木構造建築研究所 田原

本ページの内容は2004年改訂版の耐震診断法に関する説明です。2012年改訂版の内容には対応していません。
2012年版については「耐震診断ができる、わかる。耐震補強マニュアル」をご覧ください。

2.3 上部構造の診断

2.3.1 必要耐力の算定

必要耐力Qrは各階の床面積に、建築基準法施行令88条の地震力の算出方法に準じて算出した、床面積あたりの必要耐力を乗じて求めます。

Qr=床面積x(床面積あたり必要耐力+積雪割増)x割増係数

新診断法では、積雪割増が考慮されるようになり、各種割増係数が必要耐力に直接考慮されるようになって、より正確な診断が可能になっています。

また、床面積あたりの必要耐力についても見直され、土葺き瓦屋根についても検討できるようになりました(詳細は以下参照)。

なお、本診断での必要耐力・保有耐力は共に建築基準法で言うところの短期許容耐力レベルの値になっていますが、これは現在の木造の基準では短期許容耐力が保有耐力も保証していることを使って計算を行っているためです。

床面積あたりの必要耐力の根拠

床面積あたりの必要耐力の根拠は次のようになっています。

建築基準法施行令88条の地震力は

i階の地震力Qi=i階より上の部分の質量xCi
層せん断力係数 Ci = 地域係数Zx震動特性係数Rtx層せん断力分布係数AixベースシアCo

により求めますが、以下の条件

を前提として、建物重量を下記のように仮定すると、近似的に建物の床面積だけで必要耐力が求めることができます。

仮定重量
建物の種類屋根
[N/m2]
外壁
[N/m2]
内壁
[N/m2]

[N/m2]
床積載
[N/m2]
軽い建物石綿スレート板
[950]
ラスモルタル壁
[750]
ボード壁
[200]
一般的な床
[600]
平均的な
積載荷重
[610]
重い建物桟瓦葺
[1300]
土塗壁
[1200]
ボード壁
[200]
非常に重い建物土葺瓦
[2400]
土塗壁
[1200]
土塗壁
[450]

上記の条件から求めた床面積あたりの必要耐力が下表に示された値です。なお、表中のZは地域係数Zで、地域係数は別途建物の建っている地域の値を乗じることになっているためです。

なお、総2階でない建物については、各階の床面積を考慮した必要耐力の算出法(精算法)が用意されているので、そちらを使うこともできます。

床面積あたりの必要耐力[kN/m2]
対象建物 軽い建物重い建物非常に重い建物
平屋建て 0.28Z0.40Z0.64Z
2階建2階0.37Z0.53Z0.78Z
1階0.83Z1.06Z1.41Z
3階建3階0.43Z0.62Z0.91Z
2階0.98Z1.25Z1.59Z
1階1.34Z1.66Z2.07Z

このように、床面積あたりの必要耐力の算定においては、建物の実情に応じた仮定重量の増減が行われた他に、3階建への対応と、古民家等を意識した"非常に重い建物"への対応が行われています。これにより、より多くの建物が耐震診断が可能となっています。

しかしながら、必要耐力の算出にあたって、簡略化のためにいくつかの仮定がなされていることにはかわりがありません。

例えば、壁を床均し重量として求めている関係で、建物の間口が狭い場合や建物が複雑な形態であると床面積に対する外壁面積の比率が大きくなり、仮定しているより外壁の荷重が大きくなる可能性があります。但し、この問題については、後述する割増係数で考慮されています。

建物の診断に使う際には、これらの必要耐力に、次にしめす割増係数を乗じます。

積雪割増

多雪地域においては、積雪深に応じて以下の通り床面積あたりの必要耐力を割増します。

雪の重量=30kN/m2x積雪深x地震力計算時の低減係数0.35 として、必要耐力の算出と同様に算出しています。但し、層せん断力分布係数Aiへの影響等は無視して簡略化しています。

床面積あたりの必要耐力
積雪深1m1m〜2mの間2m
割増量0.26Z直線補完0.52Z

各種割増係数

軟弱地盤割増

地盤が著しく軟弱と思われる敷地の場合には、必要耐力Qrを1.5倍します。

建物短辺が極端に短い場合

2階建の1階、3階建の2,1階について、短辺の長さが4.0m未満となる場合はその階の必要耐力を1.13倍します。

間口が狭くなってくると、床面積に対する軒の出と壁面積の比率が大きくなってきて、仮定よりも床面積あたりの屋根重量・外壁重量が大きくなってきます。本診断法の仮定荷重の場合、短辺が8m程度を基準としていて、8mを切ると徐々に必要耐力が過小評価になっていきます。一般診断法では間口が4mの場合が1.0になるように調整した上で、4mを切った場合には割増するようにしています。

また、間口が狭い場合以外でも、建物形状が複雑な場合などで、壁の量が多くなる場合はその分を割増することが望ましいといえます。

混構造の木造部分に対する割増

1階が鉄骨造または鉄筋コンクリート造の混構造の2階以上の木造部分を検討する場合においては、必要耐力を1.2倍割増します。

都市部でよく見られる1階RC造または鉄骨造の混構造住宅に対応しています。

RC・鉄骨造部分の検証法については言及されていません。


©2004, tahara architects. last modified 2004/09/07