ほのぼのエッセイ集


 

棒タラ

転勤して丸3年になる、親の近くから離れた。
お袋とは不思議なものだ。身近にいるとうるさく感じてしまうのに
いざ、離れるとなんとなく寂しくて仕方がない。
 
 先日、妻と買い物をしている時、
ふと食品コーナーを覗くと棒タラの乾物が目に入った。
 
  子供の頃親父が事業に失敗し、
家計が苦しく満足に好きなものを食べさせてもらえなかった。
そんなある日、日本海側の寒村に住む叔父から大量の棒タラが送られてきた。
私と弟は大喜びして、その塩辛い魚をご飯にかけて食べたものだった。
 
でも、一番印象に残っているのはその時のお袋の笑顔だ。
多分私達兄弟が喜んでいるのを見て、
私達以上にお袋の方がよっぽど嬉しかったに違いない。
 
そんな懐かしい想い出が脳裏に一瞬浮かんだ後、
私は棒タラを手に取っていた。
 
すると、それを見とめた妻が「水に戻すのが面倒だから」
そうピシャリと言って私の手を振り払った。
 
私は急にお袋に会いたくなって、夕飯時、翌週末出かける事を提案した。
妻は、「そんなに棒タラが食べたかったの」と言うとクスリと笑った。

◆祭 作太郎

 

 

親馬鹿日誌

今秋、三人目の子供が誕生した。
上2人は共に娘、待望の男の子だった。
ヤッタぜベイビー!

そんなことで、毎日が戦争のようである。
片付けても片付けても、散らかす。の繰り返し。
思わず怒鳴る回数も増えてしまう。
親2人に子供3人。マンツーマンであやしたくても物理的に無理。
そんなこともあり、子供らの就寝時、いつもビデオを見せる習慣がある。

ある時、ハッとさせられた出来事があった。
いつものようにビデオをつけて寝かしていると、寝床から
シクシクと泣き声がするのである。あわてて駆け寄り、
体調でも悪いのかと問いただすと、違っていた。
聞くと、「ビデオの話がかわいそう」と言うのである。

とても驚いた。その時つけていたビデオは『蛍の墓』。
確かに大人の我々が見ていると「うるっ」と来るものがある。
が、今秋、4歳になった子供が何かを感じ、涙しているのである。
その時は、嫁と「そんな歳になったのか」と笑っていたものの、
その後、ふと考えさせられた。

以前、同コラムで、宮川花子氏の講演録が紹介されていた。
「幼稚園児は挨拶が返ってくる」が「中高生になると返ってこない」、
「今の子供には夢が無さすぎる」という話を思い出した。

我娘を自慢しているのではなく、知らず知らずに成長し、感情も
豊かになっていくのだな〜とつくづく感じた。
今後、このような「素朴」「素直」「無邪気」という感情をいかに尊重
してやれるか考えさせられると同時に、自分達には残っているのかと
考えさせられた出来事であった。

今、世間では、「いじめ」や「少年法改正」をはじめとする教育問題が
取り沙汰されているが、きっと子供らを取り巻く環境、とりわけ、我々
大人が作り出した弊害でもあるような気がしてやまない。

◆3児のパパ

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