内容一覧

(50) □ 太陽の塔 (森見登美彦:新潮文庫) 2012.12.31

 ふざけた本だが、京都北白川の雰囲気はところどころで伝わってくる。
 主人公”私”は下宿する御蔭通りの東奥に住んでいる。御蔭通りの突き当りを
 左に曲がってからの先に知り合いが2人下宿していて訪ねたことがある。
 御蔭通りは琵琶湖まで抜けているらしく、車が通り抜ける。僕が下宿していた
 一乗寺は行き止まりの感じがあったので少し違うのだが、下宿から大学に
 向かう際、坂の上から自転車で降りていくのは同じで下界に下りていくような
 様子は同じ。寒さも共通。屁理屈のようなひがんだ感覚も何かわかるような
 気がする。
 けれど京都駅ビルの描写など僕の大学時代とは大きく変わっている点もある。
 著者は1979年生まれ。16年も下になる。見ていたものがやはり違うようだ。
 大学の様子も違う。僕の頃はまだ朝には中核派がマイクを握っていて、校門
 そばで機動隊のバス型の装甲車が停まっているのをよく見た。
 いつ頃そういう風景がなくなったのだろう。
 そんな関係ないことを考え、懐かしいような苦い感じを思い出す。

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(49) □ 小さいおうち (中島京子:文春文庫) 2012.12.31

 昭和初期に女中になり、終戦までの生活を振り返った手記の形を取っている。
 戦争が国民生活に大きく影響するまでの時期は結構文化的であったことを
 今まで見た資料でも知っていたが、本書でもそういうところが随所に感じられる。
 最後に問題になる箇所は、想像するしかない。僕はすっきりさせた方が良かった
 と思う。

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(48) ○ ツナグ (辻村深月:新潮文庫) 2012.12.31

 読み始めてすぐ、著者の実力がわかる。死者が登場する展開なのに
 読者を引き込む力がある。
 プロフィールを見ると1980年生まれで既に直木賞を受賞している。

 本作品に関しては、最後の章はなくてもよかった。著者としてはあいまいに
 済まさず説明を果たす必要があったのかもしれないが、無い方が不思議な
 イメージを持ち続けることができた。

 別の作品を読んでみたいと思わせる良い作家に出会えたことがうれしい。
 クリスマスプレゼントをもらえたような気分。

 
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(47) △ 医療が日本の主力商品になる (真野俊樹:ディスカバー携書) 2012.12.31

 タイトルから、医療を産業としてどう発展していくのか、新たに参入する時の
 キーポイントは何か、という内容を期待した。
 しかし、そういう期待には全く応えておらず、タイトルと内容が一致していない。
 知らなかった情報も多いがやや断片的。医療の情報を得るなら別の本の方が
 良いだろう。

 (メモ)
 ・英国や北欧では住んでいる場所によってかかりつけ医が決められ、日本の
  ように自由に受診できる国の方が少ない。
 ・患者がより良い医療を求めて海外に渡るメディカルツーリズムの市場が
  1000億ドル(約8兆円)
 ・日本の医療機器メーカがアジアで苦戦している理由は、アジアの優秀な医師は
  米英で医学部を卒業したり研修したりしているので、そこで慣れ親しんだ機器を
  使用したがるため。
 ・医療機器は輸出より輸入が多い。特に治療機器は日本製品がほとんどない。
  2012年4月に前立腺がんの摘出手術に高度先端医療として公的保険が適用
  されるようになった手術支援ロボット「ダヴィンチ」は米国インテューイティブ・サー
  ジカル社で開発された。
 ・ドラッグラグ:日本と欧米との新薬承認の時間差。約2.5年と言われる。
  治験開始が遅い、治験に時間がかかる、申請してから時間がかかる、の3点の
  問題がある。申請から承認までのラグは2010年からほぼなくなった。

 
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(46) ○ かけ算には順序があるのか (高橋誠:岩波書店) 2012.12.9

 算数に関する3つの話からなっている。
   第一章:4×6と6×4は違うのか
   第二章:九九の来た道
   第三章:なぜ2時から5時までは3時間で、2日から5日までは4日間なのか。
 内容はとても興味深いので、内容では評価○にすることに迷いはない。
 けれど、もう少し単純に書くことができるように思う。そうすればもっとわかりやすいし、
 もっと売れるのではないか、と余計なことまで考えてしまう。

 [第1章]
 「6人に4個ずつミカンを配ると、ミカンは何個必要ですか」という問いに対して、
 4×6=24個と求めるように習ったように思う。だけど、6×4=24と小学生が
 答えたらそれを間違いと考えるのかどうか。それが第1章のテーマ。
 著者は最後に、順序にこだわるのは初めてかけ算を教える時の便宜にすぎず、
 数学的にも算数的にも正しい順序があるという考えは改めるべきと書いている。
 結論はともかく、なるほどと新鮮に納得する箇所がいくつもあった。

 1950年代の教科書では、5×3を、5+5+5として、「5を3回よせる」と教えた。
 しかし、「よせる」が「+」のことなら、「+」の数は2個しかなく、「3」はよせる回数
 ではない。
 遠山啓は、かけ算を上記のような「累加」として教えることを批判し、「1あたり量
 のいくら分」として教えるべきだと主張した。
 その影響もあってか、1980年代半ばに「○×△」を「○この△つぶん」として
 教えるように変わった。
 ⇒僕らは足し算を簡単にしたもの(累加)として習ったが、今は違うらしい。

 さて、当初の問いに対して、6×4でも良いとする根拠に次のような考えもある。
 6人に1個ずつミカンを配ると6個必要で、それを4回繰り返す。こうすると、6×4に
 なるというもの。
 また、そもそも漢数字を見ると、二十、五百とは、十が二個、百が五個であって、
 いくつ分×1あたり量となっている。

 英語では2つの言い方がある。例えば、4×3=12は、
   @ 4 multiplied by 3 is 12.
   A 4 times 3 is 12.
 @は「3によって増やされた4は12」、つまり、4の3倍となっているが、
 Aは「4回の3は12」、つまり、3の4倍という意味になっている。
 4×3に、4の3倍、3の4倍両方の言い方があるのは面白い。
 順序にはこだわっていないように見受けられる。

 また、教科書では4×3を、「4に3をかける」と表現することを避けているそうだ。
 僕は普通にこういう表現を使っているように思うが教育の場では使わないらしい。
 それは日本語の一般的な使い方と違うからだそうだ。
 例えば、「花に水をかける」、「花4本に水3リットルずつかける」とすると、かける水
 の量は3+3+3+3となり、普通の書き方なら3×4となる。これは3に4をかけて
 いることになるというのだ。なるほどと感心。

 ⇒小学校で順序にこだわったとしても、中学に入って文字式を習うと、b×aをbaではなく
  アルファベット順を優先してabと書くと教わるので、順序は式の意味から解き放たれる。

 [第2章]
 かけ算の九九は11、12(場合によっては21)から始まって98、99で終わる。
 しかし、昔からそうだったわけではないというお話。

 飛鳥時代に「古代中国型半九九」が伝わる。
  99、89、79、・・・19、88、78、・・・18、77、67、・・・・となる。
  (89や27はあるが、逆の98、72がないのが半九九。)
 室町時代に「近代中国型半九九」が伝わる。
  11、12、22、13、23、33、・・・19、29、39、・・・89、99
 江戸時代に「西洋型半九九」が伝わり、明治38年の最初の算術の国定教科書に採用
  11、12、13、・・・19、22、23、・・・29、33、34、・・・39、・・・88、89、99
 大正14年の国定教科書で「西洋型九九」が採用
  今と同じ並び。しかし不思議なことに読み方が異なる。
  1×2、6×3の九九は、二一、三六と読んだ。
 昭和11年から、並びも読む順も今と同じになった。

 日本に西洋型九九が伝わった、総九九もあったが普及しなかったし、採用もされなかった。
 その背景に「割り算九九」がある。
 「割り算九九」は例えば、1÷3は、三一三十一(3で1を割ると昭和3で余りが1)となるので
 3×1があると混同する。

 当たり前の順のように思える九九にも歴史があったのだ。

 [第3章]
 最後は、「なぜ2時から5時までは3時間で、2日から5日までは4日間なのか」
 これは10の半分は5だが、10の真ん中は5なのか、と同じ問題。
 指の本数等とびとびの量を分離量(離散量)と言い、長さ・重さなどの量を連続量と呼ぶ。

 2時、5時という時間は連続量として扱っており、連続量は0から始める。
 2時から5時は2時をゼロとして計ることになり、5時までは3時間となる。
 
 日にちは分離量として扱っている。分離量は1から始める。
 2日から5日は、2日を1として数えるので5日は4日目となる。

 要はこれだけだが、日にちはいつも分離量と考えているかというと、もちろんそうではない。
 明治以降は連続量ととらえるのが標準的となってきた。
 2日から5日の場合も、2日0時から5日24時までと捉えて、4日と解釈される。

 江戸時代までは年数・月数・日数の数え方は分離量として1から数えていた。
 年齢は誕生した日に1歳と数えた。
 一周忌は亡くなった翌年の命日(1年後)で、三周忌は翌々年の命日(2年後)
 なので、数え方として統一されていない。

 また、本章最後にこういう話は日本だけでないことを次のように紹介して終えている。
 マタイ福音書によれば、イエスは処刑の3日後に復活すると言った。
 処刑されたのが金曜日で、復活は月曜でなく、2日後の日曜だった。
 当時は日数を連続量でなく、分離量で数えていたことがわかる。

 
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(45) □ 叩かれても言わねばならないこと (枝野幸男:東洋経済新報社) 2012.12.6

 最初読んだときは当たり前のことしか書いていないような気がした。
 けれど、HPに記載するために再読すると興味深い点がいろいろあった。
 例えば、
  ・今の若者は生まれてから好景気を経験したことがない。
  ・現役世代は所得が減っているのに貯蓄率は上がっている。
  ・みんなが欲しいのに売っていないものは老後の安心で、そのために
   貯蓄率が高いという見方。など
 しかし、原発輸出を進める、という点だけは納得できない。日本では危険で
 廃止するものを他国に輸出するのは人間としての道に外れている。
 ここは考え直すべきだと思う。

 (メモ)
 [脱近代化社会の構想]
 ・
仮に3%の成長ができたとしても、国民の素朴な庶民感覚として「成長」と
  受け止めることができるだろうか
。「成長」というよりも、「経済の活力を維持する」
  という言い方のほうが、まだ庶民感覚としてはぴったりくるのではないか。
 ・国民の意識としては70年前後に生まれた世代にひとつの境目があるのではないか。
  70年代以降は、生まれたときから周りにものがそろっていた。
 ・90年代はじめにも、もうひとつの世代の境目がある。
  
今の大学生以降の世代は、生まれてからずっと景気は横ばいか下り坂だ。
  上の世代のように「みんなで頑張って、もっと豊かになろう」というメッセージが
  そのまま届いているとは思えない

 ・自己実現ができたという達成感と充実感が、これからの幸福をつくる。
  それこそを「成熟した豊かさ」と呼びたい。
  そんな中で政治ができることは限られている。あなたの生きがいを私がつくって
  あげることはできない。
 ・自己実現を阻害する要因として確実に拡大しているのは「介護難民」だ。
  介護システムが十分でない結果として、家族の介護のために仕事をやめざるを
  得ない働き手が男女を問わず増えている。
  このままでは社会の活力は確実に低下する。
 ・個々が成熟した豊かさを追求するためには、それぞれが「小さなフィールド」で活躍する
  ことが重要になる。
 ・「近代化というプロセスが終わった」という意識を社会的に共有することが重要。

 [原発]
 ・原発はやめなければならない。しかし他方で、やめ方を間違えてはいけない。
 ・問題は、原発をなくすときに、そのプロセスで一定のコストがかかること。
  どれくらいの期間で、そのくらいのコストなら国民は受け入れることができるのか。
 ・いずれ原子力を必要としない社会は実現する。しかし、それまでの期間を短くしようと
  すればするほど、国民が一定期間に負担するコストは重くなる。
 ・
電力料金も、脱原発のためなら10%、20%程度の値上げなら受け入れるかもしれない。
  だが、それが30%、40%に上がったとき、多くの人々が納得してくれるとは限らない。

 ・「できるだけ早く原発は止めよう」という認識を国民が共有する中で、「政府の動きが
  遅い」という声が挙がり続けることが、脱原発依存の推進力となる。
 ・官邸周辺のデモは有効である。
 ・最後まで残る問題は、使用済み核燃料だ。各原発の燃料プールには使用済み核燃料が
  中間貯蔵されている。その合計は約1万4200トン。
 ・最後は電力消費地がこれまでの原発依存度に応じて受け入れざるを得ない。

 [国内経済]
 ・日本人の貯蓄率は、ここ20年、大幅に下がっている。これは高齢者が貯金を取り
  崩していることによる。
  人口構成の変動分を修正して計算すると、現役世代の貯蓄率は上昇している。
  
現役世代の平均所得は下がっているのに、貯蓄率が上がっている
  生活は苦しくなっているのに、貯蓄にお金を回さなければという意識が強く働いている。
 ・デフレ対策としてお金を刷って通貨量を増やしインフレを誘導しろと主張する説がある。
  しかし、今の日本はお金が足りないためにデフレになっているのではない。
  欲しいものを売っていないからだ。
 ・
みんなが欲しいのに売っていないものは、「老後の安心」と「子育ての安心」だ。
 ・医療や介護や子育てについては、社会全体でお金をかけても、国民が最低限の
  安心を得られるように質を高める。
 ・あえて言えば、私たちが目指すべきは「小さな役所と大きな政府」ということになる。
 ・今の年金制度をはじめとする社会保障制度の最大の問題は、不足分を税金で補った形に
  して、そのツケを次世代に借金として回している構造にある。

 [対外経済]
 ・2011年の貿易収支は2兆4927億円の赤字だった。31年振り
  東日本大震災や歴史的な円高、タイの洪水、海外景気の低迷で輸出が落ち込んだ
  ことに加え、原発事故で火力発電用の燃料の輸入が増えたことによる。
  では、これは単年度の一時的な現象かといえば、そうともいえない。
  
これまでの傾向から推定すると、2017年には日本の貿易収支は赤字トレンドに入る。
 ・何が売れるかを見つけること自体で企業が競争する時代になった。
 ・プラズマや液晶といったコアとなる部品の開発に力を注いだパナソニックやシャープが
  海外企業に遅れを取ったのは、そのコア部分と同時に、テレビなどの自社製品をも
  開発、販売せざるをえなかったからだ。
 ・
炭素繊維を手がけた東レは、飛行機を造っていないからこそボーイング社に素材を売る
  ことができたのである。

 ・世界でインフラ需要は拡大を続けている。
  2003年以降、毎年900億ドルずつ急増し、2009年以降は1兆ドルを超えた。
 ・
これから新興国を中心に世界中でどんどん原発が造られる。ここに原発技術を持っている
  日本はどう関わるのか。日本は原発をなるべく早くなくすべきだと私は思っているが、
  原子力の平和利用は進めるべきだと考えている。


 
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(44) □ ロボットが日本を救う (岸宣仁:文春新書) 2012.11.26

 ロボット技術が注目されてきている。実情を知るために解説書として読んでみた。
 わかりやすくまとめているので参考になった。
 著者は他国との競争において、日本の「からくり人形」の大衆性が今なお生きている
 点から勝てはずと見ているようだが、根拠が薄い面がある。
 ソフトや標準化で負けてきている点は認めているので期待を込めて書いているのだろう。
  
 (メモ)
 [序章:ロボットが原発事故現場に]
 ・2011年4月中旬に米アイロボット社の「パックボット」が福島第一原発に入り
  放射線量や温度湿度を測定。
 ・2011年7月に国産ロボット「Quince」が福島第一原発2号炉に入った。
  段差やがれきを乗り越えて進める。
  放射線対策強化や遠隔操作の範囲を広げるために時間を要した。
 ・1979年のスリーマイル島原発事故後、「極限作業ロボット開発プロジェクト」発足
  83年から90年までの200億円投入。技術未熟で自然消滅。
 ・1999年東海村臨界事故後、通産省主導の「原子力防災支援システム」開発
  日立、東芝、三菱重工などが事業を受託し、2001年に6台ロボット完成
  しかし、「実用化評価検討会」がロボットが必要になる事故は日本では起こらないと
  結論付けたため、試作機で打ち切りになった。
 ・福島原発事故後、「対災害ロボティックス・タスクフォース」立ち上げ
 ・避難所に産総研開発のアザラシ型ロボット「パロ」が入った。
  「パロ」は1体35万円で1800体販売(国内1500、海外300)
  アメリカで医療機器として承認された。
  海外では社会保険対象に組み入れられてきているが、日本では対象外。

 [第1章:鉄腕アトムをつくれ]
 ホンダの例
 ・最新アシモは時速6キロで小走りもできる。
 ・アシモの目標は「家事手伝い」
 ・サービスロボットは人に怪我させない安全基準が確立しないと市場に出すのが
  難しい。ISOの場で議論が正念場を迎えている。
 ・ホンダ電動一輪車「U3−X」:乗り手の体の傾け具合で進む方向や速度を調整できる。
 ・「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」:頭で念じるだけでロボットを制御
  ホンダ子会社、ATR、島津製作所で共同開発
  民生分野への応用を2025年−30年と予想

 [第2章:ロボット開発最前線]
 分野別にロボットの開発例を示す。
 (介護)
 ・マイスプーン:セコム開発、障害者向け食事支援
      顎でジョイスティックを動かし、スプーン・フォークを口に運ぶ
      完成度は高い。
      課題は汁物。熱い汁物を飲むときの安全性
      価格39万円、レンタル6405円/月
      2002年以来、数百台販売 (日本+欧州7カ国に輸出)
 ・ロボティックベッド:パナソニック
      車椅子とベッドが合体・分離。音声入力。
      2009年国際福祉機器展に出品。2012年以降市場導入を目指す
      どこまで自動化するかは国と安全規格を決める必要がある。
 (医療)
 ・エンドカプセル:オリンパスメディカルシステムズ
    カプセル型内視鏡(CCD、無線送信、小型バッテリー内蔵)
    消化管の蠕動運動で1−2時間で小腸に達し、毎秒2コマ撮影し画像送信
    外径11ミリ、長さ26ミリ
    2008年発売、価格534万円(画像診断ワークステーション等も含む)      
 ・注射薬振り分けロボットシステム:パナソニック
    電子カルテ情報を受け取り、内部アームが患者ごとの薬品を選んでトレイに移す。
    1時間に千本の薬品を振り分ける能力あり(薬剤師5人が5時間かかる作業)
    2百から4百病床程度の中規模病院を想定
    幅260センチ、高さ185センチ、奥行き70センチ
    2010年発売、価格5千万円
 (コミュニケーション)
 ・女性ロボットHRP−4C(通称「未夢」):産総研
    人に近い歩行や動作ができる若い女性そっくりのロボット
    ファッションショーの案内役や歌うロボットとしてデビュー
    産総研が作った第4世代ロボット。
    ロボットの容姿が人間に近づくほど、むしろ嫌悪感を抱く「不気味の谷」と呼ばれる拒否反応が出る。
 ・KOBIAN:早稲田大+テムザック
    ヒト型二足歩行ロボット。表情と身体で感情を示す。
    まぶた、眉毛、唇開閉を電動モータで動かす。
 ・サッカーロボ:九州工業大、北九州市立大、北九州産業学術推進機構
    人間が操縦しなくても自ら判断して動く自律型。三角錐形状
 ・センサー原理などアメリカ中心に押さえられている。日本のロボットにも中身はアメリカから
  輸入したものが多く入っている。
 (移動体)
 ・電動一輪車「U3−X」:ホンダ ・・・試作段階
    人が乗っていない状態でも自立している。行きたい方向に体を傾けるだけで360度
    どの方向にも動く。傾き加減でスピードも調整できる。初心者でも簡単に乗れる。
    高さ65センチ、重量10キロ弱、最高速度6キロ。
 ・EPORO:日産
    衝突回避ロボット(高さ48センチの三輪車)
    センサと無線通信装置で障害物を検知し回避する。
 (産業用)
 ・MOTOMAN:安川電機
     最新式は7軸双腕型ロボット。
     自動車生産の溶接・塗装作業、液晶パネルの搬送、物品仕分けなどに利用

 [第3章:日米ソフト対決]
 グーグルやマイクロソフトも参戦(最後はソフトが決め手になる)
 ・PALRO:富士ソフト開発のヒト型二足歩行ロボット
    身長40センチ、体重1.8キロ、価格29万8千円
    会話や障害物を避けて歩行。学習機能あり
 ・ダビンチ:米スタンフォード大学開発の手術ロボット
    価格3億円。1500台以上販売
    モニタ画面を見ながらロボットの腕の先のメスなどを動かし微細な患部の手術を行う。
    2ミリの間に8針縫える
    アメリカでは年間10万件の前立腺がん手術の8割に使用されている。
    ロボットの部品の9割は東海地区のもの。ソフトのシステムはアメリカ
 ・ロボットテクノロジー・ミドルウエア:産総研が中心でまとめた共通ソフトウェア
 ・ウィローガレージのオープンソース知能化モジュール
   (ウィローガレージはグーグルの最初の検索エンジンを実装した人が創業者に名を連ねる)
   リナックスのOS上で動くミドルウェア
   (スマートフォンOS「アンドロイド」を連想させる)
 ・マイクロソフトのロボット開発支援ソフト「ロボティックス・スタジオ」
 
 [第4章:「国際標準」争奪戦]
 国ぐるみで標準を勝ち取らないと、ガラパゴス化してしまう。
 ・人に危害を加えない安全基準に基づく標準規格をいかにまとめるかが、ISOの場で繰り広げ
  られている。この分野で日本は他国の後塵を拝しつつある。
  ロボットの安全基準はISO12482作業部会が議論している。最初のたたき台が2012年春に発行
 ・2010年末につくば市に「生活支援ロボット安全検証センター」が完成。
  運営主体は産総研、NEDO、日本自動車研究所。
  NEDOの「生活支援ロボット実用化プロジェクト」の一環として建設(3600m2、6億円)
 ・垂直統合の時代からモジュールを組み合わせる水平分業が主流の時代になると、標準化された
  ものをいかにシステム・インテグレートできるかが産業競争力の源泉になる。
 ・欧州企業の多くは国際標準化を自社の企業活動の一環として明確に位置づけている。
 ・標準化失敗の例:携帯電話2G、3G
 ・標準化=モジュール化
 ・韓国が国を挙げて国際標準化に乗り出している。
  2008年施行「知能型ロボット開発及び普及促進法」
 ・ISOの部会の4つのワーキンググループの主査(まとめ役)が韓国になっている。

 [第5章:ロボットは「人間」か「敵」か]
 ・日本と欧米ではロボット観に根源的な相違がある。日本ではロボットとの共生に違和感を感じない。

 [終章:大衆化技術で日本は勝てる]
 ・大衆とのコミュニケーションを通じて日本のモノづくりが進化し、ロボットの開発に繋がっている。
  世界で最も目の肥えた消費者とのキャッチボールから生まれたロボット技術が国際競争で
  負けるはずがない。

 
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(43) □ 覚悟 (栗山英樹:KKベストセラーズ) 2012.11.12

  今年日本ハムの監督に就任し、パリーグ優勝を果たした栗山氏がペナントレーズの
  試合を振り返った本。ペナントレース直後に出版されていてクライマックスシリーズ以降
  の話はない。
  面白かった話は2つ。一つは送りバントの確率の話。もう一つは平凡な話ではあるが
 一流が持つ「全力」。

  送りバントについては、以前に論文を書いているそうだ。タイトルは「野球の無死1塁で
  用いられる送りバント作戦の効果について」で、送りバントで得点する確率を他の作戦と
  比較したものだ。
  データによると、ランナーを2塁に進める確率は当然ながら送りバントが一番高い。
    送りバント         :89.9%
    ヒットエンドラン      :73.1%
    盗塁            :67.5%
    バント企画後ヒッティング:59.4%
    ヒッティング        :45.0%
  重要なのは得点した確率だ。これは興味深い結果になっている。
    送りバント         :44.0%
    ヒットエンドラン      :49.0%
    盗塁            :45.6%
    バント企画後ヒッティング:48.5%
    ヒッティング        :44.3% 
 得点した確率はなんと送りバントが最も低い。というより、どの作戦でも確率的には大して
 差がないのだ。
 栗山氏がこのデータを紹介した後に言いたかったのは、こういうデータや理論より肌感覚が
 重要ということだったが、当たり前を覆すデータはやはり興味深い。

 「全力」については、稲葉と二岡を褒めている。広島との交流戦で9回に4点差を追いつき
 次の稲葉のセカンドゴロを広島の小窪が悪送球して逆転した。稲葉の普段からの全力疾走が
 相手の焦りを呼んだと評価している。これを評価しているということは裏を返せばできていない
 選手が多いということだろう。巨人の選手でも全力でない人が結構多いように思う。

 本書の表紙には「理論派新人監督はなぜ理論を捨てたのか」と書かれている。
 本の中で栗山氏も外で見ていたのとは全然違うことを強調している。でも、僕はもっと
 理論を重視した違う野球を観てみたい。

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(42) □ とうに夜半を過ぎて (レイ・ブラッドベリ:河出文庫) 2012.11.11

  21の短編から成っている。読み始めの頃は何が言いたいのか全くつかめず、
  とても最後まで読めそうにないと感じていたが、徐々に著者の世界に慣れてきて、
  後半は比較的スムースに読むことができた。
  何が言いたいとかは考えず、1話ずつそのまま受け取っていくのが良さそうだ。
  下記の5話は印象に残った。
  
  「木製の道具」:武器が錆びる
  「非の打ち所のない殺人」:12歳の時の知人を殺しに行く
  「ある恋の物語」:12歳の少年と24歳の女教師
  「ジェイミーの奇蹟」:奇蹟を起こせると信じる少年と母の死
  「黒パン」:(寂しいような、それでいてこれでいいような)

 
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(41) △ 仮説思考と分析力 (生方正也:日経ビジネス人文庫) 2012.11.9

  先に読んだ『仮説思考』は、分析より仮説を立てることに重点を置いていたが
  本書は仮説を立てるための分析に重点を置いている。
  バランス的には本書の方が良いように感じられるが、分析に基づいた仮説を
  立てるにはやるべきことがたくさんあって、つまりはしっかりやらないといけない
  んだということになってしまう。
  せっかく「仮説思考」というのであれば、先に読んだ本のように、思い切って
  分析無しでも仮説を立てるくらいの方が意識が変わって面白い。

  (メモ)
  ・仮説思考を実践する第一歩は、自分がいま考え出した結論は仮説で、仮説をもとに
   行動しているのだと普段から自覚しておくこと。
  ・仮説か進化した過程をそのまま記録しておく。

 
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(40) □ 仮説思考 (内田和成:東洋経済新報社) 2012.10.25

  「仮説」に興味を持って書店に行くと、「仮説」という文字が入っている本を
  1冊だけ見つけた。本書は事業経営や企画を念頭に置いて書かれているが
  僕が探していたのは科学や技術開発での仮説なので、かなりのギャップが
  あることはわかっていた。けれど何か参考になることもあるだろうと思い、
  購入した。
  書いてあることはシンプルでわかりやすい。意識して取り組めば良いことも
  きっとあるだろう。
  本としてみると、事例がその場に適しているのかには疑問があり、事例を
  通して得られるものがほとんどなかったのは残念だった。

  (メモ)
  ・仮説思考とは情報が少ない段階から、常に問題の全体像や結論を考える
   思考スタイル、あるいは習慣ともいうべきものである。
  ・情報を闇雲に集めると、仕事を遅くすることはあっても、正確性が増すことは
   少ないと気づいた。
  ・意思決定をするときには、いますでにある選択肢を狭めてくれる情報だけが
   役立つ。
  ・迅速な意思決定のためには、いまある選択肢をいかに絞り込むかという視点
   で情報収集すべきなのだ。
  ・網羅思考(考え得るさまざまな局面から調査・分析を行ない、その結果をベースに
   結論を組み立てる)は非効率
   網羅思考:最初に全ての課題をリストアップしようとする。
          (大きな問題から小さな問題までごちゃごちゃでてんこ盛り)
          課題に順番を付けたがる。
          全てを理解しないと前に進めない人がとりがちなやり方
          最後は時間切れで仕方ないと言い訳を探し求める人たちの思考方法
  ・わずかな情報から全体像を考える。
   間違った仮説でも効用がある。
  ・仮説、検証を繰り返す。
  ・十分な分析や証拠がない状態でも、問題に対する解決の方向性や具体的打ち手まで
   踏み込んで、全体の仮説をつくってしまう。
  ・(シナリオの)足りないピースを想像力で補って、全体のストーリーをつくる。
   その足りない部分を補う想像力が、別の言い方をすればまさに仮説思考力である。
  ・仮説思考でプレゼンを組み立てる。
  ・仮説の立て方に定石はないが、方法はさまざまある。
   分析結果から、インタビューから、ヒラメキから等
  [良い仮説]
  ・仮説が当たっていたか間違っていたかを、良い仮説・悪い仮設とは言わない。
   間違っていても、それをベースに新たな仮説が作られたり、選択肢の一つが
   消去されれば仕事が前に進む。
  ・良い仮説の条件
    掘り下げられている。(so what?と考えるべき)
    アクションに結びつく

 
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(39) □ 恋文の技術 (森見登美彦:ポプラ文庫) 2012.10.21

  京都から能登に飛ばされた大学院生が、文通修行と称して書く手紙だけから
  成る小説。
  気楽に読む本なので大きな期待はしていない。が、最後の手紙の前の第11話が
  良かったので最後に急にレベルの上がった驚きがあるかもと期待してしまった。
  しかし、最後もあまり変わらずに終わった。
  やはり最後は驚かせてほしかった。

 
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(38) △ 官僚制批判の論理と心理 (野口雅弘:中公新書) 2012.10.20

  タイトルは非常に興味深い。著者は現在の官僚批判を政治思想史の視点での
  官僚制批判から解き明かそうとしている。現実と少し距離を置いた視点から考えて
  みることは大切だ。しかし、政治思想史と現在の状況との間にはかなり距離があり
  そうな感じがし、あまり有益な情報を得ることができなかった。
  ただ、マックスウェーバーやミルを読んだら面白そうだということはわかったので
  近いうちに読んでみようと思う。

  (メモ)
  ・「福祉社会志向」なのに「行政不信」に満ち溢れるという逆説的な組み合わせの
   状況になっている。
  ・『(米とは異なり)日本ではむしろ「孤立」を恐れ、「つながり」を求める傾向が強く、
    したがって官僚制への不信といっても、それは強い個人志向を基礎にしたものでは
    ない。』
  ・マックスウェーバーの「支配の社会学」
  ・『デモクラシーを擁護しようとすると、官僚制と衝突するという局面が必ずある。
    とりわけ多様性を称賛し、画一的な管理を嫌悪するロマン主義的な色彩をもつ
    デモクラシーの支持者ほど、官僚制に対して批判的にならざるをえない』
  ・ミルは「自由論」で大衆の同質化圧力に抗して個性を擁護し、その点から官僚制に
   批判的な考察をしている。
  ・官僚制組織の仕事は外部からは怠慢に見える。そうした不満を背景として、粗雑な
   とっぴな提案が受け入れられやすくなる。「改革」を求めるリーダーほど、そうした
   類の提案に飛びつきやすい。
  ・官僚制組織への不満が、粗雑な議論を強引に展開する指導者の登場の危険性を
   高める。
 
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(37) □ 永遠のゼロ (百田尚樹:講談社文庫) 2012.9.29

  26歳の司法試験浪人の男と4歳上のフリーライターの姉が、祖母の最初の夫で
  血の繋がった祖父・宮部久蔵を知る人の話を聞いて祖父像に迫ろうとする話。
  宮部は終戦数日前の特攻で亡くなっている。宮部を知る人の話は緊迫感があり
  優れている。ただ、兄弟の会話と、姉の知り合いの新聞記者の言葉が表面的な
  感じがして話全体の邪魔をしている。何か2人の書き手が混ざっているような印象を
  受ける小説だったのが残念だ。
  
 
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(36) □ 土地と日本人:対談集 (司馬遼太郎:中公文庫) 2012.9.28

  1975年頃の対談集。当時、土地の値段が上がり、都会の飲食にも土地代が大きく
  加算され、農民も土地を売ることを考えて農業はそれまでの繋ぎになり生産に意識が
  向かない。山林までも値段が上がった。司馬氏はそんな状況を変えるには土地の公有
  化が必要と考える。ただし、土地の公有化をどう進めるとか、どういう問題があるとかは
  具体的には考えておらず、話は深まってはいかない。
  本書は公有化に向けた本ではなく、タイトルのように、土地の日本人の関係は歴史的に
  どうなっていたかを書いた本と思った方が良さそうだ。
  バブル崩壊以後、土地の価格は下がり、今のところ大きく上がるようには見受けらず
  状況は大きく変化した。
  僕はそもそも土地を個人が所有するということ自体がおかしなことのように感じている。
  土地はみんなのもので良いではないかという気がしている。そういうことが書いてあったら
  うれしかったが、そんな話はなかった。

  (メモ)
  ・室町・戦国時代に農業生産力が猛烈に上がり、土に向かって働かない
   職業が出てくる。(商人、坊主)
  ・坂口安吾は農地解放のとき、小作人に土地を与えるだけではどうしようもなく
   国が管理する方がいいと言っている。
  ・国有林は旧御料林が大半。御料林は西南戦争後、いざという時に天皇私軍を
   雇えるように確保した山林。岩倉具視が進めた。
  ・土地が抵当になり売買できることは土地所有の近代化だというのが学会の
   共通認識になっている。
  ・江戸封建制では、大名は租税徴収権しかなく、土地を所有していない。
   土地の所有者は百姓。町人。
   明治維新の廃藩置県が簡単に行えたのは、旧大名は土地を所有していなかったため。
   新政府は大名にお金、山林、地所を与えた。大名はかなり儲けた。
  ・百姓、町人の土地所有は資本主義的な所有とは異なる。
  ・宮沢喜一が自民党のパンフレットに土地公有のことを書いた。
   昭和48年7月17日付けの「自由新報」に、「社会正義のために」というタイトルの
   論文が掲載された。書いたのは衆議院議員・党総合政策研委員長の宮沢喜一氏。
   昭和49年7月号の「中央公論」に詳細に論述。
  
 
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(35) □ ビブリア古書堂の事件手帖 (三上延:メディアワークス文庫) 2012.9.14

  本書はかなり売れているようで本屋で目立つ位置に置かれていることが多い。
  各話のタイトルが本の名前と出版社から成っている点からも気になっていた。
  
  時々本に関する情報がある。例えば、文庫本についている紐を「スピン」と
  呼ぶそうだ。昔の文庫本には大抵ついていたが、今は新潮文庫だけらしい。
  こんな情報は読んで得した気分になる。

  ただ、各話とタイトルになっている本との関連は薄い。本好きの栞子の話す本の
  話も後半になると希薄な印象が強くなる。前半は面白く感じたけれど後半は
  今ひとつだ。
  
 
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(34) □ ベースボールの詩学 (平出隆:講談社学術文庫) 2012.9.9

  ベースボールの起源や昔の様子などを紹介している。それなりに面白い。

  ニューヨーク州クーパースタウンに野球名誉殿堂が建てられている。1907年に
  ベースボールの発祥の地とされたことによる。発祥年は1839年である。
  しかし、実際にはベースボールの起源はもっと古く、18世紀半ばにはイギリスで
  ボールを打って塁をめぐる遊びがあり、既にベースボールと呼ばれていたそうだ。
  ベースボールの規則が明確になったのは1845年で、ニッカーボーカーズというクラブ
  結成に伴って作成された。ピッチャーは下から投げないといけなかったり、ワンバウンド
  でも捕球したらアウトになるなど異なる点はある。重要なのは守備側がランナーに
  ボールを投げつけてはいけないという規則で、それによって硬くて反発力のあるボール
  が使用されるようになり、ゲームのスピード感を上げることになった。
  塁間の距離はこの頃に決まり、以後変わっていない。ダイヤモンドは厳格に決められて
  いる。一方で外野は決まっていない。ポロ・グラウンドは左翼まで85メートル、右翼まで
  78メートル、中堅は145メートルといういい加減さだ。そういえば今も大リーグの外野は
  さまざまで対称でない球場をよく見かける。

  知らないことをいろいろ教えてくれるので興味深い本だ。ただ、おそらく著者が書きた
  かったことを僕は理解できていない。単に情報を提供するのでなく、あくまで「詩」的に
  受け取ってほしかったはずだ。ちょっと申し訳ない感じがしている。
  
 
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(33) △ 新しい人よ眼ざめよ (大江健三郎:講談社文庫) 2012.8.31

  時々わかる箇所があるのだが、多くは何を意図しているのかわからない。
  特に本書で最も重要なブレイクの詩に関わる部分がわからない。
  こんなにわからないのに最後までページをめくれたのが不思議だ。

  分かる箇所を3回読めばきっと得るものがありそうな本だ。ただ、今は
  そこまでの根気がない。
  
 
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(32) ○ 鴨川ホルモー (万城目学:角川文庫) 2012.8.25

  「馬鹿馬鹿しい」というのが第一の感想。そう思って解説まで読み進むと
  金原端人氏が「ばかばかしい」という言葉を4ページの中で5回も使っていた。
  ばかばかしいけど面白い。解説そのままの感想を抱いたのは初めてかも
  しれない。
  こういう本ばかり読んでいてはいけないと思いつつ、万城目学氏の本を
  近いうちにまた読んでしまいそうだ。
  
 
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(31) ○ そうだ、葉っぱを売ろう (横石知二:ソフトバンククリエイティブ) 2012.8.25

  8月15日に徳島の月ヶ谷温泉に宿泊した。所在地の徳島県上勝町は、日本料理に
  添える季節の葉を市場に出荷して販売するビジネスで有名になった。
  僕は知らなかったが5年位前にマスコミの情報番組で何度も取り上げられ、息子が
  今使っている5年生の社会の教科書にも載っていた。
  本には売上げ2億6千万円と書かれている。市場規模は大きくはないが社会に根付いた
  ビジネスという点に興味を持ち、宿泊した旅館で本を買った。
  ビジネスを始めたのは著者の横石知二氏。1979年20歳で上勝町の農協に採用された。
  1981年に異常寒波でミカンが全滅。そこからの立ち直りでミカンからの転換を実行した。
  柑橘類、切干イモ、夏ワケギ、シイタケ等の品目拡大によって売上高を飛躍的に伸ばした。
  この実績から地元農民の信頼を得た。葉っぱビジネスの前に実績を積んでいたからこそ
  実現できたことが読み取れる。
  葉っぱ事業に参加した農家の人はほとんど高齢の女性。葉っぱは虫食いや傷んだものは
  取り除き大きさも分類した後、パック詰めにする。  
  葉っぱビジネスで重要だったのは販路。料亭などの飲食店を営業で回り、売り込む。
  その上で市場で注文が入りそうな量を伝えるという方法を取り、飲食店と市場をつなぐ
  役割も自ら行った。
  高齢者をうまく活かしたビジネスは他にあるかもしれない。
  
 
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(30) ○ 橋の科学 (土木学会関西支部:講談社ブルーバックス) 2012.8.18

  今年読んだ「日本の土木遺産」は面白かった。土木遺産に紹介された中には橋も
  多かった。ただ、構造の名称などが説明されていないため理解できない箇所が多々
  あり残念に思っていた。
  本書はそれを補うために購入した。
  内容は期待通り。理解しやすく最近の橋の動向もわかる。
  
 
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(29) △ 独立国家のつくりかた (坂口恭平:講談社現代新書) 2012.8.18

  お金を稼ぐ労働にこだわらず人の繋がりを大切にして生きるということに
  共感や羨ましさを感じる箇所はある。
  「人間は土地を所有できない」という考えは正しいと思う。けれど深く入っていかず
  さっとかわしてしまうので捉えどころがない感じ。残念だ。
  
 
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(28) ○ 警察庁長官を撃った男 (鹿島圭介:新潮文庫) 2012.8.5

  本書を読むと、1995年3月の国松警察庁長官を狙撃し重傷を負わせた犯人は
  オウム関係者ではなく、中村泰という現在80代の男に間違いない。
  本人も認めているし、警察は調書も取っている。犯行に使われた銃はかなり特殊で
  日本にはないものだが、アメリカで購入したことも分かっている。ただ、共犯者に
  ついては口を閉ざしている。
  警察は初期からオウムの犯行と見て動いていた。2004年には4人を逮捕したが、
  不起訴処分となった。
  もし、中村泰を真犯人として逮捕すると、2004年に逮捕した4人のオウム関係者が
  冤罪であることを自ら示してしまうことになる。このため犯人がわかっていながら、
  逮捕せずに時効を迎えてしまった。
  TVドラマでならありそうな話だがどうやら本当らしい。世の中から注目された大きな
  事件でこんな不当なことが行われるとは。
  オウムの影で大変なことが起きているのはこの件だけだろうか。

 
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(27) ○ みえない雲 (グードルン・パウゼヴァング:小学館文庫) 2012.8.4

  チェルノブイリ原発事故の翌年に発表された作品で、ドイツで原発事故が発生し、
  大量の放射能が放出されたところから話が始まる。原発事故の内容は全く不明。
  放射能から逃げる人々にとって事故の内容は関係ないのだ。
  主人公は14歳のヤンナ・ベルタ。両親はたまたま原発近くに出かけていて
  家に残された弟と一緒に自転車で逃げる決断をする。途中で弟を失う。さらに避難先で
  被爆した知人が亡くなる。そんな状況でも放射能の影響を大げさだと捉える人たちも
  いる。ヤンナ・ベルタは血の繋がりのある祖父母に対しても不信感を抱く。

  少なくともチェルノブイリ以降には原発の危険性を訴える文学作品が存在していた。
  いつか起こることはわかっていた。それを見ないようにしてきた。
  今からの原発も同じだ。いつかはまた起こる。
  今年の夏、節電効果により原発無しで電力供給できることはほぼわかった。
  電気料金を上げることを認めて、原発停止にもっていくべきだ。

 
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(26) □ 西園寺公望 (岩井忠熊:岩波新書) 2012.8.3

  西園寺公望の若い時から元老としての死までを歴史と共に解説している。若い時に
  フランスに10年留学し、その後も海外で送った生活は何年かに及ぶ。こういう西園寺の
  歩みは全く知らなかったので西園寺の考えはヨーロッパの影響を強く受けていることを
  知った。。
  ただ、いつどういう職に就いたとか、どこに行ったとかは詳しく書かれているが、
  最も知りたかった西園寺の考えの推移がわからなかった。特に元老としての記述は
  歴史を追っているだけで、特に西園寺を中心に見ているわけでもない。
  西園寺の遺言で記録が焼却されてしまったからかもしれないが、「西園寺公望」と
  タイトルを付けるのであれば、手紙であれ、発言であれ、もっと思想に迫るような
  言葉を紹介して欲しかった。


  (メモ)
 ・1849年 公家徳大寺公純の次男として誕生
       右中将西園寺師李の養子になる
 ・1867年 参与職(18歳)。
 ・1868年 山陰道鎮撫総督・・・岩倉具視の指示
        会津征討越後口総督府大参謀・・・武将に。
 ・1869年 東京で開成所(後の東大)に入る。木戸孝允、大村益次郎らと交わる
        9月京都に帰り、家塾立命館開く。
 ・1870年 長崎の広運塾で仏語を学ぶ、立命館差し止め
        12月留学生として出発(アメリカ経由パリ)
        フランス滞在は10年近くに及ぶ。
 ・1880年 横浜帰港。・・・明治維新の動乱は既に終わった時期。フランス留学者冷遇
 ・1881年 「東洋自由新聞」創刊、社長。
        1ヵ月後、内勅により新聞退社
        (岩倉具視、三条実美らの圧力:華族が従事すべきことでない)
        明治法律学校(後の明治大学)講師
       参事院議官補(参事院:法律規則の制定・審査に関わる機関)
 ・1882年 参議伊藤博文の随行として欧州へ(目的は憲法調査:1年半)
 ・1883年 8月帰国。参事院議官
 ・1884年 侯爵
 ・1885年 オーストラリア公使として出発(4月)
 ・1886年 帰国(6月)。法律取調委員
 ・1887年 ドイツ公使(6月)、ベルギー公使兼任(7月)、ベルリン着(12月)
 ・1891年 帰国(8月)
 ・1893年 法典調査会副総裁。貴族院副議長
 ・1984年 日清戦争開戦により朝鮮派遣。10月文部大臣
 ・1895年 6月外務大臣臨時代理・・・パワー・ポリティックスを展開
 ・1896年 11月フランスへ
 ・1897年 10月帰国
 ・1898年 1月文部大臣・・・第二の教育勅語準備。4月内閣辞職により免官。勅語発布できず。
 ・1900年 立憲政友会結成に参加。10月枢密院議長
 ・1903年 免枢密院議長。立憲政友会総裁
 ・1906年 1月内閣総理大臣
 ・1908年 7月内閣総辞職
 ・1911年 内閣総理大臣
 ・1912年 12月内閣総辞職
 ・1914年 立憲政友会総裁辞任
 ・1919年 1月講和全権委員
 ・1940年 11月死去
 
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(25) □ 廃墟に乞う (佐々木譲:文春文庫) 2012.7.21

  6つの短編警察小説から成っている。雰囲気はあるのだが展開が急で、
  そういう話でおわっちゃうの?と思ってしまう話が多かった。
  本書は直木賞受賞作品。今月読んだ「まほろ駅前多田便利軒」も直木賞
  受賞作品。ともに不満が残る内容だった。

  [オージー好みの村]
   ニセコがオーストラリア人の町になっているとの情報に驚いた
  [廃墟に乞う]
   炭鉱町で貧しい悲惨な環境で育った殺人犯
  [兄の想い]
   家族が見放したように感じられる理由は。。
  [消えた娘]
   拉致監禁犯が遺体を埋めた場所・・・よくわからなかった。
  [博労沢の殺人]
   競走馬生産牧場のオーナー殺人事件。犯人は。。
  [復帰する朝]
   殺人容疑のかかった妹の姉

 
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(24) ○ 日本の領土問題 (東郷和彦、保阪正康:角川ONEテーマ21) 2012.7.20

  「尖閣諸島の国有化」に賛成か反対かという世論調査がある。
  読売新聞の調査では、賛成65%、反対20%となっている。
  ただ、尖閣諸島のこれまでの経緯を十分理解した上での判断かどうかは
  怪しい。
  尖閣諸島が日本領土になったのが1895年で台湾併合の3ヶ月前、竹島が
  日本領土になったのが1905年で、1910年の日韓併合に繋がる日韓条約の
  第一次が1904年だということを知るだけでも見方が変わってくるはずだ。
  僕自身、これまで領土問題にあまり関心を持ってこなかったので、知識は全く
  なかった。本書はこれまでの交渉の経緯などを説明してくれている。とても勉強に
  なる本だった。


 (メモ)
 [総論]
  ・「マスコミに流れる大方の論調を見ると、弱体化し馬鹿にされた日本がとるべき
    領土政策は「相手国に対して、日本国としての筋目を毅然として述べ続ける」と
    いう点に固着しているものがほとんどのように見える」
  ・「「強気一点張り」の、将来に向かって何らの展望のない見方に固着することは、
    国の将来をあやうくする。」
  ・「日本のこれから二十年の基本戦略はおのずと明らかである。一つは中国との
    間で相互の基本国益を害し合わず、可能な協力を実施する関係を構築すること
    であり、それは本質的に中国の利益でもあるはずである。
    もう一つは、そのためにも、中国の台頭に顕在的・潜在的脅威を感じるすべての
    国とできうる限りの信頼関係をつくることである。」

 [北方領土]
  ・北方領土は「歴史問題」である。
   日本が受けた歴史的屈辱の決算として4島問題が残っている。
   日ソ中立条約違反、満州居留民の殺害・抑留、大西洋憲章・カイロ宣言違反
  ・冷戦期の交渉の文書
   @1951年サンフランシスコ平和条約
     千島列島放棄の記載(ただしソ連は未署名)
     ・・・ソ連が署名していたら日本の立場は弱くなっていた。
   A1956年日ソ共同宣言
     平和条約交渉を継続。歯舞・色丹を平和条約締結後に引渡し
   B1960年グロムイコ声明
     日本からの全外国軍撤退を引渡し条件に追加。
  ・冷戦後の合意文書(25年間の交渉)
   C1991年海部・ゴルバチョフ声明
     国後・択捉が交渉対象であることを明記
     1956年宣言通りの引渡しは合意できず。
     (ゴルバチョフの国内基盤が弱体化していた影響も有り)
   D1993年細川・エリツィン東京宣言
     1991年と似たレベル
   E2001年森・プーチン イルクーツク声明
     1956年宣言を確認
     国後・択捉の協議提案を拒否されず。・・・可能性が広がる
  ・2001年小泉内閣、田中真紀子外相で領土交渉は頓挫
  ・2006-2009 交渉再始動
  ・2009年鳩山内閣で、鈴木宗男氏の質問主意書に対する回答で「不法占拠」と
   いう言葉を用い、ロシア猛反発。交渉凍結。25年間の交渉終了
  ・日本が達成すべき交渉目標に対する自縄自縛。
   「25年間の交渉に失敗した結果、もはやその実現の可能性がまったくないにもかかわらず、
    関係者の間に実現すべき交渉目標であるかのごとく居座っている。」
  ・「四島一括」という固定観念が、1992年のロシア側の譲歩提案を壊し、2001年の
   勝機に対して交渉進展を日本側から壊した。

 [竹島]
  ・韓国にとっては「歴史問題」
   1905年竹島併合が1910年日韓併合の布石として捉えられている。
   「竹島は日本領土」と述べると、韓国人には「韓国併合は正しかった」と言って
   いるように聞える。
  ・1904.8 第1次日韓協約 (財務・外交の顧問権獲得)
   1905.11 第2次日韓協約 (外交権獲得)
   1907.7 第3次日韓協約 (内政面の統括権獲得)
   1910.8 日韓併合
  ・1905.1.28 竹島併合 閣議決定
   1905.2.22 島根県告示
  ・歴史的経緯を見ると日露戦争、韓国併合、竹島領有が同時進行していることは
   否定できない。

  ・日本側からの見方
   1904.9 島根県隠岐島民の中井養三郎があしかの捕獲が過当競争になったことから
         事業の安定を図るため、内務・外務・農商務3大臣に領土編入を願い出た。
   内務省:韓国領地の疑いがあり、編入願いを受理せず。
   外務省:編入を急務として受理。
   海軍:1904.11 軍艦を派遣
       1905.5 竹島詳細調査
       1905.8 望楼設置
   →海軍、外務省は竹島を戦略的観点から考えていた。
  
  ・冷戦期
   @1951年 サンフランシスコ平和条約
     草案では相当ゆれた。結果として竹島は明記されず。
   A1954年 韓国による実効支配:武力投入(警備隊常駐)
     1952年 李承晩ラインを設定し竹島を取り込み→日本抗議
     1954.9 日本 国際司法裁判所(ICJ)への付託を韓国に提案
     1954.10 韓国は拒否
   B日韓正常化交渉(1952-1965)
     日本:ICJ提訴による決着という立場
     韓国:交渉すべき問題はないとの立場
  ・以降、全く話し合いは行われなかった。
   民間の研究は進んだ。
   1905年時点で竹島がいずれかの領有権に服していたとはいえない。
  ・1998年 日韓漁業新協定
    暫定水域での島根県漁民の不満
   →2005年 島根県議会 「竹島の日」条例
  ・2006年 海底地形名称をめぐって対立
  ・2008年 中学教科書の解説書の記述で韓国から抗議
  ・2011年 教科書の竹島記述増加で韓国抗議
        鬱陵島訪問予定の議員の入国拒否

 [尖閣諸島]
  日本政府が尖閣諸島を「無主の地」として領有を認めたのが1895年1月。
  開拓を請願した古賀辰四郎氏はアホウドリ事業を成功させ明治末期には
  99戸284人が島に住んでいた。その後、事業が下降線をたどり、1940年以降
  無人島になった。
  つまり、1940年以降無人島になったとはいえ、19世紀末から日本は尖閣諸島を
  実効支配している。戦後の処理を含めた法的な立場においても日本が圧倒的に
  有利と説明している。
  東郷氏はこの問題が歴史問題化することを心配している。1895年1月は日清
  戦争の最中で、4月には下関条約で台湾を併合している。尖閣諸島は戦時下で
  日本領となっているので中国・台湾にとっては日本による侵略という歴史認識に
  なりやすい。
  尖閣は石油資源の可能性が発表されてから中国・台湾が領有権を主張し始めた。
  目的は漁場と資源にあるのは確かだろう。しかし、一方で歴史問題化する可能性
  を秘めていることはとても重要な指摘で日本人も認識しておかないといけない。


 
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(23) △ まほろ駅前多田便利軒 (三浦しをん:文春文庫) 2012.7.7

  初めて三浦しをん氏の本を読んだ。
  便利屋の多田とそこに居候することになった同級生の行天が依頼を受けた
  仕事をしながら、事件にも絡んでいく。暴力団が出てきたり、大怪我をしたり
  するが、現実味がないからか、軽い雰囲気で話は進んでいく。
  似た雰囲気の話を読んだことがあるような気がしてきた。たぶん石田衣良の
  池袋ウエストゲートパークだ。
  読みやすいし退屈はしない。軽いこと自体は悪いわけではない。
  けれど後に何も残らない気がする。
  僕は何のためにこの本を読んだのだろう。  

 
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(22) □ 英文読解入門 基本はここだ (西きょうじ:代々木ライブラリー) 2012.7.3

  予備校で英語をどういう風に習ったか、全く覚えていない。構文という言葉は
  記憶に残っているが、構文の理解の仕方を学んだようにも思わない。
  それでも英語の精読には文の構造の把握が必要だという認識は今もあり、
  関心を持っている。受験参考書をいろいろ探した中で本書の評判が良さそう
  なので購入して目を通してみた。
  興味深いのは、品詞にこだわっている点だ。品詞から文章中での役割へと
  進んでいる。名詞節、副詞節の説明や、接続詞と関係代名詞などややこしい
  領域もうまく説明している。
  本書だけで実力が付くものではないが、一度は整理しておくと、文章の理解が
  楽になるように思う。

 
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(21) ○ わたしが・棄てた・女 (遠藤周作:講談社文庫) 2012.7.2

  本書のタイトルは昔から知っていたが、狐狸庵先生の軽いエッセイ風の小説かと
  思い込んでいて今まで手に取ることはなかった。
  最近、Facebookで再会した同級生から薦められ、人に薦めるようなレベルの小説
  だったのかと意外な感じを持ちながら読み始めた。
  主人公・吉岡努は、大学生の時に森田ミツという町工場の事務員と一度関係を持つ。
  吉岡はその女を、何ゆえか記憶から消すことができない。会った回数を数えるとわずか
  三度だ。好きなわけではない。人の良さに付け込んだことへの罪の意識という訳でも
  ない。ミツの純真さに心を動かされたのか。吉岡は手記に「ぼくは今あの女を聖女だと
  思っている・・・。」と書いているが、それも僕にはすんなりとは受け入れがたい。
  僕には吉岡が女を忘れることができなかった理由を言葉で言い表すことができない。
  ただ、人は小さなひっかかりを持ちながら生きていて、そのひっかかりが時として
  大きくなっていくことがあるのだろう。
  本書もそういうひっかかりを残すものの一つなのかもしれない。

 
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(20) △ 反・幸福論 (佐伯啓思:新潮新書) 2012.6.30

  すっきりしない本だ。「幸福」がテーマになっていると思って読んでいるのに
  途中から「幸福」が出てこなくなる。もう少し全体の統一を図らないと、考えて
  書いていないように見えてしまう。
  例えば、領土問題に関して、「実効支配とは、その場所を必要とするということで
  あり、本来は、そこに住んでそれなりの愛着をもつ」ということと述べ、実際の場所
  が重要だと言っているのかと思うと、「国の土」を守るより「国の義」を守るべきと
  章の最後でまとめている。最後のまとめに「幸福」の考えが絡んでこない。
  原発事故に関しては、人災か天災かの議論に意味は無いという点は賛同するが、
  問題を技術全体に拡張し、自然を支配するのでなく自然を生かすという、新しさに
  欠ける話だけの紹介に終わっている。
  
  鉛筆をもちながら読んだのだが、線を引いた箇所は非常に少なかった。

 
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(19) □ 元勲・財閥の邸宅 (鈴木博之:JTBキャンブックス) 2012.6.15

  20の邸宅を紹介している。なかなか良い。

  旧岩崎家茅町邸は昨年12月に上野に行った時に中に入った。ビリヤードの
  ための建物があって、そこに地下道で繋がっているなど相当立派なものだった。
  昔は周辺に倉庫や門衛所、厩舎、茶室など計20の家屋から成っていたそうだ。
  また、西園寺公望別邸「坐漁荘」と西郷従道邸は4月に明治村で見た。ただ、時間と
  疲労のため、外からしか見なかった。今になってみると惜しいことをしたと思う。

  本書の写真を見て、行きたくなった場所がいくつかある。
  一つは山県有朋の無鄰庵。これは京都の平安神宮や動物園の傍にある。
  二つ目は西園寺公望の別邸「清風荘」。これは京大の管理になっていて非公開。
  出町柳から京大に歩いていくと道沿いにある。何度も通ったことがあるのに全く
  気づいていなかった。
  三つ目は高橋是清邸。これは「江戸東京たてもの園」という場所に移設されている。
  高橋是清は2・26事件でこの家にいる時に暗殺された。
  
 
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(18) □ なぜメルケルは「転向」したのか (熊谷徹:日経BP) 2012.6.12

  福島原発事故の後、メルケル首相は2つの委員会に助言を求めた。
  一つは「原子炉安全委員会」、
  もう一つは「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」

  原子炉安全委員会の委員は原子力の専門家。
  連邦環境省は原子炉安全委員会に17基の原子炉について
  ストレステストの実施を要請。期間は2ヶ月とした。
  委員会が出した結果は、比較的高い耐久性を持つとし、安全性を前向きに
  評価するものだった。

  倫理委員会は社会学者や哲学者などエネルギー問題と無縁の知識人が
  委員を務めた。結果は、原発をやめることが最良と判断した。
  細かなデータやシミュレーションによる裏づけはない。具体的なデータでは
  なく、理念や原則を重視した。

  メルケル首相は倫理委員会の判断に基づき、2022年末での原発廃止を
  決めた。
  2000年頃に一度脱原発を決めていたのを、メルケルが2010年に覆したわけで
  それを戻しただけと言えなくはない。ただ、自分が覆したものをまた自分で戻すのは
  政治家としては難しいことのはずだ。
  それを決断し、首相のある意味での「ブレ」を社会が認めたのは成熟度の違い
  なのだろうか。

  本書ではドイツが原発廃止に踏み切ったのを、ドイツ人の悲観主義と不安に
  よることを繰り返し強調している。そういう面はあるのかもしれないが、そうなら
  2010年に脱原発路線を見直したり、2022年までの原発稼動を認めたりは
  しないだろう。
  不安があるのに、2022年までの稼動を認めるのはどうしてなのか、どういう
  論理に基づくのか、それを知りたかったが、残念ながらそれの答えはなかった。


 (メモ)
 [大きな流れ]
 ・1955年 パリ条約で西ドイツ国家主権を認められる
       連邦原子力省発足
 ・1960年 初の商用原発運転開始
       60年代、70年代に原発増加
 ・1973年 農民によるライン川沿いの原発建設反対運動
       (原発蒸気による気候変化を懸念しての反対)
       70年代に反原発運動が全国ネットワークを持つ
 ・1979年 米スリーマイル原発事故
       80年代 反原発運動ピーク
       10以上の原発の稼動・建設を阻止
 ・1986年 チェルノブイリ事故
       SPD 脱原発路線に
 ・2002年 脱原子力法成立:2020年代前半までに原発停止
       (2000年に大手電力会社と合意)
       電力会社が合意した背景
        @停止時に減価償却を終えている。
        A運転停止まで稼動を保証
 ・2010年 メルケル首相が脱原子力政策見直し。稼動年数を平均12年延長。
 ・2011年6月 原子力法改正。2022年末までに原発を完全に廃止。

 [緑の党]
 ・1980年 緑の党発足
       綱領:エコロジー、社会的な不公平の排除、非暴力主義
           権力集中を防ぎ草の根民主主義を重視
       連邦議会選挙は得票率1.5%
       (ドイツは5%未満だと議席を持てない)
       州議会選挙ではベルリン、ハンブルク等で5%を越え、議席獲得
 ・1983年 連邦議会選挙 5.6%で28議席
 ・1987年 8.3%で44議席
 ・1989年 ベルリンの壁崩壊、愛国的感情高まりCDUコール首相高支持
 ・1990年 4.8%で議席を失う
       急進的左派が去り、現実主義傾向強まる
 ・1994年 7.4%に回復
 ・1998年 SPD、緑の党連立政権

 [政権]
  CDU(キリスト教民主同盟)、CSU(キリスト教社会同盟)、FDP(自由党)
  SPD(社会民主党)
 ・1966-69 CDU・SPD大連立
 ・1969-74 SPD・FDP連立
 ・1974-82 シュミット政権(SPD・FDP連立)
  いずれも原発推進
 
 
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(17) □ 走れメロス (太宰治:角川春樹事務所) 2012.6.9

 4月の参加した読書会の話の中で、次のようなことを聞いた。
 「走れメロス」には原典があるが、最後にメロスとセリヌンティウスがともに「私を殴れ」と
 言って相手を殴る場面は太宰が加えた話らしい。
 10日ほどして、たまたま本屋に立ち寄った時、280円文庫シリーズとして「走れメロス」
 が並んでいたのでつい買ってしまい、久しぶりに「メロス」を読むことになった。
 原典はシラーの詩「人質」。ネットで訳詩を読むと確かに最後の場面は加えられている。
 この追加部分が太宰らしいのかどうかは僕にはわからないが、本筋を少し逸らすことで
 人間性を加えることができたように感じる。
 こんなのをもっとたくさん書けばよかったのに、と僕は思ったけれど、太宰治は一つで
 十分だったのかもしれない。(他にもひょっとしたらあるのかな?)
 
 本書には「走れメロス」の他に4作品が収められている。
 その中では「富嶽百景」が一番良かった。まず、最初に富士山の頂角について書いている。
 安藤広重の描いた富士山は頂角が85度、葛飾北斎は30度くらいの富士山も描いている。
 しかし実際は東西124度、南北117度で鈍角に広がっている。
 僕が頭で想像する富士山の頂角はやはり鋭角のようだ。これで太宰の見た富士山の姿が
 はっきりしてくる。
 短編小説扱いになっているが、井伏鱒二が出てくるし、太宰の生活そのままのようだ。
 苦悩は人一倍してきたことや、表現方法に悩んでいることが出てくるものの、精神的には
 安定した様子が窺える。
 短い文でつなぎ、読点「、」が多い。短い文を連続して書くほうが勢いが出るようだ。
 
 
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(16) ○ 関東大震災 (吉村昭:文春文庫) 2012.6.2

 関東大震災については教科書に載っていたし多少は知っているつもりだったが
 この本を読んで僕の知識は正しくないことを知った。
 本書で知ったことから3つのことを書いておきたい。

  一つは、関東大震災の地震について知識だ。
 僕は関東大震災は東京近辺での直下型地震だと思っていた。
 しかし、実際は相模湾の海底が震源だ。津波も発生して数百人は
 亡くなっている。伊豆半島の伊東で12メートルまで達した。
 家屋の倒壊は神奈川県が最も多く、全壊4万6千戸、半壊5万3千戸で
 全家屋数の36%が半壊以上、津波での流出家屋も425戸あった。
 千葉県の全壊1万3千、半壊6千
 東京府(当時は府)の全壊家屋1万6千、半壊2万
 東京市の全焼戸数は全48万中、30万に及んだ。
 東京市の死者は、焼死5万2千人、溺死5千3百人、圧死7百人

  二つ目は、朝鮮人虐殺の背景だ。
 朝鮮人が大震災に乗じて襲ってくるというデマが湧いてきた背景を吉村氏は
 次のように書いている。
  「日本の為政者も軍部もそして一般庶民も、日韓議定書の締結以来その併合までの
   経過が朝鮮国民の意思を完全に無視したものであることを十分に知っていた。また、
   統監府の過酷な経済政策によって生活の資を得られず日本内地へ流れ込んできて
   いる朝鮮人労働者が、平穏な表情を保ちながらもその内部に激しい憤りと憎しみを
   秘めていることにも気づいていた。そして、そのことに同情しながらも、それは被圧迫
   民族の宿命として見過ごそうとする傾向があった。」
  「つまり、日本人の内部には朝鮮人に対して一種の罪の意識がひそんでいたと言って
   いい。」
 朝鮮人を差別していたからと言って朝鮮人を殺すわけではない。相手の立場を少し考えに
 入れると、きっと憤りを持っている朝鮮人が混乱に乗じて暴動を起こすに違いないと
 デマを信じて殺してしまうのだ。これはとても恐ろしい心理で、今後も異常事態で
 起こる可能性を持っている。
 このとき虐殺された朝鮮人は約2600人。

  三つ目は、大杉栄殺害について
 大地震発生後、政府の一部などで社会主義者が震災に乗じて反政府運動を引き起こす
 ことを本気で心配したようだ。しかし、すぐに社会主義運動の勢力が弱いことがはっきりした。
 10日ほど経ってから警察は大災害を利用して社会主義者に打撃を与えることを画策する。
 多くの社会主義者が警察に連行され暴行を受けた。
 9月16日大杉栄は妻、甥と一緒に警察内で殺害された。
 関東大震災の混乱の中で大杉栄が殺されたと思い込んでいたが、実際は2週間も経って
 からの出来事だった。

  関東大震災の数年前に群発地震が発生し、関東で60年周期で大地震が起こっている
 ことが話題になったようだ。警戒を呼びかけた地震学者がいた一方で、社会の動揺を避ける
 ために火消しに回る地震学者もいた。
 関東大震災から約90年。近いうちに関東大震災並みの地震は起こるのだろう。
 
 
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(15) □ 13日間で「名文」を書けるようになる方法 (高橋源一郎:朝日文庫) 2012.5.31

 文章を書くテクニックを指南する本では全く無い。だから、すぐに取り入れて
 文章をうまく書けるようになるわけではない。
 ソンタグやカフカ、その他いろいろな文章を紹介しつつ、書くとはどういうことか。
 どういう視点で見ていくべきかということが書かれている。大学での授業を文章化
 したため大学生の宿題の文章が多々載っていて僕には面白みが少ないところも
 あった。もっといろんな作家や思想家の文章を載せて高橋氏の考えを示してくれた
 方が良かった。でもそれは教わろうという受身の姿勢が強すぎるだけなのかもしれ
 ない。自分で書きながら思い出して考えていかないといけない。

 (メモ)
・「二度読む価値のない本は読む価値はありません」(ソンダグ)
・「商業に対抗する、あるいは商業を意に介さない思想と実践的な行動のための
 場所を維持するようにしてください」(ソンタグ)
・「自分自身について、あるいは自分が欲すること、必要とすること、失望している
  ことについて考えるのは、なるべくしないこと」(ソンタグ)
・「文章」を書く、ということは、それが、みんなの前で読まれる(可能性がある)と
 いうことです。
・およそ、芸術というものは(小説でも、絵画でも、音楽でも)、それに触れた時、
 「感想文」を書きたくなるようなものではありません。
・「ぼくは自分が書いた文章に触発されたのである」(荒川洋治)
・もうひとりのあなたを見つけるために、「文章」は存在しているのです。
・だが、この作者は、それでも「文章」を書くのです。なぜなら、彼が望むこととは
 正反対のものばかりが流通する世界にしか、彼の送り届けたいものはないからです。
・答えを求められて、それが難しい、と考えてしまう理由の第一は、答える相手が
 どんな答えを求めているかわからないからです。
・その学生は、こういっていました。
 ・・・長い間、その苦しみは、ことばにできないものだった。ただ、大きな「違和感」と
 してのみ存在していた。だが、ある時、「性同一性障害」ということばを知って、少し楽
 になった気がした。
・中国人や在日韓国人について、なにかをいいたいのなら、とりあえず、自分が、その、
 中国人や在日韓国人だとしたら、どう考えるだろう、というところから始めるべきなの
 です。
・わたしの考えでは、きわめて個人的なできごとから出発したものだけが、遠くまで、
 即ち、あなたたちまで、目の前に存在しているのに、ほんとうのところは遥か離れた
 ところにいるあなたたちまで、たどり着くことができるのです。


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(14) ○ 昭和天皇 (古川隆久:中公新書) 2012.5.28

 昭和天皇は自らを神とするような教育を受けていたわけではなく、合理的な教育を
 受けていた。天皇就任後、受けた教育に基づいた穏健な協調外交を進めたかったが
 ロンドン海軍軍縮条約での統帥権干犯問題や満州事変以降の国民の強行路線支持に
 よって、打つ手をなくしていく。
 統帥権という名の下で天皇の意思と全く異なる方向に進めてしまう。これを防げなかった
 のは制度の問題だろうか。制度だけの問題ではないような気がする。
 立憲君主制のもとでは天皇のできることは限られていた。しかし、国体を守るために国が
 戦争に突き進んで大敗北する方向に進んでしまった。
 側近は天皇を傷つけまいと苦労した。天皇を補佐した西園寺公望は本当のところ何を最も
 大切と考えていたのか。次はここを知りたい。

 (メモ)
 ・1901.4.29(明34) 誕生
 ・1905.5 幼稚園入園(青山御所内)
 ・1908.4 学習院初等科入学
 ・1912.7.30 明治天皇死。皇太子に(11歳)
 ・1914年 学習院初等科修了
       中等科には進まず、東宮御学問所で学ぶ
       (1914.5〜1921.2 7年弱)
  [東宮御所での教育]
  杉浦重剛の倫理学
   「天皇統治の日本国のあり方は、個々の天皇の努力によって国民の支持を
    得てこなければ続くことはなかった。」
   政府の天皇観と異なり、天皇神格化と無縁の内容だった。
  白鳥庫吉の歴史
   西洋風の実証的な史学
  →天皇の絶対化・神格化という当時の政府公式見解と異なる合理的・普遍的な
   天皇観・国家観を学んだ。
 ・1921.3〜9 訪欧旅行
   大正天皇の体調不良が続いた。
   天皇になる前に世界を見ておくべきという原敬、山県有朋らの考えがあった。
 ・1921.11 摂政就任
   既に大正天皇は正常な判断力を失っていた。
   摂政就任後も御学問所に近い体制で週3、4日の午前中に学習続く。
 ・1924.1.26 結婚式

  1926.11に西園寺公望が秘書官長に摂政補佐の留意点を説いた言葉
  「此頃の憂国者には余程偽物多し」
  「妄りに皇室の尊厳を語り、皇室をかさに着て、政府の倒壊を策するものすらあり」
  「国粋論者はややもすれば狭き見解に拘泥して他を見ず、固陋甚だしく却って
   有害なり。我国の文明は決して左様のものに非ざるなり。外国の思想文物の
   消化応用の跡を見るべし。」
  →摂政に聖断を求め政争に介入する状況に追い込まれないよう、判断力を育てる
    ことが側近の任務と注意を促した。

 ・1926.12.25 天皇就任
 ・1927.4. 田中義一内閣発足。
   官僚人事などで天皇の不信感募る
 ・1928.5. 優諚問題(水野文相が天皇の優諚によって辞意を撤回したと発言し、問題に)
   田中首相 天皇に進退伺提出 ・・・返却
   新聞報道され、累を皇室に及ぼすと批判される。
 ・1928.6 張作霖爆殺事件
 ・1928.12 田中首相、天皇に真相調査し公表するとの趣旨を報告
 ・1929.3 白川陸相 天皇に 「公表せず」と報告
 ・1929.6 田中首相の報告を天皇承認せず。変節を指摘し、判断を保留。
   (牧野らの助言どおりの対応)
 ・1929.7 田中内閣退陣 ・・・天皇の意向で内閣が退陣した唯一の事例になった。

 ・1930 ロンドン海軍軍縮条約 ・・統帥権干犯問題
 ・1931.9 満州事変
   天皇は裁可してしまう
   世論は支持。以降、天皇の協調外交路線は日本国内の支持を失っていく。
 ・1931.10 十月事件
 ・1931.12 若槻内閣総辞職、犬養内閣
 ・1932.1 桜田門事件(朝鮮人が天皇車列に爆弾投じる)
       上海事変
 ・1932.5 五・一五事件。 犬養首相暗殺、天皇側近も批判の対象に。
       斉藤実内閣
 ・1933.3 国際連盟脱退の詔書
 ・1934.7 岡田啓介内閣
 ・1935  天皇機関説事件
   「昭和天皇の協調外交的、融和的な姿勢は実現しなかっただけでなく、一般に報道
    されることもなかった。むしろ、昭和天皇の権威主義的な一面が拡大していった。」
 ・1935.11 牧野内大臣引退。斉藤実内大臣
 ・1936.2 二・二六事件。高橋蔵相、斉藤実内大臣ら暗殺
 ・1936.3. 広田弘毅内閣
 ・1937.1 林銑十郎内閣
 ・1937.6 近衛内閣
 ・1937.7 盧溝橋事件
       日中戦争長期化
 ・1939.1 平沼騏一郎内閣
       防共協定強化問題

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(13) △ 笑う月 (安倍公房:新潮文庫) 2012.5.3

 安倍ワールドのミニ小説の中に、エッセイ風の文章が混じっているような
 全17編から構成されている。

 2002年に本を読み始めたとき、小説については作家を選び、3冊読むことを
 ルールとした。3冊読めば、その作家について何かを語っても良いだろうという
 考えからだ。
 カフカ、カミュ、ジイドの順に読み、その次が安倍公房だった。
 読んだのは「砂の女」「壁」「燃えつきた地図」だ。それなりに面白かった印象が
 あるが、当時の僕の評価は、○△△と比較的低かった。
 カフカの真似から抜け出ていない印象が強かったかららしい。
 その点から見ると、本書は先に読んだ3作品の雰囲気の焼き直しでしかない。
 あまり印象にも残らず、「変な話」という感想で終わってしまった。

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(12) □ 人間失格 (太宰治:角川文庫) 2012.4.30

 参加を決めていた読書会で今回「人間失格」を選んでいたので読んだ。
 多分読むのは2回目。
 
 主人公の葉蔵が世の中とずれていること、ずれていることを心の支えに
 していること、世の中を恐れていることは、僕の感覚と共通するものがある。
 けれど、ずれ方が大きく異なり、僕の理解できない領域に入っている。

 葉蔵は何人もの女性を惹きつけた。
  「誰にも訴えない、自分の孤独の匂いが、多くの女性に、本能に依って嗅ぎ
   当てられ、後年さまざま、自分がつけ込まれる誘因の一つになったような
   気もするのです。」(第一の手記)
 葉蔵は道化を演じ続けた。
 画塾で、学生から、酒と煙草と淫売婦と左翼思想を知らされた。
  「非合法。自分には、それが幽かに楽しかったのです。むしろ、居心地が
   よかったのです。」(第二の手記)
 そして、情死事件、子連れ女性との同棲。
 ここまでは流れてきていたが、ヨシ子を内縁の妻にしたところで何か変わった
 ように感じる。葉蔵自身には変化があるが生活自体は流れるままに悪化していく。

 太宰治が本作品を書いたのは1948年の3月から5月。女性とともに死んだ
 のが同年6月。時期を見ると、本作品の葉蔵は太宰自身であって、本作品を
 書いたことで自身の人生を振り返り、自殺へと進まざるを得なくなったのかも
 しれない。
 作品の最後で、葉蔵と親交のあったバーのマダムに、「私たちの知っている
 葉ちゃんは、とても素直で、よく気がきいて、あれでお酒さえ飲まなければ、
 いいえ、飲んでも、・・・・・神様みたいないい子でした。」と言わせている。
 太宰自身が最後に自己弁護として言わせた言葉と捉えると、単純すぎる
 だろうか。

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(11) □ 実存と構造 (三田誠広:集英社新書) 2012.4.29.

 実存主義と構造主義という思想がある。「実存」という単語はなじみがなく
 実態がわかりにくい。「構造」は単語はわかるが、主義と結びつくと途端に
 曖昧にしか捉えられなくなる。
 著者は、実存主義を社会からの精神の解放を意味し、構造主義を解放
 された精神も社会の枠組みの中にあるという考え方を意味するとして、
 主に文学の面から、2つの考えの流れを紹介している。

 社会から解放されると、自由になる。自由は人からおとぎ話を奪い、現実に眼を
 向けさせる。そして、「変身」のような虫けらの人生に陥りやすくする。
 さらに、社会から解放されたはずが、不気味な権力機構である国家によって
 拘束されだし、絶望感や無力感に苛まれる。
 一方で、歴史的な視野に立つと、悩んでいる個人にとっての特殊な状況は
 過去に何度も繰り返されてきた枠組みの中で解決の糸口が見つかるものかも
 しれない。
 そこで、解放としての実存と、解決の方向性としての構造との接点が見えてくる。

 それは可能性としてであって、確実なものとはいえないかもしれない。
 それでも、特殊性と普遍性の両面を意識することは忘れてはいけない重要な
 ことなのだ。

 著者は最後の2章で、実存と構造の視点から大江健三郎と中上健次を紹介
 している。大江健三郎の「万延元年のフットボール」が構造主義的であることは
 間違いない。たぶん、私が読んだ小説の中で最初でそして最も構造主義的な
 作品だったように今になって思う。
 中上健次の「枯木灘」を構造主義的作品として挙げているが、私が最初の方で
 進めなくなって断念した作品だ。入り込みにくかった印象しか残っていない。
 どこかで再チャレンジする機会が出てきそうだ。

 本書だけだと得るものは必ずしも多くは無いが、進んでいく入り口としては
 大きい可能性を有している。

 (メモ)
 ・自分の外部にあって自分を拘束する、神のような絶対者を失った人間は、
  生きていくことに飽きてしまうのだ。
 ・他者や風景などの見慣れた事物を含めた、外界の存在の一切に対する
  違和感
 ・本質が先にあるのではなく、現実に生きることによって本質が見えてくる
  ような存在が、「現実存在」すなわち実存である。
 ・同じ条件があれば同じ物語が独立に発生するというのが、構造主義の
  思考モデル
 ・悩んでいる個人が、悩んでいる自分自身を俯瞰して眺めるような大きな視野を
  もったとしたら、違った角度から自分の置かれた状況を見ることにつながり、
  そのことが新たな局面への突破口になるかもしれない。

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(10) △ そうか、もう君はいないのか (城山三郎:新潮文庫) 2012.4.20.

 作家の城山三郎氏が、亡くなった妻の思い出を記した本。
 城山氏自身が亡くなってから原稿をまとめたらしく、城山氏が健在なら
 書き換えたのではと思われるような気恥ずかしい箇所があった。
 城山氏の妻の死は2000年。城山氏の次女によるあとがきによると
 妻の死後、城山氏は現実を遠ざけ、墓参りもしないし、妻との思い出の
 家にも戻らなくなったそうだ。2007年の城山氏の死までの日々は
 城山氏には余分な人生だったのかもしれない。
 本書で最も印象に残るのは、タイトルにもある「そうか、もう君は
 いないのか」という言葉だ。本書はその言葉に尽きるし、それ以上の
 ものはない。
  

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(9) △ 巡礼 (橋本治:新潮文庫) 2012.4.12

 帯に、「男はなぜ、ゴミ屋敷の主になり果てたのか?」と書かれている。
 終戦時に中学1年だった下山忠一の戦後の生活を描いた第2章は惹きつける
 ものがある。しかし、その生活とゴミ屋敷が繋がらない。巡礼とはさらに
 距離がある。
 答えを出すのが小説だとは思わない。しかし、繋がりを感じさせなければ
 失敗作となるだろう。
  

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(8) △ 骸骨ビルの庭 (宮本輝:講談社文庫) 2012.3.27

 久しぶりに宮本輝氏の作品を読んだ。
 以前に読んだ中では、初期の作品の「道頓堀川」「蛍川」「泥の河」は
 良かったが、10年くらい前の「月光の東」「錦繍」は面白くなかった。
 今回読んだ作品は2009年に出したもので、タイトルは面白そうだった
 けれど、残念ながら今ひとつの感は拭えなかった。
 
 戦後、進駐軍が一時入っていた通称「骸骨ビル」。
 進駐軍が出て行った後、所有者の妾の子である阿部轍正が住み
 何ゆえか孤児たちが次々とやってきて面倒を見ることになる。
 それから数十年経ち、阿部轍正は既に亡くなった骸骨ビルに
 立ち退きさせるために八木沢省三郎がやってきて、ビルに関わる
 かつての孤児たちの話を聞く。
 
 設定は興味深いが、緊張感がない状態で進んでいく。脅されても
 なぜ暢気に過ごせるのかわからない。何か大切なものが欠けている
 ような気がする。
 

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(7) □ キャリア・アンカー (エドガー・H・シャイン:白桃書房) 2012.3.24

 先日読んだキャリアカウンセリングの本にキャリアに関する理論の章があった。
 そもそもキャリア理論という言葉を聞いたことがなかったので、なんにでも理論が
 あるものだと感心した。
 その中にシャイン氏の理論があり、「キャリアアンカー」について少しだけ書かれていた。
 「キャリアアンカー」とは、自分がどうしても犠牲にしたくない、本当に大切な価値観を
 意味している(と思う)。

 それだけだと大して面白くないが、キャリア理論の面白いところは、漠然とした
 「キャリアアンカー」を8つに分類し、ほとんどの人はどれかに当てはまると結論付け、
 さらに、自分がどこに分類されるかを調べる方法を具体化している点にある。

 その方法の一つ目は40個の質問に1から6までの数値で答えるだけだ。
 一方で二つ目はかなり難しく、パートナーの質問に答える中で見出すという高度な
 ものになっている。
 二つ目を一人ではできないので取り合えず一つ目だけをやってみた。

 すると上位に僅差で二つのキャリアアンカーが現われた。質問に答えるときには
 自分自身に大してでさえ幾分かは格好つけたりしてしまうのでどこまで正確に
 分析できるかに疑問を持っていた。しかし結果は考えさせるところがあった。
 よく心理テストをTVで面白くやっていて信憑性が怪しいと思っていたが、案外真面目に
 やってみると合っているのも多いのかもしれない。

 そんなことを思うようになり、この本の後、「心理学」(東京大学出版会)を少しずつ
 読むことになってしまった。
 

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(6) ○ 日本の土木遺産 (土木学会編:講談社ブルーバックス) 2012.3.15

 明治の終わりから昭和の戦前までに作られた土木建設物を紹介している。
 僕にとって土木という言葉はかなり遠いところにあるが、紹介されている橋や
 トンネル、駅は魅力的だった。近くに行ったら寄ってみたいものばかりだ。
 少し残念だったのは、本文中で専門用語を用いて構造の説明をしているため
 専門用語を知らない私にはわからないカタカナが並んでいる時があったことだ。
 注釈か補足解説があればもっとよかった。

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(5) □ キャリア・コンサルティング実践学 (渡部昌平:雇用問題研究会) 2012.2.23

 この分野では常識なのかもしれないが、本書の前半には僕にとって興味深い
 データがいくつか書いてあった。
 「753現象」という言葉があるそうだ。中卒の3割、高卒の5割、大卒の3割が
 就職後3年以内に離職する状況を意味している。
 最近は大卒の35%が3年以内に離職しており、経済状況が良くないのに
 やや意外な数字だ。
 また、日本では自営業が減少しているとも書いてある。
 自営業主は、昭和57年に954万人いたのに、844万人(平成4年)、704万人
 (平成14年)、668万人(平成19年)と激減している。
 さらに、日本人の仕事意欲は世界主要国で最低レベルという調査結果も紹介
 されている。昔は仕事人間などという言葉もあったのに、最近は変わったという
 ことか。

 本書はキャリア・コンサルティングの小冊子なので、後半は職種別の状況や支援例が
 書かれている。しかし、一般的な内容に留まっていてあまり面白くない。
 ただ、最後に紹介された厚生労働省「キャリア健診研究会報告書」のキャリアと仕事に
 対する満足度の調査結果はなるほどと納得した。
 キャリアと仕事に対する満足度が最も高いのは、キャリアについて積極的な関心を抱き、
 自己啓発をし、キャリアデザインをしている人だ。一方、満足度が最も低いのは、全く
 無関心な人ではない。キャリアについて積極的な関心を抱き自己啓発もしているが、
 キャリアデザインをしていない人だった。「将来展望なき前向き努力」は仕事とキャリア
 に対する満足度を下げてしまうそうだ。実によくわかる。

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(4) □ 経済大国インドネシア (佐藤百合:中公新書) 2012.2.16

 インドネシアは2004年にユドヨノ大統領が就任して以来、民主主義が定着し
 政治的に安定した。今後、世界第4位の人口を背景に経済的に大きく成長して
 いくだろうと本書では予測している。
 本書で最も印象に残ったのは第1章の最初に紹介されていた一人当たりの実質
 GDPの2000年間にわたる長期的変遷のグラフだ。イギリスのアンガス・マディソン
 という経済学者が出したものだそうだ。
 最初の1000年は差が小さかったが、19世紀に国ごとの差が急速に広がった。
 そして20世紀半ばまで拡大を続けた。しかし、それ以降、格差は縮まる傾向を
 示している。
 一人当たりの経済格差が小さくなっているとすると、経済規模は人口に比例する
 傾向が強まる。つまり人口の多い国が経済的パワーを持つようになる。それが
 今の経済状況の根本にあるという。
 中国やインド、その他の新興国の人口が多いのは今に始まった話ではないが
 最近急速に経済的な力が増しているのは、経済的な均一化が進みだした結果と
 捉えると納得のいく話に思える。

 (メモ)
 ・人口増に伴い、毎年、200万人の新規参入労働者が発生する。
  失業率を増やさないためには、最低限6%の成長が必要になる。
  したがって成長率6%がインドネシアの経済の明暗の分かれ目になる。
 ・1997年から2006年まで、経済成長率は6%を下回った。
  この間の平均成長率は4.4%。
  失業率は4.7%(1996年)から11.2%(2005年)に上昇した。
 ・歴代大統領
  スカルノ  (1945−1966)
  スハルト  (1966−1998)
  ハビビ   (1998−1999)
  ワヒド   (1999−2001)
  メガワティ (2001−2004)
  ユドヨノ   (2004−)・・・国民直接投票
 ・日本や韓国、台湾では経済水準の上昇とともに農業人口比率が急速に下がったが
  インドネシアでは農業人口比率が途中から低下せず、農工間の雇用転換を伴わない
  経済成長が起きている。(農業も成長している)
  

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(3) □ キャリアカウンセリング (宮城まり子:駿河台出版社) 2012.2.5

 キャリア、キャリアカウンセリングとは何か、ということから始まっている。
 面白かったのはキャリアカウンセリング理論。
 そもそも、キャリアカウンセリングに理論があるとは思っていなかったので
 期待は小さかったが、いろいろな見方があることがわかって新鮮に感じた。

 理論の最初は、特性因子理論。これは、個人の「特性」と仕事が求める要件
 「因子」を結びつける、つまり、人と仕事をいかにマッチングさせるかに重点を
 置いた考え方。たぶん、もっとも基本となる捉え方だろう。
 次にスーパーの理論。これは、キャリアが生涯発達し変化するものと考え、
 キャリア発達が人生の役割と密接に関係するとしている。
 3番目は、ホランドの理論。人の性格を6つに分け、対応する6つの職業タイプを
 示している。これだけだとつまらないが、この6つを6角形の頂点に置き、隣り合った
 性格を併せ持っている場合は仕事を見つけやすいが、対角にある性格を併せ
 持つ場合は、異なる興味や能力をどう仕事に活かすかが課題で内部に葛藤を
 有し、仕事を見つけにくいとしている。ここはなるほどと納得。
 その他、いくつかの理論を示した後、キャリアカウンセリングの進め方、面接方法
 などを紹介している。全体を少しずつ紹介している感じなので不満も残るが
 おそらくはうまく全体をまとめているのだろう。
 キャリアの理論があることを初めて知ったので、もう少し深く知りたいと思っている。

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(2) □ 夫が多すぎて (モーム:岩波文庫) 2012.1.9

 夫が第一次大戦で戦死と伝えられ、妻は夫の友人と再婚。しかし戦死は
間違いで3年後に夫が戻ってくる。深刻に思える状況の中で、身勝手な性格の
妻と、これを機に離婚したがる2人の夫をうまく表現して楽しませてくれる。
たぶん、海保真夫氏の訳も良いのだろう。

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(1) ○ 赤目四十八瀧心中未遂 (車谷長吉:文春文庫) 2012.1.8

 初めて車谷長吉氏の作品を読んだ。最近は小説と新書など2、3冊の本を
並行して読むことが多いが、本書は途中で他の本に切り替えることを許さなかった。
惹きつけて離さない迫力に満ちていた。その力にまかせてこの本だけを読み進んだ。
作中の「私」は大学を出て会社勤めをしていたが、何の当てもなく会社を辞め、漂流
生活をすることになる。33歳で尼崎に行き着き、焼き鳥屋で使う豚や鳥の串刺しを
毎日続ける生活を送る。その豚や鳥は病気で死んでいる。作業は住んでいるアパート
の一室で行っている。周辺には普通でない人たちが暮らしている。その中の美しい朝鮮人
「アヤちゃん」との逃避行が終盤に展開される。
暮らしている環境はかなり特殊だ。しかし、なぜか自分のことのように感じられる。
ドストエフスキーの小説でも同じことを感じた。優れた小説ならではだろう。
もしかすると、特殊だからこそ本質的に共通するものが見えてくるのかもしれない。
今年は1冊目からすごい小説家に出会った。かなり濃厚な小説なので別の作品を
続けて読むのはつらいけれど、読まずにはすませられなくなりそうだ。

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