もたせかける頭に、常にはない弱さを感じた。 確実に起きているのに、呼び声に応えてくれない。 引き結んだ唇の色は褪せたままで、肩を貸す三井はひそやかに嘆息した。 「頼むぜ…」 前をはだけて羽織ったワイシャツは、薄闇の部屋に一番顕著な色で浮かび上がる。 それよりなお白い三井の肌が、いっそ不気味に思えればいいのに。 警戒の全くない無防備な佇まいに、罪悪感が身をもたげる。 宮城は官能に伸ばしかけた食指をぴたりと止めて、一切の動作さえやめた。 「ねぇ、だめ?」 いたいけな告白。好きだよと臆面も無く。 少しは照れてみせろよ。なんで言われた方が赤面しなくてはならない? 白日の下に告げられた文字通りの「告白」は、三井が親友だと思っていた男からの最初の愛の睦言だった。ずるずると、答えを出せないまま後輩である彼の部屋に導かれて、ここに来ても笑えずにいる。 「だめなんて、言えるかよ。今のままじゃだめなのか?こっちが聞きてぇ…」 唸るような苦悶の声に、ああそんな困った表情もイイと感じてしまった俺は人でなしだ。 甘えた状態のまま、更に頭をずらして三井の素肌へ近づけて、宮城は目を閉じたまま彼の鼓動を聞いていた。この音が、心配になるほど早く脈打ったり、穏やかに隆起するのをずっと聞いていたい。その願いは不可思議なことに、親友のままだと叶えるのに不都合が生ずるのだ。 「俺がイヤ。三井サンのオンリーワンになりてぇの」 三井があからさまに嫌な顔をして、言ってから宮城も女々しいニュアンスだったかと微妙な表情を形作る。本音を言えば、接触する非常識な脳みそを抱えた頭部をはっ倒したい。三井はその誘惑を考えるだけに留め、もう一度深く嘆いた。 このクソ生意気で傲慢で自信家で我侭で生意気な男を邪険に出来ないのは、過去にやったことの後ろめたさと、否定したい微かな感情。 「そういうのは、めんどくせぇ」 「好き同士なら、楽しいよ」 言い含めるように、お互いをけん制する。否定の会話が何故か巧く繋がるのは、それだけお互いがお互いを熟知しているからだろう。なにが彼にとって効果的であるかが手に取るように理解る。その事実に宮城は過去が後悔のためにあるものだと思い知った。 あーあ。たかがチームメイトに深入りするんじゃなかった。馬鹿みたいに熱くなって、意気投合して全国なんて目指しちゃって。花道とかにコンビにまでされてしまって。傷つけあうほどの反発でもって出会ったのにね。 「だから…好きだよ。宮城」 「うん。知ってるっスよ」 かえって残酷だと思われる台詞を三井は吐露した。当たり前のようにそのニュアンスを宮城は求めていない。でもこう柔らかに拒絶するほかなかった。 お前にもう少しの期間だけ“俺”をみせたいんだ。俺の“キャプテン”に冬の選抜戦での優勝を捧げてやる。この腕に誓ってやる。だから今はお前はとんでもない台詞を吐く口を閉ざしておくべきだ。 三井寿はそんな目で見ていい男じゃない。 「知ってても、何度でも聞くよ」 宮城は薄く目を開けて、どこか儚げな色をもって微笑んだ。時間だけが、静寂の箱に無為に流れる。2人はここから動けない。動こうとしない。 カーペットに投げ出された三井の器用そうな指に己の左手指を絡め、身体を三井に持たせかけたまま、宮城はまた抑揚の無い声を三井との会話につなげる。 「明日も“説得”に来ていい?」 「…お前の部屋なのにお前が来んのかよ」 「明日も、あんたここにきっといるから」 「…ジーザス」 宮城が三井に恋をした、その時点でこの男はもう神様なんか信じていないに違いない。 それでも祈るように呟いたのは、自分が追い詰められてる自覚があるからだろう。 覚悟を決めるか―――それか巧く逃げ切ってくれ。まどろみながら宮城も祈る。 この想いは空前絶後だ。簡単に恋愛の基準のメーターを振り切った。 捕まえられたなら、俺は笑ってアンタを壊せる。どうにでもできる。 でもアンタが本気で好きだから、どうにでもしたくない。 凶暴な左手を止めてくれ。 最後の審判は、卑怯だけど委ねるよ。 まめどんぐり、ぴー様のイラストからイメージを拝借致しました。有難うございます。 |