戻る    最初へ

No.2 21世紀の木造住宅における構造安全性能とは

2002年7月


4,21世紀への木造住宅における構造的課題

21世紀の木造住宅の構造的問題点を考えた場合、キーワードは「環境」という言葉が基本となるであろう。とはいえ、まだまだ現時点では最大の基本は「安全性の確保」であることには違いないが、21世紀の初頭には、ほぼ見通しがつくであろうと思われる。

そのとき、前項の問題を理解していない技術者(建築士)は淘汰され、また、施工業界も多数の中小工務店等が、技術不足による倒産が起こる可能性があり、社会問題となる要素を含んでいる。

つまり、20世紀最後の建築基準法の大改正は、一言で言うなら「弱肉強食」であり、何の努力もしないで法律に甘んじてきた人たちの努力不足の結果でもある。

だからといって、資本力・技術力・人材の各面で圧倒的に有利な大手メーカーの独占となった場合の木造住宅は、文化もなければ伝統もないような住宅となり、単なる商品としての住宅となり、社会的問題となるであろう。

だから、法律で決まったことは法治国家である以上はやむを得ないので、今ごろになって「悪法だ!」とか「数値だけで住宅が出来るわけではない!」などと負け犬の遠吠えに近い泣き言を言う前に、根本的な解決方法であると思われる「建築士の再教育」を本気で取り組まなければ、前記の予想が数年の内に起こるであろう。

これに対し、国の建築教育にも声を大にして言いたいのは、デザイナー教育が建築教育の多数を占め、基本となる技術教育が少ないのが現状である建築教育を、少なくとも半々とすべきである。

これは、何を意味しているかというと、学生のゼミ等の専門選択における学生数を意味し、建築学科を卒業するほとんどの学生が、デザイン専門の教育を受け、社会に出ていくのである。

それほど構造や、設備等は魅力がないと思われるような教育で、教育者自身にも問題があるかもしれないが、現在社会問題となっている学生の理科系離れが根本にあり、数学的要素を必要とする技術分野(構造・設備等)に学生自身に拒否反応があり、数学的思考のいらない感覚的思考のデザイン分野に流れているものと思われる。

これは、ものづくりで一番大事な現場に直結し、製造技術そのものも大企業(大手ゼネコン・大手組織事務所)と中小企業(工務店・アトリエ事務所)との格差が致命的に現れ、中小企業はこれを克服しようと創造的なものから実現的な技術までコンピュータソフトに頼ろうとし、ブラックボックス化されたソフトの中まで理解できないまま、入力を間違えた単純ミスにおいても気づかず、ソフト産業に踊らされる可能性がある。



ソフトのブラックボックス化による問題点


このような近未来の様子が想像でき、また20世紀に逆戻りし、「ちまたの中小企業の建築士達は無能で、まともにソフトを利用することも出来ないので規制をかけ、厳しく指導したほうが良い」ということになり、益々大企業との格差が生まれるだろう。

空想のような戯言を書いたが、一地方の木構造技術者の独り言と思って頂いてもいいだろうし、21世紀への警告と受け取ってもよい。

問題は、一人一人の建築士が21世紀に何かに頼って生きていくのか、自分で職能技術を高め、自立した建築士として生きていくか、いろんな生き方があるが、その中で「環境」というキーワードを有しているのが木造であることは間違いない。


前へ    最初へ
 ©Tahara Architect & Associates, 2003