さて、船に乗り込む。
ちょうど、長い休暇が終わってすぐの平日だったから、客は全くいない。
入国する場所まで運んでくれる船は、俺と、あいつと、この船を操舵する船長しかいない。
とにかく、始めてみる風景だし、空からの光も、吹いてくる風もとても気持ちがいい。
そんな空間の中にいた事を記録に残したくて、船長に頼んで写真をとってもらうことにした。
だが。
ちょうど、登り掛けている朝陽と、水面からの照り返しと、ホテルのがラスがそのどっちもを
受けて反射する光がまぶしくて、「はい、写すよ」と言われても、
俺か、あいつかのどっちかが必ず眼を瞑ってしまって、妙に時間がかかってしまった。
(デジカメでよかった、と思いました・・・)
そして、船が出る時間になり、船は桟橋を離れて、運河に漕ぎ出した。
「・・・・・しっかし、ホントに人がいねえな」
「男二人だとなんだか、恥ずかしいぜ」など、会話を交しながら、しばしの
船旅を楽しむ事にする。
「ああいう、桟橋に船を横付けしてる様な家に住んでるやつって、相当の金持ちだろうな」
「・・・しかし、洒落た建物だよな。中はどんな間取りになってんだろ」
それから、無事に入国。
まだ、開園したてで、開いていない場所もあるらしい。
俺が勝手に歩くと、広い園内で迷子になる可能性がある、そうなると厄介だ、と
あいつが言うので、とにかくあいつの案内で、ハウステンボス内を歩く事にした。
「・・・奥から、攻めるか」と言うので、「奥になんかあるのか?」と尋ねると、
「お前は俺に黙って付いてこりゃいいんだよ」と言って、あいつは先に立って歩き出す。
俺は慌てて、後を追った。
あいつが目指す場所へと伸びる森まで来て、あいつの歩く早さが遅くなり、
ようやく追いつくことが出来た。
「時間がねえんだ。見るとこは多いし、予定はぎっちり詰ってるって朝言っただろ、
はぐれずに付いて来いよ」
ようやく並んで歩き始めてすぐ、あいつはそう言った。
森の中の道を二人で並んで歩く。
森の置くには、白い建物があり、その前にはたくさんの花がたくさん咲いていた。
「あやめが咲いてるじゃねえか」と俺が行ったら、あいつはフン、と小ばかにしたように
鼻を鳴らして、「あれはジャーマンアイリスだ。あやめじゃねえよ」と言った。
それ以外にも、白だの、赤だの、桃色だの、本当にたくさんの花が品良く、
丁寧に植えられていて、その全部が満開だ。
「・・・・この奥に、庭があるんだと。それから、この建物の中には、凄エ壁画があるそうだ」
壁一面、天井一面の壁画を見、それから、館内をくまなく見て回って、庭を二階の
テラスから見下ろす。
「俺が王子様だったら、おまえは衛兵だな。衛兵のイイ顔の写真撮ってやるから、
ちょっと笑ってみろ」と言われても、うまく笑えるワケがない。
どうしてだか、恥ずかしくなる。
それから裏庭に出た。
「へえ・・・こりゃ、ちょっとした宮殿だな」と俺がカメラを向けながらそう言うと、
あいつは、庭を眺めて、
「王様・・・・いや、王子様気分になれるぜ」と言って上手に笑った。
海沿いを歩いて、元来た場所へと移動する。
途中で、「あとらくしょん」の時間を確認する。
なんでも、「海での嵐が体験できるんだと」とあいつは言うが、
俺には、(そんなの、実体験してるのになんでわざわざ・・・)とそんなモノを見たがる
あいつの趣味がよく分からない。
とにかく。
「運河を巡る船をチャーターしてあるんだ。それを待たせてあるから、さっさと歩け」と
急かされて、とにかく、俺達は、チャーターしてある船が待つ桟橋へと急いだ。
(ホントは、予約してただけなんですが、私と虹子さんしか乗ってなかったので、
ホントに貸切状態でした)
その船では、風景を楽しみながらチーズやワイン、甘いモノを食べたり出来る。
「ケーキ?俺もか」
「中途半端に酒食らったらもっと欲しくなるだろ。飲み放題じゃねえんだから」
あいつは勝手に俺の分もケーキと飲み物のセット、と勝手に予約していたから、
俺の前に出されたのは、チョコレートのケーキだった。
「いらねえなら、俺が食ってやるから」
「いや・・・。なんか、お前が作るやつみたいで、ちょっと苦くて美味エ。これなら食える」
さっき、通った運河だけではなく、その船でないと通れない場所が見れるし、
なにより、二人きり、と言うのは悪くない。
いっそ、給仕の女すらいらねえと思う。
「海の水を引き込んで、・・・護岸を固めずに石を積み上げて、「土が呼吸できる」ように
してあるそうだ。運河には、ホントに魚が泳いでいて、海の中にいるのと変わりない調子で
暢気に泳いでいる。
「・・・しかし、どこもかしこも・・・・なんとも気持ちのいい場所だな」
そう言って、あいつは嬉しそうに外を眺めていた。
この時点で、まだ昼前だ。
まだまだ、見ていない場所はたくさんある。
つづく。