この地盤についての耐震補強として、新築時等においても同じことが言えるが、軟弱地盤であれば、「地盤改良等を行い、さらにべた基礎が良い」という設計者や施工者がかなり多いが、海岸付近や埋立地等における軟弱地盤層は、場合によって30mを超えているところがある。(大都市部ではほとんどこの状況であるが・・・・)
そのような状況において、地盤改良の改良層がたかだか1〜数メートルの改良で耐震的になるということはほとんどの場合ありえない。
なぜならば、これをモデルで例えると、やわらかい豆腐の上に薄い鉄板を敷いて、その上に住宅が乗っているような状態となり、そこへ地震力(水平力)が発生しても地震による振幅の増加は避けられない。
(木造のような剛性の低いものは地盤の周期と比較的一致し易いためである。
鉄筋コンクリート造の住宅程度の低層では、剛性が比較的高く、地盤周期と建物周期が一致しにくい。)
つまり、支持地盤が深い場合の表面的な地盤改良は、鉛直的な支持を高めるのみであり、地震対策に有効な補強方法とはいえない。
旧「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」には、「内部の柱の脚部が、足固め、根がらみ等で固められ、横方向にずれていないようになっているかどうかを調べる」とあるが、いくら床束に金物を取り付けても、その上部の耐力要素を増強しなければ耐震的に有効にはならないのだが・・・・
つまり、人が生活する部分は床下から上であり、床下で生活する事はありえないので、床下の脚部ずれ止めが耐震的に有効になるとはいえない。
この内容を逆手に取り、「床下のずれ止めとして補強金物を設置したので、耐震的にも有利になりました」などと言って、高額な費用を請求する業者も存在するのである。
しかし、耐力壁を強化した場合には、基礎と緊結するホールダウン金物等が必要であり、また、基礎もその応力を処理するだけの性能が必要となる。
さらに、旧「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」では「柱、梁等に大きな欠き込みがないか、割れが生じていないか、また、建物の軸組同士の継手・仕口は金物等で十分緊結することが非常に重要である」と記載されているが、具体的な条件等までは書かれていない。
実際には、建物の重量からくる地震時のせん断力に対して耐力壁を配置し、その耐力壁に対する接合部の検討を行ない、応力条件に合った接合部とする必要がある。
特に、耐力壁廻りの接合部についての補強が重要であるが、建物全体レベルの仕口等における接合部補強はなされていないのが現状である。
さらに、主要構造部に関わる増改築を行なって、梁の仕口等における断面欠損等による欠き込みで、構造的に影響のある場合や、横架材を緊結する金物がない場合、応力の伝達が行なえるように、仕口等の補強を行なう必要がある。
しかし、現在行なわれている耐震診断・耐震補強工事では、そのような細部にわたる調査・工事等はほとんど行なわれずに、「壁でふたをしてしまえば、見えないから大丈夫」などということで、いい加減な工事を行なっている業者も少なくない。
水平構面についての概念が設計法に取り入れられたのが、2000年6月の建築基準法の大改正時であるが、それ以前に作成された旧「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」にも同様に、水平構面の概念が取り込まれていないのである。
具体的には「吹き抜けのように、床(2階)が全くなくなっている部分があるがあるものは、水平構面の剛性上好ましくない」と記載されているだけで、その検討方法や評価方法が抜けているのである。
また、「吹き抜け等に対策が講じられている場合や(中略)以外には補強が必要である」とあるが、実際にどのような補強が必要なのかが見えてこないのである。
壁量計算を含めた建物の構造設計では、床面(水平構面)は完全に一体となって変形は無視できることを前提としている。
壁の「バランス」の良い配置(=偏心率を小さくする)等の規定もそのことを前提としている。
つまり、偏心率が大きい場合、上下階で耐力壁の位置が違う場合や前項で触れたような建物の形状が複雑な場合は、地震や風がくると屋根面や床面を力が伝って全体として抵抗するため、水平構面の剛性が足りなければ著しい損傷等が起こる可能性があるので、実際の挙動に対し、安全性を確保しようとするならば、せめてゾーニング手法での検討により補強すべきである。
また、下屋においても同様な事が言え、農家型のタイプの住宅の場合、2階外壁直下には、ほとんど耐力要素の鉛直構面がなく、下屋部分に雨戸の戸袋的な耐力壁があるが、下屋の水平構面の剛性が低いため、有効に下屋耐力壁が抵抗力を発揮しないのに、そこを強化してつじつま合わせの評点アップを行なっている場合がある。
既存木造住宅における建物仕様は、昔からの民家等で見られる土葺き瓦に土壁で構成された住宅も多く存在する。
これは先の「阪神・淡路大震災」でもはっきりとわかった事だが、建築基準法や「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」でも想定している荷重をはるかに上回る重い仕様の木造住宅が多数倒壊したのである。
壁量計算で求められる地震に対する必要な耐力(=耐震壁量)は、その建物の固定荷重(屋根・壁荷重)に比例するが、その固定荷重が低めに設定されており、特に瓦葺き(土有)に土壁等の非常に重たい木造住宅の場合は、過小評価となっているということが、木造関係の実務者にはほとんど理解されていないのである。
木造住宅における重量を算出について真面目に計算して算出した場合、土壁や、屋根に土を葺いた木造住宅の重量は、建築基準法で想定している壁量計算の「重い屋根」の仕様である、33cm/m2(1階床面積換算≒330kg/m2)の2倍以上となる住宅も存在するのである。(参照→)
この木造住宅の重量を統計的にまとめ、均し荷重として木構造建築研究所 田原が日本建築学会等における論文に掲載したものを下記に示す。
年号 | 木造住宅の重量に関する掲載箇所・タイトル |
---|---|
1996年 | 日本建築学会 構造系論文集 第481号,71-80 |
阪神・淡路大震災にみる在来木造都市型住宅の問題点 (詳細調査の概要・被害事例から見た狭小住宅の倒壊原因) | |
1998年 | 日本建築学会 学術講演梗概集 22098 |
在来軸組木造住宅の構造設計手法の開発 その8 建物重量の簡易計算法の提案 | |
1997年 | (財)日本住宅・木材技術センター |
平成8年度木造建築物耐震性向上緊急対策事業 木質資材利用技術耐震性向上事業報告書 第3章各仕様毎の耐震補強効果の評価 |
上記の参考文献をもとに品確法における、「木造住宅のための構造の安定に関する基準解説書」の1.壁量の(5)-a性能表示の地震に関する必要壁量 表7 性能表示の2階建ての地震に関する必要壁量の求め方 の数値の根拠となったものである。
また(財)日本建築防災協会発行「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」(改訂版)の第3章 一般診断法 の表3.3 床面積あたりの必要耐力の数値の根拠となったものである。
これらの詳しい内容については、(財)日本建築防災協会発行「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」(改訂版)の資料編T調査方法と評価法の2固定荷重・積載荷重の評価法及び3必要耐力・必要壁量の検討 で詳細に説明しているので、それを参考にしてもらえればと思う。
旧「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」では、このような非常に重量の重たい木造住宅に対する適切な数値を用いた計算式等の診断方法等が示されていないのである。
旧「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」には明記されていない事であるが、この建物重量のことで、耐震補強の効果として、有効な手段の一つとして、建物重量の軽減である屋根荷重等(土葺き瓦から桟瓦またはカラーベスト等)の仕様の変更効果における耐震性能アップが挙げられる。
旧「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」では、不整形な建物の評価を行なう際に、偏心率を計算して検討を行なうが、「著しく不整形なものは別途検討する」と記載されている。
つまり、H型やL型、コの字型等の建物では、一体の建物として、診断等は不可能であり、分棟しなければきちんとした診断できない場合がある。
ところが、旧「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」では、このような事は一切触れておらず、一般の診断や補強では、何の考慮もされず危険極まりない工事で終わっている場合もある。
2004年の改訂前における耐震診断法を利用し、耐震補強をした場合に起こる問題点があることを以下に示す。
既存不適格(構造性能における)の木造建築・住宅をリフォームする事が流行ではあるが、その多くは構造的な配慮が欠けていたり、単なる仕上げ材の改修のみであったりすることが多い。
また、耐震診断や耐震補強の目安となる技術指針は、(財)日本建築防災協会出版の「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」であったが、2004年7月以前の旧診断法(通称:茶色本)その内容を単純に適用するだけでは本当に安全を確保することは難しい。
「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」では、診断や補強において、評価しきれない点があり、それが明記されているにも関わらず、「この本の通りすれば、いいんだ」と思い込み、もしその診断や補強工事において致命的な欠陥を抱えたまま、大地震が発生し、人命に被害が及んだときに「あの本の通りやったのだから自分達には責任がないよ」というのが見えている。
また、耐震補強工事を行なっても、その施工検査を第三者等が行なっていない場合が多くあり、さらに、耐震補強工事後の建物全体レベルでの耐震評価を行なっている実例は皆無に等しい。
現在、耐震診断や耐震補強工事を行なっている業者は、設計者(建築士)及び施工者等は数千社以上存在すると思われるが、その業者で行なっているやり方としては、旧「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」に基づいて、市販のソフトで1時間以内でさっと診断・評価するのが一般的である。
しかし、きちんとした木造住宅の耐震構造技術を理解しないで、単なる金儲け主義で行なってる場合が多い。
木造住宅の建設業として認可等のない他業種まで参入して、場合によっては、建築技術者のいないシロアリ業者や、外装材業者等の営業マンや、工事業者が適当な調査をし、その結果の評価で、「評点が0.7以下ですよ、このままでは倒壊の危険性がありますよ」などと、脅し商法的でいい加減な耐震補強工事で、多額の費用を請求する詐欺紛いの業者も少なからず存在しているのも事実である。
また、耐震補強工事の費用に対する補強効果を示してもらっていない場合が多く、実際にはその効果がほとんど発揮されないこともある。
旧「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」で耐震補強をしたところで、さほど効果のない補強となる場合がある。
一般に耐震補強の必殺技のごとく呼ばれている耐震アイテムの1つの総称であるが、この通称名なる品物が巷の高齢者を惑わせたりして多額な費用を請求されている場合がある。
特に無料の耐震診断とか無料の見積もりを致しますといって家に入り込み、勝手にあそこが悪いとかここが悪いと恐怖心をあおるような事を言ってその気にさせ、法外な工事代金を請求するといった具合が見られる場合がある。
また、耐震診断を無料でやっているNPOや国の許認可団体等は無料ゆえ、いい加減な診断といい加減な工事をもっともらしく「耐震精密診断」とか「耐震補強工事」などと呼び、その診断の精密度をきちんと評価してみれば全くのでたらめであったり、補強後の評価点が上がったつもりが全く効果のない補強だったりして世の中のこういった類の事業者のほとんどはかなりいい加減であると見切ってよいと思われる。
つまり、既存不適格木造住宅において、金物だけつければ問題がないうちというのは非常に少なく、つける場合も効果のあるつけ方をしなければ猫に小判と言うものになってしまう。
建物全体の弱点を(財)日本建築防災協会の「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」(改訂版)の精密診断法で評価してその結果から適切な補強をコスト面等を考慮して補強設計し、力の伝達経路が地面までつりあいよく流れていく事によってはじめて効果的な補強と言えるのである。
このことを是非一般の人びとに知っていただきたい重要なポイントである。
つまり正確な情報を得る事がより安全を確保する為の自己防衛となるので、情報過多の現代において、どこに正確な情報があるのか分からないのではあるが、せめてこの情報は他よりは少しはましな情報だと思っていただきたいので、ここで耐震補強の注意すべき点において以下に述べるものである。
No. | 民家・社寺等における |
---|---|
1. | 光明寺 耐震改修工事 |
築約70年(昭和初期)の寺院建築 伝統構法平屋建て 延べ床面積 約145m2 | |
2. | N邸 耐震改修工事 |
築約200年(江戸時代)の古民家型住宅 伝統構法2階建て 延べ床面積 約190m2 | |
3. | A邸 耐震改修工事 up |
築約20年の現在の木造住宅の標準的な仕様 在来軸組構法2階建て 延べ床面積 約120m2 | |
その他 | |
上記以外に木構造実務例でも改修した建物を紹介しています。
水上建設が施工した建物は水上建設HPで耐震改修事例が紹介されています。 →水上建設の耐震改修事例へ |