CASE3「さりとて無意義は天よりの恵み」
「よいですか」ずずいっと、メイに指を差されてタツマはのけぞった。「ネクロマンシーと言うのは蘇生術じゃないのです。あくまで、“死者”と“対話”するための術なのですよ!」
とりあえず何かに憤慨しているらしい。腰を下ろしてようやく目線が遭う背丈の少女に詰め寄られても、あまり畏まった気持ちにはなれないのだが。
メイ・ネイザーリア――屍骸術師。隠者の森と言うものすごい秘境に住んでいたところを何の因果かタツマが迎えに行ったことを端に、今の腐れ縁が続いている。彼女は寮の扉を開け放ち、いきり立ってタツマへ猛然と叫んできたのであった。
タツマ・アヴェル警部補――つまり自分。共同リビングのテーブルで『六銃忌譚』を読みふけっていたのだが、何が気に食わないのか今の状況に陥っている。
「聞いているのですか! わたしは今日と言う今日ほどネクロマンサーが迫害を受けた日は無いと思っているのですよ! もう、信じられません!」
「君が信じられないものを、俺が信じられるわけ無いだろう?」
当然の抗議をするが、彼女はそれすらも気に入らないらしい。
「そんなことを聞いているのではありません! わたしはですね……」
眉をどんどんつり上げてびしびしと指を突きつけてくる。普段、大人しくて誰に対しても礼儀正しいメイにしては、烈火のごとき剣幕と言える。少し涙目になっているようにも見えた。
それをみて、タツマは本を閉じて溜息をついた。
「……で、何があったんだ?」
BackstageDrifters.