第8話

ゾロがサンジの休んでいる部屋のドアを静かに開ける。
疲れ切っていた様子だったので、恐らく眠っていると思ったからだ。

案の定、靴も脱がないでサンジはベッドに体を投げ出すようにして眠っていた。

ゾロは腰の刀がならないようになるべく静かにそれを外して、足音を立てないように
サンジの側に歩み寄って、顔を覗き込んだ。

髪が邪魔をして、顔色が見えないのでそっと指でなで上げる。
(・・・・悪くねえな。)さっきよりも、随分血色がよくなっていた。

靴を脱がして、そっと体の上にブランケットをかけてやる。
すると、サンジの瞼が小さく動いて、やがてゆっくりと開かれた。

「・・・気分はどうだ?」低い声でゾロはサンジに声をかけた。

「なんともねえ。」
サンジは顔全体に柔らかく微笑んで、起き上がろうとする。

「横になってろよ。」ゾロは起きあがったサンジの体に
手を添えて、ベッドにゆっくりと戻した。

サンジは両手を伸ばして、ゾロの頭を引き寄せた。

「なんだ。」
されるがままに、ゾロの顔はサンジの顔の目の前まで引き寄せられた。

しばらく、そのままゾロの顔をじっと見ていたが、なにか言いかけて
言いよどみ、そのまま手を離して、顔を背けてしまった。

「なんだよ、らしくねえな。」
ゾロがそんなサンジに非難がましい声を出した。

「なんでもねえよ。」
その声にサンジも憮然とした声で答える。

「なんでもねえじゃねえだろう、どっか痛いのか?」
サンジは首を横に振った。

「じゃあ、なんだ、はっきり言え。」ゾロがサンジに詰め寄る。

「本当に、別にどうでもいいことなんだがよ、」
サンジは少し違和感のあるタイミングで口に煙草をくわえる。

「アレだ、その・・・・・交尾はどうだったんだよ?」と
無理にさも興味がなさそうな口調を作ってゾロに尋ねた。

その様子がゾロに判り易くてくて、可笑しい。

「なんだ、知ってたのか。」

「別にどうだっていいことだから、」
なにか理屈をこねようとしたサンジにゾロは優しくサンジに口付ける。

「・・・・。てめえ、妙に冷めた顔してただろ。」
口を離した途端、サンジがさっきと同じような口調でゾロにそう言った。

「俺としてる時もあんな感じなのか?」

サンジのその問いかけがゾロの心をくすぐる。
さも興味がなさそうに取り繕う、サンジが微笑ましい。

「さあな。今から確認するか?」
冗談めかして、ゾロがその問いに答えてやる。

「する。」

ゾロは以外なサンジの答えに驚いた。

「大丈夫なのか?」と一応体を気遣う。

「大丈夫だ。」サンジの張りのある声を聞いてから、ゾロは
もう一度唇を重ねた。

サンジの舌がゾロの口内に先に入ってくる。
思い掛けない先制攻撃に一瞬ゾロは怯んだが、直ぐにそれを受け入れながら
逆に愛撫を与える。

お互いを愛撫し、相手をより深い快楽へ落とそうとする妙な競争心がいつもよりも
性急な動きと湿った音に現れていて、それが更に2人を昂ぶらせる。

口付けだけで、ゾロはもう冷静さを失いつつあった。

サンジはゾロがどれほど夢中に自分を求めているか、その行為で十分に確認する。


「もっと声出せよ。・・・・誰もいねえんだから・・・!!」
いつもと同じように、声を押し殺すサンジの耳元でささやく。
快楽に流されまいとしている様子にまた、ゾロは煽られる。

この行為の何もかもが愛しくて、ゾロは満たされた。

サンジの体を抱きしめて、耳に、髪に、首筋に、頬に、瞼に
絶え間なく、唇を落とす。

この体と、この心。
そのどちらもが自分を惹きつけて放さない。
そのどちらもが、狂ったように愛しくてならない。

言葉にしてしまうととても薄っぺらくなりそうで、
ゾロはサンジに体でそれを伝えたかった。

行為の後に眠ってしまったサンジの顔を眺めていた。

「・・・ちゃんと、確認できたのか?」と優しくささやいて。
おぞましい経験ではあったけれど、あれがなければ今これほど
満ち足りた気持ちを得る事はできなかっただろう。

そう考えると、化け物との稀有な交尾も全く無駄な事ではなかったのかもしれない。

ゾロはそんな事をぼんやり考えて、サンジを抱きしめたまま、行為の後の心地よいけだるさの中でゆっくりと瞼を閉じた。

(おわり)