旅と文庫本
旅に出たいと時に強く思う。
できれば、一人旅が良い。
一人旅なら列車の旅が良い。
列車に乗るなら窓側が良い。
山ででも良い、海岸でも良い、田園でも良い。
窓際の席に座るのは何倍も価値がある。
ここでいつも迷う。列車での過ごし方だ。
車窓の風景を静かに楽しむか。
もちろん、酒をチビチビ飲みながら列車の旅も風情がある。
だが、本を読むのも捨てがたい。
新聞や雑誌では駄目だ。
立ちながら読む通勤電車ではないのだから・・・。
旅の本質の一つは非日常性の追及でもある。
どんな本を持って行こう。
ハードカバーも悪くはないがかさばるし重い。
やっぱり軽くて何冊も持っていける文庫本が最適だ。
列車で行く、一人旅には大きな荷物は似合わない。
どんな本を読もう。
旅先に、ちなんだ本はどうか。
初めてその土地を訪れる場合は止めた方がいい。
事前に先入観やイメージを持ってしまうと
感受性が鈍り、旅の楽しみが半減する。
歴史小説、ミステリーなどが定番だがありきたり過ぎる。
かと言って何かのウンチク話も華がない。
ビジネス書だけは勘弁してもらいたい。
こう考えると本選びも難しい。
だが、早めに駅前の本屋に行って旅先で読む本を探す。
実はこれがとても楽しい。
列車の走る路線の風景を想像しながら
しっくりと合う本を選びたい。
或いは、何も考えずに題名だけさっと見て
2,3冊買っていくのも良いのかも。
意外に面白い本に出会えるかもしれない。
だが、大物では限り、人間ナカナカそんな芸当はできないものだ。
とにかく、文庫本をポケットに入れて列車に乗り込む。
そんなに込んでいる時期でないなら、自由席でも良い。
「そこ空いていらっしゃいますか? 」
水色のワンピースを着た女性が声を掛けてくる。
「どうぞ」 とできるだけ胸の高揚を押さえたトーンで応える。
彼女は、静かに腰を降ろした。
服と同じ水色の帽子を取ると、目の大きい清楚な美人だ。
ショートカットの黒髪が夏に似合う。
「どちらまで行かれるのですか?」
「はい、、、、、、まで」
「では、僕と同じですね。」
「実家があるのものですから。」
「失礼ですが、近くに良い宿はご存知ありませんか。」
「あのう、私の実家が旅館をやっておりまして、よろしけらば・・・・」
すると突然、私の顔に重たい物体がのしかかる。
「う・・・・くるしい」
子供の足が乗っているだ。
そこで、今朝の私の夢は覚めた。
好きな本を持って旅に出たいと強く重く今日この頃である。
平成13年8月11日 ◆祭 作太郎
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