飛十夜

第一夜


こんな夢を見た。
高層ビルの谷間で、オレはある男と並んで歩いていた。その男が何者かはわからん。が、昔からの知り合いのような歩き方をしていたし、オレもそう緊張してはいなかった。二つのビルの列の間には、さらに並木が二列になって、向こうまでずっと走っていた。その向こうにはうっすらとした青い山が見え、そしてその上には、やや橙色がかった青空がぼうっと浮かんでいた。オレと男は並木の直ぐ横の道に沿って歩いていた。
「最近疲れているんだ。」
と男は言った。
「まぁ、まだしばらく死にはしないだろうけど。」
と、また男は続けていった。
それでオレは、こいつは病気なのか?と思い、
「病気か?」
と聞いた。
「フ、そんなことぐらい、お前知っているだろう」
と男は嘲笑して答えた。オレは黙った。
男はオレのすぐ横をぴったり並んで歩いていたが、オレは奴の顔を見なかった。なんとなく見てはいかんという気も確かにしたが、見る必要もないだろうと思った。何故必要がないのかはわからなかった。が、ただ知っている奴だとは思った。誰だ?とばかり考えていたら、そのオレの様子を察してか、男はまたくっくと笑った。不愉快な奴だ。
オレはいろんなことを疑問に思い始めた。
「オイ。」
「ん?どうした?」
まず、オレ達がこの道を歩いていることを、疑問に思った。
「この道は、どこまで続いて居るんだ?」
と、オレが聞くと、男はしばらく考えこみ、
「あの山までだよ。」
と答えた。
「貴様とオレは、あの山に向かっているのか?」
「向かっているのかって、お前、承知済みじゃなかったのか?」
と、男はまた嘲笑した。オレは顔をしかめた。確かに、オレが決めた行き先のような気もした。だが足元を見ると、男の方が半歩ばかりオレより前を進んでいる。
「貴様急いでいるのか?」
「なんで?」
「歩くスピードが早い。」
「ああ。急いでるよ。」
男はあっさり答えた。
「何故急ぐ?」
すると、男は急に立ち止まった。
「何故って、早く貴様から離れたいからさ。」
奴が急に止まったので、オレは振り向いて、奴の顔を見てしまった。
オレは固まった。
「あの山に着いたらオレは死ぬんだ。」
そう言って、男は霧のように、すうっと薄くなって消えてしまった。男だけではない。ビルも、並木も、舗装された道も、全て消えてしまった。あるのは、さっきよりも青が濃くなった空ばかりだった。オレは今歩いて来た方向を向いている。
そこから、オレはまた前に振り向くことが出来なかった。

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