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No.2 21世紀の木造住宅における構造安全性能とは

2002年7月


3,これからの建築技術者のあり方

2000年6月の法改正は、今までの住宅及び建築という産業から社会システムまで巻き込んだ変革といえるべきものである。

つまり、今までの住宅作りでは、コスト面や外観等のデザインがどうだとか設備がどうだとかといった面が中心だったわけだが、これからは基本性能といえるべき構造安全性能や耐久性能、耐火性能、環境性能などの点で評価していくということである。



筆者が考える一般の木造住宅要求性能


この点は、デザイン等だと個人的な好みによって好き嫌いの判断がされるが、上記の性能は数字で表現されるので一目瞭然の性能判断がなされると思う。

このことは、技術力の差がはっきりと表れる法律体系になったということである。

極端に言うと、法律を守っていれば良かった時代の終焉と言うことで、建築基準法に基づいた住宅は最低レベルの性能しか持ち合わせていないランクとなり、建築基準法以上の性能だと言いたい人は数字でその性能を示さなければならないと言うことである。

今までの建築基準法を守った木造住宅であれば、どのような性能であったか概略を説明すると次のようになる。

まず、通常の生活レベルにおいては、生活上支障となるようなたわみや、振動などの影響が許容レベル以上に発生しないことを目標に定められており、その許容値とは一般の設計者や、施主にきちんと伝えられているとは言い難い。

また、大地震時には大破はしても倒壊だけは防ぎ、人命を絶対に守ると言う性能が基準法における耐震性の目標であった。


しかし、1995年1月17日の阪神淡路大地震において、仕様規定の旧基準で建築されていた木造住宅が倒壊した。

その中には欠陥住宅と呼ばれるものもあるが、きちんと法律にのっとって建てられた住宅も倒壊したのである。

これからの建築士は分かりやすく説明すると、人間が病気や怪我をすると、まず病院に行き初診の場合は、診察表にどこが悪いのかを具体的に書く欄があり、その上で専門の医師による診察が行われるのである。

木造住宅を人間に例えるなら、デザインは整形外科、構造は外科、設備は内科というように、医学の分野でもこのように細分化され専門の医師が存在するように、建築士でも同様のことが言えるのである。

ここで強調したいのは、大多数の建築士がデザイン専門で、その建築士が木造住宅の各専門のすべてを一人でやっているということであり、これは非常に危険な行為で、医療分野で例えると、問題となっている「誤診」や「医療ミス」の根源である。

情報公開という流れの中で、今まで「住まい方や空間デザイン」の事ばかり説明している建築士では、これからの時代は施主に信頼されない時代になるであろう。

以上の事をまとめて言うとこれからの建築士のあるべき姿は、「自分は○○が専門の建築士です」というように、○○の中にデザイン・構造・設備等が入り、例えば、「構造」であればさらに細分化した「構造の中でも○○が専門の建築士です」というように、○○の中にS・RC造、木造、膜構造、免震構造等が入り、非常に高度な分類が行われるようになるかもしれない。

だから、施主との第一相談者である建築士は、自分ができる範囲はどこまでで自分の専門が何かを説明し、例えば建築家であれば「デザインは専門だが、構造や設備等はあまり得意ではないので専門家の協力を受けます」というように、本当のことを説明しなければならない時代となる。



医療と建築の分野による細分化



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 ©Tahara Architect & Associates, 2003