第4話(おぞましい生態)
その不気味な根っこを辿ると、視界が開けた。
まるで、他の植物がそれを避けるように側にはむき出しの蠢く木の根だけが存在する。
その無気味な姿に一瞬2人とも唖然とした。
その途端、その蠢く根っこが凄い勢いで、ゾロめがけて触手を伸ばしてきた。
「!!!!」ゾロはそれを躊躇なく切り落とした。
しかし、足が動かなくなっている事に気付くのが遅れた。
触手は囮だったのだ。
太い根相手ではサンジの蹴り技は役に立たない。
「ゾロ!!」
足元に絡みつく触手はゾロの太股にまで及んで、ウネウネと動く。
サンジは躍起になってそれを引き剥がそうとしたが、その細い腰にも触手が巻きつく。
「うわっ!!」
サンジとゾロは引き離される。
ゾロはさっさと自分の足に絡む触手を切り払おうとしたが
一瞬サンジに気を取られている間になんとそれは植物の形態から、
まるで岩のように変化している。
そして、切り払おうとした腕にもすばやく絡みつき、完全にゾロの動きを封じた。
そして、動けないゾロへ向かって、吸盤のような器官を持った別の触手が伸びて
ゾロの首筋に吸いつく。
サンジは引き離されたが、遠くへ投げ出されただけだった。
ゾロのもとへ駈け戻ろうとすぐに立ちあがった時、頭の中に声が聞こえた。
サンジは周りを見渡す。勿論、その声の主の姿は見えない。
「コノ男ヲ助ケタイカ?」
その声はそう言った。サンジは不気味な木を見上げた。
「ソウダ。私カラコノ男ヲ助ケタイカ?」
サンジは信じられないといった表情でしばらく考えたが、ゾロの顔を見ると
明らかに血の気が失せているのが見て取れた。
「オ前ナラ殺ロサナイ。ダガ、コノ男ノ血ハ吸イ尽シテシマウゾ。」
サンジの頭の中には不気味な声が響きつづけている。
「止めろ、分かった!!好きなだけやるからそいつを離せ!!」
サンジはその声の主らしい、不気味な木に向かって怒鳴った。
サンジの声を聞いて、ゾロは振りかえった。
(ばかな事言うな!!)そう怒鳴ろうとしたが、声が出ない。
サンジの体へゾロに巻きつく触手よりも細い無数のそれが幾重にも絡みつく。
「!!!」あっという間にサンジの身体は見えなくなった。
明らかに自分の拘束の仕方とは違う。
サンジを取り込んだ触手はウネウネと不気味に動いている。
その隙間から、僅かに白い腕が見えた。
蠢く触手の動きに逆らうことなく揺れているその腕の動きは
既にサンジの意識が失われている事をゾロに告げている。
血液を吸われたからではない、
ゾロは自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
やがて、サンジに絡みついている触手の動きが止まった。
サンジの腕も もう隠れて見えない。
ゾロは必死にもがいていた。(せめて、腕だけでも動けば!!!!。)
しかし、岩と化したその触手はびくともしない。
ふと、妙な気配を感じゾロはもがくのを止めて、その木の方へ目を向けた。
ゾロの真正面の太い幹から、白い蝋のようなものがその表面に染み出して来た。
ぶくりと大きく膨れるだけ膨れ、やがて大きくなりすぎて重力に逆えなくなったそれは
木の根元にぼとり、ぼとり、と落ち、落ちた分が固まって大きくなっていく。
溶けた雪だるまのようになったその白い不気味な蝋らしきものは、
勝手に伸びたり、縮んだり、奇妙な動きを見せた。
まるで、見えない手が粘土細工を作っているかのような動きだった。
(!!?)ゾロの眉間に未知なる物への畏怖が浮かぶ。
やわらかく、はっきりとした形を為さなかったそれは、その動きで球状に形を整えた。
そして、緑色に変化した。
ゾロはその不気味な変化を見つめてることしかできない。
つるりとした表面の緑の球は、むくむくと膨らみ出した。
ゾロが両手を広げたほどの大きさまで膨らむと今度は地面の方から
じわじわと茶色になっていく。
みずみずしかった表面が何時の間にか乾燥して固く、茶色になった。
一体、何が起きようとしているのか。
ゾロには全く予想できない。
目の前の茶色の球も気になるが、それよりも細い触手にとらわれ、
姿が見えなくなったサンジのことが気に懸かる。
サンジは一体誰に叫んだのか。
「好きなだけやる」とは、一体何を与えるつもりだったのか。
この不気味な化け物は自分とサンジをどうするつもりなのか。
茶色の球にひびが入った。
ゾロの視線がそこへ釘付けになる。
乾いた紙が擦れるような音がして、その球の表面に自然にひびが入っていく。
全体にひびが入ったところで、木の皮を無理矢理剥がすような音がした。
そして、その球は大きくバランスを崩してごろり、と転がった。
その衝撃で、大きく裂け目ができる。
その裂け目から出てきたものを見て、ゾロの瞳はこれ以上ないほど、大きく開かれた。
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