民に変化が起こってくる

『セクシー』
 ミランダと妻のいる男デヴ。同僚ラクシュミのいとこの息子ロビン(7歳)
 ラクシュミのいとこの夫は別の女のところに行っている。
ミランダに預けられたロビンの発した「セクシーだ」に驚いたミランダが
言葉の意味を問い詰める。

『セン夫人の家』
 11歳のエリオットは母の不在時に毎日セン夫人の家で見てもらっている。
 夫妻はインド出身。少し変わったセン夫人の行動と雰囲気。


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(37) 〇 国家の罠  (佐藤優:新潮文庫) 2020.10.5
   単行本2005年 文庫本2007年   

出版されたころから知っていた本だけど何故か手に取ることは
なかった。5年前に著者の「獄中記」を買ったけれど、全然読まずに
置いたままになっていた。少し前に「獄中記」を読み出したら、これが
意外にも面白い。しかも内容がすごい。でも何を食べたとかと一緒に
なっていて先にもっと背景を知る必要があると考えて、順番を変えて
「国家の罠」を読むことにした。

橋本総理、小渕総理、森総理まで、北方領土問題を二島先行返還に
よって前に進めようとしていたのに、小泉総理になって大きく方向が変わり
四島一括返還路線に戻して前に進まないことになったように書いてある。

小泉内閣の最初の外相になった田中真紀子は田中角栄・ブレジネフ会談を
持ち出し外務省に混乱を持ち出し、外務省は鈴木宗男に田中真紀子降ろしの
役割を依頼する。田中真紀子が外相から外されたあと、影響力が強くなった
鈴木宗男が邪魔になり、今度は鈴木を除外しようとする。
それと対露外交路線が絡み、外交の方向転換をするために国策捜査が
実施され、鈴木宗男、佐藤優が逮捕される。

佐藤優は何故か国策捜査に理解を示す。場合によっては検察と取り引き
する。
とても優秀な人であることは間違いない。でも非常に危険な人物だ。
彼を外すように画策する人がいたとしても全く不思議はない。

本書の「解説」を書いているのは、小説家の川上弘美。彼女は本書を
「いい本だな」と思ったと書いています。そして、次のようにも書いています。
『けれど、わたしは読みながら、
 「それはそうだろうな。でも、わたしは、ここに書いてあることは、全部
  うのみにしないでいよう。うのみにするかわりに、しっかり覚えておこう。
  そして、時々思い出そう。新聞を注意して読んでみよう。そうすると、
  いつか本当にわたしにもいろいろなことがわかるかもしれない」
 と思ったのでした。』
川上弘美さんも危険なものは感じたのかもしれない。

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(36) □ ジゴロとジゴレット・・モーム傑作集 (サマセット・モーム:新潮文庫) 2020.9.19
   文庫本2015年   

モームの短編集。
期待が大きかっただけにちょっと期待外れ。でも、ここに書くために
少し読み返すと良さがちょっとずつわかってきたようにも感じる。
最後の解説、角野栄子は贅沢。

『アンティーブの三人の太った女』△
  トランプのブリッジ好きでダイエット中の三人の女
  (ミセス・リッチマン、ミセス・サトクリフ、ミス・ヒクソン)
  そこに好きなものを好きなだけ食べるリサがやってくる
『征服されざる者』◎
  ドイツ占領下のフランス。
  キャパの丸刈りにされた女(ドイツ兵の子どもを生んだ女性が
  丸刈りにさせられ道を歩いている)の写真を思い出させる話
『キジバトのような声』△
  ピーター・メルローズ(作家)、ラ・ファルテローナ(プリマドンナ)
  「そんな彼女が興味をもってやまないテーマがひとつだけある。
   (中略)そのテーマは彼女自身だ」
『マウントドラーゴ卿』△
  オードリン(医師)、マウントドラーゴ卿(外務大臣)
  オーウェン・グリフィス(議員)
『良心の問題』〇
  ジャン・シャルヴァン、アンリ・ルナール、マリー・ルイーズ
  刑務所。妻を殺害した男の話。
  漱石の「こころ」のような話かと思ったら全然違った。
『サナトリウム』〇
  アシェンデン、マクラウド、キャンベル、テンプルトン少佐
  アイヴィ・ビショップ、レノックス先生、チェスター夫妻
  結核診療所。モームの作品にしては登場人物が多い。
  「ふたりの乗った車は愛と死にむかって旅立った。
  モームがこういう話を描くとはちょっと意外。でも悪くない。
『ジェイン』□
  ジェイン・ファウラー、ミセス・タワー、ギルバート
  最後の数行は考えさせるユーモア
『ジゴロとジゴレット』〇
  コットマン、ステラ、ペネツィ夫妻
  飛び込みのショーを演じるステラ。

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(35) □ コロナ後の世界 (ジャレド・ダイアモンド他:文春新書) 2020.9.11
   2020年8月出版   

6人の人物にインタビューした内容をまとめたもの。
同様の本はいくつも出版されているので、かなり安易な企画だけど
いくつか参考になる話はあり、中身はまずます。

(メモ)
[ジャレド・ダイアモンド]
  ・・・『銃・病原菌・鉄』の著者として有名だが読んでいない。
・(日本において)問題は高齢化ではなく、定年退職というシステム
 アメリカではパイロットなど一部を除き定年退職制度は違法
・他国は少子高齢化を日本ほど心配していない。
 それは移民を受け入れているから。
・移民には若さと野心がある。活気をもたらす。
 移民を受け入れれば保育を彼らに任せる選択肢が生まれる。
 アメリカでは移民の保育サービスを受けて女性が仕事に復帰する
 のはごく普通のこと。
・仕事を望む高齢者や移民、そして女性を労働市場に迎え入れれば
 少子高齢化が進んでも日本の経済力が大きく低下することはないはず

[リンダ・ブラットン]・・・人材論、組織論
・長寿社会とは、より長く働く社会
・これまでは、教育・仕事・引退という3ステージ
・これからはマルチステージ化。各ステージの順序やタイミングが様々
 一度退職してまた会社に戻る。働いている途中で学びのステージに
 立ち寄るなど。

[スコット・ギャロウェイ]・・・起業家
・GAFA(Google、Apple、Facebook、amazon)がますますパワフルに。
・例えば動画配信会社のストリーミング戦争が起きている。そこでも
 Netflixらの会社のほとんどがAppleやAmazonに手数料(アプリ)を
 支払っている。
・顧客が増えるほど事業価値が高まり顧客にとって便益が増すことを
 「ネットワーク効果」と呼ぶ。
 GAFAはネットワーク効果をてこにして強固な独占状態を作った。
 その結果、新しい企業が市場を開拓できる余地がなくなった。
 20年前アメリカでは企業1年以内のスタートアップ企業の割合は
 全体の15%あったが、現在は7%以下。
・GAFAがもたらした問題に「社会の分断」もある。
 FacebookとGoogleは広告収入を収入源にしている。読者がクリックして
 より多くの記事や投稿と「つながる」ことを求める。
 「つながり」を促す一番の要素は「怒り」。対立と激怒を煽る投稿こそ
 多くのクリックをもたらす。内容はおかまいなし。
・GAFAのライバルは中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)
 GAFAとBATがぶつかりあう場所はアフリカとインド。

[ポール・クルーグマン]・・・経済学者、ノーベル賞受賞
・インフレ率を上げろ。
 日本の金融政策は限界に来ているので、爆発的財政支出が必要。
 インフレ率が上がると個人消費が増える。
→インフレ率目標をずっと掲げてきているが、僕にはこの点がずっと
  理解できていない。2%インフレになったら僕は消費を増やすだろうか。
  普段の買い物には影響なさそうだし、車を買い替えるのにも影響しそうに
  ない。間違っていると思うのだが。

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(34) 〇 月と六ペンス (サマセット・モーム:新潮文庫) 2020.9.10
   原作1919年、文庫本新訳2014年   

モームの文庫本は実家に何冊かあったけれど、何故か堅苦しくて
面白くない作品と思い込んでいて読んだことがなかった。
書店で金原瑞人の新訳本を手に取ると、意外にも会話の部分が
結構あって読みやすそうな気がしたので、初めてモームを読むことにした。

この小説は、画家のストリックランドを中心に、愛すべきストルーヴェや
ストリックランド夫人、ストルーヴェ夫人、周辺の人物をいきいきと描いている。

「きみだって、もうわかっているだろう、僕には人間としてのプライドが
 欠けているんだ」なんて言う哀しいストルーヴェ。
「女は自分を傷つけた男なら許せる。だが、自分のために犠牲を払った
 男は決して許せない」、ストリックランドはこんなことをいう奴だ。
「だが、自業自得という言葉はまったくのでたらめだ」著者も素直ではない。

会話のやりとりがテンポよく、ストリックランドの嫌味、「わたし」の世評も
効いてとても中身の濃い作品に仕上がっている。

この作家を読まずに避けていたなんて。もったいなすぎる。

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(33) 〇 言論の不自由 (ジョシュア・ウォン:河出書房新社) 2020.9.4
   2020年8月出版   

副題は「香港、そしてグローバル民主主義にいま何が起こっているのか」

ジョシュア・ウォン(黄之鋒)氏は現在23歳。
香港で民主化運動を行っている。
本書は、彼が2017年までに行ってきた運動(第1幕)、2017年に
2か月余り投獄されていたときの日記(第2幕)、最近の状況と世界
への訴え(第3幕)から成っている。
15歳から運動を始め、リーダー的存在として海外への訴えも含めて
実行してきた。運動によって8回も逮捕されているらしい。

ジョシュア氏は国際的な支援を期待して世界中を旅して訴えかけて
きたが、中国政府による弾圧はあからさまに実行してくるようになって
おり、特に海外との繋がりを厳しく取り締まろうとしているように見える。
とても厳しい状況だ。

彼は次のように書いている。
「今や、たとえ好もうが好むまいが、ぼくらの闘いはあなたたちの闘いに
 なった。まさにそれこそ、悪化し続ける香港の状況を、自由世界が座視
 してはならない理由である。香港が陥落すれば、世界の防御最前線も
 陥落する」

日本はアメリカとの関係を第一にする政策を取り続けている。しかし、
近い将来に中国が世界一の経済大国になり、軍事力もさらに強化した
場合、アメリカではなく中国との関係を最優先に変更する時代が来るかも
しれない。その時、中国の体制・姿勢が今と同じなら大変なことだ。
ジョシュア氏の言葉通り、わたしたちの闘いになる。

(メモ)
・香港行政長官 董建華 1997-2005
           曽蔭権 2005-2012
           梁振英 2012-2017
           林鄭月娥 2017-
・香港立法会 定員70名
  地区別選挙区35名・・・香港住民が直接投票
  職能別選挙区35名・・・実業界と知的職業層が選出する30名
                 +区議会議員から間接選挙で選ぶ5名
2007 全人代常務委員会 2017年までに行政長官、2020年までに立法会
     全議員を自由に選ぶ権利を香港市民に与えると約束

・2010.10 曽蔭権 「徳育および国民教育」と名付けた愛国教育必修科目
     導入を発表
     (民主派の立法会議員、教員組合 反対の声小さい)
2011.5(15歳)「学民思潮」(スコラリズム)立ち上げ。 反国民教育活動
・2012.7 指導の手引きが学校に配布。反国民教育活動が激しさ増す。
・2012.7.29 大規模デモ(10万人近く参加)
・2012.8.30 デモとハンスト
・2012.9.4 梁振英カリキュラム導入の無期延期を発表
・2013末 香港政府、2017年実施の行政長官選の広聴活動の告知
・2014春 戴副教授らが、政府が市民の声に耳を傾けないなら市民的不服従
       運動を起こすと表明(10/1金融街で大規模な座り込みデモ提案)
2014.8.31 全人代、2017年行政長官選挙での候補者の条件通知
       (実質的にほとんど変わらない)

・2014.9 デモ
・2014.9.26 公民広場への侵入。逮捕。勾留46時間
・2014.9.28 催涙ガスによる弾圧。大人たちも行動
        79日間にわたる
「雨傘革命」
・2014.11.26 逮捕。
・2016.4 「香港衆志」(デモシスト)立ち上げ
     立法会選挙にネイサン・ロー氏立候補
・2016.9 ネイサン・ロー氏立法会選挙 当選
・2016.11 「宣誓ゲート事件」でネイサン・ロー氏の議席剥奪
・2017.8 2014年広場侵入で起訴され禁錮刑(10月まで68日間投獄)
・2018.1 立法会補欠選挙において、アグネス・チョウの立候補が禁止される
・2019.4 雨傘革命に関与した戴副教授らに禁錮刑
・2019.6 
逃亡犯条例改正案(犯罪の容疑者を中国に引き渡して中国本土で
       裁けるようにする政府案)
       街頭デモ、抗議活動が過激化。火炎瓶なども
・2019.9 逃亡犯条例改正案撤回
2020.6.30 全人代で香港特別区国家安全維持法可決。香港政府即日施行。
       同日、ジョシュア、アグネス・チョウら、香港衆志を脱退。
       香港衆志解散


・香港人の記憶は長続きしない。(2007年の約束を忘れている)
・香港人にはふたつのタイプがあると言われる。
 政治に無関心な人たちと、無関心ではないが何もしようとしない人たち

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(32) □ フランケンシュタイン (メアリー・シェリー:新潮文庫) 2020.8.27
   原作1816年、文庫本2015年   

フランケンシュタインは怪人を生み出した人物の名前。
生み出された怪人には名前すらない。そのことが悲劇を
象徴している。

                   2020読書記録トップへ   内容一覧トップへ 

(31) 〇 近代日本150年 (山本義隆:岩波新書) 2020.8.20
   2018年1月出版   

2015年出版の「私の1960年代」で、かなりのページを割いていた
近代日本の科学技術批判に絞って1冊の本にしたのが本書だ。
ペリー来航以来の欧米科学技術の導入から、明治期の移植と自律的な
発展、昭和の戦争に至るまでの軍事強化と科学者の戦争協力、さらに
戦争協力への責任が問われることなく反省ないまま戦後に生き残った
科学者たちへの批判。そして国家協力体制のまま原子力開発を続け
批判精神無きまま原発事故を引き起こしたことへの批判が書かれている。
特に戦争協力に無自覚だった物理学者への批判が厳しい。これは
今まであまり言われてこなかったことかもしれない。

(メモ)
[第1章 欧米との出会い]
・近代日本における欧米科学技術の習得は軍事技術の側面から開始された。
 造船技術、航海術、大砲鋳造(江戸末期)
・ペリーが2度目の来航時に幕府への献上品としたのは、蒸気機関車の
 模型と有線通信装置一式。
 西欧近代の変化の核心であるエネルギー革命を象徴
・明治新政府の中心を担った長州と薩摩の藩士は日本で唯一欧米の軍隊と
 直接戦った経験を有していた。危機感がより切迫していた。
・1871年からの岩倉使節団
 科学が技術に直結し、産業の発展と軍事力の強化にとって不可欠の
 要素になっていること、国家が科学技術の振興と革新を積極的に支援している
 ことを見た
・福沢諭吉は、物理学に代表される西洋科学はそれまでの日本や中国の
 自然観に対して圧倒的に優れているとみなした。
・物理学、当時の言葉では窮理学
・徳川幕府体制が崩壊して先行不安な維新直後に、民衆は西欧近代
 科学思想の洗礼を受け、今までなじみの薄かった自然の見方を上っ面であれ
 知った。
・明治新政府の推進する「殖産興業」「富国強兵」に民衆を導く地ならしを
 することになった。・・・窮理の書が多数出る。落語の書にも出てくる
・「科学技術」という言葉
 もともと技術は科学理論に基づいて形成されてきたわけではなく
 科学も技術的応用を目的に研究されてきたわけではない。
 「科学技術」なるものが形成されたのは、せいぜいが18世紀末以降で
 それまでは科学と技術は本質的に異なる営みであった。
・明治期の日本では、化学は技術のための補助学として学ばれたのであり
 今日にいたるまでの日本の科学教育は世界観・自然観の涵養によりも
 実用性に大きな比重を置いて遂行されることとなった。
・19世紀の科学技術は人間が自然より優位にあるという立場の
 近代科学に基づいている。
 技術が科学技術となることによって技術観そのものが変わってしまった。

[第2章 資本主義への歩み]
・兵部省(M2)設置・・・後の陸軍省・海軍省。 工部省(M3)設置
 工学寮(M4)→工部大学校。 東大理学部の一部の工科系学科
 この二つが併合され(M18)帝国大学に
・電信網と鉄道路線の敷設が国民の統合と国内市場の統一を推進
・明治前期の工業化は、欧米科学技術のそのままの移植
帝国大学の理念・・国家第一主義と実用主義
 初代文部大臣森有礼「学術の為と国家の為とに関することあれば、
 国家のことを最先にし最重んぜざるべからず」
・明治中期(M19〜33)、移植だけでなく、自分のものを生み出す
 ようになってきた。
・外貨獲得という点で、製糸の貢献度は高かった(原料の繭は100%国産)
 富岡製糸場(M5)
 機械化された製糸業や紡績業において機械を操作する主力は
 若年女子労働者(女工)だった。
 M36農商務省「職工事情」には、労働時間が諏訪地方で平均15時間、
 好況時18時間との記述あり。
・足尾銅山鉱毒事件。銅は生糸と並ぶ主要輸出品(明治初期)

[第3章 帝国主義と科学]
・早くも明治9年に朝鮮に対して砲艦外交で不平等条約(日朝修好条約)押し付け
・明治中期に列強主義ナショナリズムが生まれ、M27,28日清戦争を経て
 1890年代に始まる本格的な世界分割競争に最後のメンバーとして加わった。
・電信の重要性を強く印象付けたのは西南戦争(M10)。
・気象学はクリミヤ戦役(1853〜56)に際して仏艦が荒天のために沈没
 したのが動機。近代気象観測は発端から軍事に関わっていた。
・M17 東大に造船学科
 M20 帝国大学工科大学に造兵学科と火薬学科
 T7 東大附属航空研究所、航空学科、(理学部)航空物理学講座
・先端的技術の多くが真っ先に評価されたのが、少なくとも明治期は軍事面。
・実用主義の協力対象も軍。国家第一主義と親和。
 帝国大学の研究者は平時から軍に協力。学と軍の協働が進められた。

[第4章 総力戦体制に向けて]
・第一次大戦は最初の科学戦と言われている。一流の科学者が
 こぞって毒ガス研究に従事。
 
戦争直前まで西欧諸国の自然科学者のあいだでは国際協力が普通に
 行われていた。しかし、開戦と同時に、少数の例外を除いて彼らは一斉に
 「愛国者」となってそれぞれの国で戦争に率先して協力した。

・日本では各種研究機関が次々に作られた。
 国立では、T7 海軍技術本部、海軍航空研究所、臨時窒素研究所
 T8 陸軍技術本部、陸軍科学研究所、T11 東北大金属材料研究所
 S2 京大化学研究所
 半官半民で T6 理研
 背後に日本経済の発展がある。西欧諸国が第一次大戦で後退
 大戦前には債務国だったが、大戦後は債権国になった。
・自動車産業も航空機産業も日本ではともに兵器産業として育成された。
・植民地では軍が圧倒的な力を持ち、企業は事実上独占企業なので
 軍による現地支配の目的に合致する形で事業を展開し拡大した。
 植民地での水力発電所:氷点下35度にもなる極寒山岳地帯に朝鮮人
 や中国人を働かせて建設。電力はコンビナートや日本人住宅だけ。
・第一次大戦の教訓として浮上した総力戦体制が昭和になって強まる。
 総力戦体制・平時の産業生産能力や研究開発能力は潜在的軍事力
 1937.9 「軍需産業動員法」適用・・日中戦争開始直後
 1937.10 企画院設立・・・陸軍要請で資源局と企画庁が統合
 1938.4 国家総動員法(企画院提起)
 同年 国家電力管理法・・電力会社は抵抗
  電力の国家管理。現在まで残る総括原価方式の原型生まれる
・革新官僚は官僚による合理的で計画的な指導で産業を発展させるべきと
 考えていた。それは軍の追求する総動員体制と親和していた。

[第5章 戦時下の科学技術]
・学者も大国意識と成長への強迫観念に囚われていた。
学者は科学技術研究を産業の要請に従わせることに対して拘りを
 示すことはなかった。

 もともと国家第一主義と実用主義を理念としていた。
国家の要請に
 従うことに抵抗はなく、国家要請に軍の意向が強く込められている限り
 それは軍の要請に無批判に従うことを意味している。

・科学動員・科学振興が叫ばれていたこの時代は、同時に学問の自由が
 侵され反文化主義・反知性主義が横行。神話的歴史観。
 →反知性主義、反文化主義への抵抗はあった。
 →しかし、ファシズムとも科学動員・科学統制と対決できなかった。
・軍人も神話的歴史観や空疎な精神主義で近代戦を戦えると信じていた
 わけではない。
 戦争への非協力の声が押しつぶされた後には、反知性主義は背後に
 退けられ冷徹な科学と技術の合理性が前面に登場する。
・陸軍内部では2・26事件の敗北によって国体論や日本精神を声高に
 唱えていた皇道派勢力が一掃された後、実務的な統制派が実権と握った。
軍が本気になって科学振興と科学動員に乗り出した時点で、合理主義と
 科学的精神を対置しただけのそれまでの多くの批判はその無力を露呈した。

・ニューディール型であれ、ファシズム型であれ、総力戦にむけての
 体制作りは社会に残存する前近代性をそぎ落とし近代化を図る衝動を
 秘めていた。
研究の一元化と統制によって研究の組織化・能率化を進める「科学技術
 新体制」には反発がなかった。

 長岡半太郎 賛意を表明(1941)。仁科芳雄受け入れ(1942)
・新体制を好意的に受け取ったのは学界のボスや長老に限られない。
 研究体制の合理化・能率化はやる気のある現役や若手研究者が強く
 求めていたものだった。
 →自分たちに実力を発揮する機会と研究資金を与えてくれた戦時下の
  科学動員を受け入れていた。
  大多数の研究者は世の中のことに無関心だった。
 *戦後1951年日本学術会議のアンケートで、「過去数十年間で
  学問の自由がもっとも実現していたのはいつか」との問いに
  「戦争中」との回答が最も多かった。
・戦争という一見非合理な事象が逆説的にも、合理化や効率化、近代化を
 推進する場合もある。
 1941年 食糧管理制度・・・小作農家生活向上
 1938年 国民健康保険改革

[第6章 そして戦後社会]
・総力戦体制による社会の構造的変動とその戦後への継承を見る
 世界観
・官僚機構は内務省解体だけで、通産省には実質的に手をつけていない。
科学者の戦争総括・・・科学者から反省は語られず。誰からも非難されず
 無傷で戦後に生き残った。

・科学戦で敗北したという総括は、戦争指導の責任、敗戦受け入れの
 先送り責任をうやむやにし、民衆に敗戦を受け入れさせるための
 願ってもない口実を戦争指導者に与えた。
「科学戦に負けた」ということによって、中国に対する敗北に目を閉ざした
 日本は、同時にアジア侵略の政治的、道義的責任に目をつむった。

・1950年代、日本本土が復興に専念できた背景に、米軍政下の沖縄と
 米軍の軍事力を背景にした軍事政権が存在していた南朝鮮がある。
・1948年朝鮮民主主義人民共和国、1949年中華人民共和国成立を前に
 占領軍は日本の民主化から日本を極東の軍事工場、兵器廠にするという
 方針に変更
 1950年朝鮮戦争が始まると日本は米軍の兵站基地の役割を果たした。
・朝鮮戦争の特需が日本の速やかな回復の最大要因。
・高度成長と公害。大学研究者の責任
 企業サイドにたって公害や労災や薬害の隠蔽や責任回避に手を貸した
 教授は少なくない。工学部や薬学部では特定企業に卒業生を多数送り
 込める力を有していることや政府の審議会などの委員をしていることで
 彼らの権威が保たれてきた。
・成長幻想の終焉

[第7章 原子力開発をめぐって]
・敗戦後、科学者が科学による日本の再建を語り、科学技術幻想をふりまいた。
 その幻想は原子力開発の場面で肥大化した。
・原爆投下直後の広島での現地調査をふまえ、原爆が原子爆弾であることを
 日本で最初に確認したのが物理学者の仁科芳雄だった。
 仁科が原爆投下を知って直後に語ったことは、物理学がかくも破壊的な兵器を
 生み出したことに対する畏怖の念ではなく、自分たちがなしえなかったことの
 無念であり、日本国家に対する申し訳なさであった。
 仁科、そして当時の物理学者は原爆製造そのものを否定的に見ていない。
・1952年日本学術会議副会長の茅誠司東大教授は、物理学者の伏見康治と
 共同で総会に原子力研究を国家事業として進めるよう政府に申し入れるという
 趣旨の提案を行った。若手研究者からの強い反対で見送り。
・1954年3月 米国ビキニ環礁で水爆実験。第5福竜丸被爆の直後、
 中曽根康弘を中心とする国会議員グループが原子力予算を含む補正予算
 修正案を提案し成立させた。
 学術会議の努力は完全に無視された。
 物理学者は自分たちが指導的役割を果たすはずで何の相談もなく原子力
 開発に乗り出すことはありえないと思い込んでいた。しかし、電力会社や中央
 官庁が原子力開発に走り出した時点で、研究の担い手は物理学者から
 工学畑の研究者や技術者に移行していた。
 結局、物理学者は「原子力平和利用」の幻想をかきたてて官産主導の
 原子力開発の露払いを務めただけだった。
岸が唱えた、その気になればいつでも核武装できる状態に日本をしておくと
 いう「潜在的核武装」路線は、「すべての産業能力は潜在的軍事力である」
 というかつての総力戦思想を踏襲したもの
であり、これこそが、技術的にも
 きわめて困難で超多額の経費を要する核燃料の再処理と増殖炉建設に日本が
 固執してきた裏の理由であり、政治の世界において原子力開発が推進されて
 きた背景でもある。
・2011年の福島の事故後、ドイツとイタリアは脱原発を宣言した。このことは、
 ドイツとイタリアは将来にわたって核武装をすることはない、という国際的
 メッセージを意味している。


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(30) □ ブルックリン・フォリーズ (ポール・オースター:新潮文庫) 2020.8.8
   原作2005年、翻訳単行本2012年、文庫本2020年   

59歳の男性ネイサンが主人公。がんを患い、失職し、妻イーディスと
離婚。ブルックリンに移り、残りの人生をどう過ごそうかと考えている。
そんな時に、甥のトムや娘レイチェル、姪のオーロラ、その娘ルーシー、
トムの勤め先のハリーらと交わる中で、いろんな出来事に自ら深く
関わっていく。

予想しにくい展開で退屈するわけではない。ただ、登場人物を自分自身の
ように感じることもない。やはり物足りない。
 
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(29) 〇 やさしいC 第2版 (高橋麻奈:ソフトバンククリエイティブ) 2020.8.2
   2003年発行   

10年以上前に会社でC言語のテストをするということになり
その時の参考図書として買ったような気がする。
ほぼ全体に目を通したはずだが、当然ながら使わないと
忘れてしまう。
仕事で少し使いだしたので今回最初から目を通した。
とてもわかりやすく、細かいところは表の記載で留めるなど
メリハリもついている。
短時間で目を通せるし、かなり良い。

今は第5版が出ているらしい。
 
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(28) □ 幸福な監視社会・中国 (梶谷懐、高口康太:NHK出版新書) 2020.8.1
   2019年発行   

情報を提供する代わりに利便性を得ることへの抵抗が弱まっている。
その先端を走っているのが中国ネット社会だとして現況を紹介している。

8月10日に香港民主派10人が逮捕され、翌日に保釈されたものの
今後の見通しは決して明るくない。
そんな状況を見た段階で本書を見直すと、中国の人たちが本当に
肯定的に受け入れているのか疑問がある。その点についての記載は
あまりない。
本書は中国の状況を書いた本として読むより、日本にいる私たちが
「安全で快適な社会」のために情報を提供し管理されることを望むのか
という観点で読むべき本なのだろう。

特に新型コロナウイルスの対策として、国や自治体に休業要請だけでなく
強制力を持たせるべきとの声も強まる中、新型コロナウイルス接触アプリが
厚生労働省から提供されたりもしている。まだアプリはそれほど広まって
いないようだが、感染がさらに広がった時に国民の側からアプリに参加すべき
との声が出てくるかもしれない。
監視カメラや接触アプリによって人の移動履歴が残るようになると、
人の行動は「お行儀がよくなる」可能性が高い。安全度も高まるかもしれない。
どういう社会にしたいのか、よく考えておかないといけない。
 
(メモ)
[はじめに]
・中国のサイバーセキュリティ法第28条「ネットワーク運営者は、公安機関、
 国家安全機関による、法に依拠した国家安全と犯罪捜査活動に技術的支援と
 協力を行わなければならない」
 
独立運動や民主化運動に関する情報を政府機関に提出する義務

[第1章 中国はユートピアか、ディストピアか]
・中国の監視社会に関する報道には先入観に基づくものが多い。
・ノア・ハラリは「ホモ・デウス」の中で、テクノロジーが加速度的に変化した
 
20世紀後期の状況では個々の企業レベルで経済・産業に関する情報を
 処理し、お互いに競争し合うような
分散処理型のシステムがうまく機能した
 ため、民主主義を掲げていた自由主義陣営冷戦におけるテクノロジー戦争に
 勝利した、と述べている。しかし、そのことの裏返しとして21世紀に再び
 
テクノロジーの性質が変化し、データ量と処理速度の重要さが増すことに
 よって
今度は独裁制が優位になる可能性があることを示唆している。

・現代中国におけるテクノロジーの進歩の要因を情報の「集中処理」に
 帰するのはミスリーディング。デジタル時代の新たなテクノロジーを開発し
 それらを先んじて社会実装するのは
圧倒的に民間企業(アリババ、テンセント)
・中国で「自国が正しい方向に向かっている」回答が94%

[第2章 中国IT企業はいかにデータを支配したか]
・中国の高速鉄道運行開始は2008年。すでに10年で営業距離2万9千キロ
 日本の新幹線の10倍になる。
・借り物の技術でも量を作っているうちに実力も伸びる。
・EC(ネットショッピング) 中国の現在9394億ドル、世界の40%(2017年)
 最大手はアリババグループ。
 2000年代前半にアマゾン等中国参入。アリババ淘宝(タオパオ)が勝ち抜く。
 
勝ち抜いた要因は「ヒト軸のEC」
 「モノ軸のEC」・・何を買うかが重要。誰から買うかは意識しない
 「ヒト軸のEC」・・
誰から買うかが重要。ショップの信用評価の仕組み
・モバイル決済 
 アリペイ(アリババグループ)とウィーチャットペイ(テンセント)で92%を占める
 ウィーチャットはスマホ用のメッセージアプリ。それに決済機能が付く
 コミュニケーション情報を含む膨大な個人情報がある
・ギグエコノミー(短期間労働サービス)
 中国では非熟練労働者の超短期労働にフォーカス
 積極的に評価する声が強い。
 例:ライドシェア(配車サービス:タクシー、配達)
    利用後に顧客が運転者を評価→ドライバの質向上
    ドライバー側も労働の自由度が高い。また配達員の給与が高い
・なぜ、喜んでデータを差し出すか?
  アリババグループの信用スコア「芝麻信用」
  ユーザの金融能力を点数で評価。
  ユーザが提供する情報が多いほど点数UP
  保有住宅、車の証明書を提供すれば点数UP
  →データを差し出せば便利なサービス+融資額UP
  借りたものをちゃんと返した記録も信用点数UPにつながる
  ・・・
情報を提供する代わりに利便性を得る。
  ・・・
監視社会と紙一重

[第3章 中国に出現した「お行儀のいい社会」]
・中国の交通違反の多くはカメラによる取り締まり
 最近は殺人減少
本来「市民的公共性」の脅威となるはずの「監視社会」が、「より安全で
 快適な社会に住みたい」という市民自らの欲望によって生まれてきた
 (東浩紀)

・中国では、監視カメラの存在がわかるようになっている。
 大多数の人は監視されていることを意識していないのに
自然と
 不適切な行動を取らないように誘導
される。

[第4章 民主化の熱はなぜ消えたのか]
・ネット検閲。何が対象かが不可解。その不可解さこそが本質。
・中国のネット検閲は回避できるが手間がかかる。面倒だと思う人は
 海外サービスから遠のく、という構造
・ただし、突発事件が起きたときは徹底的なネット検閲が行われる。
・独裁国家が民意を無視できるわけではない。
・習近平のネット世論のコントロール
 @反腐敗キャンペーン
 A強圧的封じ込め・・・ブロガー逮捕など
 B監視員、世論誘導員の増員
新しい形の言論統制・・・不可視化
 (旧来はアカウントや投稿の制限が実施され、統制が目に見えた)
 現在は投稿者本人には変わりがないが、閲覧者には表示されないなど
 不可視化が進んだ。

[第5章 現在中国における「公」と「私」]
・(反腐敗キャンペーン)これらのキャンペーンや政策が広く人々の支持を
 得ているのは、限度を超えた「私利私欲」の追求が横行する現代社会に
 おいて、何らかの「公共性」を実現するには党の権力に頼らざるをえないと
 多くの人々が考えているから
・「ルールとしての法」・・・西洋起源の法
 「公論としての法」・・・個別案件において公平な裁きを実現していく
              →教養を積み人格的にも優れた人々による裁き
              ・・・共産党政権
・中国では官民一体となった統治が機能していない
・中国における民主主義
 @政治的権利の平等と権力の分散化(欧米思想に起源)
 A経済的平等化とパターナリスティックな独裁権力による実現

[第6章 幸福な監視国家のゆくえ]
功利主義の考え方を推し進めていくと、究極的には監視社会を
 肯定せざるを得ないところに行きつく
のではないか。
・功利主義のコア
 @帰結主義・・・結果
 A幸福主義・・・道徳的な善悪は個人が感じる主観的幸福のみに
           よって決まる
 B集計主義・・・社会状態の良し悪し、行為の正しさは個人が感じる
           幸福の総量で決まる
 これらは、統治者が何をすべきか(どうあるべきか)と無関係
・「道徳的合理性」と「メタ合理性」
・近年における目覚しいテクノロジーの進歩という現実を前に、近代以降
 自明とされてきた「ルールとしての法」と「公論としての法」の対比における
 前者の優位が西側諸国においても揺らぎ始めているように思える。
中国ではテクノロジーを社会の中で現実に機能させていくスピードが
 非常に早い。
それは法制度によって市民が自ら新しいテクノロジーの
 暴走に歯止めをかける仕組みが機能していないことの裏返し


[第7章 道具的合理性が暴走するとき]
・新疆ウイグル自治区の「再教育キャンプ」と呼ばれる収容施設
 民族の独自の文化やアイデンティティを体現し影響力のある人を敵視し収容
 低賃金での単純労働
 監視テクノロジーを駆使した統治の「実験場」
・生体情報収集を通じた個人のプロファイリングにより、一定の属性を持つ
 人々を特定の傾向を持つ集団として抽出
・「治安体制の強化」という目的が、それ自体疑うことのできない前提として
 与えられている。

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(27) ◎ ハイファに戻って/太陽の男たち (ガッサーン・カナファーニー:河出文庫) 2020.7.22
   1978年単行本、2017年文庫本   

ガッサーン・カナファーニーは1936年にパレスチナに生まれ、1948年
イスラエル建国の後にパレスチナの地を追われ、ダマスカス、クウェイト、
ベイルートなどに移り住んだ。1972年に車に仕掛けられたダイナマイトに
よって爆殺されたジャーナリストであり作家である。
収録作品は場所や状況は異なるけれど全てパレスチナの人々が見舞われ
現在も続いている不条理と精神的物質的な過酷な状況を映し出し、
無関心でいる私たちに訴えかけてくる。
作品を描いてから50年以上が経過している。この状況を放置したところに
正義はない。

『太陽の男たち』(1963年)
 イラクのバスラからクウェートへの密入国を実行する3人のパレスチナ
 難民の男たち。
 岡真理さんは著書「ガザに地下鉄が走る日」の中で本作品を読み込んだ
 後で次のように書いている。
  「難民という国民でも市民でもない、ただ人間でしかない者たち」
  「人間がこの世に誕生するということと、人が国民になるということは
   まったく次元の違うことがらでありながら、「生まれ」と「国民になる」と
   いうことのあいだにいささかの隔たりもありえない、そのような暗黙の
   虚構の上に成り立つ「この世界」において、
   国民でも市民でもなく「ただ人間でしかない者」とは、人間であって
   人間であらざる者たち(ノーマン)だ。」

『悲しいオレンジの実る土地』(1963年)
 イスラエル軍の攻撃から逃れる一家。父の絶望感。
 1948年イスラエル建国の1カ月前に見せしめのために実行された
 デイルヤーシン村虐殺事件を背景にしている。

『路傍の菓子パン』(1959年)
 カナファーニーは1955年ダマスカスで難民救済機関の学校の教員に
 なった。その経験から生まれた作品。
 児童の言葉の真実は何なのか。

『盗まれたシャツ』(1958年)
 難民キャンプの配給をめぐる不正。
 最後の場面に個人だけでなくパレスチナ難民の多くの思いの蓄積を
 感じた。

『彼岸へ』(1962年)
 男が話す言葉の意味はよくわからなかったけれど
 最後の「これで生きているっていえるのか?」という言葉の後では
 わかるような気がする。

『戦闘の時』(1968年)
 パレスチナの人々の2世にあたる子どもたち

『ハイファに戻って』(1969年)
 1948年に赤ん坊を残してハイファから逃れざるをえなかった夫婦が
 20年後に住んでいた自分たちの家を訪れる。
 なぜ20年後に訪れることができるようになったのかがわからなかったが
 岡さんの「記憶/物語」によると、夫婦が難民として住んでいたヨルダン川
 西岸がイスラエルに占領されてハイファと同様にイスラエル領となったことで
 皮肉にも元の自分の家を訪れることができるようになったということだ。
 夫婦はそこに住んでいたユダヤ人に家に入れてもらい話をするが、
 自分たちの息子がユダヤ人として育てられていることを知る。
 帰宅してきた息子と再会することになったのだが。
 
 こんな状況自体があってはならないことだ。
 夫が言う
 「祖国というのはね、このようなすべてのことが起こってはいけない
  ところのことなのだよ」
 
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(26) 〇 独ソ戦 (大木毅:岩波新書) 2020.7.15
   2019年発行   

最も過酷な戦闘になった独ソ戦の戦史。

1941年6月にドイツが攻め入ってから、一気に攻め進んでいくが
進みながらも攻撃能力が失われていく。
同年12月にはモスクワの手前から進めなくなり、ソ連の反攻を
受け始める。
翌1942年6月にスターリングラードを攻めるが攻めきれず
11月には逆に包囲され、1943年1月にスターリングラードの
ドイツ軍は投降する。
それ以降はソ連が攻勢となり、ドイツ軍は敗北を重ねた。

死者の数がけた違いになっている。ドイツ、ソ連とも徹底抗戦を命じ
抵抗が激しかった。捕虜となっても処刑や強制労働で死に至ることが
多かったことも、抵抗を強め、戦争の激しさを増す要因にもなったようだ。


ドイツがもしソ連を攻めることなく、独ソ不可侵条約を続けていたら
歴史はどうなっていたのだろうか。ヒトラーとスターリンでヨーロッパを
支配することになっていても不思議ではない。
その時、日本はどうなったのか。あまりにも大きく変わりすぎて
想像すらできない。


(メモ)
・ソ連の死者 戦闘員 866万人〜1140万人
         民間人(軍事行動・ジェノサイド) 450万人〜1000万人
         民間人(疫病・飢餓) 800万人〜900万人
   現在は計2700万人とされている
・独の死者  戦闘員 444万人〜531万人
         民間人 150万人〜300万人
・ヒトラー 「世界観戦争」
      共産主義者みな殺しの戦争、絶滅戦争
・ソ連(スターリン) 「大祖国戦争」
      コミュニズムとナショナリズムの融合
[開戦前]
・1939年8月23日 独ソ不可侵条約
      9月1日 ドイツ ポーランド侵攻
      9月3日 英仏 ドイツに宣戦布告
・1940年6月3日 独仏休戦協定。
 (ノルウェー、デンマーク、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグは既にドイツ占領)
  イギリスは大陸を追われ、孤立。
  一方、ドイツはイギリスを講和も制定もできず手詰まり(海軍が弱かった)
・1941年5月 スターリンのもとに独ソ戦迫るとの情報が多数届いたが
         信用しなかった。
         イギリスが独ソ戦に誘導しているのではとの猜疑心
         独ソ不可侵条約以降の関係が双方に利益 (ポーランド分割)
         ソ連軍が1937年以降の大粛清により弱体化
・1941年6月22日 ドイツ、ソ連侵略開始。
     7月16日 スモレンスク占領
     9月19日 キエフ占領
     10月2日 モスクワ攻略を目指す「台風」作戦
     (10月6日〜7日 最初の雪。この年、厳冬到来)
     12月5日 台風作戦の第2装甲軍と第3装甲軍が攻撃中止
     12月6日 モスクワ前面でソ連反攻開始 (モスクワ気温零下25〜30度)
・1942年6月  「青号」作戦。コーカサスの石油狙い
     8月23日 ドイツ スターリングラードを大規模空襲
     9月末  スターリングラード市街地の80%占領
    11月19日 ソ連「天王星」作戦開始
           スターリングラードのドイツ軍包囲される
・1943年 1月31日 スターリングラードのドイツ第6軍 投降
     (包囲された枢軸軍 20万〜38万、ドイツ軍捕虜9万のうち戦後帰国は6千)

  
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(25) □ デトロイト美術館の奇跡 (原田マハ:新潮文庫) 2020.7.7
   2016年単行本、2020年文庫本   

デトロイト市が財政破綻を宣言し、市立のデトロイト美術館の
コレクションを売却する話が持ち上がる。
美術館のセザンヌが描いた妻の肖像画に思い入れのある人の
寄付をきっかけに人々の思いが繋がり状況を変えていくという話。

実話を基にした小説だそうだ。

どういう風にして大きな動きになったかは書かれていない。
あくまできっかけになった場面だけだ。

それもかなりシンプルに書いている。たぶんそれが好いところなのだろう。
でも、やっぱり物足りない。
  
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(24) □ 地磁気逆転と「チバニアン」 (菅沼悠介:講談社ブルーバックス) 2020.7.3
   2020年刊行   

地球のN極S極が反転することは大学に入って最初の頃に
読んだ大陸移動説の本で初めて知った。
地磁気逆転が事実だとしても、どういう風に起きるのかが
全くイメージできず疑問に感じつつそのままになっていた。
本書を書店で見て、その疑問を思い出し、期待を持って読んだ。

地磁気逆転の発見の歴史や関連する事実の紹介はとても
面白く理解が進んだ。
ただ、なぜ地磁気が逆転するのかについては、まだわかっていない
ことが多いようで、根本のところは書かれていないように感じた。

地磁気逆転に関連した画期的な発見の中には当初相手にされずに
何十年か後に評価されるようになったものが多くあることが
本書の随所に紹介されている。
ひょっとしたら、他の分野でも眠っている画期的な論文や発見が
あるのかもしれない。

(メモ)
・南極内陸部では方位磁石は真北から西に30度以上ずれた方向を指す。
 
日本でも4〜10度西にずれた方角を指す
・1830年代、ガウスが地磁気強度を正確に測定する装置を開発
 以降の測定で、
地磁気強度は徐々に弱くなり続けている
・地震波から地球内部の様子がわかってきた。
 1906年 オールダム 
  P波S波の分離から地球半径ほどの中心核とマントルの構造を考案
 20年後 グーテンベルグ
  P波S波も観測されないゾーン(シャドーゾーン)から、地球内部に
  地震波が遅い物質があり、境界での屈折でシャドーゾーンが出現とした。
 1936年 レーマン
  シャドーゾーンにわずかにP波が伝搬。中心核の内部に地震速度の
  速い内核の存在を見出した。→現在考えられている構造とほぼ一致
・地球ダイナモ 外核の対流速度は年間20km程度
・1929年 松山基範
  溶岩の残留磁化に逆向きのものがあることを発見。地磁気逆転の
  可能性を指摘。ありえないと評価されず。
  
寺田寅彦が興味を示し、推薦により論文を発表
・1906年 ブルン
  溶岩とその下の粘土層に逆帯磁しているものを発見。
  地磁気逆転を発表。これも受け入れられず。
・1912年 ウェゲナー 大陸移動説
・1951年 ランコーンのグループ
  7億年前まで遡る古い砂の残留磁化を測定
  →北極位置が変化しているデータ(極移動曲線)
    極移動ではなく、大陸移動の結果と推測
  →イギリスとアメリカの極移動曲線が似ている。
    一致させると、北アメリカとアフリカ西海岸が近接
  →大陸移動説の復活。同時に地磁気逆転の正しさも評価
・1963年 海洋底拡大とテープレコーダーモデル
  地磁気逆転が海洋底の水平方向に記録される
・放射年代測定が年代精度を向上させる
いちばん最新の地磁気逆転は77万年前。「松山・ブルン境界」と表記
・地磁気極が北から45度以上離れることを「地磁気エクスカーション」と呼び
 最新の地磁気逆転以降、23回起こっている。
 地磁気低下の時期に起る傾向がある。
宇宙線に対して地磁気はバリアの役割を果たす
・ベリリウム10は銀河宇宙線の入射によって大気中で酸素や窒素の
 原子核が破壊されることで生成。半減期は140万年。
地磁気強度弱まる→バリア弱まる→宇宙線強まる→ベリリウム10増加
・南極の氷床(深さ方向)のベリリウム濃度が海底堆積物の古地磁気強度と
 近いカーブを描く。
・ミランコビッチ理論(1920年代)
  地球軌道の離心率(10万年周期)、自転軸の傾き(4万年周期)、
  歳差運動(2万年周期)の変化により、日射量の地理分布が周期的に
  変動し、地球の気候も周期的に変動する
 ・ミランコビッチ理論での周期的な気候変動(氷期・間氷期サイクル)が
  海底堆積物の気候変動記録と一致
  
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(23) □ 「ファインマン物理学」を読む 力学と熱力学を中心として (竹内薫:講談社ブルーバックス) 2020.6.23
   2020年刊行   

とても面白い。

でも力学と熱力学の箇所を離れた話も多く、
領域に分けて3冊出版しているのに、
量子コンピュータの話まで力学・熱力学の
本書に含めるのはルール違反じゃないかな。

面白いから許すけれど。

(メモ)
・チコ・ブラーエの宇宙モデル
・ケプラーはチコ・ブラーエの弟子。円ではなく、楕円運動
・惑星運動の当時の説に、見えない天使のはばたきで惑星を前に
 押して進めるというのがあった。
 天使が押す方向は運動方向ではなく、直角方向だった。
・1日2回の潮汐現象。
 @月に面した方向は、月の引力
 A月と反対面は、地球と月の重心を中心とした回転による遠心力
・巨大数仮説。40乗の数字。
 万有引力の定数は時間とともに変化するか?
・アインシュタインの物理
 「一見、等価でないような物理量が実は等価だった」という驚きと発見
・量子コンピュータ
・相対性理論では、重力が強かったり、動いていたりすると
 (相手から見て)時計はスローモーションになる

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(22) □ 戦争とは何か〜国際政治学の挑戦〜 (多湖淳:中公新書) 2020.6.19
   2020年刊行   

「はじめに」に次のように書いてある。
「本書は、戦争と平和について、理論とデータを用いた科学的な分析を
 行うものであり、それは今日の欧米における国際政治学では主流派の
 アプローチである。」

「科学的」とか「主流派」という言葉に強いひっかかりを感じる。
統計データにまとめて考えるという手法はあるべきだけど、今の
国際政治学において、それが主流だと言われると、大丈夫か?と
思ってしまう。

それはさておき、本書の主な問いは
@なぜ戦争は始まってしまうのか」
Aどうして戦争は(もっと早く)終わらないのか
B国際介入はプラスの効果を持つのか

@Aの踏み込みは不十分、Bはデータの価値はある。
表やグラフの見方の説明が不十分で理解しにくい面もあって全体的に
データがどう生きているのかがはっきりしない。
データに基づかない箇所にむしろ重要な記述が多いような気がする。


(メモ)
[戦争]
・1950年以降、戦争による死者の数と割合は減少している。(国同士)
 以前に比べて強い国同士が戦争をしなくなった。
・戦争が起きる要因の主なものは次の3つ
 (a) 情報の非対称性(誤解が戦争を生む)
 (b) コミットメント (確信と不信が戦争を生む:相手を信じられない)
 (c) 価値不可分性(こだわりが戦争を生む:領土)
・戦争終結
  圧倒的勝利、交渉

[平和]
・民主主義国同士は戦争をしにくい。・・要因(a)
・独裁国は?
  個人カリスマ軍人主導>個人カリスマ文民主導
  >集団指導軍人主導>集団指導文民主導
・貿易依存関係は戦争の確率に影響しない・・貿易は代替可能
・投資での依存関係は戦争を抑制・・代替困難
・国連平和維持活動がある場合、10年以内に同じ紛争が再起する
 割合が高い(57%、活動無し47%)
 ただし、解決困難な場所に派遣されているという事情もある。

[内戦]
・1990年代以降、内戦の数は国家間戦争の数を上回っている。
・内戦は要因(b)が強い
・内戦の種類
 「首都をめぐるもの」唯一の政府の存在を争う
 「自治権確立・分離独立をめぐるもの」国の一部地域
・原因 不平等と不満が強まっている


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(21) □ 復活の日 (小松左京:ハルキ文庫) 2020.6.15
   単行本1964年 文庫本1998年   

兵器として開発された新型ウィルスが持ち出され、事故の結果、
外部に出てしまう。異常な繁殖力を持つウィルスはわずか数ヵ月の
間に南極を除く地域の人類を滅亡に導く。
その間、各国はばらばらに原因究明がなされるが、状況を知る関係者が
次々に亡くなり、兵器の機密も相まって有効な手立てを打てない。
世界のほとんどの人が亡くなった後も、核保有国の取った防衛策のため
残った南極も窮地に追い込まれる。

ウィルスに関する詳しい会話は僕にとっては読みやすくなく、話の展開を
早く知りたいと思う時が何度かあった。
でもそこを説得力を持って書くところが小松左京の真骨頂なのだろう。
50年前に書いた小説でも浮ついた空想の話に終わらせないところが
素晴らしい。


                   2020読書記録トップへ   内容一覧トップへ 

(20) △ 告白 (湊かなえ:双葉文庫) 2020.5.21
   単行本2008年 文庫本2010年   

作者のデビュー作。
本屋大賞も受賞し映画化もされたらしい。

子どもを殺された女教師の復讐を描いている。
サスペンス映画には向いているかもしれない。

だけど文章として読むと、気持ち悪い。後味も悪い。
僕はお薦めしない。

                   2020読書記録トップへ   内容一覧トップへ 

(19) □ 光の量子コンピューター (古澤明:集英社インターナショナル新書) 2020.5.20
   2019年   

量子力学の「量子もつれ(エンタングル)」をもっと知りたくて
量子コンピュータの本を読んでいる。
前半は原理に関することが出ていて、まだ理解できているとは
言えないけれど、参考にはなった。
後半は自慢話を聞かされ続けているようで早く終わりたかった。

                   2020読書記録トップへ   内容一覧トップへ 

(18) □ 豆の上で眠る (湊かなえ:新潮文庫) 2020.5.15
   単行本2014年 文庫本2017年   

大人になってからアンデルセン童話をいくつか読んだ中で
一番印象に残っているのが「えんどうまめの上にねたおひめさま」だ。

結婚相手を探している王子のもとに、お姫様だと言う少女がやってくる。
御妃が寝室のベッドの上に一粒のえんどう豆を置き、布団を何枚も重ねた
上で寝させる。翌朝、布団の下になにかあって眠れなかったと聞いた御妃が
本当のお姫様に間違いないと認めて王子と結婚させたというお話。

なんだかよくわからないけど、僕にとってのアンデルセンはこれなのだ。
本書のタイトルもここから来ている。
タイトルにあればやはり読まないわけにはいかない。

妹の結衣子が小学1年の時、2つ年上の姉、万佑子が誘拐される。
2年後に帰ってきた姉はにせものではないかと結衣子はずっと怪しんでいる。

興味を惹く設定をしている。読者を引き込む文章力もある。
優れた作家だと感じた。
調べると作品の多くはミステリーに分類されているようだ。
本作品はミステリーとは違うように思うが、分類はミステリーだそうだ。
他の作品も読んでみたい。

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(17) □ 注文の多い注文書 (小川洋子、クラフト・エヴィング商會:ちくま文庫) 2020.5.8
   単行本2014年 文庫本2019年   

「人体欠視症治療薬」「肺に咲く睡蓮」、字を見るだけで
小川洋子の好きそうなタイトルだなと思う。
小川洋子が注文し、クラフト・エヴァング商會が納品すると
いう形の構成になっている。
うまくハマっているのもあれば、今ひとつのものもある。

小川洋子のかさぶた好きの世界としては物足りない。

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(16) 〇 不完全性定理とはなにか (竹内薫:講談社ブルーバックス) 2020.5.6
   2013年   

ゲーデルの不完全性定理は、これまでに二度チャレンジして
断念した。
しかし、物理の紹介本を多く出している竹内薫氏がゲーデルの
本を出していることを知って、読みやすいに違いないと期待して
買ってみた。

期待した通り、読みやすい。無理なところまで理解させようと
していないところがいいのだろう。理解を深めるための本の紹介も
たくさんあり、非常に役立つ。

何といっても、ゲーデルの証明の筋道をすっきりと示してくれたのが
うれしい。
キーになる「ゲーデル数」もわかった(気がする)。

本書のあと、再度、数学基礎論などにチャレンジしている。
今度は達成できるかも。

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(15) □ 驚異の量子コンピュータ (藤井啓祐:岩波書店) 2020.5.2
   2019年発行   

量子力学の理解を深めるために、量子コンピュータの本を
読んでみようと思って探したところ評価が高かったので
本書を買った。

全体的な流れはそれなりにわかるものの、一番大切な
原理がわからないままなので、すべてが不完全燃焼。
やはりもっと基本の理解をしないと先に進めない。

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(14) 〇 入門者のPython (立川秀利:講談社ブルーバックス) 2020.4.25
   2018年発行   

こういう本は自分のレベルにどれだけ合っているかで
価値は大きく変わる。
わからない箇所が続いたら読み進む意味がないし
やさしすぎても全く価値がない。
本書はPythonを少し使い始めた僕のレベルに非常にマッチした
本だった。

ただ、それだけではなく、初心者が必要なことをよくわかって
書いているようにも感じる。
でも次のレベルの本を探すのはとても難しい。

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(13) □ 小川洋子と読む内田百閭Aンソロジー (ちくま文庫) 2020.4.18
   2020年発行   

小川洋子が推すなら間違いないだろうと信じて購入。
最初はあれっという感じがしたが、徐々に内田百閧フ世界がわかりだし
引き込まれる箇所がいくつもあった。
とはいえ、漢字の読み方を始め、言葉の意味がわからないところが多々
あった。
繰り返し読めばもっと理解でき、さらに深く味わえるような気がしている。

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(12) 〇 ロング・グッドバイ (レイモンド・チャンドラー:ハヤカワ文庫) 2020.4.3
   1953年の作品。現在の村上春樹訳の文庫本は2010年刊行   

最初からずっと緊張した場面が続き、飽きさせない面白さがある。
ただし、とにかく長い。電車で少しずつ読んだため、2か月くらい
かかってしまった。
チャンドラーの作品をもっと読んでみたいのだが、長い作品が多く
今はためらっている。

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(11) 〇 はじめての量子化学 (平山令明:講談社ブルーバックス) 2020.4.1
   2020年刊行   

予想外に面白い。
昔、化学Uがまったく面白くなく、受験科目でもなかったこともあり
わからないままになっていた。
それが本書を読むと、分子間距離も角度も計算結果に基づいていて
暗記するものではないとよくわかる。

本書を読んだ後、昔の化学Uの教科書を引っ張り出して眺めると
ほとんどのことは教科書に載っているではないか。載っているけど
羅列されているだけ。こんな教科書でわかるはずがない。
今になって教科書に腹を立てている。
 
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(10) △ 定年後のお金 (楠木新:中公新書) 2020.3.20
   2020年刊行   

昨年読んだ「定年準備」が意外に面白かったので
著者なら少し面白いお金の話を書いているのではと
期待して読むことにした。

共感できる部分はすでに読んだ「定年準備」と重なる
部分。
したがって僕にとって読む意味はなかった。

 
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(9) △ 海洋プラスチック汚染 (中嶋亮太:岩波書店) 2020.3.1
   2019年   

プラスチックによる海洋汚染が最近話題になってきて
プラスチックストローをやめる企業も増えている。
スーパーの袋も有料化が進んでいる。

ただ、本質がずれていないかと気になっていた。
科学的に何がどれだけ悪いのか、今取り組んでいることが
どの程度効果があるのかをちゃんと把握したくて
本書を読んだ。

結果から言うと、明確にはわからなかった。
データとしてちゃんとわかっていることはまだ多くないようだ。

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(8) □ 量子論の新段階 (町田茂:丸善) 2020.2.27
   1986年   

1986年は大学を卒業した年。
4回生の時に量子力学の講義を町田先生から受けていた。
ディラックの量子力学に基づいた講義だったように記憶している。
本書の最初は講義で聞いたことが書いてある。

当時、量子力学の観測問題や解釈に関する実験が行われ
進展があったことを、30年くらい経ってから知った。

本書の中盤以降に、そういった話が紹介されている。
大学の1年の時に、本書に書かれていた話を聞いていたら僕の
大学生活は違ったものになっていたかもしれない。

町田先生は当時の講義で観測問題や解釈に関わる実験の話を
してくれていたのだろうか。4年生にはしていなかったのだろうか。
僕の記憶にはその部分の記憶は全くない。


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(7) □ 結局、ウナギは食べていいのか問題 (海部健三:岩波書店) 2020.2.12
   2019年   

「はじめに」に、
『本書においても、結局「食べてよい」または「食べてはいけない」と
 いう結論は出していません。』
と書かれている。
ちょっとタイトルがおかしくないかなと疑問を感じつつ読み始めると
初めて知ることがいろいろ書かれていて役に立つ。

(メモ)
・ニホンウナギはIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストの
 「危機」という2番目に絶滅の危険度の高いカテゴリーに区分されている。
 また、環境省のレッドリストでも2番目の「絶滅危惧IB類」に指定されている。
・ニホンウナギの回遊経路
 マリアナ諸島近辺の産卵場で生まれる→生まれた子供が東アジアへ
 →一部がシラスウナギとして日本に接岸→川で成長
 →産卵場(マリアナ諸島)近辺で産卵
・ウネギを卵から育てることは難しい。
 
「養殖ウナギ」はシラスウナギを捕獲して養殖場で育てたもの。
・「土用の丑の日」
 土用とは、立春、立夏、立秋、立冬の前の18日間を指す。
 現在は、夏の土用を指すのが一般的。
 土用の丑の日にウナギを食べる風習は、元々この日に「ウ」の付く
 食べ物を食べる風習があったことから、江戸時代に
平賀源内が発案して
 鰻屋がアピールしたものらしい。
・国内で消費されるウナギは年間5万トン。約2億匹。
 国内の養殖ウナギの消費量は年間2万トン。約8000万匹。
・日本、中国、韓国、台湾は養殖に使うシラスウナギの量の制限に合意。
 トータル78.8トン。
 2016年の捕獲量は40.8トン。
 実際に捕ることが不可能な上限を設けているので、意味をなしていない。
・シラスウナギの漁獲は都道府県知事の許可が必要。
 国内で許可を報告された漁獲量は5.7トン(2015年)。
 全漁獲量の推定値15.3トンの37%でしかない。
 
残り63%が違法
 安いからとか、高級店だからというのは関係ない。
 養殖ウナギはどの店で購入しても食べても違法ウナギの可能性が高い。
・シラスウナギの取引価格は1匹600円くらい。
 高額であることが密売・転売の要因。
・密漁・密売・密輸の横行によってシラスウナギの正確な実態がつかめない
 状況。
・ウナギは海で生まれ、川で育ち、海に戻る。
 ある川で育ったウナギが海の産卵場で産卵しても、子どもが親の
 育った川へ向かうわけではない。
 日本、中国、台湾のニホンウナギの遺伝子比較から地域的な偏りがない
 ことがわかっている。
・ウナギが川で成長する時の障害物は、行き来を妨げる堰(ダムなど)や
 落差工。
・ウナギの放流は弊害が大きい。
 
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(6) × ラストレター (岩井俊二:文春文庫) 2020.2.10
   2018年単行本 2019年文庫本   

亡くなった姉のふりをして文通を続ける。・・・

映画の宣伝に騙されて買ってしまった。
姉の代わりに同窓会に出席?
誰も気づかない?マイクを持って挨拶までしても?

感情移入が全くできない。全く駄目。
 
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(5) △ 錆びた太陽 (恩田陸:朝日文庫) 2020.2.5
   2015年から週刊朝日連載。2019年文庫本   

「蜜蜂と遠雷」を読んだ後に、本作品を読むと、
何なんだろうという疑問が先に立ってしまってうまく
中に入っていけない。

原爆事故で汚染された地域を巡回するロボットと
そこに現れた国税庁の女。
そして不思議な存在マンピー。

書いた時期は「蜜蜂と遠雷」と同時期から後の時期にあたる。
いろんなことにチャレンジする意欲作なのかもしれないけれど
あまりに内容が違いすぎて最後まで戸惑って終わった。
今年は、平野啓一郎の本も、恩田陸の本書も、方向性が見え
ないものに出会ってしまっている。

 
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(4) ◎ ガザに地下鉄が走る日 (岡真理:みすず書房) 2020.2.2
   2018年   

パレスチナのガザは2007年以降、完全封鎖状態が続いている。
大規模な破壊や殺戮が繰り返される。

この状況を過去に出会った人々の様子や言葉とともに書いている。
要約することはできない。ごく一部の抜粋も本質から外れてしまい
そうな気がする。

著者は時に強い言葉で、ガザに無関心な世界を、そして一人一人を
非難する。
パレスチナ人の「自爆」に関連して
『自分たちが被害者だからといって、何の罪もない無関係な私たちを
殺していいわけがない。いや、本当にそうだろうか。私たちは無関係
なのだろうか、罪はないのだろうか。ミサイルや白燐弾で殺す代わりに、
私たちは、ガザを関心の埒外に打ち棄てることで、日々、殺しているの
ではないか。』
『私には無関心による他者の人間性の否定のほうが、より罪深いもの
に見えてならない。』

とても重い本だ。
けれど、最終章、希望らしきものが垣間見える。


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(3) ○ 「ファインマン物理学」を読む (竹内薫:講談社ブルーバックス) 2020.1.30
   2016年単行本 2019年文庫本   

副題は「量子力学と相対性理論を中心として」となっている。
分厚いファインマン物理学の本から、うまく題材を選択している。
物理学を勉強し直そうとしている僕には刺激になり、期待していた
以上に良かった。

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(2) △ 東京會舘とわたし (辻村深月:文春文庫) 2020.1.26
   2016年単行本 2019年文庫本   

実在の東京會舘を著者が取材をして、実在の人物も登場させながら
小説として書いている。
ただ、著者が取材相手に気を使っているように感じられ、
善人ばかりが出てくる話になってしまい、全く深みがない
話になってしまっている。
辻村深月は実在の話をベースにするのではなく、完全に創作した方が
魅力的な文章を書けるのではないか。

 
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(1) △ 顔のない裸体たち (平野啓一郎:新潮文庫) 2020.1.10
   2006年単行本 2008年文庫本   

中学教師はネットの投稿サイトに顔を消された自分の裸体が
投稿されているのを見つける。
文庫本の裏表紙にある紹介文を見て、平野啓一郎の名前とともに
期待して買った。

電車の中で読んでいると、だんだん隣の人の視線が気になってくる。
平野啓一郎の書く作品としては衝撃作だ。これまで読んだ作品とは
全く異なる。
お薦めはしにくい。特に電車で読むのは避けた方がいい。
 
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