地獄谷を連想させる荒々しい旅館周辺の自然、稀有な緑色の温泉、豊富な湯量、すべて源泉100%掛け流しの情緒ある内湯と野趣タップリの混浴露天風呂、簡素だが懐かしい食事、トイレの付いた落ち着いた和室・・・これで1万円。何とコストパフォーマンスのよい宿だろうか!
秘湯の宿が高級旅館に変身する事例が相次ぐ昨今、石塚旅館がいつまでもこのままであって欲しい、と心から思った。
風 呂
風呂は男女別大浴場と小浴場、混浴露天風呂と女性用露天風呂の合計6ヶ所がある。
●なぜ緑色になるのか?

「中性条件下での硫化水素と硫黄の反応によって生じる多硫化イオン(黄色)を基調にし、それに主として炭酸カルシウムコロイド粒子によるレイリー散乱の青色が加わって緑黄色を呈している。」

理系に弱い私にはさっぱり理解できないが、せっかくメモってきたので記載する。
全国でも珍しい緑色の温泉。
私の知っている範囲で緑の温泉は、ここと志賀高原・熊の湯温泉だけだ。

前回、ここに立ち寄ったとき、「次回は必ず泊まるぞ」と固く心に決めていた憧れの温泉だ。
今回の東北行の宿を選ぶとき、迷うことなく一番最初に決めたのが石塚旅館だった。

泉質は硫黄泉(含硫黄ーナトリウムー炭酸水素塩泉)で、強い硫黄臭、口に含むと猛烈に苦い。

宿のすぐ裏側から湧出する温泉は、湯量が200リットル/分、湧き出たときは透明だ。
これがなぜ緑色に変化するか、東北大の研究の要約が館内に表示されていた。
この緑と透明度は風呂・時間の経過等によって微妙に異なる。
雫石町の名が全国的に知られたのは、不幸にも1971年7月30日、千歳空港から羽田に向う途中の全日空B727機が雫石上空で自衛隊機と空中衝突し、162名が死亡した航空機事故によってであった。

町は人口2万人弱、、四国4県とほぼ同じ面積を持つ岩手県の北西部に位置し、東は盛岡市、西は秋田県に接している。

町の大部分は、日本100名山・岩手山(2、038m)南西の山麓にあり、「山と牧場といで湯の町」である。

「牧場」としては、乳製品の全国ブランドである「小岩井農場」があり、「いで湯」は、鶯宿温泉・国見温泉・網張温泉、玄武温泉など、10湯以上の個性が異なる小さな温泉地が町域に点在している。
国見温泉・石塚旅館は、岩手県の最西端、活火山の秋田駒ヶ岳の南側中腹(約900m)にあり、「日本秘湯を守る会」の会員旅館である。
3年ぶり2回目の訪問だが、今回は宿泊して、全国でも稀有な緑色の温泉を存分に楽しんだ。
営業は5月上旬から11月上旬までで、冬季は休業している。
石塚旅館に予約を入れたのは5月1日、ちょうど冬季休業を終えて間もなくオープンするとのことだった。

ここは、もと南部藩が所有する湯治場であったが、現在の当主である石塚氏の曽祖父が譲り受け現在に至っている。
創業200年の看板が立っている駐車場に車を停めると、目の前に洒落た山荘風の建物が横に広がっている。

一見、信州の洒落たペンションのように見えるが、館内に一歩入ると、外観と違って秘湯の宿そのものだ。

右手に小窓があく帳場、ロビーらしきものは無く(実際はすこし離れた場所にある)、いきなり古びた木造の階段や廊下が奥に続く。

国見温泉 石塚旅館 (岩手県)
温泉名 : 国見温泉
施設名 : 石塚旅館  (立ち寄り:2004.6.5 宿泊:2007.5.11)
所在地 : 岩手郡雫石(しずくいし)町
岩手山
小岩井農場
国見温泉は秋田県との県境、近年噴火した秋田駒ケ岳(1,637m)の中腹、標高880m地点にあり、石塚旅館と森山荘の2軒の宿がある。

十和田八幡平国立公園に指定されている周辺はブナの原生林や熊笹が生い茂り、旅館の周囲は白茶けた岩肌がむき出しになって、強烈な硫黄の臭いが漂っている。
まさに秘湯の雰囲気だ。

岩手県雫石町と秋田県田沢湖町を分ける県境、国見峠の下を国道46号線の仙岩トンネルが貫いている。

この日、田沢湖方面から山間を走る国道46号線に乗ってこの仙岩トンネルを通過して間もなく、国見温泉の案内板が左手に見えてきた(盛岡方面からは仙岩トンネル手前右側)。

案内板に従って左折、秋田駒ケ岳の南麓を巻く県道に入ってぐんぐんと高度を上げて7kmほど進む。

縮尺の小さな地図でようやく表示されるこの道には落石マークもついているので、狭くてスリリングな隘路を想像しがちだ。

3年前に来たときは、1.5車線部分がかなりあったと記憶していたが、拡張されたのだろうか、宿に到着するまで2車線道路になっていた。

しかし、途中から霧が出てきて緊張、ライトをつけてセンターラインを頼りに、ノロノロ運転でようやく石塚旅館に到着した。
山間を貫く国道46号線の仙岩トンネルを抜けると間もなく左折。(田沢湖方面から)
霧が出てきてセンターラインが頼り。
ロッジ風の洒落た外観。
しかし一歩館内に入ると秘湯の宿そのもの。
創業200年の看板
廊下に色々なものが・・
長い洗面台
こざっぱりした8畳和室に広縁(トイレ付き)。備え付けのテレビは、空気中の成分で3〜4ヶ月で故障するという。(100円で1時間見られる)
駐車場は立派
平日2人1室(T) @10,000円(税別)
昔ながらの湯治場、そして駒ケ岳への登山客が利用してきた山小屋の雰囲気が、館内至る所に漂っている。
温厚で控えめなご主人(多分)はいつも帳場に座っていて、女将と言うよりも奥さん(多分)は、明るくて声が大きくて館内を走り回っている。
身内かな、と思われるスタッフも飾り気無く親切に応対してくれる。

旅館部の部屋数は全部で25室、その内トイレ付きが9室ある。
別に昔ながらの自炊部が3棟・22室ある。
料金は、自前のホームページが無いので最新の旅館部の宿泊料金は分からないが、2007年度版ガイドブック(昭文社 温泉&宿)によれば、8,550円〜12,750円となっている。
データは変更されている可能性もあります。お出かけ前にご確認ください。
住 所 岩手県岩手郡雫石町橋場竜川山1−5
電 話 090-3362-9139(現地衛星電話)
019-692-3355(雫石事務所 冬季間)
交通機関 東北自動車道盛岡ICから国道46号線・県道266号線で約35km
JR秋田新幹線(田沢湖線)雫石駅からタクシーで約40分
施設(日帰り用) 食堂(食事付き入浴 要予約) 湯上り処、駐車場50 
宿 泊 25室(T付き9室)8,550円〜12,750円・・・2007年版ガイドブックより)  他に自炊部22室
ホームページが無いため直近の宿泊料は不明につき、電話で確認下さい。 
泉 質 含硫黄ーナトリウムー炭酸水素塩泉(PH7.1 泉温53℃)
適応症 不記載(理由は「温泉の基礎知識ー温泉の効能」参照)
入浴時間 土・日・祝日 10〜16時  平日 9〜17時
定休日 営業中は無休、冬季11月上旬〜5月上旬まで休業
入浴料金 大人500円 
入浴施設 内湯男女各2、露天風呂混浴1・女性用1
浴室備品 シャンプー、ボデイソープ、ロッカー、混浴露天風呂は備品なし
観光スポット 田沢湖、角館、小岩井農場、駒ヶ岳登山
お土産・食事 盛岡市、小岩井農場、角館、田沢湖、八幡平等で 
(予約をすれば食事付き入浴可能)
近くの温泉 玄武温泉、網張温泉、鶯宿温泉、雫石温泉、永沢温泉郷、田沢湖高原温泉郷、乳頭温泉郷玉川温泉
雫石町HP
http://www.town.shizukuishi.iwate.jp/
雑記帳 国見温泉と熊の湯温泉以外に緑の温泉があれば教えてください。
この日は、前日宿泊した青森県嶽温泉を出発、日本海側に出て国道101号線を南下、かの「黄金崎不老死温泉」(追って掲載)に立ち寄った。

その後、世界自然遺産・白神山地の片隅を観光したりしたので、石塚旅館への到着が4時過ぎになった。

加えての濃霧、写真撮影が出来るかどうか心配だったので、荷解きもせずに手ぬぐい・タオルとデジカメを持って待ち焦がれていた混浴露天風呂に走った。
旅館の裏手から外に出て、30mほど歩く。白茶けた大小の岩石が転がる斜面には木が一本も生えておらず、あちこちに残雪がある。
その上に強烈な硫黄の臭いと折からの霧が絡まって、まるで恐ろしい地獄の雰囲気だ。

左手には源泉と思われるコンクリートの箱が埋め込まれていて、そこから樹脂パイプが伸びている。
転倒しないように足元に気をつけて歩くが、5月半ばなのにとても寒い。
素朴な黒ずんだ木造の簡便な脱衣室の向こう側に風呂がある。
前回入浴の際の風呂。日中・快晴の条件下の撮影で、鮮やかな黄緑色だった。このときの鮮烈な感動は今も忘れられない。
夕方、霧の気象条件で撮影の風呂。左と比べると濃い緑で沈鬱な雰囲気だ。浸かると、源泉温度が54℃にもかかわらず、やや温めで快適、体が包み込まれるような感触だった。
ここが源泉だろうか。金属は使えないので樹脂のパイプが用いられている。しかし、10cmのパイプが2年で詰まるそうだ。
脱衣所の屋根の下に立つと、眼前に2mx6m程度の長方形の風呂、周囲は温泉成分が厚く付着して白くなっている。
あふれ出る湯は、前に入浴したときより緑が濃く、透明度が高いように見える。
思わず、心の中で「また来たぞ」と叫んだ。
周囲は鋭い岩石で囲まれている。しかし風呂全体が低い所にあるので周囲からは丸見えだ。
,風呂の底は湯の華が泥状になって沈殿していて、歩き回るとこれが舞い上がる。
温泉で手が煤けたように黒くなっている。体に鉄分が付着しているとこうなるらしい。この日に立ち寄った黄金崎不老ふ死温泉の湯に鉄分が含まれていたのかもしれない。
露天風呂に浸かった後、内湯に向かう。

新しい大浴場と従来からの小浴場があるが、雰囲気・湯の新鮮さなどは小浴場の方が断然優れてる。

曲線を描いた風呂の縁と床は、長年のあふれ出す温泉の成分で見事な文様が描かれていた。
緑がより鮮やかに見えた小浴場。湯の鮮度がいいのだろうか、それとも湯の交換が早いためだろうか、他の風呂より透明度が高く、文字通りエメラルドグリーンだった。
比較的新しいと思われる大浴場はしっとりした雰囲気だ。ここの色は翡翠の深い緑だった。内湯2つを比較すると小浴場の方が味わい深く、温泉の鮮度も勝っているように思えた。
この緑の温泉は、日本中の3000ヶ所を越える風呂に入浴している温泉評論家の方々にも大きな感動を与えている。

「温泉チャンピオン」の郡司勇氏は、彼らしく成分にこだわり、「総硫黄が万座などに続いて全国第4位であり、硫黄臭の強さと合わせて全国屈指の硫黄泉」と述べるとともに「緑色の美しさは志賀高原の熊の湯と並んで日本一」と情感的なことも記述しておられる。

また「温泉教授」も松田忠徳氏は「こと泉質に限っていえば、国見は私にとって最も印象づけられた温泉で、色鮮やかな入浴剤を混ぜたような緑色には衝撃を受けた。」と新日本百名湯で述べておられる。

私も比較するために熊の湯にも浸かったが、熊の湯は含有成分が少なくて透明度が高く、爽やかなメロンソーダの緑、一方国見温泉は、濃厚な成分に裏打ちされた神秘的で輝度が高いエメラルドあるいは翡翠の緑、という印象を持った。
日帰り入浴料金は大人500円、入浴時間は、土・日・祝日は10時〜16時、平日は9時〜17時となっている。
温泉が作る美しい文様(小浴場)。
右手が脱衣場、雪がまだ残っていた。
館内から出て露天風呂へ。足元が悪い。
お馴染みの「日本秘湯を守る会」の提灯
塩鮭・納豆に生卵・・この簡素さが懐かしさを感じる。
秘湯の宿らしく、素朴な料理と食器、何故かほっとする。
夕食・朝食とも大衆レストランらといった雰囲気の食堂で取る。
食 事