半年、と言う時間は、夢でも幻でもない。
二人の間に、いや、ゾロの上にだけ確かに過ぎて行った時間だった。

それでも、ゾロの指は、いや、指だけではなく体のどこもかしこも
サンジの体に飲み込まれる為の儀式を全て覚えている。

片手で、あやす様に背中を撫でながら、もう片方の手は馬乗りになったサンジの
体の奥を探っていく。

「…んっ…」
サンジが息を詰め、怯えるように体を竦ませる度に、ゾロの指は動きを止めた。

少しでも辛いなら、必ず言えよ。

そう囁いて、鼻先に掛かる向日葵色の髪に口付ける。

胸の上に、サンジの重さと温もりを感じ、心臓の鼓動が伝わってくる。

ゾロが覚えているサンジの一番敏感な部分に触れた瞬間、ビクン、とサンジの下半身が
引き攣るように震えた。

吐息を漏らすまいとしているのか、痛みを堪える為に息を詰めているのか、
すぐにはゾロにも分からなかった。

ただ、体の奥に、炎が灯ったかの様にサンジの体温が急に熱くなる。
緊張と、体の奥へと指をねじ込まれる鈍い痛みに萎えていたサンジの性器が、
その体温の上昇と共に、再び興奮の兆しを見せ始めた。

それでも、まだゾロを受け入れるには早い。
そう思った途端、強烈なもどかしさが、ゾロの体を突き抜けていく。

雄の本能と、体の奥にまで刻み込まれたサンジの体への渇望、
相対して、サンジの体を傷つけたくない、と言う思いがゾロの中でせめぎあう。

そんなゾロの葛藤を、サンジが感じない筈がなかった。
顔を上げ、ゾロを見、「…まだ、辛くねえって。辛くなったら、ちゃんと言うって」
「そんなにビクビクすんなよ。実感してえんだろ?」と、目を細めて愛しげに笑った。

その微笑と、言葉が魔法の様に、どこかきごちなかったゾロの動きを滑らかにする。

そして、少しづつ、少しづつ、サンジの体もゾロを受け入れていた事を思い出し始めた。

我から、ゾロに擦り付ける事で、その先端が濡れる。
その雫をゾロの指が掬い、二人が繋がる為の場所を潤わせる。

指でそこを擦り、サンジが体を震わせる毎に、本当に少しづつだけれど、
ゾロを受け入れようと、サンジの体は開き、解れていく。

自分の指の動き一つで、サンジが身を捩り、吐息を漏らす。

快楽に喘ぐ姿を恥らっているのか、淫らな顔を見せまいと俯いて、それでも、
乱れた髪の間から、伏せた睫毛が見える。

指で奥をくすぐる様に弄ると、もっと、と強請りたいのか、
それとも、その甘い快楽から逃げたいのか、腰をくねらせて、ゾロの肩に腕を回し、
顔を埋めた。

目に見える姿、肌に感じる温もり、耳に聞こえる短い呼吸、その全てがゾロを
昂ぶらせる。

そして、サンジの体を弄っていた指をゾロは、ズルリと引き抜いた。
瞬間、震えたサンジの体を自分の全身で包むように抱き締め、
「…もういいな」と、まるで独り言の様に呟く。

その時が、頃合だ、と思ったのは、ゾロだけの判断ではない。
お互い、ろくな言葉も交わさず、ただ、甘美な痺れを与え合い、
息を乱していただけなのに、受け入れたい、受け入れて欲しい、と言う声にならない声を、
お互いが感じあって分かった事だった。

そそり立つゾロの性器の上に、ゆっくりとサンジが体を落としていく。
「…うっ…」

小さく、白い喉笛が鳴る。
細い腰に手を添えて、それを見上げながら、ゾロもサンジの中へと緩やかに腰を
突き上げる。

体の先端に艶かしい感触と、淫らな圧力を感じた途端、
一気に脳へと壮絶な快感が突きぬけ、思わずゾロも「…あっくっ…」と呻いた。

手の指先にまで、サンジに飲み込まれる感覚が波動のように広がる。

「…凄エ、…ぎっちり咥えこんでる…」
黙っていると、その波に飲み込まれて、なにものにも代え難いこの交わりがあっと
いう間に終わってしまいそうで、ゾロは無駄な足掻きだと分かっていても、
強がって見せ、そう言ってから、ぐん、思い切り下からサンジを突き上げた。

「ああっ!」

ゾロの与える刺激に、サンジは体をしならせ、声を上げた。
その声に、ゾロの体の中の炎が一層激しく燃え上がる。

(もっと、今の声、聞きてえ)
ゾロが与える刺激に堪え切れなくなって逃げない様に、その腰に手を伸ばした。
恥じらいも、意地も余裕も奪って、ゾロが欲しい、と言ったその心も丸裸にしたい。

そんな衝動に駆られ、腰をうねらせ、突き上げ、サンジを追い上げる。

腰を鷲づかみにするゾロの手を硬く握って、サンジは揺さ振られるがままに任せ、
ゾロから与えられる苦痛と隣り合わせの壮絶な快楽を貪る。

そんな風に、乱れるサンジを見たのは、初めてだったかもしれない。
けれど、それすら忘れるほど、ゾロも乱れた。

***

(…このまま寝ちまうのは、…勿体無エな)

そう思っても、もう体は甘く気だるい。
汗や、体液で湿った体を洗うのすらゾロは億劫だった。
なのに、体重を全てゾロに預けきったまま、まどろんでいるサンジとはこのまま
もうしばらく離れたくない。




ベラベラと喋るのも気恥ずかしいし、興醒めだとも思うけれど、
少しかすれたサンジの声を聞きたい。このまま寝入って、朝が来てしまったらと
思うと、寝るのも惜しい気がする。

(…疲れちまった…だろうな、やっぱり)
「…なんか、飲むか?」寝入ったのか、そうでないのか良く分からないので、
ゾロは小声でそう尋ねてみる。
すると、サンジは閉じていた瞼を重たそうに開いて、
「…あ?なんか飲みたいのか?」と逆に聞き返してきた。

「…俺が聞いてるんだ。喉が渇いてねえのかって」そう言い返すと、またサンジは、
「お前は乾いてるのか?」と、尋ねてくる。
「まあ、乾いてねえ事はねえが…」(なんだ?なんか話が堂々巡りになるな)と
不思議に思いながらゾロがそう言うと、
「酒があったみてえだが。…飲むか?」と、サンジは起き上がった。

「お前は寝てろ」ゾロは慌てて、もう一度、起き上がったサンジを抱き寄せる。
「人の世話焼くのは、船に帰ってからでいい」
そう言うと、サンジは嬉しそうに
「…船に帰ったら、お前の世話するどころじゃねえよ」
「今夜はお前専属だから、サービスしてやろうと思ったのに」と笑う。

(…動くの、辛エ筈だ)
そう口に出したら、絶対に「馬鹿言うな」と否定するに決まっている。
けれど、あれだけ激しく動いたのだから、相当体に無理が掛かったはずだ。
(全く、ダメだな、俺は。こいつの事となると、どうも加減が出来ねえ)
ゾロは黙ってサンジを抱く腕に力を篭めた。

その腕の中に全く無抵抗のまま大人しく抱かれてサンジは目を閉じる。
けれども、眠たいけれど、眠りたくない。
そう思っているのは、サンジも同じ様で、寝物語をする様に、
「…そう言えば、夢、見てた」とても穏やかな声でそう言った。

「…夢っ…って、三日前に眼が覚めるまでの間か?」
「…ああ」
そう答えた後のサンジの言葉をゾロは暫く待った。
けれども、聞こえてくるのは、心地良さそうな寝息だけだ。

(こいつ、寝言言うんじゃねえか?)
そう思って、ゾロはサンジを隣に横たえながら、その寝顔を覗き込む。
ゾロに話す途中で、寝入ってしまったのだから、
自分が見ていた夢をゾロに喋っている夢を見ているかも知れない。

いつ寝言を言うのか、を気にしながらもゾロもいつの間にかまどろんで、
夢の中へと落ちていった。


* **

目の前に、氾濫した川が流れている。
上流から、流木や、枯れ草などが押し流されてくるのを、ゾロは川べりで
見ていた。

濁った川の流れに乗って、丸くて白いモノを乗せた枯れ草の塊が川べりにどんどん
近付いてくる。

「…なんだ、ありゃ」

思わずゾロはそう呟いた。

世の中の事、自分は何も知らない。
それで、いつも、山猫の「ナミ」に馬鹿にされている。

これはなんだ?と持っていったら、「あんた、そんな事も知らないの?」
「トラって、腕っぷしだけで、ホント、頭からっぽね!」と
きっとまたバカにされる。

そう思ったゾロは、川の流れに足を取られないように気をつけながら、
その丸くて白いものを腕を伸ばして手にとって見た。

両掌に乗るくらいの、細長い形の丸くて白いモノは、なんだかとても脆そうだ。
中から、何かが外へ出ようとして暴れている様な、「ゴン、ゴン」と言う音が聞こえる。

(ねぐらに持って帰って、様子を見るか…)

ゾロは、それを寝床に持って帰った。
そして、割れないように、寝床に敷いたワラの下に置いてそのまま寝てしまった。

「おい!おい!お前!」
耳元でキンキンと甲高い声がやかましく、頭をタンタンと蹴られた気がして、
ゾロは眼が覚めた。

目の前には、黄色い頭をした、小さな丸裸の子供がいる。
背中には、灰色のふわふわした羽根が生えていた。

白くて、丸いモノはもう跡形もなく、粉々に砕けている。

「…、な、なんだてめえは」何がなんだかわからない。
だが、その小さい羽の生えたヤツの剣幕にゾロは押されていた。

「お前か、俺の親は!親なら、何か食わせろ!」

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