「…俺の目論んだとおり、戦は起こった」
「頭では、…お前が助かるなら誰が何人死のうが、構わねえと思ってた」
「が…実際、俺が思っていた以上に戦が広がって…」
「寺だけじゃなく、島中の村が殆ど焼け討ちにあった」
「女子供も年寄りも切り殺されたり、焼け死んだり…どうして、…そこまでされなきゃならなかったのか、未だに俺もわからねえ」
「寺から逃げる途中、俺達はその有様をつぶさに見た」

そう言って、ゾロは一度、口を閉ざす。
(…こいつが知るべき事は、…最小限、必要な事だけだ。全部、有体に話す必要はねえ)と自分に言い聞かせる。

サンジが苦しんでいる間、何も知らずに幸せに暮らしている島民すら、当事のゾロは憎んだ。
だから、後悔しない。罪の意識など感じない。
そう思っていた筈で、今だって後悔などしていないのに、自分が引き起こした戦の凄惨な情景をまざまざと思い出した途端、古傷を抉られた様にゾロの心が戦慄いた。

サンジには、ゾロが経験して来た戦の話を、ただの物語、聞きかじりの伝え話として聞いて欲しい。こんな苦しみを背負うのは、自分ひとりで十分だ。

最小限、必要な事、それを選び取る為に、ゾロは過去の記憶を手繰る。


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