足跡を目で追いながら、団長が口を開いた。
「いつか話した気もするが...集会場の羆な」
「ああ、あの剥製」
 四つんばいで横を見ているポーズの羆の剥製。
 子供の頃、シャアラは良くその剥製に跨って、そのたびに団長にぶっ飛ばされたものだが。
「それが何か?」
「あの熊はな、お前の親だ」
 腐葉土に足を取られてこけそうになった。
「はい?」
「冗談だ」 苦笑する団長。
「お前、自分が拾われたときのこと、覚えているか?」
「まさか」
 シャアラは孤児だ。どのように拾われたのかは、実はよく知らない
 村人は、木の股に置き去りにされていた、なんてたまに冗談ぽく言うが。
 その冗談ぽくはぐらかすという事実が、よほど難儀な状況で拾われたのだということを容易に想像させる。
「そうだな。俺も全く覚えていない」
 団長が同意する。
 シャアラを拾ったときのことを覚えていないという意味ではない。
 団長もまた孤児だったのだ。
「お前を拾ったのは、ハンナだった」
 それは確か、羆の剥製を作るきっかけになった自警団員の名前だった。
 あの剥製は熊と勇敢に戦い、命を落とした彼の遺言によって作られた。
「シャアラ、お前はなぁ、拾われる前まで熊のねぐらにいたんだよ」

BackstageDrifters.