第2話(磨げない鍛冶屋)
「おい、鍛冶屋があるぜ。」しばらく、ぶらぶらと店が建ち並ぶ通を歩いていたが
サンジが小さな路地を覗きこんで、その先にある小さな鍛冶屋を見つけてゾロに声をかけた。
案の定、閉まっている。
「閉まってるじゃねえか。」
「どうせ、ログが貯まるのにどれくらいかかるかを聞かなきゃいけねえんだから、
ちょっと声かけて見ようぜ。」サンジはその鍛冶屋の固く閉まった扉を叩く。
「誰かいねえのか、おい!!」
少しでも、女ッ気のありそうな店ならこんな乱暴な口を聞かないが、
武器専門の鍛冶屋の看板を見たのか、サンジはそう怒鳴った。
しばらくして、扉が内側から開いた。
憔悴しきった、初老の男が怪訝な顔で2人を眺め回す。
そして、低い声で迷惑そうに「・・・・。店は休みだ。」と言った。
「ああ、わかってる。旅のものだが、この島のログはどれくらいで貯まるか、教えてくれねえか。」
サンジはポケットから、いくらかの紙幣を取り出した。
それを男の手に押しつける。
「こんなもん、いらねえ。ログぐらい、教えてやる。」
男はそれをサンジに返そうとした。
「いいって。急ぐんで、刀を1振り、どうしても磨いで欲しいんだ。これはチップと思ってくれ。」
「それは、いくら金を積まれてもできねえ。」
男はやはり、その金をサンジに返してきた。
「?磨げねえのか。ここは鍛冶屋だろ?親父、鍛冶屋じゃねえのか?」
サンジがそう尋ねると、その男は深いため息をついた。
「磨げねえんじゃねえ、そんな気が起きねえんだよ。他所者のあんたらにいっても仕方のねえことだ。」
「だが、磨いで貰わねえと困るんだが。」ゾロが後ろから珍しく口を挟んだ。
「知ったこっちゃねえ。」男は面倒くさそうに答えた。
いきなり、ゾロは刀を抜いた。そして、男に突付けた。
「どうだ?せっかくの名刀なのに、脂が回っちまって斬れねえんだよ。」
「こんなんで斬ったら、そりゃ、痛いぜ。一刀両断って訳にはいかねえからなあ。」
「切り刻んでもなかなか死なねえんだよ。・・・・。試してみるか、親父」
ゾロは本当にその親父を斬りかねない迫力を持って、低い声で男に詰め寄った。
男の顔色が青ざめる。
「わ、わかった。と、磨いでやるからそれをしまえ!!」
「最初から、そう言や、いいんだよ。」ゾロは刀を鞘に収めた。
「だが、時間は貰うぞ。」店の中に通された二人に男はそういった。
「俺達は急いでるんだが。」その言葉にゾロが答える。
「時間がかかる理由はなんだ。それを聞いてからだ。」
男はさっきの脅しでゾロに対してすっかり怯えてしまっているようだ。
「ここの島の名前くらい、知ってるな?」男が話を始めた。
この島には、奇怪な植物が存在する。
100年に一度、繁殖するために人を食むというのだ。
この男の息子がその植物のある森から帰ってこないと言う。
前回の繁殖の記録はない。
この島に人が住むようになってからまだ100年も経っていないのだ。
数年前、島の森から動物達の姿が消えた事に異常を感じた学者が調査して、
この島にその恐ろしい植物が存在していた事が明らかになったという。
いつ繁殖期を迎えるかわからなかったので、島民はいつも警戒していた。
だが、長い緊張が早々続くものではない。
「で、せがれが帰ってこないのはそいつに食われちまったかも知れねえって事か。」
サンジが男に尋ねた。
男は沈痛な面持ちで頷く。
「ふーん。・・・・・」
サンジは煙草を吹かしながら、しばらく考えてから、ふと疑問を口にした。
「なんで、焼き払っちまうとかしなかったんだ?」
「できねえんだよ。あいつは・・・・。人の心を読む。」
「あいつ?その植物の事か?」
男とサンジの問答は続く。
「ただの植物じゃねえ。化け物だ。」
「この島から生きて出たかったら、森には行かねえ事だ。」
「親父のせがれが生きてるかどうかはわからねえが、さっさと俺の刀を磨ぐんなら
そんな化け物切り倒してきてやるぜ。」
ゾロとサンジは親父のせがれがどうのというよりも、その化け物の植物に
とても興味を持った。
「止めておいた方がいい。そう言って、この島の人間が何人、あいつに殺されたか・・・・。」
「あいつさえ、いなければこの島は平和な良い島なのに。・・・・。」
男は誰に言うともなく、そうつぶやいた。
「そりゃ、並みの人間だろ?」
「いっしょにしてもらっちゃ、困るな。」サンジが男の言葉をせせら笑った。
「ま、ちょっと面白そうだからいってみるか、大剣豪?」
ゾロはサンジに顔を向け、不敵な笑いを浮かべて、頷いた。
ゾロとサンジは男が止めるのを聞かずに無理矢理その森の場所を聞き出した。
化け物退治に2人とも胸が高鳴っている。
戦闘能力が高ければ簡単に倒せると単純に考えている二人に
その化け物が、どれほどおぞましい生態をしているかなど、知る由もなかった。
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