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(47) □ ぼくらの言語塾 (ねじめ正一:岩波新書)2009.12.31

  詩の言葉について書かれている本で、僕からは縁遠いように思われる本だ。
  それにもかかわらず本書を買ったのは、小2の息子が学校で詩を習って、
  少し面白く感じているようだからだ。
  この本には小さな男の子が喜びそうな下ネタの詩もいくつかあって
  子どもに見せてやると案の定、喜んでいた。
  もちろん子ども向けだけでなく、大人向けの詩にも良い詩がある。
  その中の石垣りんという方の詩を記しておきたい。
  この詩を読めただけでも本書を読んだ価値がある。

  「表札」
  自分の住むところには
  自分で表札を出すにかぎる。

  自分の寝泊りする場所に
  他人がかけてくれる表札は
  いつもろくなことはない。

  病院へ入院したら
  病室の名札には石垣りん様と
  様が付いた。

  旅館に泊つても
  部屋の外に名前は出ないが
  やがて焼き場の鑵にはいると
  とじた扉の上に
  石垣りんと札が下がるだろう
  そのとき私がこばめるか?

  様も
  殿も
  付いてはいけない、

  自分の住む所には
  自分の手で表札をかけるに限る。

  精神の在り場所も
  ハタから表札をかけられてはならない
  石垣りん
 
     
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(46) △ 夜明け前に会いたい (唯川恵:新潮文庫)2009.12.30

  予想通りの展開で、意外な感も何もない。
  直木賞作家だから、もう少し良い作品もあるのだろうが、これは駄作だ。
 
     
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(45) ◎ 脱出 (吉村昭:新潮文庫)2009.12.30

  5つの話が収められている。
  どれも一般的にはあまり知られていない戦争に関係したことを書いている。
  その情報と共に登場人物特有の立場や見方が描かれ、小説としての
  レベルも高い。さすが吉村昭だ。

 [脱出]
  敗戦直後、ソ連軍に追われて樺太から逃れる人を描いている。
  当時の樺太について書いたものを初めて読んだ。
 [焔髪]
  戦争末期、東大寺の仏像を柳生街道沿いの円成寺と正暦寺に疎開させた
  そうだ。戦後、戦争の賠償として仏像をアメリカに渡すという噂があり、東大
  寺では仏像を疎開先から戻すかどうかの議論があったことなどが描かれて
  いる。
 [鯛の島]
  瀬戸内海の漁村で戦前、楫子(かじこ)と呼ばれる少年たちが働いていた。
  漁民は、5年、10年の年季として前貸金を親に渡し、7歳から13歳の少年を
  連れてきて働かせた。戦後すぐもそれが続いていたが、アメリカ支配下で急に
  楫子の人権が問題視され、警察に捕らえられるものも出た。
  そういう環境下での漁村の戸惑いがよく伝わってくる。
 [他人の城]
  米軍の沖縄上陸を間近に控えて、沖縄方面から本土に疎開するのに用い
  られた艦船は187隻あった。その中でただ1隻、対馬丸だけが米軍によって
  沈められた。この船に乗っていて、沈没から4日漂流後に救助された人を
  描いている。
 [珊瑚礁]
  サイパン島内を5ヶ月にわたって逃げ惑う家族。

     
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(44) □ アリストテレス倫理学入門 (J.O.アームソン:岩波現代文庫)2009.11.25

  10月に読んだ「法学」の中に、アリストテレスが正義を二種類に分類した
  ことが書かれていた。
  一つは一般的正義と名づけられ、「法に従うこと」の徳を意味する。
  第二は特殊的正義、具体的場面における正義であって、等しさにかかわり
  「分配」「交換」における公平な関係性としての「正義」である。

  これを非常に興味深く感じたので、アリストテレスの「二コマコス倫理学」を
  読もうと思っているのだが、読破が難しいような予感がしたので、まず本書で
  概要を把握しようとした。

  本書を読むと、上記の「正義」についての記述は、「二コマコス倫理学」の中の
  ごく一部のようで、本書にはさほど多くのページは割かれていなかった。
  「子供にどのような人生を歩んでもらいたいか」ということが書かれていると
  考えるのが良いようだ。

  本書が優れているかどうかは、「二コマコス倫理学」を読まないことには評価
  できない。必ずしもわかりやすいわけではないし、かといって全くわからない
  わけでもない。でも、「二コマコス倫理学」を読んでみようという思いは強めた
  ので、それだけでも本書の役割は果たしているのだろう。
 
     
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(43) △ Twitter社会論 (津田大介:洋泉社新書)2009.11.21

 140字以内で投稿するだけのTwitterが話題になっていたことと、
 中学の同級生と飲んだ時にTwitterが話に出たことがあって、無料なら
 やってみようかと思っていた。
 やる時に1冊関係する本も読んでみようと考え、本書を買ってみた。

 Twitterの特徴が6つ挙げられている。
  @リアルタイム性
  A強力な伝播力
  Bオープン性
  Cゆるい空気感
  D属人性が強い
  E自由度が高い
 @はたぶん確かで、書かれているように事件や災害時の情報収集には
 役立つのかもしれない。Bは技術に関係することでよくわからない。
 Aはどの程度広まっているかの結果に関して変わるだろう。Eの自由度は
 どう捉えるかだけれど、字数制限から自由は少ないような気もする。

 @に関係して、検索についての特徴が書いてあった。
 グーグルではページランクという仕組みで検索結果の順位が決まるが
 弊害も大きい。Twitterは最新の結果から順に羅列表示されるリアル
 タイム検索なので、速報性で有利とのことだ。
 ただ、実際に触ってみると、うまく検索できない。検索システムとしては
 未だうまく機能していないのかもしれない。

 最後に、勝間和代氏との対談が載っている。勝間氏が述べているが、
 Twitterは使う人の「置かれた立場を如実に反映」している。Twitterで
 書き込んだ内容は、フォロワーとして登録した人が読んでくれるわけだが
 例えば私がTwitterで書き込んでも、フォロワーが0人や数人レベルだと
 誰も見てくれていない可能性が高い。
 勝間氏のように、社会的に強い人はTwitterに参加すれば、フォロワーと
 してたくさんの人が登録してくれるから、140字以内の日常について書い
 ても読んでもらえる。
 つまり、これは社会的な強者優先の仕組みになっている。
 ホームページならば、今は読んでもらえなくても、書き残しておけば将来
 誰かが読んでくれるかもしれないけれど、時系列で流れていってしまう
 Twitterでは後で読んでもらえる可能性はほとんどない。

 社会的立場の弱い私にはTwitterは向いていないというのが、現段階で
 私が出した結論だ。
 
     
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(42) □ 経済学 (諸富徹:岩波書店)2009.11.21

 人文学のエッセンスと可能性を紹介する岩波書店のヒューマニティーズ
 シリーズ全11冊の中の1冊。先月読んだ「法学」が面白かったので
 今度は「経済学」を選んで読んだ。
 読み始めた最初は、柳の下にいつもドジョウはいないか、と思っていたが
 ケインズの話に入ったところから非常に面白くなった。
 本書を少しずつ読み返しながら、並行して経済学の基本を勉強しようと
 ミクロ経済学の教科書を買って勉強を始めた。もっとしっかりと理解したい
 領域だ。

 (メモ)
 ・経済学は効率性に集中し、公平性についてはほとんど語らない。
  経済成長することで政府の税収増加にもつながり、別途、政府が社会保障や
  累進所得税等で再配分すれば良いと想定されている。
 ・ケネー「経済表」(1758年)
  生産者階級(農業)、不生産者階級(工業)、地主階級の3階級で構成される
  社会において、階級間の生産物と貨幣の流れを用いて再生産のメカニズムを
  解明。農業は純生産物を生み出すが工業は純生産物を生み出さない階級と
  仮定されていたが、科学的な経済学の最初の業績と言える。

     
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(41) □ セクシィ・ギャルの大研究 (上野千鶴子:岩波現代文庫)2009.11.10

 ホームページに読書記録を載せるようになってから、ブックカバーを付けなく
 なった。どうせ何を読んだか書くのだから、読んでいる最中から見えていても
 構わないという開き直りのためだ。
 先日出張した際に、この本も持って行ったが、カバーをしていなかったので、
 電車の中では読めなかった。(カバーをしていても、写真やイラストが多いので
 開けなかったかもしれない。)

 本書は1982年に光文社から出版され、今年岩波書店の現代文庫に再録された
 ものだ。広告写真から社会を読み解くという趣旨の本で狙いは真面目なのだが
 相当挑発的に書いているので岩波から出版されるのはかなり意外な感がある。

 「広告のメッセージは相手に伝われなければ意味がない。だから、広告は、その
  時々の社会が共有している了解事項を反映したものでなければならない。」
 こういう観点から広告、特に広告の写真を分析して得られた結論を、一般向けに
 興味を惹くように大胆に書いている。
 手法は面白いのにセンセーショナルに書いているために、分析が中途半端に
 見える。また、セクシィギャルの研究としては不足を感じるので、不満が残る。

 (メモ)
 ・「女が裳を脱いで、着流しのまますごすようになったのは、鎌倉時代以降、家父
  長制の中で女の地位が低下しはじめてからである。」
 ・「ジーパンと性的主体性---この組み合わせは、けっして突飛なものではない。
   なぜなら、ユニセックス・ファッションの流行は、女性の社会的地位が、男性に
   近づいてきたことを意味しているからだ。」
 ・「母としての行動は、子どもが発信するメッセージに応じて引き起こされるもので、
   子どもがいないところでも、母らしくふるまう動物は、人間以外にはいない。」
 ・「(動物の世界では)性的ディスプレイの華々しいのはオスのほうと相場が決まっ
   ている。しかし、人間の世界では、いままで見てきたように、それが完全に逆転
   してしまっている。」
  「(その理由の第1は)広告の作り手たちが、広告の受け手を男だと見なしている
   ことが挙げられる。」
  「では、女性をターゲットにした商品の広告にさえ、女性の性的アピールが多く
   用いられるのはなぜなのだろうか。それは、女性が女性を見るときには、男の
   色めがねをかけて見るからである。」

     
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(40) ○ 旅のラゴス (筒井康隆:新潮文庫)2009.11.6

 雰囲気のある物語だ。日本人の作品らしくない。筒井康隆の作品は
 初めて読んだのだが、これが筒井康隆の世界だとすると、とても
 素敵な世界だ。

 主人公ラゴスは旅人だ。最後は68歳になっても、永遠の恋人デーデを
 求めて氷の世界へと出かけていく。
 僕は旅人にはなれない。けれど、頭の中だけでも旅人風になれたら
 いいな。

     
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(39) ○ 地球温暖化の予測は「正しい」か? (江守正多:化学同人)2009.11.3

 地球温暖化のコンピュータシミュレーションの研究者による、温暖化予測の
 確からしさを説明した本だ。本書を読んで、地球温暖化の予測はまじめに
 行われていることを初めて知った。
 パラメタ化のあたりがよくわからなかったが、全体的によくまとめられており
 面白い本だった。

 [温暖化の仕組み]
 ・地球に大気がないとして、地球が太陽光を直接受け取り、赤外線の放出
  とが釣り合っているとすると、地球表面の平均温度はマイナス19度になる。
  温室効果ガスがあるため、現在の平均温度はプラス14度。
 ・温室効果ガスは太陽光をほとんど吸収しないので、太陽光は地面に達し、
  エネルギーを受け取った分、地面から赤外線が出る。
  地面から出た赤外線は直接宇宙に出るのではなく、温室効果ガスに吸収
  される。赤外線を吸収した温室効果ガスは大気の温度に応じて赤外線を
  放出し、再吸収、再放出を繰り返しながら、地面で吸収されたり、宇宙に
  放出されたりする。

 [温暖化の状況]
 ・過去1万年の大気中の二酸化炭素データを見ると、過去200年くらいに
  急激に増加している。270ppm程度で安定していたが、現在は380ppm。
  (南極などの氷の中に閉じ込められた空気を調べることでデータが得られる)
 ・IPCCの第4次評価報告書によると、過去100年間に地球の表面温度は
  0.7度上がったとされる。
  IPCCとは「気候変動に関する政府間パネル」という国連機関で、研究組織
  でなく、科学的知見を整理する組織。
 ・都市の「ヒートアイランド現象」によって、都市の温度は2度から3度上昇して
  いるが、地球の平均温度にはほとんど影響がない。
 ・温室効果ガスが増えると大気の10キロメートル以上の成層圏の気温は下が
  るはずで、実際に20世紀後半に観測されている。

 [未来予測]
 ・将来の社会経済をさまざま考え、その想定の一つ一つを「シナリオ」と呼ぶ。
  IPCCでは次の6つを代表的なシナリオにしている。
   経済優先*国際化が進む*化石燃料に頼る
   経済優先*国際化が進む*新エネルギーが主
   経済優先*国際化が進む*両者をバランスよく使う      
   経済優先*地域ごとに多様な発展
   環境に配慮*国際化が進む
   環境に配慮*地域ごとに多様な発展
 ・社会経済のシナリオに対して、物質排出を推定し、温暖効果ガスの「排出シナ
  リオ」を得る。
 ・次に、温暖効果ガスの排出に対して、どれだけ大気中に残るかを検討する。
  現在、人間が化石燃料を燃やして排出している二酸化炭素は年間72億炭素トン。
  このうち、海洋での吸収が22億炭素トン、陸域生態系での吸収が9億炭素トン、
  残る41億炭素トンが大気中に溜まっている。
 ・そして、最後に、大気中の成分が変わることで気候がどう変わるかを考える。
  
 [気候モデル:コンピュータシミュレーション]
 ・コンピュータの中の地球。フォートランで書かれた数万行のプログラム
 ・気候モデルは方程式を解いているだけ。
 ・解く変数:予報変数、診断変数(時間変化無し)
 ・大気の予報変数は、風、気圧、気温、水蒸気量
  風の方程式は、運動量保存の法則と質量保存の法則
  気温の方程式は、エネルギー保存則
 ・海洋の予報変数は、海流、海面温度、海水温、塩分濃度
 ・陸面の予報変数は、土壌温度、土壌水分、植物の温度、植物上の水分、積雪量、
  積雪温度
 ・方程式は地球を升目上に区切って、差分的に解く。
  例えば、空間的区切りは100キロメートル、時間間隔は30分くらい
 ・100キロメートルより小さい現象は入っていないので、その効果をマクロな方程式に
  組み込んでいる。このやり方を、パラメタ化と呼んでいる。

     
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(38) ○ 法学 (中山竜一:岩波書店)2009.10.23

 人文学のエッセンスと可能性を紹介する岩波書店のヒューマニティーズ
 シリーズ全11冊の中の1冊。無味乾燥な本かと思いきや、これが結構
 面白い。この本の後に読んだら良い本の紹介も多数あり、この点も
 非常に良い。

 「はじめに」に、本書の議論は次の3点に焦点を当てると書かれている。
  ・今日の法制度と法思想が形づくられた歴史的経緯
  ・現行法制度の背景にある思想的内実
  ・法的思考の基本的構造

 最初の2項目が前半の歴史的経緯の中で触れられ、3項目が後半のテーマに
 続いている。
 @歴史的経緯を振り返った時、ここでもやはりアリストテレスが出てくる。
  アリストテレスは、正義を二種類に分類する。
  第一は一般的正義と名づけられ、「法に従うこと」の徳を意味する。
  第二は特殊的正義、具体的場面における正義であって、等しさにかかわる。
  例えば、AとBが一緒に働いて成果を得た場合、AとBの価値に比例する形で
  成果を分配しなければならない。こういう「分配的正義」がある。
  さらには、商品を交換する場合、交換されるものXとYの価値は等しくなければ
  ならない。こういう「交換的正義」がある。
  「分配」「交換」における正義は、社会の中に公平な関係性を作り、保持すると
  いうことで、「法」はこうした公平な関係性としての「正義」の実現のためにある。
  したがって、具体的な場面での分配・交換の正義がまず存在し、次にこれを
  保持するための法があり、その法を遵守することも正義に適うと言える。

  アリストテレスの考えは、ローマ人に引き継がれた。
  ローマ法の制度的枠組みから、紛争を解決するために、3種類の法の担い手
  が生まれた。
    裁判を仕切る法務官(今の裁判官に相当)
    法廷弁論を行う弁論家(今の弁護士に相当)
    素人の法務官に法に関する助言を行う法律家

  5世紀に西ローマ帝国が崩壊し、職業裁判官による裁判は無くなった。
  12世紀に古代ローマ法を学ぶボローニャ大学が創設された。この大学での
  スタイルが現在の法学部の学問、教育のスタイルの基礎になっている。

 A法的思考というのは、常に制定法や過去の判決を、権威づけられた論拠として
  受け入れ、必ずそこから出発しなければならない。三段論法を用いる場合も大前
  提を受け入れ疑義を差し挟まないので、大前提を疑う哲学などの学問とは異なっ
  ている。
  ここまで見ると法学は保守的な学問ということになるが、実質的な最終章である
  第4章のタイトルは「法学はいかにして新たな現実を創り出すのか」となっている。
  法学が現実に介入し社会を変えるのは、いくつかある。
  一つは、通常の法の適用によって(裁判の結果)、関係者の人生を変える面が
  ある。
  2つ目は、上位の法規範が下位の法規範の妥当性を左右して社会を変える場合
  がある。その一つが違憲立法審査権だが、上位の法規範は憲法に限らない。
  例えば、消費者保護法制も、悪徳商法であっても契約書が整っていれば契約の
  無効を証明することは難しかったが、民法の信義誠実の原則や公序良俗に関する
  規定を適用することで、被害者の救済を行った。
  「どのような法的解決を選ぶか」という法律家の実践は、どちらの価値が主軸と
  なる社会を創出するかという決断となる。

  「正義」の話も、法律解釈が社会を変える力を有するという話もともに非常に興味
  深かった。次は、アリストテレスを読んでみたいと思う。
  

     
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(37) □ おいしいコーヒーの経済論 (辻村英之:太田出版)2009.10.11

 「キリマンジャロ」のコーヒー豆を生産するタンザニアの農家の生活と、コーヒー
 豆の価格システム、価格安定への取り組みについて書いている。
 
 タンザニアのコーヒー豆を生産する農家から、コーヒーを飲む私たちの手元に
 届くまでには下記のような過程がある。
    生産者→流通業者→輸出業者
    →輸入業者→焙煎業者→小売店・喫茶店→消費者

 上記の6つの矢印部分にそれぞれ価格形成の場がある。
  @生産者→流通業者
  A流通業者→輸出業者
  B輸出業者→輸入業者
  C輸入業者→焙煎業者
  D焙煎業者→小売店・喫茶店
  E小売店・喫茶店→消費者
 この中のBの価格は、ニューヨーク商品取引所におけるコーヒーの先物取引
 で決まる価格を基準にして決まっている。コーヒーの輸出量の3割をブラジルが
 占めているので先物価格はブラジルの天候の予測の影響を強く受け、流通・
 貿易業者よりも投機家の影響が大きくなっている。

 @Aは、Bの貿易価格から経費を利益をマイナスした価格になる。
 Cも貿易価格から経費と利益をプラスした価格になる。
 DEは、焙煎業者と小売店の取引力や消費者の購買力が大きな要因となり
 先物価格基準の影響は小さくなり、価格変動も小さい。
 
 生産者の売る価格は、先物基準価格から途中の業者の経費と利益を引いた
 価格になる。
 先物基準価格は大きく変動し、2001年から2004年までは非常に低い金額
 だった。その上、流通業者に世界の大手の多国籍企業が入り込み、買いたたきの
 ような状況になっている。

 それぞれの価格は1998年のデータで次の通り(1kg当り)
   業者の買い付け価格(@に相当)  2.34US$ 
   輸出価格                4.38US$
   輸入価格                5.00US$
   袋入り焙煎豆価格          29.15US$
   喫茶店のコーヒー価格      305.19US$ 
 「コーヒー生豆の安価さが、生産国タンザニアの経済発展を停滞させる一方で、
  原料豆に付加価値を付すことで、消費国日本のさらなる経済発展が促進されると
  南北問題の本質が浮かび上がる」

 生産者の不利な状況を改善するために、政府の役割の再生や生産者たちの自立
 的な努力が行われている。
 タンザニア政府は、2002年にシングル・ライセンス制度を導入した。これは、民間
 業者が農村からの買い付け、加工、輸出の1つのライセンスしか所有できなくする
 制度で、これにより、多国籍企業は輸出以外の業務から撤退せざるをえなくなった。
 狙いは、生産者の貧困緩和のために、生産者から輸出業者に至るまでの競売を
 機能させ、多国籍企業による買いたたきを防ぐことにある。
 また、農家の組織が直接、競売所へ販売したり、農家の低費用生産への取り組みも
 ある。

 フェアトレードコーヒーでは、最低輸出価格を保障し、フェアトレードプレミアムという
 割増金を消費者価格に上乗せし、それを生産者側に還元している。
 ただ、日本ではそのシェアは0.06%(2006年)に留まっている。
 
 著者は、生産者側の価格を決定する力を強めていく取り組みとフェアトレードが
 結びついていくことで、生産者の生活環境が改善されることを期待している。

 コーヒー消費者として、「フェア」という品質を認識していけるかが試されているようだ。

     
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(36) □ 孫子 (浅野裕一:講談社学術文庫)2009.9.26

 「孫子」全文の解説書である。前半は興味深い箇所が少しあったが、
 後半は退屈だった。残念ながら、期待していたほど面白みを感じなかった。
 
 (メモ)
 3.兵とは詭道なり
   (戦争とは、敵をだます行為である)
 4.算多きは勝ち、算少なきは敗る
   (勝算が相手より多い側は実戦でも勝利するし、勝算が相手より
    少ない側は実戦でも敗北する)
 5.兵は拙速を聞くも、未だ巧久を睹(ミ)ざるなり
   (戦争には、多少まずい点があっても迅速に切り上げるという事例は
    あっても、完璧を期したので長引いてしまったという事例は存在しない)
 8・兵は勝つを貴びて、久しきを貴ばず
   (戦争ですみやかな勝利をこそ最高と見なして、決して長期戦を高く評価
    したりはしない)
 9.戦わずして人の兵を屈する
   (敵国を保全したまま勝利するのが最上の策であり、敵国を撃破して勝つ
    のは次善の策である)
 11・小敵の堅なるは、大敵の擒(トリコ)なり
    (小兵力のくせに頑固に戦いを求めるのは、大部隊の捕虜となるのが落ち
     である)
 13.彼れを知り己れを知らば、百戦して殆うからず
 14.先ず勝つ可からざるを為して、以って敵の勝つ可きを待つ
    (敵国が自軍を攻撃しても勝つことのできない態勢を作り上げたうえで、
     敵軍が態勢をくずして、自軍が攻撃すれば勝てる態勢になるのを待ち受
     ける)
 15.勝兵は先ず勝ちて而る後に戦い、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む
    (勝利する軍は、まず勝利を確定しておいてから、その勝利を予定通り実現
     しようと戦闘するが、敗北する軍は、まず戦闘を開始してから、その後で
     勝利を追い求める)
 19.戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ
    (戦闘というものは、正法で敵軍と対陣し、奇法で勝利を得るのである)
 38.将に五危有り
    (思慮に欠け決死の勇気だけなのは殺され、勇気に欠け生き延びることしか
     頭にないのは捕虜にされ、怒りっぽく短気なのは侮蔑されて計略に引っか
     かり、名誉を重んじ清廉潔白なのは侮辱されて罠に陥り、人情深く兵士を
     いたわるのは兵士の世話に苦労が絶えない)

     
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(35) ◎ 地球環境46億年の大変動史 (田近英一:化学同人)2009.9.21

 非常に面白い。知らないことがいっぱい書かれていて、頭の中は未だ整理
 できていないが、もっと知りたいという知的好奇心を呼び起こすような本だ。

 最初の3章くらいは、今年読んだ「地球進化論」と内容が重なっているうえ、
 データは「地球進化論」の方が多くてわかりやすかったので、本書を買って
 失敗したと感じていた。しかし、生命と地球環境の関わりの話が始まった
 4章以降、状況は一転、非常に面白くなった。
 今まで、地球環境が先にあって、それに適した生物が誕生し進化してきたと
 思っていた。しかし、二酸化炭素が主体だった大気が酸素の割合を増してき
 たのは、「酸素発生型光合成」生物が誕生して光合成を行った結果らしい。
 その最初の生物は、シアノバクテリア(ラン藻)と考えられている。ただ、それ
 がいつなのかは未だわかっていない。酸素が急激に増えたのは24.5〜20.6
 億年前で、その後6億年前に再度酸素濃度が上がり現在と同等のレベルに
 達した考えられている。
 また、6億年前に地球全体が氷で包まれるスノーボールアースという状態に
 あったことがほぼ確実となっている。この原因が生物にあったという仮説もある。
 大気中の酸素濃度が低い時代はメタン菌によってメタンが大量に生産され
 メタンの温暖効果によって地球は温暖な状態にあった。シアノバクテリアが
 酸素を大量に放出するようになるとメタンは酸化されて消失する。すると、
 温室効果が急速に失われ、地球が全球凍結したという仮説である。
 全球凍結状態からは、火山活動によって二酸化炭素が放出され、0.12気圧
 まで蓄積されれば全球凍結状態から脱出できる計算になるらしい。
 全球凍結状態にあると海底から放出されたリンが水中に蓄積され、全球融解時に
 海洋の表層に湧き上がるため、シアノバクテリアが爆発的に繁殖する。その結果
 6億年前に酸素濃度が現在レベルにまで上昇し、それまで単細胞生物しか
 いなかったのが多細胞生物が誕生した可能性がある。
 そうだとすると、生物の進化と地球環境が関連しあってきたことを示すことに
 なる。たいへん面白いとともに、今後の生物と地球環境を考える上でも重要な
 ことだ。
 この領域の科学は非常に進歩してきているようだ。注目していきたいと思う。
 
 (メモ)
 ・6500万年前の恐竜が絶滅した原因と考えられている衝突した小惑星の
  サイズは直径10km。地球にできたクレーターは直径200km
  (メキシコのユカタン半島の地下にある)
 ・小惑星衝突による津波による堆積層がキューバにあり、層厚が100m以上
  ある。
 ・広島型原爆に相当するエネルギーを持つ天体の衝突は毎年数回生じている。
  (大気圏への突入で大気上空で爆発)
 ・ヨーロッパ西岸を北上する暖流は、大気中に水蒸気を供給して塩分が濃縮され
  比重が重くなる。そしてグリーンランド沖に到達するまでに充分に冷やされて
  さらに比重が重くなり海洋深層に沈んでいく。その深層水は大西洋深部を南下し
  南極で沈み込んだ海水と合流してインド洋や太平洋に流れ込み、1000年以上
  かけて北太平洋まで達する。この流れによって熱循環が行われる。
 ・1万2900年前に北米大陸に小惑星が衝突して大規模な森林火災が発生して
  北米の大型動物や石器文化が消滅した可能性がある。
 ・現在の地球は氷河時代であり、その中では温暖な間氷期と位置づけられる。
 

     
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(34) × まじめの崩壊 (和田秀樹:ちくま新書)2009.9.20

 何がまじめなのかを明確にすることなく、漠然とまじめでなくなったから
 社会が駄目になったと言っている。実にレベルの低い本だった。

 この本を買ったのは、著者の考えるように、まじめでなくなったことが
 問題と思っていたからだ。「まじめ」というのをどう定義するか、「まじめ」な
 社会にするのはどうすればよいかの考え方のヒントが欲しかった。

 しかし、著者の「まじめ」は漠然としているうえ、関係ないものまで
 「まじめ」と関連付けている。さらに、村のルールに従うこと、会社に
 忠誠心を持つことを「まじめ」に加えている。
 かと思えば、憲法9条の議論はまじめすぎるとも言っていて、わけが
 わからない。

 桂枝雀は真面目すぎたから自殺した、ということが言われた。その枝雀が
 生前、自らの昔を「視野が狭い」という意味で「まじめ」だったと話している
 のをTVで見たことがある。
 「まじめ」というのは、著者が書くより真剣なもののはずだ。もっとまじめに
 論じる本でないと読む価値はない。
 「こんな本が出版されることが、『まじめの崩壊』の象徴です」と最後に
 書いてくれていたら僕はきっと納得しただろう。

     
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(33) ○ となり町戦争 (三崎亜記:集英社文庫)2009.9.13

 となり町との戦争が始まる。役場から偵察業務者に任命され、戦争に
 協力することになるが、実際に戦っている状態を見ることはなく、戦争の
 実感は全くない。
 戦争自体を仕切っているのは戦争専門のコンサルティング会社だが
 兵士は町民がなっていて、戦死者数は町の広報に掲載されている。
 そんな設定で話が進む。

 役場の戦争推進室の女性である香西さんとの関係では、なんだか
 村上春樹の小説のようで、すっきりしない「喪失感」があったけれど、
 全体としては面白く読んだ。

 数年前、小田実氏の講演で終戦直前の大阪空襲について話をされた
 時に、当時のアメリカの新聞にはファッションの広告が掲載されていた
 ことを聞いた。
 日本は空襲を受けるなど戦争の影響が深刻だったが、アメリカ本土では
 戦争の実感はなかったのかもしれない。本書を読んで小田氏の話を
 思い出した。

     
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(32) □ 死刑弁護人 (安田好弘:講談社+α文庫)2009.9.10

 加害者も「弱い人」で、「弱い人」に肩入れしたいという気持ちはわかる。
 裁判を通して時間をかけて事実を検証していくことが重要であることも
 認める。安田弁護士が寝る時間を削って懸命に弁護活動をしていることも
 尊敬する。
 しかし、それでも、本書に書かれていることの中に、納得できない箇所が
 多々あった。
 例えば、光市母子殺害事件について、精神鑑定によって「現実とファンタ
 ジーの区別がつかない母胎回帰の事件であったことが解明された。本件
 事件は決して強姦殺人という性暴力事件ではなかったのである」と書いて
 いる。母胎回帰の側面があるとしても、強姦殺人という性暴力事件でないと
 言い切れるのはなぜなのか。裁判を聞けば皆がそう思えるのだろうか。
 弁護士が闘っている論点と一般人が感じる罪の大小との間にギャップが
 あるように思う。
 また、爆弾事件を起こした「黒ヘルグループ」への共感にも違和感はあったし
 オウム真理教の麻原彰晃氏の肩を持つのはわかるとして、他の信者の言葉は
 検察に指示されているかのような書き方にも疑問を感じた。
 光市母子殺害事件やオウム真理教の事件の裁判は社会の反応を過剰に
 意識し、冷静さを欠いているように感じられることがよくあった。
 その中での弁護活動は非常に過酷なものだったろう。だから、この本を
 読むと無条件に賛同できるのではないかと思い込んでいたが、そんな単純な
 ものではなかった。

     
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(31) △ 眠れる美女 (川端康成:新潮文庫)2009.9.5

 川端康成っていうのは、こういう小説を書く人だったの?という驚きが
 あった。中身はよく理解できない。何かありそうなのだが理解できない
 のが残念だ。

 「眠れる美女」は、眠っている若い女性の傍で一晩を過ごす宿が舞台。
 客は「安心の出来る」老人。67歳の江口は未だ「安心の出来る」老人
 ではないが、この宿に通うようになる。
 初めの方を読んで、ここで過去の女性を思い出す話なのかと思ったが
 そうでもない。何なのだろう。あと20年してから読んだらわかるのだろうか。

     
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(30) □ 地獄の日本兵〜ニューギニア戦線の真相〜 (飯田進:新潮新書)2009.9.3

 著者は昭和18年2月にニューギニア民政府の資源調査隊員として
 ニューギニア西部のマノクワリに赴任した。
 民政府というのは、日本軍が占領した地域を治める海軍の行政機構で
 陸軍が治める行政機構は軍政部という名称になる。
 ニューギニア民政府は昭和17年10月にでき、アメリカの攻撃が激しく
 なって民政府が廃止されるのは昭和19年2月である。最近知ったこと
 だが、この間、私の大伯父は民政府総監を務めていた。大伯父は昭和
 18年2月に着任し、昭和19年2月の民政府廃止時に帰国している。
 
 本書は著者の体験部分は少なく、他の人の手記を紹介している部分が
 多くを占めている。引用された手記では戦闘の記述はあまりなく、部隊
 の移動の場面が多い。3千メートル、4千メートルの山越えでの凍死も
 あり、熱帯雨林での病死、餓死もある。戦うことなく亡くなった人が多かった。
 約20万人のうち、帰還したのは1万人程度だったそうだ。
 ニューギニアについてはもっと詳しく調べたいと考えている。

     
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(29) □ オバマ大統領がヒロシマに献花する日 (松尾文夫:小学館)2009.9.2

 河野洋平前衆議院議長が下院議長会議を広島で開催し、原爆慰霊碑に
 アメリカの下院議長が献花したことにより、海外の要人に広島に来てもらう
 ことが重要なことと認識されるようになった。
 そして、今年4月にオバマ大統領がプラハで核のない世界を目指す演説を
 したことにより、オバマ大統領が広島に来る可能性が高まったように思える。
 著者は2005年からアメリカ大統領の広島での献花を提案している。提案の
 もう一つ重要な点は、日本の首相が真珠湾のアリゾナ記念館での献花に
 よって応えるというものだ。
 本書の中でも、相互献花外交の推進を提唱しており、それは日米関係だけで
 なく、中国、韓国、北朝鮮など戦争にかかわった全ての国々との間に広げて
 いくことを提案している。
 相互に亡くなった方を弔うという形は、どちらにも受け入れやすいはずなので
 是非、新政府に進めて欲しい。

 なお、本書にはドイツの例が示され、ドイツでは未だにナチス犯罪を追及し、
 戦争責任を繰り返し謝罪し、国民の戦争被害の補償も進んでいると書かれて
 いる。ただ、未だにその必要があるということは現状に問題があるからだろう。
 そこをもっと説明して欲しかった。

     
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(28) ○ 昭和史 1926-1945 (半藤一利:平凡社)2009.8.21

 昭和の戦前の歴史を非常にわかりやすく解説している。わかり安すぎる
 のがちょっと危険かもしれないと思わせるほどだ。
 この数年に戦前の歴史の本を何冊か読んだので、この時代については
 ある程度頭に入っているが、興味深い見方やエピソードが含まれていて
 退屈することはない。

 本書に、太平洋戦争の終盤、フィリピンの次は台湾だと思って、日本は
 沖縄から兵力の一部を台湾に送っていたが、アメリカは一気に沖縄に
 やってきた、と書かれていた。
 僕の父は台湾で生まれ終戦まで台湾にいたので、もしアメリカが台湾に
 先に向っていたら僕の存在はなかったかもしれない。
 
 (メモ)
 1.陸軍が張作霖爆殺事件で「沈黙の天皇」を作り上げた(1929年)。
    張作霖爆殺事件の処理の件で、天皇が田中義一首相に「辞める
    ように」強く求めたため、田中内閣は総辞職した。西園寺公望元老
    から憲法違反になると強く言われたためか、以降、内閣の意向に
    不賛成でも裁可を与えることを決心した。
 2.統帥権干犯問題により、海軍は強硬派になった(1930年)。
    ロンドン軍縮条約による統帥権干犯問題をきっかけに強硬派(艦隊
    派)が強くなり、対米強硬路線に傾いていく。

     
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(27) □ 妻と私 (江藤淳:文藝春秋)2009.8.14

 江藤淳の妻の慶子夫人が末期がんであることがわかった1998年2月から
 亡くなる11月までの闘病生活を書いている。そこには宗教ではない二人の
 時間が存在している。

 本書のあとがきの日付は1999年5月13日。
 江藤淳は、妻の死直後は、「死の時間」から「日常性と実務の時間」に戻る
 と書いていたのに、その後7月には自身を「形骸に過ぎず」と称し、「自ら
 処決して形骸を断ず」と書き残して自ら命を絶った。
 辺見庸は自身の体の自由が利かない状況の中で、江藤淳の残した言葉を
 「最期の最期にそんな言葉が出てきたとは何と寂しいことか」と感じたと書き、
 形骸のように生きることの意味を見出そうとしている。
 吉村昭は病床での最期にビールとコーヒーを一口飲んだ後、点滴の管をはずし
 カテーテルを引き抜いて死を迎えた。
 宗教の力に拠らない死の迎え方というのは、ある種の迫力を感じる。
 
 
     
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(26) □ 死顔 (吉村昭:新潮文庫)2009.8.13

 吉村昭氏の最後の作品となった「死顔」を含む短編5つが収められている。
 力の入った小説ではあるが、歴史小説ほどの面白みは感じない。
 やはり吉村昭氏の本領は、歴史的事件、歴史的人物を取り上げた作品に
 あるような気がする。
 
 (メモ)
 「ひとすじの煙」:50年以上前に長期療養した宿屋
 「二人」:次兄の死と次兄の女
 「山茶花(さざんか)」:保護司の話
   犯罪者の更正支援のために、仮出所期間に定期的に面談するなどの
   任務があり、国家公務員となるが給与は支給されないとのことだ。
 「クレイスロック号遭難」
   1889年ロシアから遭難船捜索援助の要請が届き、条約改正交渉中の
   日本は捜索に協力。このときの対応の良さも影響し、1894年平等な条約
   になった。そして、その半年後、日本は清国に宣戦布告する。
 「死顔」
   「二人」から次兄の女の話を除いた話になっている。死顔を人目にさらす
   ことへの抵抗を中心に据えた文章を最後に残しておきたかったのだろう。

     
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(25) □ ミーナの行進 (小川洋子:中公文庫)2009.8.2

 小川洋子の作品はどこか破壊性、暴力性を感じるものが多い。
 この作品は中一の少女が主人公の比較的穏やかそうな話だったが
 それでも最後には雰囲気を一転させることが起こるのではないかと
 いう緊張感を持って読んでいた。
 しかし、本作品はさほど破壊的な出来事はなく終わった。
 こういう作品も書くのか、と思ったのと同時に少し物足りなさが残った。

 (メモ)
 小6のミーナ、ドイツ生まれのローザおばあさん、ドイツ系ハーフの伯父さん
 誤植探しの伯母さん、コビトカバのポチ子、フレッシー動物園
 ミュンヘンへの道、川端康成「眠れる美女」

     
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(24) □ 自分自身への審問 (辺見庸:角川文庫)2009.8.2

 脳出血で倒れてから一年余り後に、体の不自由が残る中で
 自分自身を厳しく見直して書いている。
 共感する部分はあるのだが、厳しく見つめなおす中で希望を
 感じられなくなっているような気がした。
 僕はもう少し緩い楽観的な立場に立って世の中を見ていきたいと
 思っているのだが甘すぎるだろうか。

(メモ)
 ・<見るものは見られない>と信じて疑わないような関係性
 ・この国の政治家の多くは中国や朝鮮半島を<見る>ときに、
  <見られている>ことをほとんど念頭に置かない。
 ・加害の記憶は被害のそれより忘却しやすいのです。とすれば、
  いま重篤な記憶障害はどちらの側で起きているのか。
 ・社会改革だとか人間の解放だとか大層なことを唱えながら、
  リアルな人間身体を、自己身体も含めて、無意識に思考の
  視圏から排除してしまう人々は少なくありません。そうした傾向に
  ぼくは偽善と背理のにおいを嗅ぎ、そのにおいがぼく自身からも
  漂っているのを気にもしていたものです。

     
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(23) ○ 拉致 (蓮池透:かもがわ出版)2009.7.24

 著者は「北朝鮮による拉致被害者家族会」の事務局長を1997年から
 2005年まで務めてきたが、最近は「家族会」と距離を置いている。
 それは、「家族会」の運動のあり方に疑問を持ったからだと言う。

 「家族会」の運動は、被害者の救出を目的にしていたはずなのに、
 経済制裁が目的であるかに感じられるようになり、北朝鮮打倒のイデオ
 ロギーを唱える人たちに利用されてしまっている。このため、救出のための
 異なった考え方を許容できなくなってしまっていると述べている。

 政府に対しても、北朝鮮との交渉において、拉致を認めれば国交正常化
 交渉に入るとか、被害者5人の一時帰国を約束するとか、被害者家族を
 帰国させれば交渉に入ると期待させたことなどで、結果的に北朝鮮を裏
 切っていることを強く批判し、これらが現在の膠着状態に繋がってることを
 指摘している。
 また、被害者家族の意向とに反することによる世論の反発を恐れて、家族と
 同じような感情的、情緒的な行動を取っていることを批判し、政府にはもっと
 理性的な発想と行動を望んでいる。

 解決に向けては、同時実行型の交渉を提言している。経済制裁を緩めるから
 調査委員会を立ち上げろとか、再調査したら再度制裁を緩めるといった方法で
 ある。これを日本側から提案してことを主張している。

 本書を書くのは非常に勇気のいることだったと思う。僕がホームページを書こうと
 思い始めたのは、「家族会」と「救う会」に対して物を言いにくい雰囲気を感じた
 ことが最初だ。
  「拉致をテロと認識するか」という問いに対する違和感(2003.10.4)
 5年以上が経過したが、決して世の中の雰囲気が良くなったわけではない。
 初心を忘れてはいけないと本書を読んで強く思った。

     
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(22) ○ 三国志(吉川英治:講談社吉川英治歴史時代文庫)2009.7.20

 いつかは読もうと思っていた吉川英治の「三国志」をようやく読んだ。
 劉備玄徳、張飛、関羽の桃園の誓いに始まり、諸葛孔明の死までを
 描いている。登場人物が多く、いろんな戦いがあるので、一度読んだ
 だけでは目を通したくらいに過ぎない。折に触れ、読み直したいと思う。

 玄徳が「三顧の礼」によって諸葛孔明を迎え入れたのは、玄徳47歳、
 孔明27歳の時。
 孔明が出師の表を書いて魏を討ちに出るのが孔明47歳の時。
 孔明の死は54歳だ。
 年齢は数えのようなので、僕の年齢は47になる。少し意識する。

     
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(21) × 愛の試み (福永武彦:新潮文庫)2009.7.8

 愛と孤独に関するエッセイということでちょっと期待したのだが、
 残念ながら何も心に響くものがなかった。
 たぶん、福永氏が使う「孤独」という言葉の意味が僕に伝わって
 こないことがその理由だろうと思う。

     
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(20) ○ 地球進化論 (松井孝典:岩波現代文庫)2009.7.7

 地球の誕生から、現在の状態になるまでの地球の歴史を、他の惑星との
 比較を交えながら解説してあり、とても興味深かった。
 もっと詳しく知りたい箇所がたくさんある。地球温暖化なのか、自然起源の
 気候変動か、という議論にも大いに関係するので、少し専門よりの本を探し
 てみたい。
 
 [地球(惑星)ができるまで]
  ・ガスとチリ(星間雲)のかたまりが収縮して太陽系ができてくる。
    ↓
  ・星間雲は自転しているので円盤状になる。
    ↓
  ・星間雲が冷えてガス中に鉱物ができる。
    ↓
  ・粒子の重力により微惑星が形成される。
    ↓
  ・微惑星の衝突により惑星ができる。

 [地球誕生の頃]
  ・微惑星が衝突して付着。半径2000kmだと衝突速度は最低でも秒速3km
   微惑星が原始惑星にぶつかるとクレーターができ、その際、蒸発しやすい
   水蒸気や二酸化炭素が瞬時に蒸発する。
    ↓
  ・原始惑星の地表を蒸発したガスが覆う。
   (衝突による熱の保温効果を有する
    ↓
  ・地球の半径が1500kmくらいを越えると地表温度は急上昇し、1500Kくらい
   まで上がる。(地球が大きくなると衝突してくる微惑星の速度が上がるから)
   地表が完全に溶けると大気の量が増えなくなるので地表温度は上昇しない。
   その後、徐々に温度は低下
    ↓
  ・地表にマグマ、その上を厚い水蒸気と二酸化炭素が覆った状態になる。
   大気:水蒸気100気圧、二酸化炭素60気圧、窒素1気圧
    ↓(微惑星の衝突が減り、現在の大きさに近づく)
  ・地表温度が下がり、雲の高度が下がる。そして雨が降り、海ができる。
    ↓
  ・地下にマグマの海、表面に薄い原始地殻、その上に海、二酸化炭素の大気
   大気:二酸化炭素50気圧、窒素1気圧
    ↓
  ・大陸の存在により二酸化炭素減少
    *二酸化炭素の循環
      大気中の二酸化炭素が海水に溶け込む。
     →海底に炭酸塩岩石として堆積
     →プレート移動により一部がマントルの中にもぐりこむ
     →火山ガスとして噴出し大気中に加わる。
    *大陸ができ始めると海洋プレートと大陸に取り込まれる二酸化炭素が増え
      大気や海洋中の二酸化炭素が減少する・・・・ここの理屈がわからない。
    ↓
  ・窒素が主成分の大気になる。
    ↓
  ・生命活動により、酸素が作られ、大気は窒素と酸素が主成分になる。

 [その他]
  ・地球最古の岩石は38億年前(グリーンランド イスア地方)・・・堆積岩
  ・恐竜絶滅の原因と考えられている6500万年前の巨大隕石衝突によって
   できたクレーターが1991年にメキシコのユカタン半島で見つかった。

     
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(19) × なにもかも小林秀雄に教わった (木田元:文春新書)2009.6.15

 僕が受験生だった頃、小林秀雄は現国の入試問題によく出題される作家と
 して有名だった。小林秀雄の本で持っているのは「ドストエフスキイの生活」
 だけだがとにかく難しいという印象がある。これもたぶん全部は読むことが
 できなかったような気がする。ただ、そこには何かあるのに、という心残りも
 あった。
 本書のタイトルを見た時、見過ごせなかったのは昔のひっかかりがあったから
 だろう。
 しかし、本書は私の想いを全く裏切るものだった。「なにもかも小林秀雄に教
 わった」というタイトルなのに、小林秀雄中心に書かれていない。
 しかも、あとがきには「どうやら初めに考えていたのとはずいぶん違う本になって
 しまった。『なにもかも小林秀雄に教わった』とばかり思って書き始めたのだが、
 具体的に思い出していくと、小林秀雄以外にも文学のお師匠さんは大勢いたこと
 に思い当たった」としゃあしゃあと書いている。
 80歳を越えると、こんなことも恥ずかしくなくなるのか。それとも出版社が悪い
 のか。 とにかく腹が立って仕方がない。

     
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(18) △ なんとなくな日々 (川上弘美:新潮文庫)2009.6.12

 川上弘美の小説は何冊か読んでいる。何と言っても「くまに誘われて散歩に
 出る」というある意味で衝撃的な出だしで始まる「神様」は面白かった。
 独特の川上ワールドがあるのだ。
 しかし、エッセイという形で、しかも1つのエッセイが文庫本3ページ分の分量
 では、川上弘美の世界を築くことができなかったように感じ、退屈した。

     
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(17) △ 読書術 (加藤周一:岩波現代文庫)2009.6.11

 加藤周一氏の本だから、何か参考にできる点が見つかるだろうと思って
 読んでみたが、特にやってみようと思うようなことは何もなかった。
 あえて言えば、「本は寝て読むもの」と書いてあったので、安心して
 寝転がって読めるようになったことくらいかな。

 (メモ)
 ・読まない本を読んだふりをする、よくわかりもしない本をわかったふうに
  語る −これが知的「スノビズム」(俗物根性)というもののあらわれである。
 ・文化の向上に「スノビズム」ほど大切なものはない。
 ・知的「スノビズム」は、「どうせ私はばかですよ」という「ドーセバカイズム」の
  反対のもの。
 ・「スノビズム」からは何も生まれない、というのは、まさにその通り。しかし、
  文化的価値を認めなければ「スノビズム」さえも成り立たないので、少なく
  とも、「ドーセバカイズム」のように破壊的ではない。
 ・なぜ、一冊の本が私にとってむずかしいかといえば、その理由は、つまる
  ところ、私がその本を求めていない、別の言葉でいえば、私にとって少なく
  とも、いまその本は必要でないという点に帰着する。
     
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(16) △ 野球力再生 (森祇晶:ベースボールマガジン社新書)2009.5.29

 広岡と森はヤクルトを優勝させた後、西武を常勝チームに育て上げ、持続
 させた監督だった。僕は当時、巨人ファンだったので広岡、森は非常に嫌な
 監督だったが、ちょっと普通の人ではないように今も思っている。
 森氏がどういうことを考えて采配を振るっていたかを知りたくて本書を買った
 のだが、本書はそういう本ではなく、プロ野球組織、フロント
の改革提言の本
 だったので知りたいことは書いていなかった。
 なかなか面白い野球の本にはめぐり合わない。

     
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(15) ◎ 大平正芳 (福永文夫:中公新書)2009.5.28

 「戦後保守とは何か」という副題が付いており、大平正芳元首相だけでなく、
 岸信介、池田勇人、佐藤栄作、田中角栄、三木武夫、福田赳夫らが登場する。
 大平正芳が大蔵省に入ったのが1936年。衆議院議員になったのが1952年。
 1960年に官房長官。1962年に外務大臣となり、60年代以降政治の中心的な
 役割を果たすようになっている。
 大平正芳は著書を残しており、随所に引用されている言葉が興味深い。
 その言葉を読むと、保守本流とはこういうものだったのか、と新鮮に感じる。
 また、1970年代の大平正芳の問題意識が、今の日本の問題と非常に近い
 ことは大きな発見だった。
 
 
 (メモ)
 1910年 大平正芳生まれる
 
1936年 大蔵省入省、財政経済調査課。 (二・二六事件)
 1937年 結婚。横浜税務署長。上司が池田勇人 (盧溝橋事件)
 1938年 仙台税務監督局の間税部長
 1939年 興亜院に出向。内蒙古の張家口に赴任
       (興亜院:占領地に対する政務・開発事業を統一指揮)
 1940年 帰国
 1942年 大蔵省に復帰。主計局に配属。文部省と南洋庁の主査
       大日本育英会創設(1943)
 1943年 東京財務局間税部長
       国民酒場創設(1944)
 1945年 2月 津島寿一蔵相の秘書官(小磯国昭内閣)・・・45日間
       4月 主計局に戻る(鈴木貫太郎内閣)
       8月 再び津島寿一蔵相の秘書官(東久邇宮稔彦内閣)
          宮沢喜一も。
      10月 幣原喜重郎内閣になり、主計局に戻る
 1946年 大蔵省給与局第三課長
 1948年 経済安定本部の公共事業課長
 1949年 池田勇人蔵相の秘書官(吉田内閣)
 
1952年 衆議院議員当選(自由党)
 1953年 バカヤロー解散で総選挙。2度目の当選
       吉田自由党過半数割れ
 1954年 11月 日本民主党結成(鳩山一郎総裁、岸幹事長)
       12月 吉田内閣から鳩山内閣へ
 1955年 11月 保守合同
       保守合同後、旧吉田派は「丙申会」と称して反主流派となる。
 1956年 10月 日ソ共同宣言、貿易議定書調印
       11月 鳩山退陣表明
       12月 石橋湛山内閣、池田蔵相
 1957年 2月 石橋 病で退陣
       3月 岸信介内閣
       7月 池田 内閣から下野。宏池会発足
 
1960年 7月 第1次池田内閣大平官房長官
          「寛容と忍耐」「低姿勢」をスローガンに
          「所得倍増論」を政策とした。
 
1962年 7月 第2次池田内閣大平外相
          対中貿易に積極姿勢
          日韓国交正常化交渉
 1963年 10月 周鴻慶事件(中国視察団の周鴻慶が台湾への亡命を
                   求めてソ連大使館に駆け込む)
 1964年 8月 長男死亡
       9月 池田首相病気入院
      10月 池田首相退陣表明
      
11月 佐藤栄作内閣
 1965年 8月 池田勇人死去。宏池会は前尾繁三郎が継ぐ
      1965年から1967年の間、重要ポストから外れる
 1967年 11月 政調会長
      財政硬直化(コメ、国鉄、健保)問題に取り組む
 1968年 11月 通産大臣
      日米繊維交渉
 1969年 1月 内閣改造で通産相交代(宮沢喜一へ)
      繊維問題は1971年田中角栄により解決
   (1970年代 アメリカの国際的地位の低下)
 1971年 4月 前尾氏から大平に会長交代
 
1972年 7月 田中角栄内閣発足大平外相
       9月 
日中国交回復交渉成立
         最大の課題は台湾との関係だった
         日中正常化=日台断交
 1973年 1月 前年比24.6%増の超大型予算
       8月 金大中事件
      10月以降 オイルショック
      日本列島改造論、大型予算と合わせてインフレ
 1974年 7月 参議院選挙・・・金権選挙
          
大平蔵相
      11月 文藝春秋に田中金脈問題に関する立花隆の論稿掲載
          田中角栄退陣表明
      12月 椎名裁定により
三木武夫内閣
          
大平蔵相留任
 1975年 4月 大平「財政危機宣言」
 1976年 2月 ロッキード事件
       6月 河野洋平ら新自由クラブ結成
       7月 田中前総理逮捕
      12月 総選挙。自民党公認候補では過半数割れ
          三木退陣。
福田赳夫内閣大平幹事長
 1978年 11月 自民党総裁予備選挙・・・大平1位
      12月7日 
大平内閣誕生。キャッチフレーズ「信頼と合意」
          「政治は甘い幻想をふりまいてはいけない。
           国民も政治に過大な期待を寄せてはいけない」
      12月10日 イラン革命。第2次オイルショック
 1979年 6月 東京サミット
      10月 総選挙。年初から一般消費税導入を主張、投票10日前に断念
          自民党過半数割れ
          「40日間抗争」
      11月 第2次大平内閣発足
          イラン米大使館人質事件
      12月 ソ連 アフガニスタン侵攻
 1980年 5月1日 訪米(カーター大統領)
       訪米前に「アメリカはもはや大国ではない。そのアメリカが困っている
       場合、日本として手を差し伸べるのは当然のこと」
       メキシコ、カナダ訪問。チトー大統領氏によりユーゴスラビア経由
      5月11日帰国
        16日 社会党 内閣不信任案提出。可決
        19日 衆議院解散
        30日 参議院選挙公示。大平遊説。深夜入院
      6月2日 衆議院選挙公示
      6月12日 大平正芳死亡
       選挙は自民党大勝。6年続いた与野党伯仲状況は解消。
 

 ・「楕円の哲学」
   互いに相反する二つの中心を対峙させ、両者が作り出す均衡のなかに
   調和を見つけ出す。
 ・「未来と過去が緊張したバランスの中にあるように努めていくのが健全な
   保守というものではないだろうか」(1978)
 ・「(日本国憲法は)いわば、戦後の不順な天候の合間にね、一瞬青空が
  見えたということで、あの状況のもとで考えられる限りの、非常に理想的
  なヒューマニズムを打ち出した一つの芸術品だったと思うんです」(1961)
 ・「
代議士に向って常人よりも特に高い倫理水準を求めることもなく、同時に
   代議士を目して悪徳の権化のようにみることもなく、ただの平凡なる一個
   の人間として、あたりまえに取扱ってもらいたいというのが、平凡なる私
   の平凡なる奇願である。民主政治の本体というものは、元来そういう平凡
   なものであると思うからだ。」(1956)

 ・大平は池田に、総理総裁たるものは「徹底的に庶民」になりきらねばならず、
  庶民と隔絶した意識と生活のなかからは、庶民の納得のゆく政治ないしは
  庶民の協力が得られる政策は生まれてこないとし、ゴルフを慎み、お茶屋
  への出入りを自粛するという二つの約束を取りつけた。
 ・(1965年頃)大平はこうした(日本人の精神的)混迷の原因を敗戦によって
  価値体系が総崩れし、戦前の権威がすべて崩れ去ったことに求めた。
  しかし、その解決を戦前への回帰に求めない。なぜなら占領軍が、日本
  古来の権威をすべて砕くことを指向していたのに、日本人の抵抗が意外な
  ほど弱かったからだ。その理由を求め大平は、「天皇にしても、ほかの権威
  にしても、国民にとっては与えられたもの」に過ぎず、自分で思考し、血みど
  ろになって闘いとったものではなかったからではないか、と自問自答する。
 ・「
明治維新以来のわが国の国家目標は、一言にしていえば欧米先進国に
  追いつき追い越せということであった。(中略)70年代を迎えようとしつつある
  今日、日本は漸くそのキャッチ・アップの段階を終えようとしている。(中略)
  従来のような先進国の知識と技術を学び取ることによる模倣的発展の時代
  は、もはや過ぎ去ったと見るべきであろう
。すなわち自らの力で新しい領域を
  切り開き、自力で独自の道を歩む創造的発展への転換のときであるように
  思われる。」(1970)
 ・「田園都市国家構想」

     
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(14) △ 47番目の投球論 (工藤公康:ベスト新書)2009.4.29

 書店の新書の売り場に行くと、野球選手、監督が書いた本がかなり多い。
 野球論は好きなので、なるほどと思える野球技術が少しでも書いてあるものを
 1冊くらい読んでみたいと思っていた。工藤なら何か書いているだろうと期待した
 のだが、残念ながら期待はずれだった。
 
     
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(13) □ 岩倉具視 (永井路子:文藝春秋)2009.4.12

 幕末において時代を動かした公家が少なかった中で、なぜ岩倉具視が
 存在感を示すことができたのか、岩倉具視は何を考えていたのか、を知り
 たくて本書を読んだ。
 岩倉具視について知りたいと思っていたことが特に書かれていたわけでは
 なく、また、私にとって関心のない記述も多かったので、不満の残る本だった。
 でも、いくつか関心を持った箇所があった。

 一つは、1868年の「王政復古」である。
 幕府が倒され、天皇の御親政が始まったとされるが、平安時代に戻ったわけ
 ではない。摂政・関白という制度がなくなったのである。
 摂関になれる家柄は決まっており、五摂家(一条、二条、近衛、鷹司、九条)と
 呼ばれるものだけで、彼らが公家のトップになっていた。
 岩倉具視は下級公家であり、彼ら権力者への怨念が強かったことから、
 彼の力により、摂関制度を打ち破ることができた。

 もう一つは、この後、岩倉の地位は大きく上がっていくが、役割は薄くなって
 いったという指摘。
 岩倉使節団や征韓論に反対などの場面で登場するが、主役は大久保利通に
 移っていったようだ。
 
 岩倉具視は1883年(明治16年)に59歳で亡くなる。
 西郷隆盛、木戸孝允が1877年、大久保利通が1878年に亡くなっており
 岩倉も比較的近い頃に亡くなっている。
 
     
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(12) △ 人間勝海舟 (和歌森太郎:集英社)2009.4.8

 30年以上前、まだ小学生だった頃に買い、数ページしか読むことができず
 ずっと気になっていた本だった。難解な本ではないが、最初の数ページに
 出てくる「貧困」や「磨き」に読み仮名を振ってあった。これでは読め切れる
 はずがない。今は小学生の頃よりは進歩していることがわかった。

 そんな思いのあった本だったのだが、内容はあまり面白くなかった。
 どうも人物像が浮かび上がってこないのである。

 ただ、その中で、咸臨丸に関係する部分が興味深い。
 試験運行で朝鮮の釜山沖まで行ったり、鹿児島で藩主島津斉彬に謁見
 したりしていたことや、何と言っても日米通商条約調印文書交換のために
 アメリカに渡る際に随行している。単に太平洋を渡っただけでなく、サンフラ
 ンシスコの様子を見たり、帰りにはハワイにも寄り、原住民が支配されている
 様子も見た。このことが後の勝海舟の考え方に影響しているのだろう。

 優秀な人物だったことは間違いない。明治5年に政府にも加わっているが、
 明治に入ってからの戊辰戦争以後、勝海舟の話は一般には出てこない。
 このあたりの話は本書には全く書かれていないので、もう少し知りたい。
 

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(11) ○ 幕末史 (半藤一利:新潮社)2009.4.7

 1853年ペリー来航から1878年大久保利通暗殺までを平易に面白く語っている。
 僕はこの時代について詳しくないので年表を書きながら読んだ。

 本書の主張は、幕末から明治新政府ができ西南戦争が終わる頃までの”革命家”
 には、統一国家の機軸についての考えは何もなく、天皇を機軸とする考えはもっと
 後にできたものだということだ。
 確かに薩摩も長州も、「尊王」や「攘夷」ということで一貫した動きをしたわけでは
 全くない。

 西南戦争が終わって今からという時代には、西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允は
 もう世の中におらず、伊藤博文、山県有朋がトップに立った、というところで本書は
 終わっている。
 本書を読んで、岩倉具視、木戸孝允(桂小五郎)、山県有朋をもっと知りたいと
 思っている。
 

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(10) ○ 貧困のない世界を創る (ムハマド・ユヌス:早川書房)2009.3.14

 副題「ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義」
 ユヌス氏は2006年ノーベル平和賞を受賞している。

 ユヌス氏の提唱している「ソーシャル・ビジネス」について知りたくて読んだ。
 ソーシャルビジネスとは、社会的な目標を達成するためのビジネスであり、
 ソーシャルビジネスの企業は配当を資本家に支払わない。
 ただし、一定期間で会社に費やした投資分を取り戻すことはできる。つまり、
 投資家は投資によって損はしないが金銭的な利益を受けることはない。
 しかしながら、社会的な目標を達したという精神的な満足を得ることができる。

 ユヌス氏はバングラデシュでそれを実践し、貧困を減らしてきていると言う。
 最初は貧しい人にお金を貸すグラミン銀行の設立から始まった。バングラデ
 シュの村では貧しい人は金貸しから1ドルにも満たないお金を借り、借りたお金
 を使って作った品々を金貸しが不当に安い値段で買い取るようなことが行われ
 ていた。この現場に遭遇し、わずかなお金の融資を受けるだけで貧困から抜け
 出す可能性がある人たちがいることを知ったことが活動を始めたきっかけだそうだ。

 本書の中にはバングラデシュにある10以上のソーシャルビジネスが紹介され
 ている。本書を読んでも、まだ本当にこんなにうまくいくのかと半信半疑だ。
 しかし、お金だけじゃない資本主義の形の可能性は感じた。
 
 ネットで調べると、3月19日に東京で「ソーシャルビジネス全国フォーラム」が開催
 される。日本での試みをぜひ知りたいと思っている。

 (メモ)
 ・現在の市場は社会問題を解決するためにあるのではない。
  世界の人口の半分は1日2ドル以下で生活
  10億人が1日1ドル未満で生活
 ・国際機関は目標として貧困の排除を掲げてはいるが、大規模な経済成長を
  追求するため、工業化を目的としたインフラ整備に力を入れる。貧しい人々に
  とって何の利益をもたらさずに経済成長しているかもしれない。
 ・資本主義は人間の本質について狭い見方をしている。人間が最大の利益を
  追求することにだけ関心がある1次元的な存在だとしている。
 ・アインシュタインの言葉
  「すべてのことをできるだけ単純にすべきだが、必要以上に単純にすべきでは
   ない」
  主流派の経済学ではあらゆることが「単純すぎる」ようになっており、そのため
  に現実を逸してしまう。
 ・ソーシャルビジネスは利益によってではなく、動機によって動く企業
 ・社会的目標を達成する間にかかった総費用を取り戻さなくてはならない。
  損失補填するために補助金や寄附に依存するのはソーシャルビジネスでは
  なく慈善事業に分類される
 ・ソーシャルビジネスは損失もなく配当もないビジネス
  利益は資本家に渡るのではなく、ビジネスに再投資される。
 ・2つの種類がある。
  一つ目は、社会的な利益を追求するビジネス(上で説明しているもの)
  もう一つは、貧しい人々、恵まれない人々によって所有され、最大限の利益を
  追求するビジネス
 

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(9) □ パニック・裸の王様 (開高健:新潮文庫)2009.2.27

 開高健の作品を初めて読んだ。読み始めて数ページですごいなと感じた。
 しかし、素直な作品ではなく少し捻ったところがあるので、必ずしもわかり
 やすくなかった。

 本書には4つの作品が収められている。
  ・ネズミの大発生を描いた「パニック」
  ・キャラメル会社の宣伝競争に奮闘する人を描いた「巨人と玩具」
  ・画塾での子供の変化と利害関係に惑わされる大人を描いた「裸の王様」
  ・秦の始皇帝による長城建設を民衆から見た「流亡記」

 僕は「パニック」と「巨人と玩具」が面白かった。
 組織の中に生きる個人を登場させ、同時に自然の力や社会の動きを描き
 迫力と説得力を増している。
 こういう小説が昭和32年から34年の間に書かれている。戦後10年余りで
 今の時代と同じような感覚の社会が描かれていることに驚いた。
 

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(8) □ 夏の葬列 (山川方夫:集英社文庫)2009.2.11

 (6)「天の夕顔」と同じく、かなり以前の作品で良さそうな作品を探していて
 目に留まり読んでみた。山川氏は1965年に交通事故で亡くなっており
 本書に入っている作品は昭和30年代の作品である。

 数ページのショート・ショートという短編小説から中篇までの計9つの作品が
 収められている。短編は一応どれも一定のレベルを保っているが、最後に
 落とすところを考えた人為的な面が読み終えたときに感じられてしまうのが
 欠点だ。
 その中で、中篇の「煙突」が僕には一番良かった。たぶん、作者の少年期の
 体験が含まれているから人為的な面が目立たないのだろう。
 終戦直後、疎開先から片道2時間以上かけて中学に通う山川少年と、同級
 生の山口の関係を通して、当時の少年の中にある定まらない心情が窺える。
 戦争が終わったあと、皆がすぐに希望を持って意欲的に進みだしたわけでは
 ないのだろう。
 

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(7) ○ 金融大崩壊〜「アメリカ金融帝国」の終焉 (水野和夫:NHK出版)2009.2.6

 現在の金融危機の非常にわかりやすい解説だ。
 今は世界の全員が損しているかのように報じられているが、本書によると
 そうではなく、サブプライムローンで儲けた人は問題になる前に、充分儲けて
 勝ち逃げしているし、金融資産は10数年前に比べて今なお100兆円も
 増えた状態にある。
 著者は今からのターゲットは新興国の中産階級で、今からが本当のグローバル
 競争だと指摘している。
 そうなのかもしれない。でも、本当にそれで皆が幸せになれるのか。
 それは、エコノミストではなく、私たちが考えることなのだろう。

 (メモ)
 ・アメリカ政府は、投資銀行5位のベアー・スターンズは救済し、4位のリーマン・
  ブラザーズは救済せずに破綻させ、保険会社AIGは救済した。この定まらない
  対応によって、市場が
アメリカ政府の危機管理能力を疑問視し、株価の大暴落に
  つながった。
 ・今回の危機は、資本と国民・国家の利害が異なってしまったことにある。
  サブプライムローン関連の証券化商品を取引している段階から、投資家は
  自分たちの行為が国家や国民に役立つ良いことだとは思っていなかったはず。
 ・
現在の危機は国家と国民にとっての危機であって、充分に資産を膨らませた
  資本家にとって必ずしも危機ではない。金融資産は1995年以降で100兆ドル
  存在し、今回の損失を差し引いても有り余るほど。

 ・投資銀行には自己資本比率の基準は適用されない。
  アメリカの投資銀行は30〜40倍のレバレッジをかけるのが普通。
  仮に100ドルの自己資本に対し、
20倍のレバレッジをかけると、2000ドルを
  運用できる。4%のリターンが期待できる案件に投資すると、80ドルのリターン。
  借入1900ドルに対し、3%の支払いコストがかかったとして、57ドルとなり、
  
23ドルの利益となる。すると、株主資本利益率ROEは23%になる。
  もし、
40倍のレバレッジをかけると、160ドル−117ドルで43ドルの利益となり
  
ROEは43%になる。つまり、レバレッジが大きいほど利益は膨らむ
  
しかし、4%のリターンのはずが3%損失を出したら、40倍のレバレッジの場合
  120ドルの損失となり、自己資本100ドルを上回り、あえなく倒産となる

 ・日本の超低金利の長期化は、このままでは従来のシステムが維持できない
  ことの表れ。長期金利は利潤率の代わりとして用いることができるので、利潤率が
  低い状態が長期化するというのは、経済活動していくための資本蓄積ができない
  ことを意味する。
 ・
日本の株価は、過去50年の株価を平均した50年移動平均線を下回っている。
  つまり、50年間一定単位を日経平均に投資した人がいると、その人は損失を
  出していることになる。
  これは80年台からの日本の新自由主義的改革が、投資家の期待するリターンを
  得られないという点で株式市場からNOという評価を受けたことになる。


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(6) △ 天の夕顔 (中河与一:新潮文庫)2009.1.31

 インターネットで面白そうな小説を探していて評判が良さそうなので読んでみた。

 1938年の作品で、次のような話である。
 「わたくし」が大学生の時に出会った7歳上の女性を20年以上愛し続けるが
 女性には夫と子供がおり、女性は「わたくし」を愛しながらも距離を置こうとする。
 
 「わたくし」は女性に出会った後に、別の女性と結婚する。結婚後、妻が病気に
 なり、2年ほど介抱の生活を続け、結果的に病身の妻と別れてしまう。しかし、
 その後、別れた妻に関する思いは全く書かれていない。
 こういう点など、全体を通して人間の描き方に奥行きを感じなかった。
 主人公の行動や心に共感できる場面があるかどうかが恋愛小説を評価する
 僕の基準になるが、本作品には残念ながらそういうところがなかった。


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(5) △ 行きずりの街 (志水辰夫:新潮文庫)2009.1.26

 12年前に東京を離れ、地方で塾を経営している元教師が、行方不明の教え子を
 探しに東京に出てくる。東京を離れたのは女生徒との結婚がスキャンダルとされた
 ためだ。行方不明の教え子、元妻、勤めていた高校がすべて関係した犯罪をめぐっ
 ての話になっている。
 文章はしっかりしているが、ストーリーが全く駄目だ。
 犯罪に関わる人物が目の前に偶然現われることが多すぎる。また、主人公自ら危険
 な場所に恐怖心もなく行きすぎる。全て過剰なため、臨場感もなく、ストーリーが
 めちゃくちゃに感じる。日本冒険小説協会大賞受賞となっているが、かなりひどい。


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(4) ○ 問いの魔力 (表三郎:サンマーク出版)2009.1.21

 駿台予備校に通っていたときの英語主任の表三郎氏が昨年9月にサンマーク出版
 から3冊目の本を出した。
 1冊目は「答えが見つかるまで考え抜く技術」。2冊目は「日記の魔力」である。
 2冊ともどういう風に取り組めばよいかが書かれており、大きな刺激を受けた。
 本書は過去の哲学者が「どう問うてきたか」をたくさん紹介し、今までの2冊と
 比べて非常に欲張った内容になっており、理解できない箇所も多い。
 今後、本書で取り上げられた哲学者の本をいくつか読まざるをえないだろう。

 なお、本書のなかで特に惹きつけられた箇所が2つあった。
 一つはサルトルに関する記述。
 「実存は本質に先立つ」は、端的に言えば「本質などない」ことだというのだ。
 そして、実存という日本語は、英語では「exist」、直訳すると「外にある」という
 意味だと解説している。
 これによって私に何がわかったわけでもない。でも、「exist」が「外にある」という
 意味だという解説だけでサルトルを読んでみたくなった。

 もう1箇所はカントに関する記述。
 カントの認識論の最大のカテゴリーは時間と空間であって、それ以上の問いは、
 哲学の範疇を越えた答えの出ない問いということになる、と書かれている。
 20年以上前に「純粋理性批判」に挑戦し、たくさん出てくる言葉を囲むという予
 備校の現国で習った手法で読み始めた。空間、時間という言葉が1ページに多数
 出てきて、理解できない上にいつまでも時間、空間の話なので、3週間ほどで
 疲れてしまって読むのを辞めてしまった記憶がある。
 本書を読んで、「純粋理性批判」に時間、空間が多数出てきた理由はわかった。
 でも、本文中の文章を書き写した当時の読書メモを見ても、意味は全くわからない。
 根気だけではどうしようもなかったのだろう。

 (メモ)
 ・考え抜くために必要なのは、「時間の使い方」と「物事を抽象化する能力」
 ・他人の言葉は使わず、自分の言葉で考える
  なぜこの言葉で問うたかを考え抜け
 ・「He is a boy.」を「彼は男の子です」と理解したのでは充分ではない。be動詞が使わ
  れる時、主語は必ず個物であり、補語は集合だという理解が必要。
  
「I have a book.」は、通常は日本語らしく「私は1冊の本を持っている」と訳されるが、
  意味を正しく理解するのなら、「私には1冊の本がある」と訳したほうがわかりやすい。

  「have」の場合、「a book」が「I」の一部であることを意味し、主語のほうが全体になり、
  be動詞とは逆になっている。
 ・「それは私の専門ではない」と決して言ってはいけない

 ・哲学はなぜ古代ギリシャで生まれたのか
    メソポタミア、古代エジプト、インダス、黄河の
4大文明で哲学が生まれなかった
   のは大河のほとりだったから。治水灌漑には膨大な数の労働力が必要で労働力
   を管理統率するには強い権力が必要。
統治者は専制君主化し国は巨大化する。
   その陰で個は埋没し、人は自らの問いや考えを自由に述べたり討論する機会を
   失う。

    ギリシャには大河はなく巨大な権力を必要としない地域では人々は小さな都市
   ごとにまとまり都市国家を築いた。都市国家では一人ひとりが国家の運営に責任
   を持つ。初期のギリシャの哲学の担い手は参政権を持つ貴族だった。都市国家が
   貴族制から民主制に移行していくにつれて哲学の担い手も市民に拡大していく。
 ・
一神教が生まれた場所はどこも環境的に恵まれた場所ではない。
    過酷な環境で人間が生きていくためには、罪な行いもたくさんしなければならな
   かったが、それは罪な行いだという自覚があった。だからこそ、そうした罪の必然性
   を認め、救ってくれる絶対的なものを必要とした。
 ・人間の本質というものはそもそもあるのか。・・・サルトル
  「アンガージュマン」
   英語で言うと「engagement」、約束、婚約といった社会的に拘束された状態。
   人間は絶えず外的状況にとらわれており、内面性は実は存在していない。


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(3) △ さようなら、ギャングたち(高橋源一郎:講談社文芸文庫)2009.1.17

 高橋源一郎が面白いという話を耳にしたので初めて読んでみた。
 ある種の一貫性はあるのだが、ナンセンス話の連続でついていけなかった。
 独創的すぎるのか、私の感受性がなさすぎるのか。


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(2) ○ インクジェット(日本画像学会 編:東京電機大学出版局)2009.1.17

 技術書を通読することはあまりないのだが、本書は最初から通読するために
 購入した。インクジェット技術の概要を把握するには非常に有益な本だ。


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(1) □ 流星の絆 (東野圭吾:講談社)  2009.1.11

 昨年10月から12月までTVで放映されていたドラマの原作である。

 小説ではTVドラマよりも犯人を深く描いていることを期待して読んだが
 TVと同じで、物悲しくではあるが、あっさりと語られているだけだった。
 また、TVドラマを見ていたので、本書を読んでいても俳優のせりふが
 聞えてくるように感じ、純粋に小説として読むことができなかった。
 多分そこそこ面白いのだろうが、TVドラマを見た後にわざわざ読む
 必要はなかった。


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