Broken Myself















「拳一、なんの本買ったんだよ?」
本屋からの帰り・・・オレ、風星 拳一の親友・内田 柊平が話しかけてきた。
「参考書」
「えっ!?」
「な〜んてな、コミックスだよ、マンガマンガ!」
「なんだよー・・・でも、いーよなぁ。成績、学年トップなだけあるぜ。
受験生だってのに・・・ったく・・・オレとは大違い」
感心したように、柊平が言った。
こいつとは、幼稚園ときからのつきあい。
部活も同じ陸上部で、50メートル走のタイムも、ほとんどいっしょ。
オレのライバルでもあるんだ。
オレたちは、明水中学校の3年生。
今は、10月で・・・オレたちは、来年の3月、受験をひかえている
受験生だった。
「あ〜あ、それにしても、腹へっちまったなぁ・・・」
「そこの店、寄ってくか?」
という、柊平の提案で、オレたちは近くにあった、ファーストフード店に入った。
「いらっしゃいませー!」
「さーてと、どーす・・・」
ビクッ
その瞬間、店内にあったテレビを見て、オレは思わず後ずさった。
「?・・どーした?拳一」
「・・・柊平・・・悪いけど、オレ用事思い出した。先、帰る。ごめんな!」
ダッ
柊平が何かを答える前に、オレは、いちもくさんに店を飛び出した。

バタン!!
「ただいまーっ!!」
「あ、にーちゃん、おかえり〜」
例のファーストフード店から、走って帰宅。
家の玄関を開けると、弟の浩海が、笑って出迎えてくれた。
浩海は、オレと8歳離れた小学1年生。
「おっ、浩海。今日は、悪さしてないだろーな?」
「うん!きのうみたいに、コップわったりしてないよ。だいじょうぶ!」
「そーか・・・」
・・・オレは、そのまま、部屋に戻った。

・・・まただ・・・また、あいつが・・・。


「拳一!」
次の日、学校での昼休み
。 オレが机でボーっとしていると、柊平が、オレのところにやってきた。
部活だけでなく、クラスも同じオレたち2人。
「昨日のことなんだけどさぁ・・・」
昨日?
「買ったやつ、貸してほしいのか?」
「そーそー、昨日の・・・じゃねーよっ!!」
途中まで笑っていた柊平は、いきなり我に返ったらしい。
どうやら、本題は別のところにあったようだ。
「オレ、ちゃんとわかったぜ。奏美のことだろ?」
・・・・カチン
言われた瞬間、オレの中で、なにかが反射的に動いた。
「・・・まだ怒ってんだ?」
「ぁあっ!?」
オレは、こいつをにらみつけた。
そんなオレを、柊平は、あきれて見ている。
「いーかげん、許してやれよ。奏美だって、悪気があったわけじゃ・・・」
「いーから、黙れよっ!!」
あ・・・。
柊平の言葉をさえぎり、オレは思わず、どなってしまった。
「・・・・・・・」
数分後、柊平は、小さなため息をつくと、立ち上がり、教室を出ていった。

残されたオレの中で、また、何かが動き出す・・・。
・・・それは、憎しみと恨み、そして・・・






・・・・水崎 奏美・・・
オレは、この名前を聞くのが、嫌いだった・・・。
そう・・・オレは、あいつを恨んでる・・・幼なじみであるあいつを・・・。

ことの始まりは、何もかも、1年前から・・・・。

「ええっ!?転校!?」
んなの、聞いてねーぞ!?
・・・1年前の秋、ちょうど10月だった。
担任に呼び出され、職員室へ行ったオレに、先生は、
「水崎さん、“風星くんに”って・・・この手紙、預かったの・・・」
ひと言だけ、オレに言った。
カサッ・・・
・・・職員室を出て、廊下のすみで、オレは、その手紙に目を通した。
『ごめんね、拳一くん。
私は、明日、風理中学校というところへ転校します。このことが決まったのは、
2週間前でした・・・。
・・・・本当は、拳一くんに、1番話したかったけど、言えませんでした。
幼稚園の時から、ずっといっしょだったから・・・話したときの、拳一くんの
反応が怖かった。“どう言われるのか”って・・・。
この手紙を読んだとき、あなたは、きっと怒ると思う。
許してくれるなんて、考えてません。私が悪いことをしたのは、事実だから・・・。
本当に、ごめんなさい。 水崎 奏美』
去年の10月・・・この手紙を最後に・・・
奏美は、オレの前から、姿を消した・・・・。

けれど・・・ことは、それだけじゃなかった・・・。

「えっ!!?」
・・・な・・・な・・・
「なんだよ、これ〜〜〜〜〜〜〜〜!!??」
奏美が、転校して1ヶ月後・・・
雑誌を見ていたオレは、思わず、叫んでしまった。
その雑誌に、写真としてのっていた人物の横には、こう書いてあった。
人物紹介の欄・・・・
『水崎 奏美 期待のホープタレントとして、現在、ドラマで活躍中』
・・・ドラマ・・・タレント・・・芸能人・・・
その時、オレは、頭をなぐられたようなショックをうけた・・・。
それから、まもなくだった・・・。
奏美が、ドラマだけでなく、CM・バラエティーなど、いろんなところに
顔を出すようになって・・・。
いつからか、オレの中には、こーゆー気持ちが、入りまじるようになった。
“オレは、奏美に裏切られた・・・”
“奏美は、別世界の人間”
あいつを、テレビの中で目にするたび、そう感じていた。
あいつが、タレントだなんて、信じたくねぇ!
なんでだよ!!
その後、日が過ぎるたび、奏美はどんどん有名になってった・・・。
「・・・つい、こないだまで・・・いっしょにいたじゃねーかよ・・・奏美・・・」
テレビに映っている、あいつに向かって小さくつぶやいた。
遠い存在に感じながら・・・。








転校のことに関しては、何とも思ってなかった。
別れがつらくて言えなかったんだろうな・・・それは、わかる。
だけど、このことは・・・・・。
何も言わなかった・・・何も言ってくれなかった奏美を、オレは恨んだ。
・・・忘れるために・・・思い出さないために、オレは、勉強や部活に
打ち込んだ。
気がついたら、もうオレは・・・。

「あれ?」
ある日、家のポストに手紙が1通入っていることに、気づいた。
・・・・父さんあてか・・・それとも、母さん?
パタン
「!?」
ポストのふたを閉じたオレは、絶句!
「なんだよ・・・今さら・・・」

ビリッ
部屋に戻り、それをすぐに破いた。
もちろん、中なんて見てもいない。
それは、差出人の名前を見て、すぐに判断した、その結果だった。
『水崎奏美』
そう書いてある封筒ごと・・・
バサッ
「・・・ざけんじゃ・・・ねーよ・・・」
全部ゴミ箱に捨て、ベッドに倒れ込んだ。

「じゃーなー!」
「おう」
今日は、土曜日。授業が終わって、オレは、教科書を片づけているところ。
今日は、早く帰ってやんねーとなぁ・・・父さんも母さんも遅くなるって
言ってたし、浩海ひとりにしとくのも、かわいそうだし。
よっし、片づけ完了!帰ろーっと。
思いながら、バッグを背負ったとたん・・・
「拳一!」
柊平に、呼ばれ、思わず振り返った。
「なんだよ?どした?」
「あのさぁ、実は・・・」
「今日、オレ、部活は休み」
勝手に解釈して答え、オレは、歩き出した。
「何言ってんだよ?今日は、もともと、部活ないって!」
「え・・・・そうだっけ?」
あ、なんか、そう言われると、そんな気が・・・。
「まぁいいや、そっちの方が、好都合だし。んじゃな、柊平」
そのまま、オレは、教室を出た。
と・・・
「人の話、ちゃんと聞け〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
へっ!?
のちに、柊平の怒鳴り声。 「部活のことなら、ちゃんと・・・」
「オレが言いたいのは、部活じゃねーの!」
あとから、追っかけてきた柊平が、“いいかげんにしろよ”という感じで
言った。
「あのさぁ、オレ・・・」
「あ?」
いきなり、柊平の表情が変わった。
めずらしいな・・・あらたまった表情で、こいつがしゃべるなんて。
「どーしたんだよ?」
「・・・・あ、ごめん、やっぱいいや」
はっ?
急いでる人を呼び止めといて・・・
「なんだよ、それ・・・ちゃんと言えよ、このヤロー!!」
「う〜ん、まぁ、そのうちな」
“そのうち”って、おまえなぁ・・・・。
「あ、そろそろ帰らねーと、まじヤバイ。じゃーなー」
それほど深く気にも留めずに・・・
「おう、またな」
オレは、そのまま帰ることにした。





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