風のささやき D


【知らぬは亭主ばかりなり】

警官は 夜勤のため その日の遅く家を出た

駅に着くと大粒の雨が降り出したので 彼は自宅にとって返した

ベッドルームの窓に向かって 下から叫んだ

「おーい おれのレインコートを投げてくれ」

ネグリジェを着た妻が窓辺にあらわれ レインコートを投げた

警官はそれを着て 急ぎ足で駅にもどった

駅について気がついた そのコートは消防署員のものだった


【負けるのが楽しいとき】

妻が言った 「ねぇ あなた」

「なんだい?」

「世の中には勝つことよりも 負けるほうが楽しい場合もあるのね」

「おや そうかい」

「ええ わたし 今日 誘惑に負けちゃった」

「えっ?」


【うっかりひと言】

浮気をしている夫

「夕べ呼んだ名前 だれなの 忘れないからねッ!」

女房にきつく言われてショックを受けた矢先 明け方目をさまして 自宅だというのに

「あ、いけない 帰えらなきゃあ!」 

すると横にいた女房  「お会計はすませて行ってね」


【寝言】

夜中に いきなり亭主が寝言を言い出したので 女房が目を覚ました

「シュザンヌ シュザンヌ!」

と呼び続ける亭主を揺り起こし

「ねぇ あなた シュザンヌってだあれ」

亭主はさり気なく

「ああ 昨日 わたしが賭けた牝馬さ」

翌日 会社からもどってきた亭主が

「留守中 何も変わったことはなかった?」

「ええ べつに あ そうそう 珍しいことがあったわ あなたの賭けた牝馬が電話をかけてきたわ」


【夢のやきもち】

うたた寝をしていた亭主が うなされてウンウン言うので 女房が揺り起こした

「何か こわい夢でも見ましたか」

「いや こわくはないが 美しい女がおれの手を引いて

錦の布団の上に上がれと言う おれが上がるまいとしているうちに起こされた」

「まったく わたしが起こさなければ大方…」


【残念でした】

隣りのフレッドがジミーに言った

「おい カミさんとキスするときは カーテンおろしてやれよ ゆうべ 見ちゃったぞ」

「残念でした ゆうべは家にいませんでした」


【金】

「金を出せ 出さねぇと命をもらうぞ」

「女房を持ってってくれ 女房がおれの命だ」


【イス】

「どうして奥さんをイスで殴ったんだ?」

「ピアノが重すぎて持ち上がらなかったからさ」