3.第3話
窓の外には、すべて赤く染まった紅葉が滑っていく。もうすでに、日はかなり傾いているらしく山の峰の先はセピア色の染まっていた。ワゴン車は坂道を降りながら市街地へと向かっていた。
「なあ、知ってるか?」
「ん?何が?」
窓の外は眺めていたおれはラスティーの言ったことをあまり聞いていなかったらしく、思わず間抜けな言葉が口から出た。
「今回の調査隊のことなんだが」
しかし、ラスティーはそんなことお構いなしに言葉を続けた。
「どうも、民間人が混ざるらしい。」
「え?」
おれは間の抜けた声を上げた。
「まだ確かなことではないんだが、民間の傭兵、もしくはそれに準ずる能力を持つものが警護に就くらしい。」
「それって、軍が関与しないってことか?」
「・・・いや、関与しないわけではない。」
ラスティーは少し間をおいて言った。
「支援内容が変わっただけなんだ。」
「??どういうことだ?」
おれはだんだん話の内容が分からなくなってきた。ワゴンはいつの間にか市街に入ったらしく、周りの建物はどれも高くなっていた。
「要するにだ、プログリア国軍は人材支援権をクラミア共和国軍に譲渡し、物的支援のみに切り替える、と言うことだ。」
明らかにどこかの文面から借用したような文句だった。
「まあ、詳しいことはそこのダッシュボードの中に入っている書類に書いてある。」
おれは言われた通りに書類に目を通した。その間にラスティーは独り言のように続きを話し始めた。
「それでだ、プログリア国軍としても人的支援権はクラミア共和国との外交関係上、そろそろ手放さなくちゃいけなかったんだ。」
「でも、国軍としてはディスクが実戦においてどんな動きをするか見てみたいと?」
おれは書類に目を通しながら言った。
「うん。それで傭兵という手段が浮かび上がったわけ。」
ラスティーは何故か上機嫌だった。
「で、その傭兵と会っておけと所長に言われたんだろ?」
ラスティーはニヤニヤしながらこっちを向いた。
「そう正解。さて、その傭兵とは誰でしょう?」
ラスティーは表情と顔の向きを変えないで問題を出してきた。
「答える前に頼むから前を向いてくれ。おれはこんな所で事故死したくない。」
ちなみに彼は車のハンドルを握って運転中だ。
「そうか、殉職にならないんだったな。」
それ以前に死にたくないとおれは心の中で激しく思った。
裸足で庭に踏み出した。庭の隅には父の残した道場がすっかり闇に包まれてたたずんでいた。
踏みしめた土はまだ日の光の余韻を残していた。
空の色はすっかり群青に変わり夜の到来を告げていた。
「はあ・・」
えらく詩人になったものだと自嘲気味なため息を漏らしながら、庭から母屋に戻る。
別にすることもないので玄関の前でついうろうろしてしまう。これで今日5回目。
いや、することはある。ただ、それは時間を消費するだけの人待ち。
玄関の前を何回か通り過ぎた後、ふと、車が家の前に止まったような気がした。
「・・・・・」
すでに言葉が出なかった。と言うより出すのに使う体力も無駄に思えた。
「おい、そんなに呆れなくてもいいだろ。別にこれはおれが人選したんじゃなくて国軍の人選なんだ。」
「いや、別にいいんだが・・・」
おれは少し眩暈を感じながら、
「あいつって軍関係の仕事に就職してたの?」
「いや、特別訓練顧問らしい。」
かなりきわどい。民間人と軍人の紙一重のラインだった。
「おい、もうついたぞ。後悔の時間ならもう終わりだ。」
ラスティーはそう言いながらかなり楽しそうだった。
おれが車から降りて目にした風景は見覚えが嫌と言うほどある風景だった。