長良川河口堰と鮎の遡上問題
長良川河口堰ができる前の長良川
河口堰ができる前の長良川は、中流までは河川改修も終わって洪水対策も整っていましたが、下流では天井川となっていた。また、堆積した土砂が天然の塩止めの役割をしていた。海水がさかのぼって来なかったため、工業用水や農業用水を取水するための取水口が下流付近にいくつか儲けられていた。
長良川の河床が高い位置にあったので、下流の洪水対策は堤防の強化しかなく、大雨のときの洪水対策には問題が残っていた。川幅を拡張するには用地買収の問題があった。また、浚渫すると洪水時の水位は低く保てるが塩水がさかのぼってくるため、真水の取水ができなくなる問題がおこる。そして、長良川から取水する水に塩分が混じったり、周辺の田畑にも塩分が入り、稲や野菜に悪い影響をあたえることになる。
こうしたことから長良川河口堰が計画された。長良川河口堰が塩止めをすることによって利水が確保でき、人口の塩止めができるので大規模な浚渫が可能になった。長良川下流の洪水対策は河口堰の設置から始まることとなった。
長良川河口堰河口と堰ができた後の長良川
長良川河口堰は治水と利水という2つの大きな目的をもって建設された。治水では長良川河口堰の設置によって、大規模な浚渫を可能にし、長良川の洪水(計画高水流量7,500t/秒)を安全に流下さることができる。利水では、塩水の遡上を防止することがでるので、今までの水資源を確保すると同時に新たな水資源の開発が可能となった。これは堰の上流を淡水化することで、愛知県・三重県・名古屋市で、水道用水や工業用水に最大22.5t/秒の水を利用できるようにするというものである。
長良川はアユやサツキマスなどの魚が遡上する川の為、長良川河口堰の設置には環境や川の生態系への配慮が不可欠となった。このため、長良川河口堰には魚の通り道である魚道が整備されることとなった。また、長良川は今でもシジミ漁をする小型船が行きかっているので船が通ることのできる水門を設けることとなった。
長良川河口堰に設置された魚道は魚の特性や習性に合わせて複数のタイプの魚道を左岸と右岸両方に整備することとなった。これとあわせて遡上してくる魚を魚道に確実に誘導するための工夫もなされた。それが世界で初めて整備された呼水(よびみず)式魚道である。呼水式魚道は魚がより大きい水の流れに反応する習性を利用したもので、魚道に対して優先的に流量を確保することで魚道から下流へ流れる水の流れが強くなり、その流れに魚が反応する、というものである。
河口堰稼動後の長良川は流量が安定したため、植物プランクトンの一種であるクロロフィルが夏場にしばしば大量発生するようになった。河口堰は通常、オーバーフローで水を下流へ流している。オーバーフローとは、河口堰に設けられているゲートを越水させる形で河川水を堰の上流側から下流側へ流す方法である。また、アンダーフローとは、水門に設けられているゲートの下から水を下流へ流す方法である。
参考資料
アクアプラザながらの展示パネル
アクアプラザながら パンフレット「長良川河口堰とともに「川・人・いのち」(2005)
独立行政法人 水資源機構 長良川河口堰管理所「長良川河口堰調査報告書」(2005)
日本自然保護協会 報告書「長良川河口堰事業の問題点・第3次報告」(1996)
日本自然保護協会 報告書「長良川河口堰が自然環境に与えた影響」(1999)
日本自然保護協会 報告書「河口堰の生態系への影響と河口域の保全」(2000)