本を読もう2002



旅と文庫本

旅に出たいと時に強く思う。
できれば、一人旅が良い。
一人旅なら列車の旅が良い。
列車に乗るなら窓側が良い。
山ででも良い、海岸でも良い、田園でも良い。
窓際の席に座るのは何倍も価値がある。

ここでいつも迷う。列車での過ごし方だ。
車窓の風景を静かに楽しむか。
もちろん、酒をチビチビ飲みながら列車の旅も風情がある。

だが、本を読むのも捨てがたい。
新聞や雑誌では駄目だ。
立ちながら読む通勤電車ではないのだから・・・。
旅の本質の一つは非日常性の追及でもある。

どんな本を持って行こう。
ハードカバーも悪くはないがかさばるし重い。
やっぱり軽くて何冊も持っていける文庫本が最適だ。
列車で行く、一人旅には大きな荷物は似合わない。

どんな本を読もう。
旅先に、ちなんだ本はどうか。
初めてその土地を訪れる場合は止めた方がいい。
事前に先入観やイメージを持ってしまうと
感受性が鈍り、旅の楽しみが半減する。

歴史小説、ミステリーなどが定番だがありきたり過ぎる。
かと言って何かのウンチク話も華がない。
ビジネス書だけは勘弁してもらいたい。
こう考えると本選びも難しい。

だが、早めに駅前の本屋に行って旅先で読む本を探す。
実はこれがとても楽しい。
列車の走る路線の風景を想像しながら
しっくりと合う本を選びたい。

或いは、何も考えずに題名だけさっと見て
2,3冊買っていくのも良いのかも。
意外に面白い本に出会えるかもしれない。
だが、大物では限り、人間ナカナカそんな芸当はできないものだ。

とにかく、文庫本をポケットに入れて列車に乗り込む。
そんなに込んでいる時期でないなら、自由席でも良い。

「そこ空いていらっしゃいますか? 」
水色のワンピースを着た女性が声を掛けてくる。
「どうぞ」 とできるだけ胸の高揚を押さえたトーンで応える。
彼女は、静かに腰を降ろした。
服と同じ水色の帽子を取ると、目の大きい清楚な美人だ。
ショートカットの黒髪が夏に似合う。
「どちらまで行かれるのですか?」
「はい、、、、、、まで」
「では、僕と同じですね。」
「実家があるのものですから。」
「失礼ですが、近くに良い宿はご存知ありませんか。」
「あのう、私の実家が旅館をやっておりまして、よろしけらば・・・・」

すると突然、私の顔に重たい物体がのしかかる。
「う・・・・くるしい」
子供の足が乗っているだ。
そこで、今朝の私の夢は覚めた。

好きな本を持って旅に出たいと強く重く今日この頃である。

平成13年8月11日 ◆祭 作太郎


 


★おすすめ読書 「台湾人と日本精神


は何と言っても読書士にとって嬉しい季節である。
やはり、ゆったりとした気持ちで本が読める気がするから不思議である。
今週私が読んだ本、(とても面白かった!)をご紹介したいと思う。

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  台湾人と日本精神(リップンチェンシン)
    −日本人よ胸を張りなさい−

  著者: 蔡 焜燦 (サイ コンサン) 氏

  小学館文庫 619円(税別)
  2001年9月1日初版第一印発行 

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著作の大まかな内容としては
日清戦争後、台湾割譲(日本の領土となる)。
そこから、第二次世界大戦終結まで、約50年間の日本統治時代
決して日本人は台湾(人民)を搾取するだけの存在だけではなかった。
社会インフラ整備を始め、高度な教育制度の導入
公に尽くす仕事の姿勢(著者は・・・・・日本精神と表現)など
少なからず、台湾の現在の先進国としての基礎を築いたと述べられている。

著者は、親日家どころか愛日家と言ってはばからないほど日本国に対して
深い愛情と情念を持ち合わせている。
(少々、台湾以外の周辺国に対する行き過ぎた表現も感じられる点は否めない。)
それも、そのはず著者は、生まれた時は日本国民で
日本人として教育され、日本語を読み書きし、
未だに、ものを考えるのも日本語だと言う。

日本統治時代、学校の日本人教師は台湾人も分け隔てなく接し、
親御さんより賄賂などは一切受け取らなかったらしい。
教師だけではなく、日本人の私心を捨て公(おおやけ)に尽くす
・・・・そんな精神を学んだとも。

日本敗戦後、台湾は中華民国政権(国民党)一党独占の元
政治的弾圧、社会腐敗、役人の私心先行など
様々な問題を抱えながも、
近年急速に民主化は進み、言論の自由も活発になってきた。
その中でこの本も無事発刊されたのだろう。

私自身、仕事とは言え、台湾には14年前に初訪問し
今年も含めて、合計13回渡航している。
台湾の風土や、そこの人々に親近感を覚えていたし、
他の人より台湾を深く理解しているつもりであった。
が、この本で知らない側面や誤解していた部分も大いにあり、
冷や汗をかいている所だ。

さて、この本は単なる「台湾論」ではなく、、、、、大いなる「日本論」でもある。
愛日家である著者が、戦前の日本人の良い点を正直に評価。
バブル経済崩壊後、失意の底にある我々を勇気ずける素晴らしい本である。
また、凶悪犯罪や役人不正など日本の社会問題の根底に警告を促している。

ぜひ、これから本屋に言ってこの本を探し、
2〜3ページめくってもらいたい。
著者は、司馬 遼太郎氏 「街道を行く 台湾紀行」の登場人物でもあり
その出だしの文章に惹かれ、恐らく今日中に読み終えてしまう事だろう。
蛇足ながら、私の名前と著者の名前が似ていると言う点も付け加えたい。

◆2001年10月6日 祭 作太郎

 

 

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