「なんか、俺ばっかり喋ってるな。」
「聞きたくねえ話は聞かねえ。」
ふと、サンジがいつもよりも饒舌になっていた事に気がつき、
バツが悪そうにしたが、ゾロは構わず、
「・・・それから?」とサンジの話しの続きを強請った。
どうして、こいつの昔話など聞きたいと思うのだろう?
どうして、こいつの事を知れば知るほど、もっと知りたいと思うのだろう?
時間が経つほどに 自分の心に対する疑問がどんどん増えて行くのに、
今、ゾロはこの時間と空間が確かに心地よかった。
「それから、俺が海軍に働きに行ってた時も、ジジイの面倒とか、
コック達の事とか手紙で知らせてくれたり・・・。」
ゼフとクレインは随分長い間、恋人だったのだろう。
そこからサンジの話しは一気に18歳の頃になった。
「その頃は、とにかく、顔を見ればジジイと喧嘩してたからな。」
その日は、その週のメインを決めるのに ゼフの提案をサンジが大反対し、
コック達が寄ってたかってサンジを押さえこむほどの大喧嘩になった。
今、考えるとゼフの言う事は尤もなことだったのだが、
その時の旬の魚を使った新しいメニューを必死で考え、自分なりに
考えたレシピをコックたちの前で クソミソに罵倒された事に
サンジは怒り狂ったのだ。
当時、確かに素行も悪かった。
朝帰りしない日などなかったし、コック達と諍いも絶えなかった。
町のチンピラを毎日の様に 意味もなく蹴り飛ばし、
暇があれば、女の子を見境なく口説いていた。
そんなサンジをクレインだけは 変らない態度で接してくれた。
ゼフとの間を取り持ってくれ様としたけれど、
「そりゃ、余計なお世話だ。」と突っぱねた。
「シスター。それから?。」
その頃、修道院の食堂で、若い修道女が「シスターテレサ」を囲み
昨夜の客の話しを聞いていた。
「・・・とにかく、そのオーナーと彼は仲が悪くなってね。」
遠い所にある、愛しい物を見るような眼差しで シスターテレサは
語る。
小さな頃、命を賭けてゼフを守ろうとした、同じ人間とは思えない言動。
口を開けば罵り合い、顔を突き合わせば さも嫌な物を見たかのように
振舞う二人を見て、マダム・クレインは胸を痛めた。
「あの子は、今、反抗期なのよ。判ってあげて下さいな。」
そう言って、ゼフに取り繕った。
「もう少し、あの子の努力を認めてあげてもいいじゃありませんか。」
サンジが怒り狂った、自分の料理をこともあろうにコックの前で
さんざん 罵倒した、とコックの噂話から耳に挟んだマダム・クレインは
ゼフに 少し、咎めるような声音で、けれど、懇願するような言葉で
ゼフの真意を測ろうとした。
「判ってる。だが、あいつにここを出て行くきっかけを作ってやらなきゃならん。」
それを聞いて、マダム・クレインは驚いた。
「あの子をここから追い出すの?」
「バカ野郎。耄碌したこと言うんじゃネエ。」
即座にゼフに怒鳴られる。
「もう、一人で生きていける歳だ。経験も、腕も、足技も、」
「自分の夢の為に歩いていける歳になった。だからだ。」
バラティエがサンジにとって 安住の地であってはならない。
そして、そこに留まる理由が ゼフの脚を奪ったことに対する贖罪にあるのなら、
尚の事、憎まれても、サンジをここに留まらせるわけにはいかない。
そう、ゼフは言った。
「俺の夢はあいつの夢でもある。」
「俺はあいつから夢を奪うために脚を叩き切ったんじゃネエ。」
夢を叶える力を与えるために 生かして来た。
その力がサンジに備わった今、前へと歩を進められるように、
背中を押すつもりだったのだ。
「・・・それがわからねえ様なバカならどうしようもねえがな。」と
ゼフは、マダム・クレインにだけ見せる、困ったような、笑顔を見せた。
マダムだけが、二人の心を知っていた。
知っていたけれど、それを言葉で伝えるには、ゼフとサンジの間の意地という
壁が厚すぎた。
「ジジイは俺を追い出したいんだ。」
「ここを出て、オールブルーを探して欲しいと思ってるんだよ。」
「それくらい、判ってる。」
大人と少年の間の、微妙な年齢・・・例えて言うなら水色の時に、
本当の母親なら 決して吐露しない本音を 血の繋がらないのに
それ以上の愛情で包んでくれていたマダムだけに サンジは吐いた。
「でも、ジジイの夢を奪った俺が自分の夢を追い駆ける訳にはいかねえ。」
お互いの事を思いあっているからこそ、通じないやるせなさがそこにはあった。
「あいつがもし、一人立ちしたら・・・。」
バラティエが休みの日、マダム・クレインとゼフは 人気の少ない船の上で
穏やかな日差しの下で 寛いでいた。
マダムは日傘をさして、デッキチェアに腰掛け、本を読んでいた。
最初、ゼフの独り言かと思って 気にもせず、そのまま本に目を落としたままだ。
「おい、聞け、オニババア。」
コックコートを着ていない、マダムが選んだ服を当たり前のように身につけている
ゼフがまっすぐに マダムを見ていた。
「俺は、昔、海賊の船長だった。」
「・・・今は、片足のコックだ。」
一体、何が言いたいのか、とマダムは首をひねって本を閉じた。
「なんなのよ?」と怪訝な顔をして、ゼフの言葉を待つ。
「海賊時代、数え切れネエくらい人を殺した。」
「そんな俺だが。」
「あのチビナスが一人立ちしたら。」
「・・・・で、なんて、仰ったんですか、赫足のゼフは?」
神に身を捧げたと言うけれど、人の恋物語にはまだ 興味があるらしい。
若い尼僧は声を上ずらせて シスターテレサの話しの続きを急かした。
「それは言えないわネエ。私の大切な思い出ですもの。」と
シスターテレサは 静かに、微笑んだ。
「ただ、嬉しいやら、恥かしいやら・・・。いい年をして、あんな風に
胸を時めかせる事があるなんて、思いもしなかったわ。」
シスターテレサは少しだけ 顔を上げ、空を眺め、小さな
けれど、深い溜息をついた。。
「あの時が私の人生のうちで一番、幸せな時だった。」
「でな。・・・お前と会う、ほんの半年くらい前だった。」
「いきなり、ジジイが マダムの指のサイズを聞いて来いって言うんだ。」
船のラウンジでは ゾロがサンジの話しを肴に話しを聞いている。
アルコールが回ったのか、サンジの肌は紅潮し、蒼い目も
水分を多く含んで 妙に艶やかだった。
(・・・こいつ、だんだん ガキくせえ顔になってきたな。)
話す内容のせいか、それともいつもより 多く、早く摂取したアルコールの所為か
判らないが、とにかく、ゾロの目にはサンジが年下のように見えて来た。
「で、お前は聞いたのか。」
「聞くかよ。自分の恋人の指輪のサイズくらい、自分で聞けって突っぱねたさ。」
自分がこれほど 聞き上手だったとは思わなかった。
と言うより、聞きたいから尋ねている訳だが、正直、聞きながらもどうして こんな話しに興味があるのか
自分でも判りかねている。
「でもな。ジジイのしたい事なんて判ってるし、ジジイを喜ばすのは
癪だけどよ、マダムを喜ばせるんなら まあ、いいやって思ったから、」
「女の子に指輪を贈りたいんだけど、サイズが判らないんだ。」
「ちょうど、マダムと同じくらいの指だからサイズを教えてくれ。」
「あの尼さんの指のサイズ?」ゾロは見え見えの嘘だと
思った。
そんな指の太い女に サンジが指輪を贈るというのに不信がられなかったのだろうか。
「あ、指が太くったって、俺ア、可愛いと思ったら指輪、買ってたからな。」とサンジは 平然と答える。
(謝罪*ここから先は、ファイルが紛失した為、アップ出来ませんでした。)
あらすじ
クレインの息子は、海兵でした。
行方不明になって3年後にやっと 生死がわかりました.
クック海賊団との戦闘中に、海に落ちて死んだ、という知らせと遺品が届いたのです.
自分の息子が死ぬ原因になった海賊の船長だったゼフと自分が結婚するなんて
出来ない、とクレインは何も言わずに姿を消したのです.
ゼフの手元には、結婚指輪だけが残りました.
ゼフは そんな指輪はもういらない、捨てちまえ、と言って捨てたのですが、サンジは
それをこっそり持っていました。
そして、クレインは サンジと再会して、自分もやっぱり ゼフからもらったその指輪を持っていて、
「もう歳だし、あなたに会うことももうないだろうから。」と形見に自分の指輪をくれました.
ゼフとクレインが薬指にはめて、幸せになる約束の証となるその指輪は、
クレインとゼフの事を 大事そうにゾロに話す、サンジの指に嵌められても、
サイズがあわずにブカブカで、とても不釣合いで 居心地が悪そうに見えました。
・・・・と言う内容でした。
この作品は、「幸せの権利」で出てくるエピソードに繋がっています.
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