その筋立てになんの脈略も意味もないのに、妙に心の中に残る夢を見る時がある。
別に気にも止めていない事柄が不意に夢の中に出て来たり、
昔、経験した記憶と、最近の出来事がごちゃ混ぜになって、それが当たり前の現実の様に思えたり。

「やかましいっ、静かにしやがれ!」

ゾロはそう怒鳴られ、なんだか柔らかな布の塊で強かに頭をバスンバスンと何度も
強打される衝撃に叩き起こされた。

(・・・っはっ・・・)何がなんだかわからず、飛び起きる。
しなやかな反動を体に感じ、目に映るのは、見覚えのない柄の壁。
まだ灯りを灯さねばならない薄暗さ、素肌にさらりとした薄い布の感触。

「寝言を喚くんじゃねえよ!」と怒鳴っているサンジは、上半身裸で、
髪も寝乱れている。その手には枕が少し凹んだ柔らかそうな枕が握り締められていた。

それで、少し、ゾロは目が醒めた。
ここはとある島で、昨日、適当に金を稼いだ後、二人で入った宿だ。
久しぶりに心地良く、なんの心配も気兼ねもなく、お互いが欲しいだけ、
お互いが欲しがるだけ、十分に快楽を求め、与え合った。
どちらが先に寝入ったかさえ判らない。抱き締めあった体を解す事もしないまま、
深い眠りに落ちた。

「ああ・・・起こしてくれて正解だ」とゾロはなんだか嫌な汗をかいた様に
妙に湿っぽく、火照った体をサンジに押し付けて、そのまままた
ベッドに倒れ込む。

「・・・なんだよ、怖い夢でも見てたとか?」サンジは喉の奥に笑いを
含みながら、指と指の間に緑の髪を軽く絡ませ、そしてゆったりと滑らせ、
胸に乗せたゾロの頭をその形を確かめる様に、掌全体を使って、子供を
あやすのに似た仕草でゾロの頭を愛しそうに撫でた。

(・・・枕で殴ったくせに)甘える様に擦り寄った途端、急に優しくゾロを
受けとめたサンジの変わり様がおかしくて、ゾロは心の中で笑った。
黙ったまま、サンジの背中に腕を突っ込み、細い体を抱き、また目を閉じた。
無理矢理叩き起こされた所為でまだ眠い。
このまま、もう少し、こうしてサンジの胸に耳を押しつけて、
トクン、トクンと耳触りの良い鼓動を聞きながら寝なおしたい。
けれど、すぐに眠ってしまえるほどは眠くない。
朝が来るまでまだ数時間ある。もう一寝入りするまどろみの中、
さっき見た嫌な夢をサンジに話してしまおうと思った。

「・・・夢見が悪くてな・・・」
「へえ。虫の夢でも見たか?」優しい闇の中で、サンジの声が頭の上から降って来る。
「ああ、虫の夢だった」

ゾロは、夢の中の情景を思い出す。

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