第1章 材料及び接合部の荷重変形性能


5 面材の荷重変形性能の特性

近年、合板張り耐力壁や合板を打ちつけた床等、面材が多用されるようになってきています。これらの研究が進み面材の荷重-変形性能の特性が明らかになってきています。また、その成果が構造計算法に反映され、面材の特性を生かした設計が可能になってきています。

本節では、面材についての基礎的な知識とその特性を説明していきます。


5−1 釘の打ち方による面材の耐力の違い

耐力壁に用いられる面材の面内方向のせん断耐力は、釘の太さや長さだけでなく、釘を打つ位置によって大きくかわってきます。一般にみられる面材壁の釘打ち仕様としては次の3つがあげられます。(Fig.1-17)

img:釘打ちの例
Fig.1-17 面材壁の釘打ちの例

この3つの仕様の耐力は実験と計算両方で確かめられています。例えばN50@150で釘を打ち付けたときで、日形を1とすると

釘打ち方日形山形川形
耐力10.780.60

のような関係がほぼ成り立ちます。

山形や川形の釘の打ち方は床や天井勝ちになっている壁(→第3章 1-4 垂れ壁・腰壁・袖壁、床・天井勝ちの間仕切り壁)等で多く見られます。

水平力が加わり、面材がずれ始めると四隅の釘から抜け始めます。川形や山形の場合、釘が面材の辺に直角に近い方向に抜け出すので、面材の端から十分な距離をとって釘を打ち付けていないと、面材が引き千切れて耐力が低下し、脆性的な破壊を引き起こしやすくなります。(Fig.1-18)

第3章 1-4 垂れ壁・腰壁・袖壁、床・天井勝ちの間仕切り壁


img:釘の抜け出し
Fig.1-18 変形時の釘の抜け出し

5−2 面材の抵抗力の考え方

面材壁の性能を考える場合、最初に説明したとおり、面材自身の性能と、面材を留付けている部分の性能の両方を考える必要があります。しかし、実は面材の剛性は釘の剛性よりも十分に大きく、通常の耐力壁では面材は変形しないとみなすことができるのです。したがって、面材壁の性能は接合部(釘)のせん断変形だけを考えるだけでよいことになります。

さらに、次に説明する原理から、釘1本の荷重-変形性能が求めてあれば、それを使って面材の耐力は計算で求めることが出来るようになります。

力の釣り合いから水平力Pによる剛体回転モーメントP・Hに釣り合うために、面内にもモーメントM=P・Hが生じます。このモーメントは、鉛直方向の反力によるモーメントR・Lに釣り合います。(Fig.1-19)

img:壁に生じる力の釣り合い
Fig.1-19 壁に生じる力の釣り合い

梁の曲げモーメントが  (梁断面内の微小要素に生じる材軸方向の応力×中立軸からの距離)の総和  で表わされるように、このモーメントMも  (面材に打たれた釘のせん断力×中立軸からの距離)の総和  で表すことが出来ます。

この考え方を使うと面材の抵抗モーメントは、釘のせん断耐力を用いて、梁の曲げと類似の方法で求めることが出来ます。そのモーメントを壁の成で除してやれば壁の耐力が求まります。

また、合板は変形しないと仮定しているので、弾性変形の範囲では中立軸から釘までの距離と釘の応力の間に比例関係が成り立ちます。そこで、梁の場合と同じ様に、応力に関する項をモーメントの釣り合い式から取り除いてやると、梁の断面2次モーメントと同様な幾何学量が得られます。これは釘2次モーメントといわれます。(Fig.1-20)

img:釘抵抗のモデル化
Fig.1-20 梁の断面2次モーメントと釘2次モーメント