Quartet Contrivance
「あー、やっと部活終わったよぉ〜!つっかれたぁ〜!」
夏休み・・・・毎日のようにある部活を、今日も終え、校門を出た時、
「愛羅、いっしょに帰ろうぜ!」
私・西森 愛羅のところへ、誰かがかけよってきた。
「柊くん!拳一くん!」
・・・その人物とは、昔からの友達である内田 柊平と風星 拳一。
「オレ、走りすぎて、もう、クタクタだよ〜」
「何言ってんだよ。オレたち陸上部だぜ。陸上って、走るもんじゃねーか。
こんなことで疲れて、どーすんだよ」
「でも、陸上って、水泳部より、しんどいんじゃないの?大変なんでしょ?」
「そっか、愛羅は、水泳部だったっけ」
「そーよ、忘れないでよね」
そんな会話を自然に交わしながら、3人そろって、歩き出した。
それぞれ、大変ながらも楽しんでいる夏休み。
半年後に受験をひかえている中3なのに、ここまで部活に残ってる私たち3人。
それぞれ、部活に、執着してるのは言うまでもない。
私は、楽しいからやってるわけだし、柊くんもそう。
拳一くんも・・・そうだと思う・・・。
「聞いてくれよ、愛羅。こいつ、今日、スタートダッシュでこけやがったんだぜ」
「ばかっ!それを言うなって!誰にでも、失敗はあるんだよ」
クラス内でも『最強のコンビ』と言われているくらい、仲のいいこの2人。
誰が見ても間違いなく、それを認めるくらい2人は、一目置かれている。
私から見ても、柊くんと拳一くんは、親友で、とても仲がよさそうに見える。
・・・そう“見える”だけなんだ・・・少なくとも、私にとってはね。
なぜかというと・・・
「なぁ、確か部活の休みって、明日からだったよな?」
不意に、拳一くんが話を切り出す。
「え、そうだけど?」
今は、夏休みの中盤・・・明日からは、どの休みも、お盆休みに入る。
たぶん、拳一くんは、そのことを言ってるんだなっと察した私は、すぐに答えた。
「愛羅、今年はあれ、いつから行くんだ?」
今度は、柊くんが、私に聞く。
「あれはねー、えーっと、13日からだよ」
「13日って、明日じゃん?」
へっ?あれ〜・・・?
今日は、12日・・・だったっけ・・・?
言われて、初めて気づく。ちょっと、まぬけてるかもしれない、今の私・・・。
「こいつ、部活疲れで、ぼけてやんの」
「もう、ほっといてよぉ〜!わざとじゃないんだからね!」
「わかってるよ、まぁ、明日からなら、気をつけて行ってこいよ!」
「うん、ありがと」
そんな会話を柊くんとしていたその時・・・
「ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
びくっ
突然、拳一くんが、大声を上げて、叫んだ。
「な、なに?どーしたの?」
「学校に忘れ物したみてーだ、取ってくる。2人で帰っててくれ!じゃな」
私たちが答える前に、拳一くんは走り出し、再び学校の方へ戻っていった。
「・・・なぁ、愛羅・・・」
拳一くんの姿を見送って、数秒後・・・そのまま、そっちの方向を見ていた
柊くんの、静かな声が私の耳に入った。
「ん?」
さっきとは、うってかわった・・・柊くんの声が・・・
「拳一いなくなったから言うけどさ、ちょっと、時間あるか?」
ガチャッ
「ただいまぁ〜」
「・・・くー・・・すー・・・」
家に帰り、リビングのドアを開けた瞬間、目に入ったのは、お姉ちゃんの姿。
ソファーの上で小さな寝息をたてて、気持ちよさそうに眠ってる。
お姉ちゃん・西森 萌佳は、私より、2つ上の高校2年生。
「・・・う・・・ん・・・」
そのお姉ちゃんが、私の気配に感づいたのか、ゆっくり起きあがる。
「ふぁぁ〜・・・なに?愛羅、帰ってたの?」
「うん、たった今ね。あ、ねぇ、お母さんは?」
いつもリビングに見あたる母の姿がなかったため、私は、お姉ちゃんに聞いてみた。
「もう、行っちゃったわよ、お父さんも一緒にね」
え・・・
「うそっ、もう行っちゃったのぉ〜?」
「うん、今日はあんたと2人だけで、留守番」
・・・私たち、ほってかれちゃったんだ・・・。
そういえば、昨日の夜も“先に行く”みたいなこと言ってたような・・・。
「別に、いーじゃない。たった1日早いだけなんだし」
笑って、お姉ちゃんが言う。
う〜、確かに、別にいいんだけど・・・。
なんか、ちょっとすっきりしなかった。
「それより、愛羅、あんた、英語の復習ちゃんと、しときなさいよ」
立ち上がって、お茶を飲みに、台所に立ったお姉ちゃんが、私に言った。
「なんで?」
「ほとんど、向こうでは、英語使うことになるはずだからね」
え、あ、そっか。
・・・私は、アメリカ人とのクォーター。もちろん、お姉ちゃんも。
おじいちゃんが、アメリカ人だからだった。
そして、おじいちゃんは、アメリカ海軍・ネイビーのリーダーでもあった。
そのはしくれとして、私たちもいろんな訓練を受けてるわけで・・・。
明日から10日間は、お盆ってことで、おじいちゃん家へ帰ることになっている。
そのおじいちゃん家に、お父さんもお母さんも、先に行っちゃったというわけ。
部活の帰りに、柊くんが言ってた“あれ”っていうのも、この里帰りのことなんだ。
柊くんも拳一くんも、一応、私のことは知ってるから。
・・・なんか、ゆううつだなぁ・・・。
毎年、楽しみにしていた里帰り。なぜか、今年は、ゆううつだった。
それは、たぶん・・・