CASE2 「屍骸術師と警部補」
「ですから」パスタを口にしながら、少女はフォークを持つ左手の人差し指をピッと立て「ネクロマンシーは死霊術ではなく、屍骸術と呼ぶのが正式なのですよ」
「ふ〜ん」
タツマ・アヴェル警部補(21)はその説明を聞いてまず食事中に行儀が悪いと思った。
つまり、あまり聞いていなかったのだ。
ネクロマンサーと聞くとどういうものを想像するであろうか?
大方の人間は、伝記や冒険譚に出る悪の魔道師――墓を荒らし、死体を掘り起こしてゾンビやスケルトン等の呪われた生物を傀儡する忌まわしき死の冒涜者――といったイメージを持つのではなかろうか。
そしてその姿ときたら、骨と皮しかない眼窩の落ち窪んだ頭蓋骨の杖を持つ魔法使い。あるいは顔色の青ざめた黒マント姿のヴァンパイアめいた異形の紳士などを想像してもおかしくはない。
だが、実際に目の前でパスタを食べるネクロマンサーは、おかっぱの頭に青のトレーナー、ショートパンツにスニーカーといった普段着のような服装の少女で、杖も折りたたみの技師が持つような普通の物だし、なによりゾンビやスケルトンなどを、
「それって、いつの時代の話ですか?」
などと、きょとんと丸い瞳で断じるのである。
「それはおそらく、戦前に王教徒達によって吹聴されたありもしないデマか、あるいは我々の技を真似ようとした者の失敗作ですね。旧い、まるで大陸を巨大な亀が支えていると信じられた頃の話ですよ」
「そんなイメージがあるんだから仕方ないだろ」
こちらまで無知を咎められた気分になって憮然と答える。
「もしかして、この町の人って、みんなそんな風に私のこと思っているんですか?」
とてつもなく嫌そうな顔をして、首を傾げる少女――メイ・ネイザーリア(14)。
彼女こそは、由緒正しきネクロマンサーの三十三代目にして正統な後継者であった。
そして、きっぱりと彼女が否定してみせるとおり、実際の屍骸術――ネクロマンシーは一般人はもちろん、専門家ですら仰天するほどの奇跡の技だった。
真の屍骸術――
それは『死者の蘇生』以外の何ものでもなかった。
BackstageDrifters.