はじまりさえない夜へ+2+
三井は居心地悪そうに座りなおすと、一瞬だけ仙道に視線を遣りそのまま綺麗な双眸を伏せた。
「俺は絶対に負けちゃいけねーんだ」
「そりゃそーですけど、それは誰だって思うことですし、世の中そう簡単にいかないことでも
あるでしょう?」
「それでも俺の勝利は“償い”に直結すっから、どうしても勝たねぇといけねぇ・・・」
「償い?」
高校生らしからぬ単語が出てきて、仙道は思わず首を傾げた。
償い―――三井の負い目が今日の海岸で、彼にあんな表情をさせていたのだろうか。
追い詰められてどこにも行けない。そんな顔。
「・・・そういえば三井さんを中学以来見たのは今年が初めてだったかも。うちとの練習試合にも出てきてなかったし・・・」
ふと思いついたことを述べてみる。
今年のまだ春先、三井の所属するはずの湘北高校と仙道の陵南高校が練習試合を行ったとき、彼ともう一人
宮城という名のPGはどこにも姿がなかった。これまで湘北高校を特別に気にかけていたわけでは無かったが、
仙道を指導する監督・田岡のスカウトを断った選手が3人も湘北高校へ入学したことは知っていたのだ。
仙道の問いを投げかける目線に三井はふっと自嘲し、ごく簡潔に応えた。
「1年のころに挫折してたんだよ・・・んでバカなことやって復帰したのはつい最近」
「へぇ」
彼のやった「バカなこと」に興味を引かれないわけではなかったが、仙道は曖昧に流しておいた。
室内でもジリジリと季節が肌を焼いていく。
三井の顎の古傷を通って汗が彼のシャツに落ちるのを見て、仙道は再び口を開いた。
「傷―――」
「あ?」
「こんなトコに目立つ傷―――一生消えないんじゃねぇ?」
「・・・ああ、顎のか。それならいいんだ」
まるで初めて気づいたかのような仙道の眼差しに、三井は口元だけで笑いながら応えた。
仙道はしばらく三井の顎傷と同じ位置の自分の顎をなぞっていたが、もともとだらしなかった姿勢を
更に崩して三井の方に上体を傾げた。
「断然気になっちゃった。あんたがバスケやめてた理由」
「ただで教えてはやれねぇな・・・」
もちろん三井はふざけてそう返したのだろう。しかし仙道は笑って言った。もっとも彼は常に微かな笑みを
表情に上らせてはいるのだが。
「タダが嫌なら何が欲しい?」
試合の時に見せる挑戦的な目線で三井を射抜き―――そしてその答えに逆に射抜かれた。
三井はどことなくセクシュアルを感じさせる空気でこう言ったのだ。
「仙道の身体―――」
「それは―――」
―――どういった意味で?
「まぁどうとでも取れよ」
仙道が予想もしなかった(いや、海で出会った時点で一度そのようなことを言われてはいたのだが)返答に
戸惑っている間に三井はふいと視線を逸らし、やや長い睫を伏せて語り始めた。
ぎこちないその言葉の羅列に、彼は彼の過去を自分の口では誰にも語ったことが無いのではと
思い至る。
仙道は一言の合いの手も入れず、また自分が引き出した他人の人生の一部分をどう扱っていいのかも
わからずただその深い声を聞いていた。
「―――で、ご感想は?」
「感想と言われても・・・まぁ凄絶な人生ですよね三井サン。将来プロになれたら自伝が出せますよ」
三井が語ってみせた彼のブランクの二年間はなかなか波乱に満ちていた。仙道がけっしてこれからも
体験することが無いであろう闇の経験だ。だから仙道が言うことは何も無いように思われた。
「仲間引き連れて襲撃までかけたんだ。警察沙汰だろ?口先だけの謝罪も意味なんてありゃしねぇ・・・」
「・・・だから実力で返すと?」
「ああ、この手で何かが返せるなら―――と思ってた。けど、正直ビビってる・・・今日だってどこかで限界を
感じた」
仙道は正直恐ろしいと思っていた。2年間のブランク。監督や主将であったあの魚住が確かにそう認識していた。
なのにそんな男に自分はインターハイに臨む決勝で前半翻弄されたのだ。
そんな男が―――限界とか言うんじゃねぇ。
俺の前で。
「そんなこと・・・言わないで下さいよ」
「でも、俺は・・・どうすれば・・・」
「どーもこーも。俺みたいに気軽に構えときゃいいんですよ」
どうも目の前の先輩は自虐的に見受けられる。案の定三井は首を横に振った。
「望んでも、俺はお前じゃない・・・お前とは違・・・」
はりつめていた糸が切れたように、仙道は瞬間三井の胸倉を掴み上げて怒鳴っていた。
もう普段からなれていない敬語も忘れて。
「甘ったれんなよ!!戦うしかないでしょう!?あんたに出来ることが限られてても、いいじゃねぇか
そのときはそこまでで!!思い知って思い切り泣いてそっからまた這い上がればいいでしょう!?」
霧状の唾が三井の見開かれた鳶色の前に散り、シャツの隙間から浮く鎖骨が、仙道の拳に当たって痛かった。
「わ、悪かった仙道・・・俺が悪かった」
まるで初めて仙道の存在に気づいたように三井は大きな眼球いっぱいに仙道を移していた。
それと共に放心したように機械的に謝る三井の瞳の中に、驚嘆と恐怖とミリグラムの絶望の色を見て、
仙道ははっと突かれたような顔をした。
「ひょっとして欲しいものはそんなものですか・・・」
綺麗に筋肉が躍動する腕と、伸縮自在のバスケのセンス。
理知的な思考回路に後輩たちをひきつける人望・・・
一世を風靡した中学MVPが、たかが自分の持つものに惹かれるとは冗談でも笑えなかった。
「あんたもう持っているでしょうが・・・」
「でも足りない。足りねぇんだ仙道・・・でも足りねぇなりに前向いていかないとダメなんだよなぁ・・・
今てめぇが言ったように」
凶暴なまでに頼る目をして無理やり前を見て笑おうとする。
きっと自覚がないから仙道の手にもあまるのだ。
確信犯ならとうにこの場から追い出しているが、三井のバスケにかける閃光のような情熱に射貫かれて、
仙道はこうして動けないのだ。
「頑張れ・・・・なんて。言えやしませんよそんなこと」
自分が消費した時間とプライドが枷になって、三井を正視出来ない。
行きずりの他人に優しい言葉を掛けられるほど、甘い世界で生きていない。
「わかってるぜ。“敵”だもんな。俺たち」
三井の瞳に姿を宿す自分の表情が恐ろしいほど冷えていて、仙道は内心で焦った。
夏を賭けて全力でぶつかった彼の努力も知っている。
それゆえに始末にとても困る。
じわじわと薬が効いてくるように、あるいは遅効性の毒が侵食してくるように。
仙道は理性を何かに蝕まれていくような感覚を憶えた。
額を抑えて、三井は秀麗な眉を寄せ、失態とばかりにうつむく。
彼は、こんな場所で泣き出すほど弱くないと知っていたのに。
何故か仙道は三井をフィルター越しに見ていた。
「なんかもう・・・マジで悪かったよ・・・お前に言わせるなんて」
仙道はまだ眉一つ動かすことをしなかった。
黙れよ。俺、泣き喚く寸前の他人が本当に苦手なんだよ。
声も立てずに泣いていた広い背中を思い出す。
黙れよ。
「せん・・・」
もしかしたら三井の顔を見るよりも先に、仙道自身を覆うオブラートがはがれて、剥き出しになった
本能が行動を起こした。
薄手のシャツに輪郭もあらわな成年になりかけの細身を引き寄せて、形良い唇が意味のある言葉を紡ぐ前に
同じモノで強引に塞いだ。
衝撃に見開かれた大きな目に映る自身を見たくなくて仙道は目蓋を下ろし、しばしそのままで
呼吸すらとめて佇んでいた。
何秒そうして暗がりの中潜んでいただろうか・・・
「仙道・・・」
至近距離からの苦しげなくぐもった声にはっと理性を取り戻す。
仙道は自分の取った行動が理解できないように三井を突き放すと、らしくもなく強張った表情で
慌てたように壁に背をつけずるずると膝を折った。
突き飛ばされた三井もたじろいでいたものの仙道の挙動不審さに慌てて駆け寄り、視線を合わせるようかがみこむ。
その三井のなだらかな両肩に、力強い指とその先の爪が遠慮無しに食い込んだ。
「いてぇよ・・・仙道?」
「すみません忘れてください忘れてください忘れて・・・」
うつむいて、壊れたCDプレイヤーのように同じフレーズを繰り返す。
三井の痩せた肩にはくっきりと男の指の形のあざがついた。
「あー、あやまんなよ・・・俺これでも楽になったんだぜ?今日てめぇに会ってから・・・」
引きずられるように三井もまた、ばつの悪そうな顔で仙道にされるがままに揺さぶられていた。
そのまま目の前の敵校のエースに言葉を重ねる。
「別にこれしきの事でてめぇに傷がつくとも思わねぇし、俺も猫に噛まれたくれぇにしか思ってねぇよ」
大人びた苦笑を含んだ低い声に、仙道は視線を上げて三井の端正な相貌を見つめる。
男である三井の目から見てもいい男に映る仙道の顔を同じく覗き込んで、三井は再び笑顔で応えた。
続けてしなやかな手のひらを仙道の頬に沿わせる。
「あえて言うことがあんなら・・・こうすんだぜキスってのは」
「―――!」
仙道が発そうとしたものは全て、三井の暖かな口内に吸い込まれた。
喰われる―――と仙道はまるで彼自身にとって珍しいことに萎縮した。
口内をなぞらえるだけでなく、脳内すらも混ぜ返し、様々なことを思い浮かべては
呼吸器官の灼熱に焼き尽くされる。
どちらともなく切ない吐息が漏れて、お互いの形よい顎を卑猥な体液が伝った。
いつのまにか自身で積極的に三井を貪りつつ仙道は霞みがかった脳裏に思考を巡らせた。
しかしそれは断片的かつ非理性的なものでしかなかったが。
―――わけわかんねぇ。気持ちいいのか悪いのかも。薬でトリップってこんな感じ?
いや、いっそ毒だって言うなら納得できる・・・息すら出来ない。
このまま―――呼吸も鼓動も止めて。
終ってしまえばいい。
何が?
自分の放った問いには答えられぬまま、疲れ果てた三井の唇だけに応えて、毒をふくむ甘い舌先を
仙道はもう一度強く吸った。
甘いものは苦手なんだ。
窓の隙間から唯一2人を把握していた月は。
仙道彰が静寂が染め上げる薄暗い部屋の中、ゆっくりと音も立てずに近づいて、
上から覗き込み表情の伺えない三井の顔の前に―――冷たい手を付くのさえ見ていた。
長い指のかたちにシーツが波紋を描く。
あれから―――気まずさは2乗され、のろのろと交代で風呂に入り、言葉少なにメシを食って、
常に敷かれたままのシーツに三井は寝そべり、仙道はもう一度風呂に入っていた。
身体の火照りを収めて、湯船で三井寿のフルネームを呟き、それが男の名だということを認識しては
ため息を吐く。
―――何、俺は執着してんだ・・・
洗面所で髪の毛をいつものようにスタイリングする時間をかけすぎて、頭はともかく身体は冷えていた。
その熱いままの頭で取った行動が三井へのちょっかいなのだから、自分の好奇心に恐れ入る。
必然的に壁しか見えない姿勢で眠っている三井の視界を遮るように、仙道の手はシーツに落とされ
何らかのリアクションを待っていた。唇にはいつものように笑みすら浮かべて。
「まだ・・・寝てないでしょう」
「・・・」
「・・・お前の腕は冷てぇな」
「続き、やらねぇのか」
しかし―――
実際にその言葉を聞いてしまうと。
仙道のなだらかな額に少しだけ皺が刻まれ、唇は僅かにたわんだ。
しかしそれはほんの一秒にも満たず、仙道は三井の肩を掴んで仰向けにシーツの上押し倒すと、
ゆっくり自身をその上に乗り上げた。
彼が自分を欲しいと言ったのはこういう意味では無かったはずだ。しかしそれを言われたとき
仙道は自信のどこかが高ぶるのを否定してはいなかった。
三井の真意はどこからも読み取ることなど出来ないけれど・・・
そのテのことは知識としては平均だとは思うが、眼下の熱い長身にどこから触れればいいのか検討もつかない。
常に俊敏さを要求される指は、ゆるやかな動作に慣れていなかった。
「マジですか三井さん・・・」
本当にらしくもなく。頬を冷や汗が伝い落ちる感触に鳥肌が立つ。
そしてそれよりも鋭利な感覚は、自分の長身の下にある三井の腕が仙道の頭を抱きこんで、そのまま
彼の唇に引き寄せたことで得られた。
「んっ・・・う」
「そんな表情してっと可愛いぜお前」
口内を荒らす舌と液体に思わず声を漏らした仙道に、三井は本当に意地悪く笑う。
「腹立つなぁ・・・」
解放されててらりと光る唇を拭うと、仙道は今度は三井の肩を押さえつけ自分から彼の唇を貪った。
こんなときにも負けず嫌いでなくとも・・・と自身のどこかが嘆いている気がする。
「仙ど・・・っ」
執拗に舌を絡めて、三井の眉間の皺と潤んだ瞳で主導権を確認する。
柔らかい。どことなく甘い。気づけば、酔っていた。
「てんめ、苦し・・・調子のんなっ・・・」
「そんなこと言ってもあんたのほうが可愛いぜ・・・」
押さえつけた肩が本気で抵抗を始めたので、仙道は頭を上半身ごと浮かし、三井が滴る唾液を拭う前に
自分の親指で掬い取った。
そのまま無意識に舐めてしまったが、無色透明の味しかしなかった。
「何してんだてめぇ・・・」
「いや、ちょっと錯覚を」
笑ってごまかして、再びヒトの形をした非現実の象徴に覆い被さる。
三井の滑らかな唇と顎の部分を何度もなぞる。
繰り返しの動作に羞恥が煽られたか、暗がりでもわかるほどに三井の頬は
朱に染まっていた。
「男ってこんなやわらけぇ部分もあるんすね・・・知らなかったな」
いつか触れることになるだろう女の子は、もっと壊れてしまいそうな感触をこの指に与えるのだろうか・・・
無遠慮な長い指は、それでいて少し畏怖も含んでいた。
「ははっ・・・何言って・・・」
くすぐったそうに顔を背けて何かが吹っ切れたように笑う三井は、この現実を伴わない空間に閉じ込めて
おきたくなるほど可愛く思えた。
青白いシーツに横たわって見上げる視線に、何もこみ上げてこないのは男じゃない。
昼の出会いと同様に。
何となく自分はこの夜も忘れることがないだろうと仙道は思った。
初めて他人に触れた夜だ。しかもひとつ年上のなんの関連性もない男性だ。
抜けた歯車でも動く人生に、僅かに注入された毒と油。
自分が何よりも求めている好きなものだ。
浮いた鎖骨に伸ばした指をそこで止める。
「三井さん・・・これ以上は・・・ちょっと・・・ヤバイすよね?」
だからこそ。
「・・・気がふれなくてよかったな仙道」
笑って拒む必要があった。
その毒に完全に蝕まれて、お互いの夢を修復不能な中毒に陥らせないためにも。
一時の錯覚に流されて、終ってしまえばいいと思った?
彼の夏も、自分の季節もまだまだこれからで、そして何度でも巡ってくるじゃないか。
「ひでぇな三井さん。あんた最初から最後までいくつもりはなかったでしょう」
「たりめぇだろうが。俺は明日には広島で明後日には全国入りだぜ?」
ちゃっかりと左手首に巻かれた闇にも光るダイバーズウォッチが仙道の前にひらめかされる。
色っぽさの余韻もなく、三井も仙道もベッドサイドに立ち上がると身支度を整えた。
「終電には余裕で間に合います。インターハイ頑張って」
その言葉はすらりと仙道の口から当然のようにすべりでた。
1on1を挑んできたいつかの生意気な三井の後輩を少し思い出す。
「おう、じゃあな」
仙道はその端正な笑顔に少し見惚れた。
短い別れの言葉には、感謝と少しの寂寥が含まれていた。
「仙道。右手貸せ」
「?」
狭い玄関で靴を踏み潰しながら振り返った三井の眼差しに、請われるまま仙道は右手を彼の前に伸べた。
「笑うなよ」
見開く仙道の黒い瞳の中で、短い細い細い「糸」が差し出された手の薬指に絡められていく。
三井の指先が器用に糸の端を纏めた。
遠目には殆ど見えない艶やかな三井の髪のリングが、瞬きをする間に仙道の指に冠されていた。
きっと真っ昼間の太陽の下で、黄金色に輝く。
「また会おうぜ」
「こんなことをしなくたってまた会えますって。コートの上ででも」
困ったように笑う仙道の胸をこずいて、三井はアパートのドアを開けて外気にその髪を揺らした。
挑むように仙道に投げた眼光。
皮肉げな歪んだ笑みで、彼はまたこれからも損をしていくのだろう。
「バカヤロウ。今日みたいに偶然に会おうって言ってんの」
仙道はそのままドアにもたれかかって、夜へ帰っていった三井の後姿を目線だけで追う。
約束の張り付いた薬指でまだ微かに湿った下唇を辿り、ため息を滑らかな風に吐く。
「・・・湘北の人間は何で俺に対して甘えやがるかなほんとに」
しかしそれを悪いと思っていないのは、かすかに持ち上げられた唇の端が雄弁に語っていた。
毒にも薬にもならない厄介な人間は、まさしく対極の性質に相殺され、何事もなかったかのような
静寂を仙道にもたらした。
今日はきっと、よく眠れる。
越野と福田にはちょっとワリィけど、俺は「楽しかった」んだよ。
―――
偶然に、ほんの気まぐれに、仙道はその朝自転車をこいだ。
朝の光が満ちる頃、昨日と同じように長い長い坂を下って、なぶる風に身を任せてどこまでもどこまでも―――
仙道のおんぼろ自転車の終着地点はあるヒトの旅立ちの出発地点だ。
「新横浜駅」と綴りの目立つ白い大きな建物を、高い身長でもってなお見上げて目を細める。
彼の背後をバスが通り過ぎる音がして、わらわらとスーツや学生服が駅への階段を上って構内へ消えて行った。
その中には学校の文字入りのジャージと大きなドラムバッグも今日は目立った。学生服もしかり。
それは知っている姿ではなかったが、確かに似たものだ。
「三井さん・・・」
呟いて。
右手に宿る秘めたる夜の名残を視線に代えて投げる。
何を束縛するつもりで、彼は仙道の薬指にこれを巻いたのだろう。
陽の光にも青の月光にも金を時々混じらせる細い髪の毛。
解いてどこに落下してもそれはなお美しかった。
「待ちませんよ。俺は俺だけのものですから」
―――わかってるさ。バカヤロウ。
彼の声が聞こえた気がした。
束縛などなくとももうこんなにとらわれている。
あまやかな毒は、鍛えた体も染み入るように蝕んで。
だからこそどこを切り捨てても食い止めねばならなかった。
切り捨てた部分が例え最奥でも。
自分は後悔しない。
やがて西に向かう新幹線が、コンクリートの筒の上を轟音と共に過ぎていく。
空気が聴覚を震わせる余韻以外、何も残さずに白い車体にあの人を乗せて、仙道にとっては海の彼方よりも
遠い憧れの地へ。
仙道が去る前に呟いた言葉は願いだった。
許した者には優しくなれる、彼らしく、真摯な。
「さぁ、どこまでも行けよ」
あの日あの夜を抜けて。
戦って努力して勝って負けて挫折してまた戦って―――
それでもダメなときはまた還って来ればいい。
始まりは朧でしかないが、終わりには確かに朝を引き連れてくるあの夜へ。
そして仙道は白いシャツを翻し、朝の街に全力でぺダルを踏み出した。
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笑えるポイント>この話の仙道は童貞です(笑)
・・・いや、実際原作ではそうやと思うんですけど・・・(汗)
仙道大好き星人によります久しぶりの仙三いかがでしたでしょうか。
三井サンが弱すぎでごめんなさい・・・全然こんな風になるはずじゃなかったのに・・・(汗)
頼られるのが好きな兄貴仙道万歳!!でもやっぱり年相応な弱い部分もね!
相変らずとっても自己満足!!(吐血)
仙道も三井も果てしなくキャラが違いますが、少しでも魅力的に書けておりましたら幸いでございます・・・
っていうかこれ三仙なんじゃあ・・・(心の声)
そして越野と福田に呪われますか・・・ますね・・・