心臓が痛いくらいに強く鼓動を打っている。
喉仏にまでその振動が競りあがってくるのを感じる。
どうにかゾロが自覚できるのは、それだけだ。

サンジの声、サンジの言葉はゾロの心から、余計なものを一瞬で弾き飛ばしてしまった。

サンジが愛しい。
サンジが欲しい。それも、一分一秒でも早く。

体も心も全て包んで、誰にも触れられず、どこにも行かないように、
自分の中に取り込んでしまいたい。

それがゾロの純粋な欲望だった。
他の誰にも抱かない、サンジにだけ向けられる、純粋な抑えきれない欲望だった。

馬乗りになっていたサンジをいつしか組み伏せて、まるで獣が捕えた獲物を
貪り食べる様に口付けた。その口付けの、獰猛さにもゾロは気付けない。

サンジの唇の感触を、自分を欲しがり、強請る舌先の誘惑を、全てゾロは食らい尽くし、
肉体の熱に変えていく。

「…はあ…」
お互いを貪りあうような口付けの最中、僅かに離れたその時、
サンジが苦しげに溜息を漏らした。それすら許さず、ゾロは勝手な事をしたその唇を
また塞ぐ。

「…んん…」
苦しげに眉根を寄せながらも、サンジはそれを許すように、ゾロの背中へと腕を回した。
そのしなやかで、悩ましい抱擁に引寄せられて、ゾロの体とサンジの体は、体温が
溶け合うくらいに密着する。

サンジの手が、ゾロの着衣をまるで、邪魔なものを引き剥がすかの様な激しさで
取り払う。その動きに同調して、ゾロもサンジの体を覆う布を全て取り去った。

お互いを欲しいと思う気持ちを邪魔するモノはもう何もない。

天井も、カーテンも、壁も、見えなくなった。
外を吹く秋の風音も聞こえなくなった。

見えるのは、向日葵色の髪が白いシーツの上に少しづつ乱れていく様と、
もっともっと、と強請るように時折開いてゾロを誘う青い瞳だけで、

聞こえるのは、激しい愛撫を全て受け止めて、そうして孕む体の熱が溶けた
忙しい息遣いだけだ。

サンジの手がゾロの猛り立った男の部分へと伸びて、その指が纏わりつくように
それを握った。

それだけで、下半身を流れる血液の密度が急に増した様な気がする。

ゾロも、掌でサンジの高鳴りを握りこんだ。
唇は、まだ、名残惜しくて、離れられない。

サンジの指がゾロの先端を滑る。
ゾロの掌がサンジを包み込んで、上下に扱く。

「…くっ…」久しぶりの甘い痺れがゾロの体を貫く。
「…っああっ…」同じ感覚に貫かれて、サンジの体も大きくしなった。

合わせた体の温度が上がり、サンジの体が少しづつ、湿り気を帯びて来た。
とうとう堪えきれず、ゾロの口付けから逃げ、顔を逸らす。

みだりに吐息を吐くまいと唇を噛み締めて背けたその横顔が、僅かに震えていた。

細い髪に隠れるように、目の前に稚い耳が見える。
それは逃げた唇と同じ様に、ゾロの愛撫を誘って、紅色に染まっていた。

サンジから受ける愛撫で、ゾロの体の中にも、熱風がたまっていく。
耳を唇で愛撫する最中、その熱風を吐き出さずにはいられなかった。

滑らかな背中も恋しくて、ゾロはゆっくりとサンジを後ろから抱く格好へと
体位を変えていく。

理性などとうに吹っ飛んでいるのに、不思議と欲望になら、忠実に体は動く。

サンジの体を表面も、奥も、奥の奥も湿らせ、早く濡らして、一つになりたい。
その為に、自分の体に甘美な刺激を与えてくれるサンジの指さえゾロは邪魔だと思った。

サンジの両手首を縄の様に掌で一つに緊縛し、自由を奪う。

そのまま、もう片一方の手で、サンジを追い込んでいく。

「あっ…ああっ…ああ…うああっ…」
腕の中で、サンジが体を捩り震わせ、むせび泣くような声を上げた。

サンジの先端が、はしたなく濡れ始めるのを掌で感じて、その湿り気を
さらにそこへ塗りつける。
「…はっ…あ…あ……」
サンジが声を上げるたびに、その粘り気のある露はその体から溢れだす。
クチュ…、クチュ…、と音が立ち始めてから、ゾロはサンジの腕を離した。

もう、ゾロの体を愛撫する余裕などサンジにはない、と思ったからだ。
そしてその手で、サンジの胸の突起をキュ、と軽くつまむ。

「…んくっ…」途端、サンジの体がビクン、と震えて硬直する。

指先で、こね回し、押し潰し、つまんで、その都度、サンジは喘いで、
その体の表面が湿り気を帯びていく。

けれど、半年、眠っていた体は、ゾロを受け入れる事を忘れていた。
男として、当然の反応はする。

けれど、以前のように、ゾロを受け入れる体の奥が湿り始める事はなかった。

(…やっぱりな)

サンジのその部分に湿った指をあてがった時、急にゾロは我に返った。
今までの愛撫だけで、サンジの体は火照り、皮膚はしっとりと汗ばんでいる。
(…このまま、突っ走りてえ)と心底思う。
けれど、この固い蕾をいくら解しても、今の自分の猛りを受け止めるには小さすぎる。
絶対に辛い思いをさせる。快楽と、苦痛とを天秤ンにかけたら、絶対に苦痛の方が
勝る、と今までの経験でゾロは知っている。
(だから、今は…。今夜は、)耐えよう、と思った。

サンジを誰よりも何よりも大事だと想うから、サンジの想いに応えられない。
それを分かって欲しくて、か細くなった背中を包むように抱いたまま、
腕に目一杯力を篭めた。

でも、それだけでは足りない。

「…イかせてやるよ」そう、静かにサンジに囁く。
「誰がお前をイかせてるか、しっかり感じろよ」
「そしたら、実感できるだろ?」

ゆっくりとサンジが肩越しにゾロを振り向く。
ゾロがそれ以上言わなくても、サンジにゾロの想いは伝わっているはずだ。

それでも。

目が、唇が、ゾロを誘っていた。

大切に想われている事も、知っている。
切ないくらいに、嬉しいとも思っている。

ゾロの思いやりも労りも、自分に注がれる愛情だと分かっている。
ゾロが自分に向ける感情の全てを受け入れたいと思っている。
ならば、その思いやりも労りも、受け入れるべきかも知れない。

優しい誘惑を孕んだ蒼い瞳は、一瞬、そう思った事をゾロに伝える。
けれど、口は本音を吐き出す。

「…ダメだ」
「そんなんじゃ、実感できねえ」

そう言うと、サンジはゆっくりと体を起こし、またゾロの上に跨った。

「…頭 開く前の夜、言ったろ?覚えてるか?」
そう言って、サンジは微笑んで、ゾロを見下ろす。

「イッパイああ言う事したかったな、とか、考えると…まだ、…死にたくねえなって」
「ああ言う事って、こう言う事だ」

サンジはゾロの上に跨って、未だに猛りが一向に収まらないオスの部分に、
それが犯したがっている場所をしなやかに腰を揺らしてこすりつける。

「…くっ…」
そこが自分を咥えこんだ時の感触が、一瞬でゾロの全身に蘇えり、思わずゾロは
その幻想の感覚にうめき声を上げた。

強烈な甘い痺れ、それをこんなに体が欲しがっている。
そして、サンジは言葉ではなく、心と体でゾロに伝えてくる。

痛くても、苦しくてもいい。
一つになる事が出来るなら、それ以上の悦びを感じあえる。

お前が欲しい。

さっき聞いた言葉が、そのままゾロの頭に木霊する。

愛しいから、大事だから労わりたい。
愛しいから、大事だから、その思いに応えたい。
言い訳ではなく、ゾロはサンジの為に、サンジの思いを受け入れたい。
その感情の流れに、ゾロは素直に体を任せた。
「…辛かったら、必ずそう言うか」
「…やせ我慢なんかしねえで、…辛いからやめろって言えるか」
「約束できるか」

「…ん」返事の代わりに、サンジはゾロに口付ける。
「…わかった。でも、まずその前に…。俺もお前を抱いてるって、実感させてもらうぜ」
口付けを返しながら、そうゾロはサンジに囁いた。


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