(こんなアホな話があるかよ…っ!)

さんざん園内を探し回ったけれど、結局出会えないまま、バスの発車時刻が迫ってきた。

晩飯を食べながら、これからの事、今回楽しかった事をじっくり話したかった。

次に会える日までの寂しい時間、それを慰める為のたくさんの思い出が欲しかったのに、
こんなに忙しなく、慌しく、禄に別れの言葉も言わないままで、また離れ離れになるのは、

正直、辛かった。

(あんなクソ方向音痴、…もう知らねえ。今度こそ、愛想が尽きた)

当たり所のない悪態を心の中でついても、寂しさは募っていくばかりだ。

きっと、すぐ側にいるはずなのに、何故、会えないのだろう。

会えなくなる時がどんどん迫っているのに、会いたいと言う気持ちは膨れるばかりで、
今にも目から雫になって溢れてしまいそうになる。

それでも時間は止まってくれない。

何度も後ろを振り返り、振り返り、
(…もしかして、追いついてくるかも…)と淡い期待を抱きながら、バスが待つ場所まで移動した。

とうとう、バスの受付まで済ませる。乗り込んでしまえば、もう引き返す事は出来ない。

(…迷子になって野垂れ死んじまえ、あんなヤツ)
最後にもう一度、振り返ったけれど、あいつの姿はどこにも見えなかった。



それでもどうしても諦めがつかずに、バスに乗り込めず、グズグズしてしまう。
そんな中、添乗員と運転手の間の会話がなんとなく耳に入ってきた。

「もう、発車しますか?」
「いや、もう一人、まだ来てないんだ。さっき、急に予約が入ったらしくて…」

どうせいくら待っても来ないに決まっているのだから、さっさと急かして無理矢理乗せてくれたら、
いっそ、スパっと諦めもつくのに、運転手も添乗員も全く急かしてくれない。

「おおい、そのバス、乗るぞ!」

その声に思わず顔を上げた。

「…なにやってんだ、てめえ」

本当に一体、コイツは何をやってるのか、全く理解できなかった。

USJで姿をくらまして、どこへ行きやがったのかとずっと心配させたくせに、
いきなり何の前触れもなく、突然、出てきて、あっけらかんと「バスに乗る」と言って
走ってきた姿を見て、とにかくびっくりして、どう言う態度をとればいいのか、全くわからない。

「いくら探しても見つからねえから、途中で諦めてよ」
「どうせなら、お前が行くところ、とことんついてってやろうって思ったんだ」
「はあ?!」

余りにも突飛な事を言い、突飛な事をされて、面食らった。
こいつは、アホだ。思っていた以上にアホだ。

物凄く嬉しそうにチケットをちらつかせて、
「ほら、このバスだろ。乗っていいか?」と聞いてきた。


「お前が乗っていいって言ったら乗る。乗らなくていいって言ったら乗らねえ」
「ついてきて欲しいか?ついて来て欲しいなら、乗ってやる」

「てめえ、一体何言ってんだ…っ?」
嬉しいのに、思いもしていなかった、期待すらしなかった事をあっさり言われて、
頭の中は何かがはじけたように真っ白だ。

「どうなんだよ、言えよ」
「え、え、それは…」うっかり本音が口を突いて出そうになるのを慌てて堪える。

今、「ついてきて欲しいから、バスに乗ってくれ、」なんて言ったら、きっと一生
ヤツは調子に乗るに決まってる。

でも、顔の表面温度は嬉しさを押さえきれずに勝手に上がって、頬が火照ってどうしようもない。

「お客さん、もう発車時間、10分過ぎてるんですよ。早く乗ってください」と
今更になって添乗員が急かし始めた。

「どうなんだよ、乗って欲しいか?それとも…」
まだにやにや笑っているヤツの腕を掴んだ。
「もう、乗れよ、ぐだぐだいわずに!チケット、持ってんだろ、バカ!」

そんな流れで、まだ旅は続く事になった。

大阪編終わり



大阪でのデートから、東京でのデートまでの日が短かったので、
ゾロサンデートはそのまま続行させる事にしました。


さて、続いて東京デートをお楽しみ下さい♪

東京おのぼりデート編