第6話(相違する姿態)
サンジの姿をしたそれは、ゾロの首に腕を回して、
ゾロ自身に自分のものを擦りつけてきた。
それをきっかけにゾロはそれを押し倒し、口付けはせずにサンジに与える愛撫よりも
激しい行為を開始した。
サンジの体。サンジの顔。サンジの声。
いつも抱いているのと全く同じ感触なのに、体は猛っていても
心は自分でも驚くほどに冷めている。
自身に絡みつく粘膜の動きは、いつもと何ら変らない。
しかし、背中に立てられた爪にも激しい腰の動きにもそれに吐き気を催すほど嫌悪感を覚える。
だらしなく開いた口から見える舌も、喘ぎながらも自分を見上げる媚びた目も
ゾロの理性を飛ばす事は無い。
絶え間無く上がる嬌声にも、行為を煽られる事も無い。
いつも自分を残らず絡めとり、自分を煽り、理性を飛ばしてしまう
サンジとの行為を思い出す。
ゾロが与える快楽に流されまいと食いしばる口。
背中に回ったまま、握りこんだ手。
指先が白くなるほど、シーツを掴む手。
自分の口を押さえ、声を出すまいとしても、それでも漏れてくる声。
いつもはもっと乱れて欲しいと願っていた。
ちょうど、今、自分が組み敷いている姿態を望んでいた。
だが、ゾロはこの状況で改めて確信する。
自分が惹かれてやまないのは、サンジの体ではない。
サンジの心がそこに無いのなら、誰も体でも同じ事なのだ。
自分を煽ろうとするそれを黙殺するように、ゾロは覚めた目のまま、
精を放った。
ゾロは着衣を殆ど乱さずに行為を終えた。
サンジの姿をしたそれは、しばらく体を横たえていたが、ゆっくりと
体を起こした。
「約束は果たしたぜ。さっさと、あいつを放せ。」
ゾロは感情の無い無機質な声で詰め寄った。
それは、ゾロの顔を見上げて、舌なめずりをした。
「気ガ変ッタ。」
「なんだとお!!?」ゾロの頭に一瞬に血が登った。
「アレハ、尽キナイえねるぎーヲ持ッテイル様ダナ。」
「アレダケノ激シイ行為ナノニ少シモ消耗シナイ。」といって、可笑しそうに笑った。
「てめえ・・・・」
行為の後、ほんの僅かの間にサンジからエネルギーを吸い取っていたのだ。
ゾロは刀を手に持ち、躊躇い無くそれを抜いた。
サンジは動けない触手の中で、どんどん意識も力も抜けていくのを感じながら、
僅かに動く手首から先を必死でズボンのポケットに伸ばした。
指先で、マッチを取り出す。
サンジを拘束する触手が少し緩んだ。
サンジは飛びそうになる意識を必死で繋ぎとめながら、片手だけでマッチを摺った。
火の付いたマッチを次々と足元に落としていく。
最後の一本を祈るような気持で一番側の触手の上に近づけた。
「その刀で、俺を切るのか?ゾロ」
一糸纏わなかったはずのそれに霧がぼんやりとかかったと思ったら、
それはブルーのストライプシャツと黒いスラックスを身につけていた。
「お前は、もっと感じて欲しかったんだろう?」
サンジの声だったがさっきまでは全く抑揚の無い口調だったのに、
急にサンジの口調そのままになった。
「俺なら、もっとお前を満たしてやれるぜ?。」
ゆっくりとゾロに歩み寄ってきて、媚びた笑顔を浮かべた。
「愛してるぜ、ゾロ」
ゾロは上段から袈裟懸けに斬りかかり、返す刀で今度は下から上へ斬りあげた。
琥珀色の液体が飛び散った。
「ぐっ・・・・」唐突とも言える、ゾロのその行動にそれは怯んだ。
「ナゼダ・・・。コノ姿ノ私ヲ何故斬レル・・・?」
「あいつは、俺に媚びた事はねえ。」憮然とゾロは言い放った。
「まして、愛してるなんて、口が裂けても言う奴じゃねえ」
「オノレ・・・・。オ前タチ、2人トモ殺シテヤル!!」
その時、サンジが拘束されていた触手の塊から火の手が上がった。
ゾロは一瞬、何が起こったのか判らなかった。
が、すぐに体が動いた。
燃える触手の中から、意識が朦朧としているサンジを引きずり出す。
服に燃え移った火を素手で叩き消した。
サンジの手には、カラのマッチ箱がくしゃくしゃになって握りこまれていた。
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