鬱蒼とした暗闇の林を抜ければ、そこに小さな墓場があった。
「こんなところにも墓があったのか。」
幾重にも濾過された優しい木漏れ日が、僅か数坪の空間を優しく照らしている。
不思議な場所だった。
空気は湿気を含み、石畳には苔が生え、忘れ去られた遺跡のようでさえある。
何かが化けて出てきそうに思えても良いはずなのに、まったくそんな感じがしない。
魔術師たちが執り行う儀式のような感じとでもいおうか。
静謐でどこか自分の日常とはかけ離れた異世界に閉じ込められたかのような、
緊張と疎外感の混じる、形状しがたい雰囲気に似ている。
中学時代に高校見学に行ったときの感じにも少し似てた。
こんな場所に建つ墓なのだ、さぞかし曰くのある人物が眠る墓に違いない。
その墓石の上に――少女が腰掛けていた。
紺の髪のアリスリデル、今どきのラフなパーカーに登山杖、
焦点の定まらぬ目で墓石よりも高い宙を向き、透明人間にでも話しかけるように、独り言を呟いている。
「なるほど――通報通りの不審者だな」
事前に墓守が言った特徴は事実だった。
幽霊を見たわけではなかったらしい。
少女の虚ろな瞳が焦点を取り戻す。
こちらに気づいて、そして――
やわらかく微笑んだ。
「――日が永くなってきましたね」
やや若き警部補は、今日のこの瞬間を幾度となく思い出すことになる。
が、それが挨拶だったということに気づいたのは、随分後になってからだった。
BackstageDrifters.