「・・・思い出した。なんであんなノッてたんだ俺・・・」

 何も言わず、どんな感情にも支配されない表情で、扉口に佇んでいた流川は三井を一瞥するとスポーツドリンクだけベッドサイドに置いてすぐに部屋を出て行った。
 三井は内部に残る精液を風呂場でかき出し、思う存分シャワーを浴びて(この時は流石に流川は入ってこなかった)シーツを換えた流川のベッドの中で様々な要因により一人うめいていた。
 消え入りそうに居たたまれない。学校でどんな顔をして流川に話し掛ければいいのかわからない。少しでも偉そうに流川を威嚇したら「ベッドの上ではあぁんなマゾネコだったのに・・・ふっ(嘲笑)」と返されかねなくて悔しい。
 宮城や桜木とさえ普通に会話する自信が無い。「三井サーン!昨日はどんなお楽しみタイムだったんですかぁ?ぐふふ。俺も吸血鬼のネーちゃんとやりてー!喉についてますぜ、ヴァ・ン・ピー・ル!」「ミッチー!なんか最近色っぽくなってドキドキするって洋平と高宮と大楠と野間と晴子さんと彩子さんが言ってたぜ!モテモテだな!しかーし!晴子さんとついでに洋平はやらーん!!」「おいおい花道、俺はついでかよ・・・」
 そこまで脳内シアターでifフィルムを上映し、三井はますます鬱になった。それから思考を解放する先が根源たる「あいつ」のことだというのも呪わしい。流川はどこにいるのだろう。三井は昨日まで三井を見ればさりげなくもべたべたくっついてきた後輩の行方をシミュレーションしてみた。ベッドに耳を押し当て階下の様子を伺うも、僅かな生活音も一切しない。流川の両親が帰宅していないことには安堵したが、やけに流川の存在が気にかかる。

「まさかあの野郎、一度ヤったからって調子こいて放置してんじゃ・・・」

 ここまで呟いてから、これでは俺が流川に構って欲しいみたいじゃねぇかと気付き、ノーノー今のなし!言ってねぇからな!と空に向かって否定する。クソ!桜木と同レベルか俺は―――




「なにやってんの・・・?」

 腕を交差させた間抜けなポーズで固まっている三井を、今しがた部屋に侵入してきた美男子は怪訝そうに見遣った。流川は昨夜の灼熱の片鱗も見せない涼しげな顔で部屋の中を闊歩すると空間を薄暗いものにしているカーテンをしゃっと引き開けた。そこから差し込むのは鮮やかな光。

「夜!?明けて―――っ!!」

「三井先輩、気絶したり覚醒したりで忙しかったから・・・」

 流川の平坦な言葉に、ああ一回ではすまなかったのだな。と三井は肩を落とした。もう一生分の精液を見た気がする。喉は渇いていたが水以外のものを飲む気にはなれない。流川が持ってきた朝食の牛乳を見て先輩は眉を顰めた。

「朝食を取りにいってたのか?物音が聞こえなかったが・・・」
「あぁ、あなたが完璧に起きるまで走り込みをしてたんす」
「・・・バケモノか・・・?」

 流川の目指すものには体力作りが必要不可欠なものだと知りながら、あっけらかんとした後輩の所業に三井は動揺した。いつかこの体力魔神にヤリ殺されるのでは・・・ぐあっ!今のなし!不毛な性交渉は今日一回のみ!声に出してはね〜からな〜。

「でも早く走れた気がしましたが」
「錯覚だ錯覚!飯食うぞ飯!とっとと寄越せ」

 失言の多い流川に、同じく失言の多い三井が朝食を催促する。盆の上の全てを食いつくし、(牛乳だけ三井は遠慮した)三井は昨夜の血みどろから生還した白いカッターシャツに袖を通した。洗顔を済ませた整った顔立ちは、2人が学生だということを如実に告げていて瑞々しい。

「今日ほど学校行きたくねー日久しぶり」

「出席足りないアンタが悪ぃ」
 
 ・・・こんなとき三井は流川の愛を疑う。この野郎、俺がフったら生きてもいけないくせに。憤る頭の中で三井が冗談半分で組み立てた文章が真実なんて、流川以外に知る由も無い。
「でも無理しないで下さい。欠席の理由くらい俺がなんとでもする。歩ける?」
「バスケマン馬鹿にすんな!ハードル走以外ならなんだって出来らぁ!」

 くだらない応酬の間に、キスマークで斑になった三井の上半身は学ランにまで覆われ、流川も性の名残も感じさせないストイックな全身で佇む。三井は壁の大鏡を利用して、昨夜くしゃくしゃにされた前髪をワックスで立たせ、最後に喉もとの“痕”を忌々しげになぞると、襟元まで隠れるように学生服のボタンを留めた。僅かに桃色に染まった頬で登校準備完了の流川を振り返る。

「ちょっと早ぇけど、行くぜ流川!」

 薄いカバンを肩後ろに下げ、三井は多少おぼつかない足取りで廊下に踏み出した。流川は小首を傾げ、学校に―――だとは思うが三井に一応聞いてみた。

「どこに・・・?」

「決まってんだろ?頂点にだよ―――!!」












 今か―――未来か、どこかは知らないが、三井はまた不思議な夢を見る。
 暗闇の中、気の置けない愛すべきバカヤロウが自分を誘う。



「俺の名はrukawa。流川楓ッス。あんたは俺を流川と呼ぶ」

「俺があんたの“R”。これ以上はどこにもない・・・けどあんたとならこれ以上を探すのも
楽しそうだ。ここでやめとく?そんなタマじゃねぇよな?」


「・・・バカヤロウ。えらそうに言うなら見せてもらおうじゃねぇかよ!」


 三井の手が差し出された流川の白い手をひったくった瞬間。流川の背後でバンと大きな音を立て扉が開く。その先には、夏の日差しにも似た、純白の光が。





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エロシーンが執拗でフラ●ス書院でごめんなさい。
流三小説にメロンが皆勤賞だったらどうしようかと思う今日この頃です。