温泉の保護と利用に関する課題について
環境省:温泉の保護と利用に関する懇談会
中間報告(2004年9月)
昨年9月、環境省の上記懇談会から「温泉の保護と利用に関する課題について」の中間報告が提出されました。
資料を含めて全部で36Pになるため、これの要約を作成しました。
温泉を愛する者、日本の温泉の現状と課題について承知しておくべし、と言うわけで、お手すきのときにご覧くだされれば幸いです。
尚、ここで取り上げられている日本の温泉の現状と課題の多くは、管理者が2003年9月、当サイトを公開したときに述べている「温泉の効能に対する疑問」が正しかったことを裏付けるとともに、この中間報告では、遅まきながら温泉の分析・効能に関して見直すことを提言しています。
中間報告要約
C温泉地・温泉事業者の視点から見て
*深刻化する温泉資源の制約、枯渇問題の不安。
温泉地にとって、温泉の枯渇は死活問題である。
各温泉地では、温泉法の許可制とあいまって、自立的に温泉資源の保護に取り組んできている。
温泉の掘削・汲み上げ抑制、湯の集中管理や循環濾過方式による使用合理化がそれである。
*団体旅行対応等のため、温泉施設を大規模化したが団体客の減少などのより宿泊者が増加せず、循環ろ過方式を導入したが衛生問題等で不評で経営が苦しくなってきており、倒産が相次いでいる。
*大規模化を目指して利用率低下の温泉地があり一方、個性ある温泉地に人気が集まるなど、温泉地の明暗が拡大している。
温泉そのもの・温泉情緒・自然環境などの項目が行きたい温泉・行ってみてよかった温泉の評価項目の上位となっている。
(2)主な問題点と課題
@温泉ブームと温泉開発の進展により、温泉資源の制約化が顕在化してきている。
温泉を持続的に利用できるように、温泉源の保護を進めることが重要である。
A温泉利用の増加、循環利用等に伴い、温泉の質や衛生面での国民の不安、不信が増大してきている。
安全に安心して利用できるよう、温泉利用の適正管理と情報提供を進めることが必要である。
B国民の温泉利用の多様化等により、温泉地の明暗が拡大してきている。
温泉地の創意工夫を促し、魅力ある温泉利用の場づくりを進めることが求められている。
2.主要な課題に関する対応の方向について
(1)温泉源の保護 〜温泉を持続的に利用するために
@温泉は地球の恵み、限りある資源。国民の保健休養、地域おこし・観光資源といった多様な公営的利用を持続的に可能とする温泉資源の保護管理が必要。
温泉の重要な要素は「湯道」「温度」「成分」である。
湯道が自然に開いている自然湧出源泉では、地中における天水の供給・熱の蓄積・地殻成分の溶解と温泉水の湧出との間で自然のバランスが成り立っている。これに対し、掘削源泉は、人工的に湯道を開けたもので、地中の水収支が崩れることになり、枯渇を生じやすい。
A温泉法による温泉源保護のための各種許可制度等について、その運用実態、効果、改善を要する点等を調査検討することが必要。
昭和23年制定の温泉法では、新たな温泉採取の掘削について都道府県の許可を要する。
一方、幾たびかの温泉ブームや温泉開発技術の進展、地域おこしのために、温泉の数が増加しているが湯量は頭打ちになっている。
平成13年の温泉法改正では、温泉掘削等の許可基準に関する規定が整理され、「温泉の湧出量、温度又は成分に影響が及ぶ」か否かが一つのポイントとなったが、これは取りも直さず温泉源の保護強化に他ならない。
今後の温泉法は、温泉の掘削及び動力汲み上げの量的な制限や資源配分の制御をどの程度行うか、一連の許可制度(新規掘削、増掘、動力装置、利用)の中で、それらの相互関係や機能の分担をどう考えるべきか、これらの措置を適正に実施するうえで必要な温泉資源量や源泉状況の効果的な把握が求められる。
B当面、行政による源泉状況把握と未利用泉への指導、掘削源泉での過剰揚湯回避の配慮が望まれる。
掘削深度の深い源泉では、地下水の供給量が極めて少ないか、場合によっては地中のたまり水(化石水)を汲み上げているために、湯量・温度・成分の変化が起きやすい性質がある。
当初の湧出量が豊富だからといって、温泉を大量に使用することは賢明でない。
(2)温泉利用の適正管理と情報提供〜温泉を安全に安心して利用するために
@温泉事業者の取組みが基本的に重要であり、温泉利用施設の特性を踏まえた衛生管理の励行、温泉利用者への正確な情報提供の普及等が望まれる。
(ア)衛生管理
・浴槽水の検査
・定期的な換水
・清掃や消毒の実施
・飛沫(エアロゾル・・・レジオネラ菌感染の主因)発生設備での循環水使用禁止
(イ)情報提供
・「源泉100%」「天然温泉100%」など、源泉をそのまま利用しているような消費者の誤解を招くような表示を避けること。
・「天然温泉」との表示を行う場合は、源泉への加水・加温・循環濾過装置の使用の有無の情報が提供されること
・温泉の療養泉としての適応症表示を行うには、実際に利用する浴槽内の湯が療養泉の基準値を維持していること。
A温泉利用者たる国民にも、温泉資源保護への理解(循環濾過と源泉掛け流しのバランスある評価)、温泉入浴マナー向上の協力を求めたい。
*「温泉は、源泉掛け流しが優れ、循環ろ過は劣る」という認識は、短絡的ないし一面的な見方になっていないか考える必要がある。
大型の浴槽や露天風呂が好まれるようになった時代に、循環ろ過を導入しなければ、温泉の枯渇はもっと深刻になっていたはずである。
温泉をリサイクルして利用する循環ろ過装置は、温泉湧出量と使用量のギャップを埋める役割を果たしてきた。
同時に、循環ろ過装置は、多くの人が利用するために毛髪や身体の汚れを浄化し、浴槽の衛生状態を維持してきた。(レジオネラ症は例外という見方・管理者注)。
*循環ろ過と源泉掛け流しとどちらがよいか一概に答えは出ない。どの温泉地・温泉施設を利用するかは、適切な情報を受けた上での利用者の選択による。
温泉を愛する消費者には、その選択に当たり、温泉資源の量的価値と質的価値の両面を考慮してもらいたい。
*循環ろ過方式を採用している温泉事業者には、消費者に対し、その実情とそれを採用した理由を正しく伝える姿勢と勇気を持ってもらいたい。(限られた資源である温泉を守り、かつ良好な入浴状態を確保するために循環ろ過装置を使っていることきちんと説明する。)一方、温泉地・温泉施設の将来を考えれば、温泉利用のあり方をどうするかは、供給者側の選択によることとなる。限られれた温泉の量のなかで、多くの、あるいは大きな浴槽で利用するか、それとも温泉利用を一部の外湯や浴槽に集中するかの選択をしていかねばばらない。
*温泉入浴マナーの向上と温泉に感謝
日本には、古代から温泉を禊(みそぎ)に使ってきた歴史がある。
また、入浴の際には、「かけ湯」をする習慣があり、それは湯の温度を体に慣れさせると同時に、身体の汚れを流して、浴槽を汚さないという衛生的な意味も大きかった。しかし、日本人の住環境が整い、銭湯がなくなっていく中で、お互いが快適に入浴するマナーが忘れ去られていっている。
温泉は地球の恵みと感謝し、多くの人が温泉を快適に利用できる温泉入浴マナーを守ってもらいたい。
B温泉法に関しても、温泉情報提供に有効な成分掲示の適正化を含め,温泉利用に関する掲示項目や利用基準の見直し・検討が必要。
*温泉成分の掲示に関する分析場所と有効期間の明確化
温泉法では、温泉利用施設において温泉成分、禁忌症等の掲示をすることが義務づけている(第14条)。これに、循環ろ過方式・源泉掛け流しといった温泉利用形態も加えることも検討課題であろう。
温泉成分の掲示に関しては、温泉の湧出場所(源泉)でなくて、湯船の中の湯で分析されるべきだろう。
また、温泉成分は、年月とともに変化するので一定期間ごとに再分析されるべきだ。
温泉地・温泉施設での適応症の表示がことさら強調され過ぎているのではないか、泉質別の特異的効果について医学的な議論があるなかで、その表示に行政が関与することをどう考えるか等の意見もあった。
*特に飲用許可の基準については、見直しをする必要がある。
(3)温泉地の創意による取組みの促進〜魅力ある温泉利用の場づくりのために
@国民ニーズの多様化に対応し、個性的で魅力ある温泉地の形成が重要。
代表的な温泉地のタイプを挙げても山間の「秘湯」や昔ながらの「湯治場」、周遊旅行などの1泊団体客向けの「観光温泉」、日帰り利用者向けの「立ち寄り湯」、最近現われた「都市型温泉つき娯楽施設」等がある。
国民の温泉利用は、かっての慰安旅行、団体旅行が全盛の時代から、家族や友人同士の個人的旅行、温泉そのものを楽しむ旅行へと変化している。
かって、慰安・団体の時代に大型化と高級化を目指した温泉地・温泉旅館の多くは、厳しい競争を余儀なくされている。一方で、大小の日帰り温泉施設が各地に整備され、個性的な温泉地づくりに長年取り組んで人気を集めている温泉地ある。
温泉地や温泉旅館の[大規模競争の時代」はもはや終わった、と認識すべきである。
A温泉保護の泉質保持など魅力的な温泉地作りのため、市町村の役割を重視し、自然環境行政の支援強化を。
B魅力的な温泉地造りには地域ぐるみの取組みを。
・温泉資源の持続可能のために集中管理
・源泉の湯を外湯に優先的に入れる
・温泉地の周辺の森林を守る
・温泉地の伝統文化を守る。
C国民保養温泉地は、健全な温泉利用のモデルとして、各温泉地の主体的な取組みを促すものとなるように、今後のあり方の検討が必要。
2002年度末 |
3,102ヵ所 |
1965年度末 |
1,331ヵ所 |
温泉地(宿泊施設のあるもの)
2002年度末 |
27,043ヵ所 |
1965年度末 |
11,913ヵ所 |
源泉数
温泉湧出量
2002年度末 |
2,669千リットル/分 |
1965年度末 |
1,110千リットル/分 |
温泉利用宿泊施設数
収容定員
宿泊利用者数
1992年度からほぼ横這い
これらから、我が国の温泉地では旅館の大規模化が進んだが、温泉利用者数はこの10年ほど頭打ちとなり旅館の利用率が低下していることが窺える。
一方で、日帰り温泉施設は、2002年度末で約6,700ヶ所(1965年度末の4.1倍)に増加し、特に大都市周辺の日帰り利用者が増加。
1.温泉の保護と利用をめぐる状況、主な問題点
(1)温泉と温泉利用を巡る状況
@温泉(源泉、湧出量など)の動向
*全国の源泉数は増加したが、自噴泉は減少し、動力泉が増加している。
*温泉湧出量は、動力揚湯に支えられ増加してきたが、最近では頭打ち。
*掘削深度の深部化、一部で温泉源の枯渇が問題化
深度1,000メートル以上の源泉が43%(1993年度以降の掘削深度平均)で、大深度動力泉が増加している。
しかし、温泉湧出量は頭打ちで、温泉枯渇の問題が生じている。
自噴 |
813千リットル |
30% |
動力揚湯 |
1,856千リットル |
70% |
2002年度末湧出量内訳
2.4倍の増加
2.3倍の増加
A温泉利用(利用施設、利用者数など)の動向
全国の温泉宿泊施設数は、近年は横這い。収容定員は拡大したが、宿泊利用者は頭打ち。
1075年以降横ばい
1975年からほぼ一貫して増加
B温泉利用者・国民の視点から見て
*国内観光は慰安目的の団体旅行から多様な観光目的の家族・友人旅行に変化、近年では「温泉旅行」が増加。
国内観光に関する統計によると、旅行の目的は「慰安旅行」→「温泉・自然・名所・スポーツ」などの多様化。
中でも、温泉が付随→温泉が主体(温泉旅行)の傾向が強くなってきている・
*国民の温泉指向は、日帰り温泉利用の増大と、温泉そのもの・温泉情緒・自然環境と言った「温泉らしい温泉」へ
の要望が強まっている。
*レジオネラ症問題等で、衛生管理への不安
レジオネラ症問題で、温泉施設の衛生管理や循環ろ過利用に対する不信が増大している。
日本温泉協会や公正取引委員会の調査では、温泉事業者に求める情報として、温泉の効能・効果や浴槽の温泉
成分とともに、加水・加温・循環濾過装置使用の有無、消毒や清掃の方法・回数といった項目が並ぶ。
2.3倍に増加