Broken Myself















あ〜あ、帰るの、予定より20分も遅れちまった・・・。
浩海怒ってるかもなぁ・・・。
ん?
帰り道、軽く走っていたオレの足が、ふと止まった。
うちの前に誰かいる・・・。
「・・・・・・」
げっ!!
たまらなく嫌な気持ちが襲ってきた。
悔しいのでも、つらいのでもない・・・たまらなく嫌な気持ち。
まさか・・・!
そう思ったが・・・
「・・・・・・」
無言でうちに入ろうとした。
「あのっ!!」
キッ
ビクッ
オレは、するどくこいつをにらみつけた。
「あの、私・・・」
「他人ん家の前で、なんの用なんだ!?芸能人の水崎奏美がよぉ!?」
「!?」
相手は、顔をひきつらせて、うつむいた。
ばたんっ!!!
そして、オレは、かまわず、玄関のドアを、思いっきり閉めた。
普通なら、こんなことはしない。普通じゃないからできんだよな。
「ねー、いまのおと、なに?」
「浩海・・・なんでもねーよ。家の前に、人がいたからさ」
「え、誰?」
浩海は、興味しんしんで聞いてくる。
誰?・・・・誰って・・・
「さあ?知らない人」
迷わず答えたオレだった。





それから、1ヶ月・・・・
「なぁなぁ、風星、知ってっか?」
「え、なにが?」
休み時間、いきなり友達から、話を持ちかけられた。
「引退宣言だよ、引退宣言」
その顔は、どこかせっぱつまったように見えた。
引退宣言?
「誰の?」
「おまえ知らねーの?水崎だよ、水崎!去年、この学校にいた」
「・・・ああ、そういや、そんなやついたっけ・・・」
数秒後、思い出したように、オレは答えた。
もちろん、幼なじみなんだ。忘れるはずがない。
1ヶ月前のことだって、はっきり覚えてる・・・ただ、それを、
認めたくないだけ。
だから、別に、どうだっていい・・・それが、本音だった。
「水崎のやつさぁ、来年の3月、芸能界やめちまうんだって。
なーんか、もったいねーよなぁ・・・」
「あっそ、別にいいんでないの?それよりさぁ・・・」
・・・そのとき、オレは、気づくはずもなかった。
教室のすみで、自分をにらんでいる2人の人物がいたことに・・・・。

へー、そっか・・・引退・・・か。






「なんだよ?話って」
日曜日・・・・
柊平とオレたちのクラスメート・西森 愛羅が、うちに来ていた。
愛羅は、柊平の幼なじみであり、もちろんオレとも長年のつきあい。
そして、考えたくもねぇあいつのいとこでもある。
だからって、オレは愛羅まで恨んでなんかいない。
親友の柊平と同じく、幼稚園ときからのつきあいだし、昔は・・・。
今のようになるまでは、、よく(4人で)遊んでたからだ。
めずらしいな・・・2人そろって、オレん家来るなんて。
なんか、“話がある”とか言ってたけど・・・。
「・・・・拳一」
ずっと黙ってた柊平が、口を開いた。
「おまえ、知ってるよな・・・?引退宣言・・・」
ピシッ
「まさか、話って・・・」
「そう、奏美のことよ」
・・・こいつら、オレの気持ち知ってるくせに・・・。
「どーゆーつもりだよっ!?」
オレがどなっても、2人は、ちっとも驚きはしなかった。
「あいつが引退まで出しちまった以上、ちゃんと言っといた方が
いいと思ってな」
「オレには、関係ねーよっ!!」
「いーから、聞けよ」
「・・・・・・・・・」
むかつきながらも、オレは黙りこんだ。
「奏美が“引退する”って言いだしたの、なぜだと思う?」
「さあな?」
そっけなく答えた。
んなの、知るかよ・・・。
「私、こないだ、奏美に会ったんだ。その時、言ってた。
“芸能界なんて、甘いところじゃないし、つらいときもある。
私なんて、単なる商品なんだから、いつ、仕事が来なくなるかわかんない。
だけど、楽しい”・・・って」
「だから?」
「わかんねーのか?」
あったりめーじゃん。わかりたくもねーな、んなこと。
「あいつは、好きだったんだ・・・今までの生活が・・・なのに、それを
やめるって言った。つまり・・・夢を捨てたんだ・・・」
・・・夢を捨てた?
へっ!あいつがなにしようが、オレの知ったことじゃねーぜ。
それより・・・
「1つ聞きてーんだけどよー、おまえら、なんで怒んねーわけ?こんな
勝手なこと・・・」
「じゃあ、聞くけど、おまえは、なんでそんなに怒んの?」
なんでだと?決まってるじゃねーか!
「オレたちに黙って、自分勝手なことしたんだぞ!?あいつ・・・。
怒って、当然だろ?」
怒らない、おまえらの方が変なんだよ!
「・・・・ならね、もし・・・もし、奏美が拳一くんに、あのこと、ちゃんと
話してたとしたら?拳一くん・・・・素直に認めた?」
静かに、1つ1つ言葉を選ぶように、愛羅は告げた。
「おまえのこった。どっちにしたって、怒ったんじゃねーの?」
「だろうな。けどな、話していったんなら、まだマシだ!
オレは、1度も、そんなこと聞いた覚えねぇっ!」
結局、あいつは・・・
柊平は、ため息をついて、言った。
「拳一、おまえ、どんだけ、奏美を傷つけたのか、わかってんのか・・・?」
「なんだと?」
「おまえだって、夢、あるよな?」
夢?
「それが、どうしたよ?」
「・・・拳一や愛羅、オレと同じで、奏美にだって、夢はあったんだ!!
それを、おまえは、一瞬にして、壊したんだぞ!?」
カチンッ
「“一瞬にして”って、どーゆー意味だよっ!?」
「それは、自分で考えろよ・・・思い当たる過去のできごと、いろいろあるだろ?」
「・・・1ヶ月前のこと・・・」
ビクッ
ぽつりと愛羅がもらしたひとことに、オレは、即反応した。
「なんで、おまえら知ってんだよ・・・」
動揺を隠せなかった。
「オレは、愛羅から聞いたんだ。奏美自身は、“内緒にして”って
言ってたらしいけどな」
「へぇ〜・・・だから、なんだってんだ?あれは、あいつが悪いんだ。
自分勝手なことしたくせに、今になって、のこのこ現れやがって」
「拳一くん!奏美のこと、悪く言わないで」
落ち着きながらも、愛羅は、耐えられないと言うように、首を振った。
「拳一の気持ちもわかるけど、奏美の気持ちもわかってやれよ。
・・・ただ、オレたちより、はやく夢を叶えただけだろ?」
「・・・私、こんなこと言える立場じゃないけど、1年前のこと、奏美
すごく反省してるの。苦しんでて・・・毎日毎日、悩んでる・・・」
「拳一に話せなかったのも、無理ねーんだぜ?」
無理ない?
オレは、柊平を見た。
「奏美は、おまえの性格、よく知ってたんだ。言ったら、怒ることも恨むことも
・・・反対することも・・・全部わかってた。だから、あえて黙って
行ったんだ」
「!?」
・・・あえて・・・黙って行っただと?
そういえば・・・オレは、1年前の手紙の内容を思い出した。
あの手紙は・・・芸能界に入ることのオレへの謝罪・・・? でも・・・
「わーったよ、少しはな。でも・・・誰がなんと言おうと、オレは、絶対
許さねーかんな!!」
「拳一くん、奏美は・・・」
「拳一・・・おまえ、そろそろいいかげんにしとけよ・・・」
「!?」
柊平が怒っているのが、はっきりわかった。
「どーして、わかってやれねーんだよっ!!」
「わかりたくもねーんだよ、あいつのことなんか・・・もう、他人なんだから、
関係ねーんだ!!オレの勝手だろ!」
その瞬間・・・
ダンッ
「しゅ・・・柊くん・・・」
「って!なにすんだよっ!!」
突然、柊平になぐられ、壁に頭をぶつけてしまった。
「“関係ない”なんて、よく、んなこと言えるよな!どんなふうになったって
奏美は奏美だろ!?オレたちの仲間だろ!?
昔・・・仲よかったときの・・・あのときの絆は、どこ行っちまったんだよ!!
なんで、こんなふうになっちゃったんだよっ!!」
「あのな、柊・・・」
ビクッ
途中で驚き、絶句した。
柊平のどなり声のせいじゃない・・・。
・・・柊平・・・・身体、震えてる・・・。
「見損なったよ・・・もう・・・いい・・・」
え・・・・
不意に、柊平が切り出し、
バタンッ
・・・帰ってしまった。
「ごめんね、拳一くん!柊くん、あんなこと言うつもりは・・・
私もそうだけど、柊くんの願いは、ただ、昔のように戻りたいだけなの!
こんな状態関係が続くの嫌なのよ!奏美のことと同時に、柊くんの気持ちも
わかってあげて。ねっ?」
早口で、オレにしゃべると、愛羅は、柊平を追って、オレの部屋を出ていった。
「・・・・はぁ・・・なんだよ・・・」
部屋には、オレのため息だけが残った・・・。


“ただ、昔のように戻りたいだけなの!”
“仲よかったときの・・・あのときの絆は、どこ行っちまったんだよ!!”
・・・仲よかったときの・・・・絆・・・?
確かに、そうだよな・・・。
今のオレたちの関係は、昔からは想像もつかないほど・・・比べものなんかに
ならないほど、壊れてる・・・。
もう2度と、元には戻らないほど・・・・。
あのできごとがあってからオレは、あいつを恨み、勉強や部活に打ちこんだ。
そして、気がついたら、もうオレは、昔のようじゃなかった。
性格が変わって・・・まわりの友達や家族以外、特定の人以外には、
冷たくなり・・・わがままになってた。
あいつに対しての、恨みや憎しみばかりが、よみがえって、人を思いやる
余裕なんてなかったんだ・・・。
余裕がなかったのは、もちろん、それだけじゃなかったと思う。
受験や部活、それ以外にも、思い当たる理由は、たくさんあったから・・・。
もちろん、あいつを許すなんて気持ち、少しも持ってなかった・・・。
・・・今になって考えてみると、柊平の言ったとおり、あいつは、夢を
はやく叶えただけ・・・それは、認めるし、オレもさんざん傷つけた。
あいつだけじゃない・・・柊平や愛羅まで。
今さら、こんなこと言ったって、遅いのはわかってる・・・。
だけど、オレだって、奏美のしたことを許すことはできない・・・。
確かに、奏美の気持ちも、少しだけわかった気がする・・・。
でも、やっぱり許せなかったんだ・・・オレには・・・。
どうしても、納得できなかった・・・。
“奏美は、オレのこと信じてなかったんだ・・・・”って、そう思いこんでた。
だから・・・あいつは、オレにとって、許せないことをした。だけど・・・オレが
同じようにあいつを裏切り、傷つけたことも事実。
オレも悪かったけど・・・
「・・・おまえだって、悪いんだぜ・・・奏美・・・」
1年ぶりに、オレは無意識のうち、あいつの名前を出していた・・・。





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