◆ハンバーガーと自己責任◆

祭 作太郎のエッセイ

 

「ワシが、太ったんわ毎日食ってるお前のとこのハンバーガーのせいや!」
(各自・英語に訳してください。)
話題になった、アメリカでのマクドナルド裁判問題。
私も含めて、この記事を読んで腹を抱えて笑った御仁も多いことだろう。

当然と言えば当然だが、今月22日ニューヨークの連邦地裁は
原告(身長165センチ、体重が122キロ)らの損害賠償請求を棄却した。
「誰もハンバーガー食べとは強制してへん。自分で勝手に食べてるんやろ。
自分の暴飲暴食による肥満や健康被害の救済を求めな。
こんなアホらしい話を法廷に持ち込む自体がおかしいのや。」
(各自・英語に訳してください。)

さすが訴訟王国・USAというべきか。
しかし角度を変えると笑ってばかり居られない。

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一昨年の夏頃、中国産冷凍ホウレンソウから食品衛生法の基準値を超える
残留農薬が相次いで見つかり波紋を呼んだ。
(詳細は、読者諸氏各自でお調べ頂きたい。)

中国野菜に限らず日本は今や食品の6割を海外に依存している。
他の産業同様、大量生産方式や価格競争が生み出した弊害である。
土地や人件費の安い諸外国での食品輸入はこれからも増えるのであろうか。

戦後の食糧難から高度経済成長が食品の安全性の置き去りにした。
しかし、誰の責任でもなく国民の選択肢だったかもしれぬ。

私の知人の農家は、売り物にする出荷用には農薬を使い
自分達で食べるものは一切使わないそうだ。
答えは簡単だ。危険だからだ。

消費者は、或いは販売店は虫食い状態の野菜を嫌うし
他のモノ同様、同じ買うのだったら値段が安い方がいいと思ってきた。
野菜商品のプロ・アドバイザーである、昔ながらの八百屋はどんどん衰退して、
スーパーマーケットのビニールで綺麗にパッキングされた
大量の野菜が年中並ぶ。

輸入野菜や農薬問題だけではなく
現在、日本で本当に安全な食品を手に入れるのは容易ではない。

大手メディアは、何か食品にまつわる事件がおこる度に
「食卓の安全をどう確保するかが改めて問われている。」と言う論調で結ぶ。
が、一体誰が問われているのだろうか?
また、誰が問いかけているのだろうか?

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関西ビジネス新聞・第39号(平成15年1月13日発行)に
掲載したコラム「上方食文化の真髄」に登場する 
「こんぶ土居」店主・土居成吉さんに、先週お話を伺う機会に恵まれた。
お伝えしたいことは山ほどあるのだが、残念ながら後日に譲って
今日は一点に絞る。

土居成吉さんは、ここ10年来、天然の真昆布の産地北海道・川汲浜まで足を運び
生産者との様々なコミュニケーションを取られている。
お話を聞いて驚くのは、生産者(漁師)さん達の収入の低さだ。

手間隙かけて、懸命に漁をしても収入が低ければ、やがて止めざる終えなくなる。
土居さんは、危機感を感じ活動の一つとして
地元の小学校の協力の基・課外授業を行っている。

その漁師さん達の子供達に昆布の素晴らしさ、
天然や伝統を守る尊さを熱心に説いておられる。
花を咲かせるには、まず芽からと言うわけだ。
なんと、息が長い話であろう。
そして手ごたえを着実に感じていると力を込められた。

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さて、もし我々が危険な食品を食べ続けて数年後健康を害しても
それは、本人の自己責任と言われるのであろうか。
(冒頭のハンバーガーの話と性質は全く違う。)

「そんな店で買うからあかんねんや。」
「そんなレストランで食べるからや。」

こんなふうに言って退けられるのであろうか。
例えば国民の大多数がそうなれば、誰にも責任は取れない。
がその責任の範囲は子々孫々まで及ぶ。

無知とは、恐いものだ。
知らない内に取り返しがつかなくなっている場合がある。


話は一転するが、今日新聞の朝刊の一面を見ると1,000店舗以上を誇る
大手和洋菓子フランチャイズ・チェーン「タカラブネ」が
民事再生法適用を申請との見出しが目に飛び込んだ。

様々な経営上の事由があるのだろうが
「タカラブネ」だけではなく、他の大手チェーンを含めて
工場で大量生産される「レディーメイド」を
消費者が支持しなくなったとの意見もある。
或いは、単に不景気のせいかもしれない。

ただ、私はほんまもんの素材にこだわり、伝統の食文化を守る
土居さんの姿勢こそ、次世代のビジネス・ヒントがあると思うのだ。

◆祭 作太郎  1月25日

 

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