「で、銀次さん。何されてたんですか?」

 うってかわって、取り残された3人。
 優しく尋ねる花月に銀次は、あのときの恐怖が甦ってきて、自然と涙があふれてきそうになる。
 どうも、マジで怖かったらしい。

「あのね…、蛮ちゃん、変なこと、…するんだもん…・」
「変なこと?」

 こくん、とうなづくと、きゅっと胸の前に手を寄せる。その様子に、士度は銀次に立ち上がるようにいうと、乱れた服をきちんとなおしてやった。

「…ありがとう、士度」

 にこっとわらいかけられて照れたように銀次の体をくるっと半回転させて、花月の方に再び向けた。

「で、変なコトって?」
「…え、っとーー。あの・・。蛮ちゃん、変な、その・・趣味があって・・。オレ、痛いからやだっていうのに…」
「……」

真っ赤な顔して小さな声で答える銀次と裏腹に、変わらない調子で花月は進める。もちろん、表面的には・・であるが。

「オレのね・・胸のね、赤いの…つぶすの、好きなんだ、蛮ちゃん」
「…………」

 胸の赤いのってまさか……。
 一気に花月と士度から冷気があふれ出す。
 士度の瞳は完全にバーサク状態になってしまっている。うん、と二人は顔を見合わせ、頷く。

「銀次さん、少し我慢して下さいね」
「え?」

 優しくささやくと、花月は見えない絃で銀次の腕を傷つかない程度に縛る。士度は、その腕をつかむと、銀次の体を床に押し倒した。

「・・カヅちゃ・・、士度?」

 いきなりのことに頭が真っ白になってしまうが、次の二人の行為で慌てて抵抗を試みた。

「や!な、何!?…ん!」
「ちょっと確かめるだけ、だから。俺らを信じろ」

 士度はそういって、涙を浮かべた銀次の瞼を優しく撫でる。

「・・んん」

 花月は手早く、整えた銀次のシャツを乱して素肌を空気に晒す。意外と白い肌はなめらかで、薄暗い店内でも、その柔らかさが十分に感じられる。ゆっくりと花月の指が、その胸の辺りをいたずらに動いた。その指が、二つの赤い果実にあたる。


「おい、花月…」


士度がやりすぎだ、という風に止めようとして、花月の指をつかもうとしたとき、その士度の指が軽く銀次の果実にふれてしまう。

「ひゃん!」

「す、すまん!」


 真っ赤になる士度と、きゅっと目を閉じてそのシゲキに耐える銀次。その彼の表情がやたらと可愛くて、士度の声はさらにうわずいてしまう。押さえつけたしなやかな腕がぴくんっと反応する。

「ぎ・・銀次?」
「ごめん・・!・・でも、なんか・・。」

どうも、銀次のくすぐったさのツボをついてしまったようだ・・。
とろーん、とした表情で銀次は、士度を見上げると、


「ねえ、士度ぉ・・、もーさわっちゃダメだよ・・」
「!!」


感触を思い出したのか、士度の顔が再び沸騰してしまっている。
そんな二人を横目に、はああ…、と花月は大きく息をついた。どうも原因の元を見つけたらしい。

「銀次さん…、コレですね…」

可愛い赤い飾りの少し、左上にあるモノ。


「え?」


 くいくいっと、花月の指がソレに触れる。

「んん!あ・・!」
「…花月、それって…」

 花月の口が開こうとした瞬間。



ばーーーん!!



 派手にドアが開く音が響き、外界の新しい音源が荒い息とともに店内に侵入してくる。

「オイ、こら。てめーら、何やってんだ?」

 地響きにも似た、低音。ヒトの声とは思えない、獣の唸り声級だ。
 歩くたびに妙にきしむ床の音が、今は唯一の無機質な音。

「あ・・蛮ちゃ・・?」

 床から聞こえてくる銀次の舌っ足らずな声。
徐々に3人に近づく蛮は、薄暗い店内の状況を認識し始める。
 両腕に細い糸が絡みついたままの銀次の腕を押さえつけている士度と、いかにも、な状態で銀次の服を乱している花月。

しかも、士度はなぜか顔が真っ赤だ・・。
 一目瞭然の状態。

「おめーら、…人のモンに何して・・」
「・・いつ銀次がお前のモンになったんだ?」
「お前に言う必要はないね」

 冷たい視線の応酬。
いつも以上にバーニングな状態は一触即発。この店がふっとぶのも時間の問題・・と思われたとき。

「蛮ちゃん、もうお手伝い終わったの?」


がくっ。


ノーテンキな銀次の声。

「ぎ・・銀次…」

 いつの間にやら花月に引き上げられて、彼の腕の中から蛮に無邪気な声で問いかけている銀次に、凍っていた空気の流れが動きを取り戻す。・・だからといっても雰囲気はがけっぷち、だが。
 ふう、と息をつくと、蛮は視線を銀次に向けて、ぽりぽりと頭をかく。何かを言いたそうにして、銀次から目を逸らすが、ぶっきらぼうに言い放つ。

「おい、いつまでそこにいてんだ」
「え?」
「こっちに来いっつってんだ!」
「・・ん!」

 頭にピョコンっと犬耳が見えるしぐさで、銀次は花月の腕の中から抜けようとした。・・が。

「・・か、カヅちゃん?」

 後ろから自分を抱きしめる花月の腕が緩まないので、不思議そうに銀次は彼を振り返った。

「銀次さん、僕たちのこと、好きですか?」

不意の問いにきょとんとなるが、うんっと、天使の笑顔で答える。

「だーいすき!」

その答えに満足げに頷くと、花月は銀次を引き上げて立たせる。
 一方、その答えに底なしなくらいの不機嫌な顔をする蛮。


「銀次…・」


 うなるような声が耳に入ってくるが、士度は無視を決めて銀次の側に歩み寄った。

「で、何だったんだ、結局」
「ま、いいからさ。」

 花月は士度に企み笑顔で答えると、ムカツクぐらいさわやかに蛮を呼ぶ。

「ねえ、蛮君、銀次さんは僕らのことも好きなんだって」
「あ?」
「だからさ・・」

 花月は後ろ抱きにしていた銀次のシャツをぺろんとめくった。
不意に目に飛び込んでくる、銀次の白い肌と、胸の赤い飾りと…そして……
花月が指をちょんちょんっとつついた場所。ソレ・・そう。
蛮の瞳が大きく開き、そしてすべてを悟る。

「てっめーー!!」

蛮は慌てて銀次に駆け寄るが・・そのまえに。


プチ。


「やあん!!いた…くない??」


来ると思っていた痛みに銀次は、首を傾げる・・。
そして、自分の胸をみつめる。そこには・・

「あー、なくなってるぅ!!」

 喜んで飛び跳ねる銀次。
そして・・一歩及ばなかった蛮は…。
がががーーん、っといったような顔でぼーぜんとその場に立ちつくす。
 アレはいい時期が来るまでは、と思い必死で待ったのに・・。
衝撃の大きさか、言葉も出ないようだ。

「…アホか、コイツは・・」

士度の声。
それから、にこっと凶悪な笑顔で近づく花月に、わなわなと震える拳を蛮は繰り出す。
しかし、しゅんっと空を切る音がするのみ。


「僕の大切な人に、変なモノつけるからです」


 花月はそういって、銀次の首筋を指さす。

「だから、僕も君の大事なモノもらっちゃいました」

 はははっ笑って、花月はじゃあ、僕はコレで帰りますね、と銀次にさよならの抱擁をおまけに、出ていったのだった。

「ま、今回はアイツの勝ち、かな」

 苦笑しつつ、士度ははしゃぎすぎてこけそうになってる銀次を捕まえて、その額に軽く唇を寄せる。

「ん!士度ぉ??」
「じゃあな、お姫様」
「ええ??オレ女の子じゃないよお??」

 のーてんきな銀次の声は蛮のすべての力を抜き去るのに十分のダメージとなったのだった。


*****************************************


「蛮ちゃん・・まだ、機嫌悪いの?」

 あれから30分は経っているのに、まったくコッチを見ようともしない蛮に困ってしまう。
 ふたりっきりの店内。まだまだ、波児の帰ってくる時間には遠い。

「でも、蛮ちゃんも変だよ?人のにきびをつぶすのがシュミだなんて」

ちょうど胸の左上にできたにきびくん。コレをつぶす日が来るのを指折り数えていた蛮はちょっと変だ、と銀次は思う。
 自分でシャツをたくし上げて、ニキビ跡を見る。芯がとれたのか小さな穴ができている。ちょうど取れる時期だったらしい。痛くなかったし。

「ばんちゃ・・んん!!」

 いきなりのしかかってくる蛮に、銀次は床に再び押し倒される。
上から見つめてくる蛮の瞳が、普段とは違って鋭くて、ピクンっと体がすくむ。本能で、何かを悟った。

「蛮ちゃん?」

 ぎりっと自分の腕をつかむ彼の握力がひどく強い。

「お前、あいつらのこと、好きか?」

 またしてもいきなりな内容にびっくりするが、こくんっと頷く。

「うん、カヅちゃんも士度も、ヘブンさんも、大好きだよ?」
「じゃあ・・」

 にっこりと笑って、銀次は赤い唇を開いて答える。

「蛮ちゃんも好き。大好き。みーんな好きだけどね、蛮ちゃんは」
「オレは?」
「いっちばん好き!」

 心が綺麗な証拠。とても幸せな笑顔で、蛮に微笑む。
胸の奥にまで浸透する、優しい気持ち。きっと、憧れた、笑顔。それを取り戻させたのは、自分だとうぬぼれてもいいのだろうか。
蛮はゆっくりと、銀次の細い首筋に唇を寄せる。なめらかな肌に、意外と猫毛な柔らかい髪が蛮の頬を撫でる。

 唇を寄せて、少しきつくキスをする。

「ん!・・あ、蛮ちゃん・・」

 所有のマーク。誰にも渡したくないと思った。


 (あいつらの不興をさらに買いそうだけどな。)


でも、譲る気は元々ない。

「どしたの?」
 少し心配そうに見上げてくる銀次に、でも、今日のあの二人への甘えぶりはちょっといただけない。
やっぱり、お仕置きはしておかないと。
 意地悪な気分になって、蛮は銀次に、笑いかけてみせる。それは、銀次にとっては、赤屍戦以上の恐怖だったりして・・。

「ば・・蛮ちゃん?」
「さっきのは、アイツにつぶされたけどさ・・。他にあるかもしれねーから探してやるよ?」
「ええええーーーー?!」
「しかも・・」 

 にやーっと、意地悪く笑いながら銀次に迫った。

「次は絶対みつからねートコロ、探してやるよ」
「ま…まさか・・蛮ちゃん…」
「そのまさかでーっっす」

 器用に銀次の足を二つ折りにして、ズボンを脱がしていく。

「やだやだやだーーー!!」
「いいじゃーん、オレのこと一番好きなんだろ?」

 うっと、詰まる銀次の隙をついて、一気にシャツをたくしあげようとして・・。

「あ・・あれ??」
「な・・なに?」

 指に絡まった、何か…。
コレはもしや…・。

「あー、カヅちゃんの・・絃…・」
「まさか…」

 あんなにあっさりと退場するハズがないことに蛮は気づく。
それから、むくむくとムカツキ感が浮上。

「おっしゃ、いい度胸じゃねーか。今度は決着つけてやる!」
「ば・・蛮ちゃん、ケンカは・・」

 そういって縋り付いてくる銀次の腰を引き寄せて、ぴんっと額をはじく。

「お前は、心配することねーよ。そのままでいればいーんだよ」
「・・え?」

言われた言葉に戸惑いを見せる銀次の髪を、くしゃっと撫でる。銀次は嬉しそうに、目を閉じて、蛮の広い胸の中に自分の体を委ねた。

「うん、蛮ちゃん」

 分かってるのかどうか分からないけれど、銀次は大きくうなずく。

 本当の君の姿。

 きっとみんなその柔らかさに惹かれる。

 誰にも見せたくないけど、それが無理なら。
いつも側で対等に守ることは誓える。

 そろそろドアが開く頃だろう。
 その前に、二人だけで、ゆっくり笑いあおう。
 
                         〈END??〉



COMMENT
 コメントを入れるのも、イヤになるような話。コレは、多分初めて書いたゲットバッカーズモノ(笑)一応、蛮銀(爆)なんかエロいのか、ただのアホ話なのか全く分からない代物。
 こんなしょーもないものを本にして売ってたんですね・・・私。苦!!
 ほんと少部数しか作ってないのが、せめてもの救い。もう、ゲットバッカーズものは書いてないんですが、なんか書きたくなってきました・・もうちょい、マシな話を・・・ううう(涙)
 コレはいつも挿し絵描いてくれるマコトちゃんに★