大和川をきれいにするために
大和川水系の水質調査
大和川をメダカの住む川にするために −近自然河川工法の導入−
 河川には本来、有機物を無機物に浄化する能力が自然に備わっています。しかし、その浄化能力はコンクリートを使った従来の治水工事で失われてしまいました。そこで、その反省に立って近年進められているのがヤナギ等の植物や土壌、岩石によって護岸する近自然工法です。この工法はスイスで考えられたもので、ヨーロッパを中心に欧米では広く普及しています。これは単なる自然保護ではなく、水源から河川、そして海に至る水の循環サイクルを見て、その生態系まで含めた豊かな自然を再生する試みです。
 近自然工法とは、20年ほど前から試みられている『親水工法』とは異なります。親水工法とは、コンクリートの護岸をなだらかにして水辺に近づけるようにしたものに過ぎません。日本における近自然工法の導入は、まず日本の伝統的な河川工法から見直されました。かつての日本では、護岸や水制に竹や柳などで作った籠に石を詰めた『蛇籠(じゃかご)』や『聖牛(せいぎゅう・ひじりうし)』といった水制の工法が取られていました。水制のなかでも『聖牛(ひじりうし・せいぎゅう)』は急流にも耐えられるよう工夫された頑丈な水制の一種です。聖牛は、1本の長い棟木(むなぎ。水平材のこと)とそれを支える3対の合掌木からなり、下部には蛇籠を載せる棚が設けられています。全体の姿は三角錐を横に倒したような形で、地域によって多少大きさが異なることもあるものの、棟木の長さが五間(9m)のものを大聖牛(だいじょううし・だいせいうし)、長さ四間(7.3m)のものを中聖牛といいます。荒ぶる川と戦うために、場所によっては大聖牛よりもさらに大きく、より堅牢な牛がつくられたことも記録に残っています。聖牛は角がある背の高い方を川の上流に向けて設置されます。大水がでると、濁流とともに上流から大小の石が運ばれてきますが、聖牛は水をはねながら徐々に土砂を上流側に堆積させていきます。聖牛と貯めた土砂とが一体になって河岸を守るのです。聖牛が木でできているのは、昔は鉄やコンクリートを使えなかったこともありますが、出水時に川底の地形が多少変化しても、木を使えば各部材や聖牛全体が適度にしなることによって川底の変化に追随しながら安定し、壊れて流されにくくするためでもあります。地震の揺れに強い五重の塔などと同じように、いわゆる柔構造となっているのです。こうした昔からの伝統工法をもう一度行おうというものが近自然工法です。『蛇籠』や『聖牛』でできた岸には何年かすると自然の姿が戻ってきます。なぜなら、近自然工法の元である伝統工法は、『蛇籠』で造った護岸に土砂や土壌をかぶせるからです。
 さらに、直線的・平面的になった河道を自然に近い形に戻すことも近自然工法の特徴です。つまり、川を蛇行させ、流れに緩急を付けるのです。川を自然な形に戻すと生態系も戻ります。このことは近自然工法の先進国である欧米ですでに実証されています。
 この近自然工法を大和川の本流や支流に施すのです。現在の大和川は、両岸と川底をコンクリートで固めた『三面張り』となっているので、生物がすみにくく、植物も生えにくい環境となっています。加えて、秋篠川のように住宅街の中を流れる支流が多いので、富士川のように大規模な工事が行えません。
 そこで注目したいのが、低水路整備の要領で導入できるヤシ繊維を活用した植生工法です。これはドイツのベストマン社が開発した工法で、『ベストマンシステム』と呼ばれています。日本では横浜市河川局(現横浜市下水道局)が最初に導入したもので、川の真ん中を数十センチ掘り下げて1段低い水路を造り、掘った土を両側に盛り上げて岸とするものです。さらにこの岸にヤシ繊維でできたロールを置き、セキショウ、スゲ、ガマ、セリなどを植えました。植物が生長し根を張ることで土壌の流出を防ぎ、川岸を保護するようになります。さらに植物は栄養塩類を吸収してくれるので富栄養化も防ぐことができます。ヤシの繊維を利用するのは、植物が根を張るには時間がかかるため、その間は大雨などによる増水で流されないようにするためです。さらにヤシの繊維は時間がたつと土に還るため、環境に負荷がかかりません。
 大和川水系の場合、低水路を掘り下げるよりも、コンクリートを取り払った上で現在の川底より数十センチ高いところに段丘ないし小段を設ける方法が良いと考えられます。護岸はコンクリートではなく立方体にした蛇籠を積み上げて造り直すのが最良ですが、高崎や武蔵野台地に見られるように、水際近くだけベストマンシステムを取入れ、それよりも高い部分はコンクリート護岸のままにしておくという手法もあります。横浜市の例で見ると、改修前はCODが平均で30ppm以上もあった川が1年後にはメダカやモツゴ、オイカワなどの小魚が生息するまで改善しました。
 このようにみると、高価な機械やバイオプラントを導入しなくても、自然を再生し、さらに生態系も再生しながら浄化でき、水制も行うことができる工法があります。大和川で蛇籠を導入する場合、一部に貝蛇籠を利用すると効果が上がると考えられます。貝蛇籠とは、立方体に編んだ網籠にカキやサザエなどの水産加工場からでる貝殻を詰めた物です。回の表面には無数の凹凸があり、この凹凸の隙間には微生物がすんでいます。近年の研究によりと、この凹凸の隙間に住み着いている微生物の何種類かは富栄養化などにつながる汚染物質を分解する作用があることが分かっています。また、これらの微生物が河川中に流されても環境に負荷がかからないことも実証されています。貝殻はカルシウム分が主成分になるので、捨てると産業廃棄物になりますが、活用すると自然再生を促進することができます。この貝蛇籠とベストマンシステムを平行して導入することで、より高い水質改善効果と自然回復が見込めます。近自然工法で造り直した川に親水の側面を持たせる場合、不連続提の一種である霞提を造り、霞提の開口部を親水広場として活用すると良いでしょう。霞提は現在でも鬼怒川や黒部川、富士川などの急流部で見ることができます。霞提は本来、中国文明が黄河流域で発達した時代からすでに行われていた水制のひとつです。日本では弥生時代から造られているという史料もあります。ベストマンシステムや蛇籠の護岸、聖牛といった水制の工費は三面工法より安価にできるので、毎年多額の公費をつぎ込んでメンテナンスや補強工事を行うのなら近自然工法を試してみるべきです。



<参考資料>
  信玄公園内の案内図および説明図 信玄公園 山梨県甲府市
  気仙沼市漁業協同組合
  国土交通省河川局富士川河川事務所


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