「拉致をテロと認識するか」という問いに対する違和感 :2003.10.4
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 「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」(通称:救う会)と「拉致被害者
家族連絡会」(通称:家族会)が共同で、「拉致をテロと認識するか」をテーマとして、衆議院議
員立候補者にアンケートをする予定にしていることを新聞で知りました。
救う会のホームページで確認すると、少し意味合いが違って、経済制裁実施を選挙の争点とし
て欲しいという目的と書かれていますが、一つ目の質問は、「北朝鮮による日本人拉致をテロと
認識しますか」になっています。(最後に質問事項全体を記載)

拉致問題については、長年その疑いがあったにもかかわらず、日本政府は有効な手を打たず、
同時に日本社会の関心も大きくはありませんでした。また、昨年、5人の拉致被害者の方が帰
国した後も、北朝鮮に残る家族の問題や他の被害者の情報について進展がなく、関係者の心
境は想像することすらできないほどのものであろうと思います。家族会・救う会の方が、この状況
を打ち破るために取っている手段の一つがこのアンケートなのでしょう。

しかし、それでも、このアンケートの一番目の問い「拉致をテロと認識しますか」には、違和感と
ともに、この問いにNoと書く奴は許さないという理性を無視した暴力的な嫌なものを感じます。
拉致が北朝鮮という国家が行なった重大犯罪であることは、皆が認めるところでしょう。しかし、
それがテロかどうかという場合、テロという言葉の定義によるというのが普通の感覚ではないか
と僕は思います。

ちなみに、テロリズムを国語辞典で引くと、
 「反対者(特に政府の要人)を暗殺するとか、国民を強権でおどすとか、暴力や恐怖によって
  政治上の主張を押し通そうとする態度」      出典:岩波国語辞典(第2版:1971年)
 「一定の政治目的を実現するために暗殺・暴行などの手段を行使することを認める主義、および
  それに基づく暴力の行使。テロ。」         出典:三省堂「大辞林 第二版」(インターネット)
となっています。前者に比べて、後者はかなり広い範囲を含めているようです。前者は僕の手元
にあった古い辞書で、最近の方が広い意味で使われてきているのかもしれません。
僕の感覚は、前者の方に近く、政治的な主張を通すために用いる暴力という意味で捉えています。
したがって、僕の言葉の使い方では拉致をテロと呼ぶのは適切ではないことになります。

実際には、もっといろいろな議論を踏まえて考えないといけないのに、「拉致をテロと認識するか」
という問いは、北朝鮮をひどい国と考えないのか、と問うているように聞こえます。さらに、現在相手
を非難する上で一番強い言葉とされている「テロリスト」と北朝鮮を呼べと言っているようなある種の
脅迫的なものを感じます。こういう無神経な質問を投げかけ、それを選挙前に公開するというのは、
理性的な行動ではありません。
さらに、こういう問いかけ自体を、批判しにくい雰囲気が社会にあります。そして、こういう雰囲気が
北朝鮮に対する強行姿勢を後押しし、冷静な判断力を失わせることにつながると考えます。

今後、このような僕の考え・感想を少しずつ書いていき、整理していきたいと考えています。

《救う会のホームページより引用》
来るべき総選挙で、衆議院選挙立候補者への拉致問題アンケート(家族会・救う会)を実施する
ことを決めました。アンケートは各地の救う会が以下の統一用紙で実 施し、公示前日に記者会見、
メールニュースなどで公開します。拉致解決のための経済制裁実施を選挙の争点することが目的
です。

 お名前
 所属政党
 選挙区   
 1, 貴殿は、北朝鮮による日本人拉致をテロと認識しますか。
    はい     いいえ     その他     その理由
 2, 拉致問題解決の手段として経済制裁(北朝鮮への送金制限、北朝鮮との貿易制 限、北朝
    鮮船の入港制限)を行うことを可能とするための外国為替法改正、特定船舶 入港制限を定
    める新法制定に賛成ですか
  (A)送金制限、貿易制限を可能にする外国為替法改正  
    賛成    反対    その他    その理由
  (B)特定船舶入港制限を定める新法制定に賛成ですか  
    賛成    反対    その他       その理由                     以上