「こんぶ土居」 店主・土居成吉氏

第1回 一日丸ごと勉強会・交流会・登録講師

 

「こんぶ土居」
〒542-0012 大阪市中央区谷町7丁目6-35
空堀本店 TEL 06-6761-3914
       FAX 06-6761-7154
谷町店  TEL 06-6768-6511

 

 

関西交流大学 食文化研究会

紹介文〈祭 作太郎エッセイ〉

★上方食文化の真髄の危機を救え!

チャイニーズレストランシンドロームという言葉をご存知であろうか。
アミノ酸・化学調味料(最近では・・・うまみ調味料と呼ぶそうだ。)
は、L−グルタミン酸ナトリウムが主成分で、この物質は大量に摂取すると、
「チャイニーズレストランシンドローム」といわれる急性中毒を引き起こしたり、
味覚を麻痺させ本物の味がわからなくなるといった弊害があると言われる。
特にアメリカ人が嫌悪を持っているらしい。

中華料理のみならず、日本で生まれた化学調味料は、
本国以上にアジア各地で浸透している。

例えば、タイでは化学調味料抜きのタイ料理など考えられないくらい
大量に使っていると聞く。
本来、化学調味料は本来アミノ酸を利用した「旨味」を出すためのものだが
辛いタイ料理では「甘み」を出すためにも用いられるそうだ。

日本の有名ラーメン店であろうと、ベトナムの屋台であろうと、
そして貴方の食卓にもあの白い粉は目につく。

このような話をすすめていくと必ず賛否両論で決着がつかなくなる。
まず、化学調味料は安全であるという論理。
実際、大手メーカーのホームページを見ると自然の食物から
安全な製法を用いていると明記している。

また、他の食品添加物も含めて、コスト的にも生産的にも
現在の食卓に天然素材など望みようもないという現状肯定派。
第一、今や化学調味料が当たり前の味であり
舌がしびれる現象どころか、なくてはうまく感じないという
驚くべき調査結果も数多くある。

それぞれの立場や考え方があるだろうし、どれも正確だと思う。

この現代の食の流れに対して、独り頑固に闘うオヤジさんがいる。
大阪下町は空堀の商店街にある昆布屋さんのご主人である。
「こんぶ土居」店主・土居成吉さん。
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江戸時代から明治にかけて、天下の台所と呼ばれた上方(大阪)と
蝦夷地(北海道)を日本海航路で結んで交易したのが北前船。
北前船は蝦夷地(北海道)から昆布やニシンなどの
海産物を集積地である大阪に運び込んだ。

北陸で育ったとろろ昆布など各地の技術を吸収し
大阪は一大昆布加工食品のメッカとなった。
昆布佃煮など保存食にもなり、
嗜好品として食卓の逸品になった。

おせち料理では欠かせないもののひとつが昆布。
「養老昆布」と書いて「よろこぶ」と読ませ、祝いの縁起物になる。
蝦夷地から来るので夷子布(エビスメ)といった。
えべっさん(七福神の恵比寿)にかけて、福が授かる食べ物とも言われた。

また、鰹ぶしと昆布を組み合わせた、
だし汁も大阪の食文化の一つである。

例えば、関東と関西のうどん・そばの出しの味が違うのは
醤油の違いのみならずこの昆布だしを使うかどうかである。
関西では必ず昆布だしを併用する。
これは、鰹ぶしの臭みを消す作用とともに、さらに旨みを引き出すのだ。

この上方食文化の真髄が今や絶滅の危機にあると言ったらおおげさであろうか。

最近、京都の有名な老舗の昆布屋さんで、とろろ昆布を買った。
持ち帰えり、袋をよく見ると原材料に化学(旨み)調味料とある。
「おい、おいちょっと待ってよ、本来昆布そのものが旨みじゃあないのかい!」
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昆布にも天然もの、養殖もの、促成ものがある。
昆布の乾燥方法にしても太陽のもとで時間をかけて干したものや
機械を利用する方法もある。

この「こんぶ土居」店主・土居成吉さんの昆布作りは、とことんこだわる。
天然の原材料しか使用しない。
天然ものの中でも最良と言われる真昆布を採用。
年に1度は産地、道南・川汲浜まで足を運び
生産者との対話を重視することも忘れない。

製品に使う椎茸なら契約農家のもの、原材料も砂糖なら和三盆、
お酒なら純米酒といういう風に一切妥協しない。

では値段も最高級?と思うなかれ。
実際「こんぶ土居」の店内を見回したが商品の値段は200円からあり
贈答品用でもせいぜい5,000円程度である。

「高く仕入れて安く売る」
良いもの作るのは手間をかけないといけない。
その苦労に報いるため、生産者から出来るだけ正当な価格で仕入れること。
一方、安く売る努力も必要で、過剰包装費や広告費をかけない。

生活に困らない程度に
食べ物屋は儲からんでも良いと100年の暖簾を守ってきた。
長く続けてこられたのも「安全で良いモノを理解する」支持者がいたからだ。
ある新聞のインタビューで土居さんはこう述べられいる。
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ところがこの上方食文化が危機である。
「今の人たちは昆布の本当味がわからなくなってきている。」
超人気漫画「美味しんぼ」 に登場する土居さんは語る 。
(単行本第77巻の日本全国味巡り大阪編 小学館刊行)

前述した老舗の昆布屋さんの製品でさえ化学調味料を使う。
せっかくの天然の昆布の旨みを欠いては、本当の価値が下がり
やがて買わなくなる。

この漫画にも登場するが「こんぶ土居」定番商品である
「10倍だし(本格)」がある。

私も実際に自宅で試して見たが凄い。
お湯で10倍に薄めるだけで本当に美味しいお吸い物が出来てしまう。
原材料は天然昆布と鰹節と塩だけである。( 200ml 750円 )
本当に良い素材を使えば、これだけでこんな素晴らしいものができる。
まさに上方が生んだ真髄である。
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土居さんは語る。

食品製造者が安易に化学調味料を使うようになれば、
原材料を厳しく選ぶ必要がなくなります。
こうして作った食品は、本来のまともな食品に比べて安い価格設定が可能ですから、
化学調味料を使わずにひたすら良い食品づくりをしている
製造者は価格競争に敗れます。
こういう状況が食文化の破壊につながります。

それを阻止するためには、食品製造者は、
時代にあった便利な本物を買いやすい価格で作ることが必要で、
同時に消費者に正しい情報を伝えることも大切だと思います。

消費者は、その本質をつかみ、表面的な価格や広告に惑わされないようにしなけれ
ばと考えます。また、少しでも良いものが見つかれば、
それを作っているメーカーと扱っている小売店を支持することも必要です。
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消費者もほんまもんの味の伝統を守るのに
少々値段が高くても、きちんと理解し負担する気持ちが必要だと私は思う。
ことは昆布だけのことだけではないはず。食品全般が今問われている。
いや食品産業だけのことであろか。

さて、我々はこの伝統の食文化を果たして守ることができるのか。
答えは我々自身の中にある。土居さんは今年59才になられる。

◆祭 作太郎 (2003年1月13日)
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【参考資料】
http://mytown.asahi.com/hokkaido/news02.asp?c=5&kiji=509
朝日新聞の記事

<良い食品づくりの会>
http://homepage2.nifty.com/sake-miyagi/yoi-shoku.htm

 

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