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(13) △ 笑う月 (安倍公房:新潮文庫) 2012.5.3

 安倍ワールドのミニ小説の中に、エッセイ風の文章が混じっているような
 全17編から構成されている。

 2002年に本を読み始めたとき、小説については作家を選び、3冊読むことを
 ルールとした。3冊読めば、その作家について何かを語っても良いだろうという
 考えからだ。
 カフカ、カミュ、ジイドの順に読み、その次が安倍公房だった。
 読んだのは「砂の女」「壁」「燃えつきた地図」だ。それなりに面白かった印象が
 あるが、当時の僕の評価は、○△△と比較的低かった。
 カフカの真似から抜け出ていない印象が強かったかららしい。
 その点から見ると、本書は先に読んだ3作品の雰囲気の焼き直しでしかない。
 あまり印象にも残らず、「変な話」という感想で終わってしまった。

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(12) □ 人間失格 (太宰治:角川文庫) 2012.4.30

 参加を決めていた読書会で今回「人間失格」を選んでいたので読んだ。
 多分読むのは2回目。
 
 主人公の葉蔵が世の中とずれていること、ずれていることを心の支えに
 していること、世の中を恐れていることは、僕の感覚と共通するものがある。
 けれど、ずれ方が大きく異なり、僕の理解できない領域に入っている。

 葉蔵は何人もの女性を惹きつけた。
  「誰にも訴えない、自分の孤独の匂いが、多くの女性に、本能に依って嗅ぎ
   当てられ、後年さまざま、自分がつけ込まれる誘因の一つになったような
   気もするのです。」(第一の手記)
 葉蔵は道化を演じ続けた。
 画塾で、学生から、酒と煙草と淫売婦と左翼思想を知らされた。
  「非合法。自分には、それが幽かに楽しかったのです。むしろ、居心地が
   よかったのです。」(第二の手記)
 そして、情死事件、子連れ女性との同棲。
 ここまでは流れてきていたが、ヨシ子を内縁の妻にしたところで何か変わった
 ように感じる。葉蔵自身には変化があるが生活自体は流れるままに悪化していく。

 太宰治が本作品を書いたのは1948年の3月から5月。女性とともに死んだ
 のが同年6月。時期を見ると、本作品の葉蔵は太宰自身であって、本作品を
 書いたことで自身の人生を振り返り、自殺へと進まざるを得なくなったのかも
 しれない。
 作品の最後で、葉蔵と親交のあったバーのマダムに、「私たちの知っている
 葉ちゃんは、とても素直で、よく気がきいて、あれでお酒さえ飲まなければ、
 いいえ、飲んでも、・・・・・神様みたいないい子でした。」と言わせている。
 太宰自身が最後に自己弁護として言わせた言葉と捉えると、単純すぎる
 だろうか。

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(11) □ 実存と構造 (三田誠広:集英社新書) 2012.4.29.

 実存主義と構造主義という思想がある。「実存」という単語はなじみがなく
 実態がわかりにくい。「構造」は単語はわかるが、主義と結びつくと途端に
 曖昧にしか捉えられなくなる。
 著者は、実存主義を社会からの精神の解放を意味し、構造主義を解放
 された精神も社会の枠組みの中にあるという考え方を意味するとして、
 主に文学の面から、2つの考えの流れを紹介している。

 社会から解放されると、自由になる。自由は人からおとぎ話を奪い、現実に眼を
 向けさせる。そして、「変身」のような虫けらの人生に陥りやすくする。
 さらに、社会から解放されたはずが、不気味な権力機構である国家によって
 拘束されだし、絶望感や無力感に苛まれる。
 一方で、歴史的な視野に立つと、悩んでいる個人にとっての特殊な状況は
 過去に何度も繰り返されてきた枠組みの中で解決の糸口が見つかるものかも
 しれない。
 そこで、解放としての実存と、解決の方向性としての構造との接点が見えてくる。

 それは可能性としてであって、確実なものとはいえないかもしれない。
 それでも、特殊性と普遍性の両面を意識することは忘れてはいけない重要な
 ことなのだ。

 著者は最後の2章で、実存と構造の視点から大江健三郎と中上健次を紹介
 している。大江健三郎の「万延元年のフットボール」が構造主義的であることは
 間違いない。たぶん、私が読んだ小説の中で最初でそして最も構造主義的な
 作品だったように今になって思う。
 中上健次の「枯木灘」を構造主義的作品として挙げているが、私が最初の方で
 進めなくなって断念した作品だ。入り込みにくかった印象しか残っていない。
 どこかで再チャレンジする機会が出てきそうだ。

 本書だけだと得るものは必ずしも多くは無いが、進んでいく入り口としては
 大きい可能性を有している。

 (メモ)
 ・自分の外部にあって自分を拘束する、神のような絶対者を失った人間は、
  生きていくことに飽きてしまうのだ。
 ・他者や風景などの見慣れた事物を含めた、外界の存在の一切に対する
  違和感
 ・本質が先にあるのではなく、現実に生きることによって本質が見えてくる
  ような存在が、「現実存在」すなわち実存である。
 ・同じ条件があれば同じ物語が独立に発生するというのが、構造主義の
  思考モデル
 ・悩んでいる個人が、悩んでいる自分自身を俯瞰して眺めるような大きな視野を
  もったとしたら、違った角度から自分の置かれた状況を見ることにつながり、
  そのことが新たな局面への突破口になるかもしれない。

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(10) △ そうか、もう君はいないのか (城山三郎:新潮文庫) 2012.4.20.

 作家の城山三郎氏が、亡くなった妻の思い出を記した本。
 城山氏自身が亡くなってから原稿をまとめたらしく、城山氏が健在なら
 書き換えたのではと思われるような気恥ずかしい箇所があった。
 城山氏の妻の死は2000年。城山氏の次女によるあとがきによると
 妻の死後、城山氏は現実を遠ざけ、墓参りもしないし、妻との思い出の
 家にも戻らなくなったそうだ。2007年の城山氏の死までの日々は
 城山氏には余分な人生だったのかもしれない。
 本書で最も印象に残るのは、タイトルにもある「そうか、もう君は
 いないのか」という言葉だ。本書はその言葉に尽きるし、それ以上の
 ものはない。
  

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(9) △ 巡礼 (橋本治:新潮文庫) 2012.4.12

 帯に、「男はなぜ、ゴミ屋敷の主になり果てたのか?」と書かれている。
 終戦時に中学1年だった下山忠一の戦後の生活を描いた第2章は惹きつける
 ものがある。しかし、その生活とゴミ屋敷が繋がらない。巡礼とはさらに
 距離がある。
 答えを出すのが小説だとは思わない。しかし、繋がりを感じさせなければ
 失敗作となるだろう。
  

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(8) △ 骸骨ビルの庭 (宮本輝:講談社文庫) 2012.3.27

 久しぶりに宮本輝氏の作品を読んだ。
 以前に読んだ中では、初期の作品の「道頓堀川」「蛍川」「泥の河」は
 良かったが、10年くらい前の「月光の東」「錦繍」は面白くなかった。
 今回読んだ作品は2009年に出したもので、タイトルは面白そうだった
 けれど、残念ながら今ひとつの感は拭えなかった。
 
 戦後、進駐軍が一時入っていた通称「骸骨ビル」。
 進駐軍が出て行った後、所有者の妾の子である阿部轍正が住み
 何ゆえか孤児たちが次々とやってきて面倒を見ることになる。
 それから数十年経ち、阿部轍正は既に亡くなった骸骨ビルに
 立ち退きさせるために八木沢省三郎がやってきて、ビルに関わる
 かつての孤児たちの話を聞く。
 
 設定は興味深いが、緊張感がない状態で進んでいく。脅されても
 なぜ暢気に過ごせるのかわからない。何か大切なものが欠けている
 ような気がする。
 

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(7) □ キャリア・アンカー (エドガー・H・シャイン:白桃書房) 2012.3.24

 先日読んだキャリアカウンセリングの本にキャリアに関する理論の章があった。
 そもそもキャリア理論という言葉を聞いたことがなかったので、なんにでも理論が
 あるものだと感心した。
 その中にシャイン氏の理論があり、「キャリアアンカー」について少しだけ書かれていた。
 「キャリアアンカー」とは、自分がどうしても犠牲にしたくない、本当に大切な価値観を
 意味している(と思う)。

 それだけだと大して面白くないが、キャリア理論の面白いところは、漠然とした
 「キャリアアンカー」を8つに分類し、ほとんどの人はどれかに当てはまると結論付け、
 さらに、自分がどこに分類されるかを調べる方法を具体化している点にある。

 その方法の一つ目は40個の質問に1から6までの数値で答えるだけだ。
 一方で二つ目はかなり難しく、パートナーの質問に答える中で見出すという高度な
 ものになっている。
 二つ目を一人ではできないので取り合えず一つ目だけをやってみた。

 すると上位に僅差で二つのキャリアアンカーが現われた。質問に答えるときには
 自分自身に大してでさえ幾分かは格好つけたりしてしまうのでどこまで正確に
 分析できるかに疑問を持っていた。しかし結果は考えさせるところがあった。
 よく心理テストをTVで面白くやっていて信憑性が怪しいと思っていたが、案外真面目に
 やってみると合っているのも多いのかもしれない。

 そんなことを思うようになり、この本の後、「心理学」(東京大学出版会)を少しずつ
 読むことになってしまった。
 

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(6) ○ 日本の土木遺産 (土木学会編:講談社ブルーバックス) 2012.3.15

 明治の終わりから昭和の戦前までに作られた土木建設物を紹介している。
 僕にとって土木という言葉はかなり遠いところにあるが、紹介されている橋や
 トンネル、駅は魅力的だった。近くに行ったら寄ってみたいものばかりだ。
 少し残念だったのは、本文中で専門用語を用いて構造の説明をしているため
 専門用語を知らない私にはわからないカタカナが並んでいる時があったことだ。
 注釈か補足解説があればもっとよかった。

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(5) □ キャリア・コンサルティング実践学 (渡部昌平:雇用問題研究会) 2012.2.23

 この分野では常識なのかもしれないが、本書の前半には僕にとって興味深い
 データがいくつか書いてあった。
 「753現象」という言葉があるそうだ。中卒の3割、高卒の5割、大卒の3割が
 就職後3年以内に離職する状況を意味している。
 最近は大卒の35%が3年以内に離職しており、経済状況が良くないのに
 やや意外な数字だ。
 また、日本では自営業が減少しているとも書いてある。
 自営業主は、昭和57年に954万人いたのに、844万人(平成4年)、704万人
 (平成14年)、668万人(平成19年)と激減している。
 さらに、日本人の仕事意欲は世界主要国で最低レベルという調査結果も紹介
 されている。昔は仕事人間などという言葉もあったのに、最近は変わったという
 ことか。

 本書はキャリア・コンサルティングの小冊子なので、後半は職種別の状況や支援例が
 書かれている。しかし、一般的な内容に留まっていてあまり面白くない。
 ただ、最後に紹介された厚生労働省「キャリア健診研究会報告書」のキャリアと仕事に
 対する満足度の調査結果はなるほどと納得した。
 キャリアと仕事に対する満足度が最も高いのは、キャリアについて積極的な関心を抱き、
 自己啓発をし、キャリアデザインをしている人だ。一方、満足度が最も低いのは、全く
 無関心な人ではない。キャリアについて積極的な関心を抱き自己啓発もしているが、
 キャリアデザインをしていない人だった。「将来展望なき前向き努力」は仕事とキャリア
 に対する満足度を下げてしまうそうだ。実によくわかる。

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(4) □ 経済大国インドネシア (佐藤百合:中公新書) 2012.2.16

 インドネシアは2004年にユドヨノ大統領が就任して以来、民主主義が定着し
 政治的に安定した。今後、世界第4位の人口を背景に経済的に大きく成長して
 いくだろうと本書では予測している。
 本書で最も印象に残ったのは第1章の最初に紹介されていた一人当たりの実質
 GDPの2000年間にわたる長期的変遷のグラフだ。イギリスのアンガス・マディソン
 という経済学者が出したものだそうだ。
 最初の1000年は差が小さかったが、19世紀に国ごとの差が急速に広がった。
 そして20世紀半ばまで拡大を続けた。しかし、それ以降、格差は縮まる傾向を
 示している。
 一人当たりの経済格差が小さくなっているとすると、経済規模は人口に比例する
 傾向が強まる。つまり人口の多い国が経済的パワーを持つようになる。それが
 今の経済状況の根本にあるという。
 中国やインド、その他の新興国の人口が多いのは今に始まった話ではないが
 最近急速に経済的な力が増しているのは、経済的な均一化が進みだした結果と
 捉えると納得のいく話に思える。

 (メモ)
 ・人口増に伴い、毎年、200万人の新規参入労働者が発生する。
  失業率を増やさないためには、最低限6%の成長が必要になる。
  したがって成長率6%がインドネシアの経済の明暗の分かれ目になる。
 ・1997年から2006年まで、経済成長率は6%を下回った。
  この間の平均成長率は4.4%。
  失業率は4.7%(1996年)から11.2%(2005年)に上昇した。
 ・歴代大統領
  スカルノ  (1945−1966)
  スハルト  (1966−1998)
  ハビビ   (1998−1999)
  ワヒド   (1999−2001)
  メガワティ (2001−2004)
  ユドヨノ   (2004−)・・・国民直接投票
 ・日本や韓国、台湾では経済水準の上昇とともに農業人口比率が急速に下がったが
  インドネシアでは農業人口比率が途中から低下せず、農工間の雇用転換を伴わない
  経済成長が起きている。(農業も成長している)
  

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(3) □ キャリアカウンセリング (宮城まり子:駿河台出版社) 2012.2.5

 キャリア、キャリアカウンセリングとは何か、ということから始まっている。
 面白かったのはキャリアカウンセリング理論。
 そもそも、キャリアカウンセリングに理論があるとは思っていなかったので
 期待は小さかったが、いろいろな見方があることがわかって新鮮に感じた。

 理論の最初は、特性因子理論。これは、個人の「特性」と仕事が求める要件
 「因子」を結びつける、つまり、人と仕事をいかにマッチングさせるかに重点を
 置いた考え方。たぶん、もっとも基本となる捉え方だろう。
 次にスーパーの理論。これは、キャリアが生涯発達し変化するものと考え、
 キャリア発達が人生の役割と密接に関係するとしている。
 3番目は、ホランドの理論。人の性格を6つに分け、対応する6つの職業タイプを
 示している。これだけだとつまらないが、この6つを6角形の頂点に置き、隣り合った
 性格を併せ持っている場合は仕事を見つけやすいが、対角にある性格を併せ
 持つ場合は、異なる興味や能力をどう仕事に活かすかが課題で内部に葛藤を
 有し、仕事を見つけにくいとしている。ここはなるほどと納得。
 その他、いくつかの理論を示した後、キャリアカウンセリングの進め方、面接方法
 などを紹介している。全体を少しずつ紹介している感じなので不満も残るが
 おそらくはうまく全体をまとめているのだろう。
 キャリアの理論があることを初めて知ったので、もう少し深く知りたいと思っている。

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(2) □ 夫が多すぎて (モーム:岩波文庫) 2012.1.9

 夫が第一次大戦で戦死と伝えられ、妻は夫の友人と再婚。しかし戦死は
間違いで3年後に夫が戻ってくる。深刻に思える状況の中で、身勝手な性格の
妻と、これを機に離婚したがる2人の夫をうまく表現して楽しませてくれる。
たぶん、海保真夫氏の訳も良いのだろう。

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(1) ○ 赤目四十八瀧心中未遂 (車谷長吉:文春文庫) 2012.1.8

 初めて車谷長吉氏の作品を読んだ。最近は小説と新書など2、3冊の本を
並行して読むことが多いが、本書は途中で他の本に切り替えることを許さなかった。
惹きつけて離さない迫力に満ちていた。その力にまかせてこの本だけを読み進んだ。
作中の「私」は大学を出て会社勤めをしていたが、何の当てもなく会社を辞め、漂流
生活をすることになる。33歳で尼崎に行き着き、焼き鳥屋で使う豚や鳥の串刺しを
毎日続ける生活を送る。その豚や鳥は病気で死んでいる。作業は住んでいるアパート
の一室で行っている。周辺には普通でない人たちが暮らしている。その中の美しい朝鮮人
「アヤちゃん」との逃避行が終盤に展開される。
暮らしている環境はかなり特殊だ。しかし、なぜか自分のことのように感じられる。
ドストエフスキーの小説でも同じことを感じた。優れた小説ならではだろう。
もしかすると、特殊だからこそ本質的に共通するものが見えてくるのかもしれない。
今年は1冊目からすごい小説家に出会った。かなり濃厚な小説なので別の作品を
続けて読むのはつらいけれど、読まずにはすませられなくなりそうだ。

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