第7話(燃え尽きた執念)


ゾロはサンジを肩に担ぎあげた。
「殺せるものなら殺して見ろ!」

ゾロは二本目の刀を抜き、口に咥えた。

サンジが放った火は瞬く間に地面を這う根に燃え移った。

「う・・・・。」担ぎ上げられたサンジが覚醒した。


ぼんやりと周りを見渡すが、すぐにその瞳に力が戻った。
そして、状況を把握する。


「おい、降ろしていいぜ。」
ゾロにそう声をかけた。

ゾロは頷く。
「すぐに片付く。」
「まかせた。」

燃え広がる火の中で既にサンジの姿を留めていられなくなった
《化け物》にゾロは渾身の力をこめて、刀を振り下ろした。

ぎゃあああああああ

ゾロは辺りに蠢く触手を縦横無尽に切り刻んだ。

断末魔か、身の毛がよだつような悲鳴が絶え間無く上がる。

脱力して、動けないサンジを時々振り返りながら、ゾロは
どこにとどめをさしていいのかわからず、ただ闇雲に激しく刀を振るう。

やがて、炎が幹にまで及び、狙い済ましたかのようにサンジの頭上へ崩れ落ちてきた。

「!!!!!!」咄嗟に走り寄ろうとしたが、距離がありすぎた。

燃えながら、なおも執念深くゾロを苦しませようとしているかのようだ。


サンジは渾身の力を振り絞り、立ちあがると蹴りの風圧だけでその炎を吹き消す。
途端、ぺたりと尻餅をつくように地面にへたり込んだ。

サンジへの攻撃が最後の力だったのか、触手の動きは鈍くなり、やがて完全に止まった。

「大丈夫か!!」ゾロがサンジに走り寄る。
「ああ。」

幾分、顔に生気がないように思えるが、意外にしっかりした声でサンジが答えた。


「この方が、いいんだろう?」

もっと体を労わる運搬方法があるけれど、サンジが「俺はレディじゃねえ」
と嫌がる事を予想して、ゾロはもう一度、サンジを肩に担ぎ上げた。

「ああ、これでいい。」



しばらく、もと来た道を戻っていくうち、サンジが肩の上で体を起こそうとした。

「なんだ、重いんだから、動くなよ。」
別に重くも何とも無いのに、ゾロが文句を言うと、

「なんか、聞こえねえか?」と森の中へ視線を走らせている。

ゾロが耳を済ますと確かに人の助けを呼ぶ声が聞こえるような気がする。

「向こうだな。」ゾロがサンジに聞こえてきた方角を確認した。
「・・・みたいだ。」

サンジを担いだまま、藪の中を掻き分けて入っていくと声はどんどん近づいてくる。

「おーい、助けてくれー!!」どうやら、若い男の声だ。

「おおおい、」

ものすごく近くで声がするのに、姿が見えない。

「おい、足元だ、足元。」サンジがゾロの肩をぽんぽんぽんぽんとせわしなく叩いた。

ゾロが足元を見ると、草の隙間の間にどうやら穴があって、そこへ落ちた男が
助けを呼んでいるのだと判った。

また、サンジを草の上に降ろしてゾロは男を助け出した。

「あんた・・・。」助け出された男を見て、サンジは怪訝な顔をした。
「どっかで見たような・・・あ!!!」

例の鍛冶屋の主人を若くしたような顔である。

「あんた、もしかして鍛冶屋の息子か?」
サンジがそう尋ねると男は頷いた。

「おい、あの化け物に食われたわけじゃなかったんだ。」
サンジがゾロに向かって、笑いを含んだ声でそう言った。

「はははは、飛んだ勘違いだな、あの親父。」

サンジは、簡単に今までの事をその男に話した。

男は、狩をしていて、この穴にはまり、足を挫いて動けなくなっていたのだ、と言う。

どうやら、今でも歩ける状態ではなさそうだった。

「おい、俺は大丈夫だから、・・・」その男を担げ、とでも言うつもりのサンジを
ゾロは再び肩に担ぎ上げる。

ゾロは
「おい、助けを呼んできてやるから、ここを動くな。」とだけいうと、さっさと
歩き始めた。


「おい、こら、この薄情者!!」サンジが肩の上で暴れ出した。

「なんで、すぐ助けてやらねえんだよ。あいつ、ここ何日か食ってないんだから、
俺はあとでいいんだよ、先にあいつを・・・。」


「うるせえ、俺はお前を優先する。ちょっと黙ってろ。」

ゾロは、サンジがさっきから妙に口数が多い事が気になっていた。
顔色はさっきと変らない。担ぎ上げた体も脱力したままだ。

(俺に余計な心配させたくなくて、虚勢を張ってやがる。)とゾロは看破している。


町に出ると、サンジは鍛冶屋に向かう前に自分だけどこかの宿屋で休みたい、と言い出した。

「あれだけ、見栄切って出てきてこの有様じゃ、カッコ悪いだろ?」
「どっちみち、倅の口からばれるかも知れねえけど。」

やはり、体をゆっくり休ませたいのだろう。
くだらないいい訳を考えてゾロを安心させようとする心根を汲んで、
ゾロは町のはずれの宿屋に部屋を取り、ひとまずサンジをそこで休ませてから、
鍛冶屋に向かった。
息子が生きている事を伝えると、すぐにサンジが待っている宿屋に向かった。


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